会計士の肖像
IMV株式会社
代表取締役会長兼CEO小嶋 成夫
支えになったのは、「社長に賭けます」と一緒に走ってきた社員たちの存在だ。常に会社の経営状態をオープンにし、「築き上げてきた社員との信頼関係こそが最大の戦力になった」と小嶋は言う。会社更生手続は85年に終結。そして、その20年後にジャスダック証券取引所に株式上場、IMVは名実共に自力再建を果たした。
経営は早い段階で建て直しができましたが、さらに上場を目標にしたことで、皆の士気が上がり、そうなると自ずと業績も上向くものです。上場を前提にワラント債を発行し、大株主だった企業からは残っていたIMVの株を買い取り、目指したのは“自立”です。
経営はもう軌道に乗っていたから、私の役目は終わってもよかったんだけど、この時もまた個人保証で借金しまして。会社の社会的使命や社員の生活を持続して守りたかった。一方で、社員たちも大株主から株式を引き取った際、「宝くじを買うより確率が高いと思いますから」と、引き受けてくれたのはうれしかったですね。だから、上場した時、億万長者がけっこう出ましたよ。縁あってIMVで共に働き、走ってきたんです。私はね、社員が会社を離れる時、「IMVにいて本当によかった」と言ってもらいたいんですよ。
振り返れば、途中、ストレスからガンになって手術したこともあります。トップが暗い顔していては話にならないから、洗面所で頬をパンパンと叩いては「おはよう!」とやっていた日々もありました。でも、本当にカッコつけじゃなく、つらいことは全部忘れました。コンサルタントとして、企業経営を長年経験させてもらった人生は最高に面白いし、やってきてよかったとつくづく思いますよ。
IMVは現在、振動を再現・計測、そして問題を解決するシステムで、自動車関連をはじめ、日本の各産業界から揺るぎない信頼を得ている。ここ数年はヨーロッパ、アジアにも積極的に進出しており、今後は海外戦略を一層強化していく意向だ。
IMVは世界トップのシェアを取っています。ただ、日本国内での売上高が7割近いので、やはりヨーロッパのワーゲンだとか、ベンツだとか、そのあたりの商売をもっと増やしていきたい。今、自動車業界は、画期的に変わっている時期。ガソリンエンジンから電気自動車に切り替わっていくなか、搭載するバッテリーの振動テスト需要が非常に大きくなっています。安全・安心の問題がクローズアップされてきた韓国やロシアなどからの受注も多く、ほかにも飛行機やロケットなど、我々の高い技術が求められる時代が明らかに来ていると感じています。
この歳になるまでIMVにいるとは思っていなかったけれど、いつまで現役かと問われれば、今は「死ぬまで」と即答します。引退したらボケちゃうし(笑)。ただ最近は、エンディングに近づいているからなのか、広く人の役に立ちたいと考えるようにもなりました。ベンチャー企業の支援とかね。もし販売面で困っているのなら、うちの全国の販売網で支援できるし、技術者による指導も提供できるしと、いろんなことを考えているところです。
私のキャリアはおよそ会計士らしくないけれど、一つはっきり言えるのは、資格にぶら下がっていては世界が広がらないということ。たとえるなら、資格は単なる“入場券”でしかない。映画を観ようと思ったらチケットを買わなきゃいけませんが、映画館に入っていい席で観られるかどうかは、その人の努力次第でしょ。私は少なくとも、若い時分から人の嫌がる仕事でも率先してやってきました。すると、人は必ず見ていて認めてくれるものです。どんな環境でも、いざゲートが開けば競争馬のように全力で走る。それがプロというものではないでしょう。
※本文中敬称略
IMV株式会社代表取締役会長兼CEO小嶋 成夫
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