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Accountant's magazine vol.36

-アカウンタンツマガジン-
2016年06月01日発行

会計プロフェッションによるコラム「Accountant's Opinion」

第14回「東芝問題は終わってはいない。学ぶべきことはまだまだある」

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二

不正会計問題に揺れた東芝は、問題公表後1年を経て、どうにか過去の人脈を断ち切るための新社長を選任し、新たなスタートを切るようである。昨年7月に3人の歴代社長が退任した後を継いだ室町正志社長は、当初から、その適格性に多くの疑問が投げかけられていた。そもそも問題発覚後、社内に設けられた「特別調査委員会」の責任者を務めながら、任務を完遂できず、結局社外の第三者委員会に調査を委ねざるをえなかった事実からも、リーダーシップの欠如は明らか。加えて、実質的に彼を社長に据えたのが、不正会計期間中も隠然たる影響力を有していた相談役であったということにも、多くの批判が寄せられた。そうした点を鑑みれば、今般の社長交代自体は当然のことだと思う。しかし、長年にわたり「長老支配」の下で醸成された内部統制の機能不全といった悪しきDNAを払拭し、新たなスタートを切れるのかは、いまだ不透明と言わざるをえない。

いずれにせよ「東芝問題」については、今後も注視する必要がある。致命的だったのは、鳴り物入りで設けられた第三者委員会の報告書が、問題の真因究明に至らず、まったく期待外れの中身に終わったことだ。大きな問題は2つあり、1つは会計監査人のかかわり方に対する記述が一切ないこと。「組織的かつ綿密な調査が必要」だから評価はしない、というのは第三者委員会としての責任放棄とも受け取られる。2つ目に、2006年の原子炉プラントメーカー、米国ウエスチングハウス買収の一件も、300ページの報告書のどこを探しても見当たらない。巨額の減損が必要と言われている「のれん代」や、繰延税金資産に関する計算根拠についても不透明感が払拭されておらず、不信感のみが増幅した報告書であった。

そもそもこの「第三者委員会」という仕組みは日本発のものであって、海外には存在しない。ルーツは1990年代末の「長銀事件」である。経営破綻した日本長期信用銀行の経営陣がその責任を問われた裁判の際、「外部委員会」が「経営責任なし」の結論をまとめ、最高裁で無罪判決を勝ち取る大きな力になったのだ。以来、企業が何か問題を起こした時に、外部の専門家を巻き込んでまず真相究明を行い、それをもとに是正に向けた提言を受けるという「自浄能力発揮」のスキームが出来上がっていったのだ。

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Profile

青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 教授・博士 八田 進二

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二

慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」メンバーを兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。

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