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「変革の時代だからこそ、監査人としての気概、泥臭さみたいなものは、改めて重要だと思う」
公認会計士浜田康事務所
浜田 康
会計士の肖像
早稲田大学
名誉教授 博士(経済学)辻山 栄子
大学在学中に公認会計士試験に合格した後、学究の面白さに目覚めた辻山栄子は、以降、研究者・教育者として長い道のりを歩んできた。本人は「古いだけ」と笑うが、なにかにつけ「女性第1号」の冠がつく辻山の存在は、間違いなく会計界における草分けだ。加えて、社会活動にも幅広く携わっている。長く務めた企業会計審議会委員、国税審議会委員を筆頭に、財務会計に関する政府や機関の委員を数多く歴任。なかでも、IFRSの日本導入に際しては、ASBJ(企業会計基準委員会)の初代委員として前線に立ち、そこに潜む混乱や矛盾を鋭く指摘し、論陣を張ってきた。何事にも真っ向から取り組む姿勢と、言葉を濁すことなく意見発信する“辻山イズム”は一貫したもので、古稀を過ぎた今日も健在である。
生まれも育ちも池袋で、実家は旅館とラーメンの製麺工場などを営む商家でした。戦後すぐに両親が始めたもので、商売を切り盛りするのは母、父は裏方という役割分担。親は忙しく、きょうだいも多いからお手伝いさんが何人もいる環境で、私は母の“背中”を見て育ちました。なので、小さい頃から「女性も当然、一生働き続けるものだ」と思っていたし、専業主婦という将来像は頭の片隅にもなかった。でも、封建的な時代ですからね、うちも「二十歳になったらお見合いして結婚しなさい」という感じで、抗ったのは姉妹のなかでも私ぐらい。とりわけ母に似ちゃったのか、異端児でしたね(笑)。
高校は姉がいた女子校の十文字学園に通っていたんですけど、団塊の世代で1学年10クラス以上あったなか、進学クラスは2クラス。それもほとんどが付属の短大に進学するコースです。そもそも、商家の娘が大学に進学するなど極めて稀で、当時の大学進学率は男女合わせても2割程度という時代でした。受験とは無縁だったから、全然勉強せず。もっぱら、友達とあんみつを食べながらおしゃべりする「帰宅部」として、気ままに過ごしていました。
話が変わったのは、高校卒業を控えて将来のことを真剣に考え始めた頃。やはり生涯にわたって仕事をしたいという思いがあり、そのためには「きちんとした教育を受けておく必要がある」と気づいたのです。当初、父は「学問をやってどうするんだ」的な物言いでしたが、基本は放任で、幸いにもお金は惜しみなく出してくれたから、1年浪人して大学受験を目指すことにしました。ちなみに早稲田大学を受験したのは、父が好んでいたからで、どんな道に進むのかはまだ見えていなかったのですが。
もとより、勉強せずとも成績は良かった辻山である。受験勉強は苦にならず、結果は早稲田大学の複数の学部に合格。そのなかで「将来役に立つかな」と考えて選んだのが商学部だった。半ば直観ではあったが、この選択が会計の世界への入り口となった。商学部に在籍していた学生約1600名のうち、女子学生数はわずか1%、16名だったという時代である。
女性の少なさには驚きつつも、大学生活はまさに自由謳歌です。学生運動が活発化していた背景もあり、私は入っていた韓国文化研究会の仲間たちと、けっこうデモにも行っていたんですよ。ただ学生運動といっても、私はノンポリだから特定の政党とは関係なく、是々非々の精神で臨んでいたというか。ひとたび問題意識を持ち、おかしい、間違っていると思うと黙っていられない性分は、この頃からはっきりしていたように思います。
将来どうするか。3年になっていよいよ職業を意識し始めた頃、考えたのは手に職、つまり資格を得ること。まだ女性差別の色濃い時代で就職先は限られており、花形職業といえば外資系企業の秘書くらいでした。それでも、いずれ天井にぶち当たるのは目に見えていたので、資格を取れば長く働くうえで武器になるだろうと。それで会計士試験に挑戦することにしたのです。
予備校はなかったけれど、私は尊敬する恩師・青木茂男先生や、とても力のあるCPA研究会で先輩たちから十分な指導を受けることができた。滑り出しは決して優等生ではありませんでしたが、自分に向いていたのか、次第に受験勉強の調子が上がって、4年の時に挑戦した二次試験は1回で合格が叶いました。合格率5%の時代に現役合格できたのは、ひとえに恩師・先輩のおかげ、環境に恵まれましたね。
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早稲田大学 名誉教授 博士(経済学)辻山 栄子
三菱商事株式会社(社外監査役)、オリックス株式会社(社外取締役)、株式会社ローソン(社外監査役)、株式会社NTTドコモ(社外監査役)、株式会社資生堂(社外監査役)
[公的活動]企業会計審議会委員、税理士審査会会長、国税審議会会長、政府税制調査会特別委員、金融審議会委員、公認会計士・監査審査会(CPAAOB)委員、郵政民営化委員、企業会計基準委員会(ASBJ)委員、国際会計基準審議会(IASB)基準諮問会議(SAC)委員ほか多数
[受賞]租税資料館賞(1992年)、日本会計研究学会・太田賞(1992年)、日本公認会計士協会・学術賞(1992年)、「公認会計士の日」大賞(2018年)