経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)
顧問金児 昭
公認会計士試験に合格しても就職できない「待機合格者」が、1500人に達するともいわれる。公認会計士にとっての“氷河期”は、このまま続くのだろうか?私の答えは「ノー」である。誰あろう会計士の側の「発想の転換」と努力によって、現状は打開できると確信する。
ちょっと回り道してお話ししたい。昨年私は、ある大手電機メーカーに招かれて、幹部および社員の方々の前で講演した。居並ぶみなさんに向かって、「これから大変失礼なことを申し上げますが、どうかお許し願いたい」と何度も前置きしたうえで、私は次のように述べた。「会社の会長や社長、お店の店長は、ヒラ社員、店員の“なれの果て”です」。
言いたかったのはこういうことだ。社長という「地位」があるから、偉いのではない。地位が上がれば上がるほどさらに努力を重ね、かつ率先垂範して「偉ぶらない」。そういう人物に部下はついていくし、みなさんの会社や店のトップもそうであるはずだ。会社員、店員として仕事をするうえで、常にそういう心構えが大事です――。
さらに余談ながら、40代後半で課長になった時、私は一つの“実験”をしてみた。それまで社内でどんな人に声をかけられても、「はい」と対応していたのを、部下に対しては「うむ」と答えるようにした。わざと貫禄をつけて威厳が通じれば、仕事がやりやすくなるだろうという目論見があった。しかし、わが意に反して、部下は誰一人、私を尊敬しようとはしない。そのうちこちらのほうがくたびれて、3カ月後にはまた元の「はい」に戻した。
公認会計士試験は、難関である。その資格を手にしさえすれば、周囲から一目置かれ、満足いく仕事と高給が保証されると考えるのも無理はない、かもしれない。そういう発想で猛勉強し、ようやくライセンスを取得した人にとって、今の日本で、目の前に広がる現実は信じ難いものだろう。
しかし、「現実」がいかんともし難い以上、「発想」のほうを変えるしかない。米国には、公認会計士が日本のおよそ20倍の40万人もいる。当然、日本よりはるかに「易しい」試験なのだが、彼らは資格を取ってから競争し、それぞれそれなりのポジションを得る。海外に行けば、中堅以上の会社には公認会計士が大勢いる。経理の責任者が会計士でなくても疑問を抱かれないのは、少なくとも先進国では日本だけである。
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経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)顧問金児 昭
1936年生まれ。東京大学農学部卒業後、信越化学工業に入社。以来38年間、経理・財務部門の実務一筋。前金融監督庁(現金融庁)顧問や公認会計士試験委員などを歴任。現・日本CFO(経理・財務責任者)協会最高顧問。著書は2012年1月現在で、共著・編著・監修を含めて128冊。社交ダンス教師の資格も持つ。
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