青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
会計という行為は、つまるところ経済行為や企業活動の実態を忠実に描写することである。そのための測定尺度(モノサシ)として、確立した会計基準が存在する。会計の監査では、作成された会計報告書がそうした会計基準に則って適切に処理され、表示されているかどうか検証する。監査が行われ、信頼性を付与された適正な企業情報が適時適切に開示されることで、ディスクロージャー制度は担保される。
当たり前のことではあるが、この仕組みは、冒頭の「忠実に描写する」という会計の前提が崩れたとたん、意味をなさないものになることに、注意しなければならない。要するに、企業活動やそれを描写した会計情報に関して、初めにインチキがあったら、後でそれを見抜くのは至難の業といえる。
そのことを端的に示す事件が、2001年にアメリカで発生した大手エネルギー卸業のエンロン社における巨額の粉飾決算である。そうした不正が発覚し、エンロン社は破綻したのである。また、監査を担当していたアーサー・アンダーセンという大会計事務所に対する信頼も揺らぎ、多くの顧客を失って、結局は解散の憂き目を見ることとなる。
この事件を機に、米国ではコーポレートガバナンス(企業統治)、内部統制の重要性が議論されるようになった。我が国でも、06年に証券取引法が金融商品取引法に改められた際、上場企業に対する内部統制報告制度(J-SOX)が導入された。経営者は、自社の内部統制の有効性の程度を評価した報告書を作成し、監査を受けることが義務づけられたのである。私自身、07年に企業会計審議会が公表した内部統制に関する基準作りに深く関与したが、そもそも内部統制に関してはエンロン事件の前から強い関心を持ち、関連する書籍の翻訳などにも取り組んでいた。
当時私は、「この制度は上場企業にとって“通行手形”だ」、あるいは「漢方薬のようなもので、経営にとっての特効薬ではないが、しっかりやればじわじわ効いてよい組織になっていく」といったたとえ話もしながら、制度への理解を求めて全国を飛び回った。しかし、残念ながら、企業関係者の多くが内部統制について必ずしも正しい理解を持ちえなかったのである。
この記事の続きを閲覧するには、ご登録 [無料] が必要です。
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科 博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会臨時委員(監査部会)を兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
vol.26の目次一覧 |
---|