大原大学院大学 会計研究科 教授
青山学院大学 名誉教授 博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
今回は、2期にわたりかかわってきた「藤沼塾」の番外編として「会計、監査領域の判断」について述べたいと思う。例えば刑事裁判であれば、裁判官の判断は基本的に有罪か無罪かのどちらかだ。だが、会計の場合は同じ経済活動なのに、異なる“意見”になることがありうる。そこが他分野の人たちからすると、理解しづらい。
財務諸表は、「記録と慣習と判断の総合的表現である」というのが会計の基本である。ここでいう“判断”とは、経営者の主観的判断のことだ。そこには将来予測や見積もりを織り込んだ評価も含まれるし、認められた複数の会計方針の中から、いずれを選択するかは経営者の裁量に任される。選択した会計方針の違いにより利益の数字は異なってくるが、それがGAAP(一般に公正妥当と認められる企業会計の基準)に則っている限り、いずれも正しい。決算数値が一義的には決まらない、あえていえば“暫定値”にすぎないというのは、会計の宿命なのだ。
とはいえ、利用者からすれば“宿命だから”で終わっては困る。暫定値だからこそ、できるだけ恣意的なものを排除し、誰もが納得できる客観的な数字でなければならない。そこで必要になるのが、独立した専門家の行う監査である。会計監査は、「この決算は適正だ」というお墨付きを与えることにより、経営者のアカウンタビリティを実質的に解除する役割を担う。監査のプロは、自らの判断がそういう重要な意味を持っていることを、常に意識する必要がある。
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大原大学院大学 会計研究科 教授青山学院大学 名誉教授 博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。