会計士の肖像
みらいコンサルティング株式会社
代表取締役(グループ代表)久保 光雄
MCとしての再出発以降、久保はクライアントの成長戦略を支える国際ビジネスも積極的に進めてきた。08年にはアジア6カ国の仲間たちと「Reanda国際」(本部:香港)というアジア初の本格的な国際会計事務所を開設。MCとしては、中国上海に現地法人を設立。その後も中国をはじめ、マレーシアやベトナムなど、海外ネットワークを構築、強化し続けている。
もとより海外に対する関心が高く、特に中国には、荘子、老子の世界が好きで何度も行っています。もう20年以上になりますかね。早くから現地で目についたのは、文化の違いや情報不足などで経営に苦労している日系企業の姿。僕としては何とか役に立ちたいという思いがあった。その国際ビジネス支援の入り口となったのは、訪中を繰り返すなかで築いたアジア各国の知人やプロフェッショナルとの交友関係です。MCの理念に賛同し、仲間になってくれた彼らの存在は大きいですね。
国際会計事務所のReanda国際もそう。香港の仕事関係者と「一緒につくろうよ」と始めたもので、最初に参加したのは、ほかにマカオ、シンガポールなど合わせて6カ国(日本側の受け皿としてReanda MCを設立)。ここでは国際税務を主としており、海外に出た日本企業や中国企業の監査業務にも当たっています。スタートはアジアからの発信でしたが、今ではヨーロッパ系もたくさん入って35カ国になっています。おそらく、背景にはビッグ4に対する危機感があるんだと思いますね。なかなか面白い動きになっているところです。
僕は、このReanda国際をこれからもっと大きくしていきたい。いずれは各国の有力なメンバーファームと国際的なコンサル会社をつくって、上場させたいと考えています。というのも、例えば中国のプロフェッショナルたちはコンサル業務にすごく興味を持っているものの、経験やノウハウがまだ不十分なんです。僕らの蓄積を勉強してもらって、場をつくっていけば、アジア経済の発展にもつながっていく。それに、海外に活躍の場を求める会計士やコンサルティングが好きな人材に対しては、面白い仕事を提供できるじゃないですか。僕はここに注力していきたいんですよ。
「面白い仕事を提供する」――久保が幾度となく口にした言葉である。これこそがトップの役割だと心得て、人材を成長させることに心を砕いてきた。久保が「サファリパーク」と称するように、国内外問わず、そして多種多様な仲間が集まる組織だからこそ、前述のような経営哲学が重要なのである。
僕はね、働き方改革というのは「働きがい強化」だと思っているんです。単純な労働時間の問題じゃないですよね。働きがいは仕事、待遇、環境、将来性の4つの要件から成るもので、このバランスが融合的に取れていることが大事。なかでも僕が面白い仕事にこだわるのは、自分の経験から達成感や社会貢献度といった〝非金銭的報酬〞の大きさを知っているからです。生きていく力の源泉とでもいうか。だから「金じゃないよ」と、うちは「イヤな仕事、悪い仕事は断れ」を基本にしています。いわんや脱税や粉飾の相談など、心がおかしくなるような仕事には生涯かかわる必要などないですから。
コンサルティング事業と同様、短期での成果ばかりを求めず、中・長期にわたるビジョンを持つことが重要です。だって人生はフルマラソン、長いでしょう。100m競争に価値を置くのはおかしいじゃないですか。例えば、昨今のクオータリーレポートは目先の利益ばかりを追う材料になってよくないと思うし、IPOにしても「ゴールじゃない」と言いつつも、やはりゴールだと捉える経営者が少なくありません。国内で競い合っていても仕方がない、海外に出てもっと稼いでもらいたいなぁと思いますよ(笑)。
それは業界も同じで、監査業務にもの足りなさを感じながらもやり続けている優秀な人がいるでしょう。活躍する場はいっぱいあるのに、もったいないですよ。監査の奥には経営があり、さらにその奥には人間がいる。そこに真剣に対峙すれば面白い展開が待っているし、仕事の可能性も無限に広がっているのです。ゴールを近くに置くのではなく、もっと先を、そして世界を見て、力を発揮してほしいと思う。そうすれば人生は豊かになるし、ひいては日本の経済だって強くしていけると信じています。
今、人材やIT関係などの新規事業を立ち上げているんですけど、これも「仕事づくり」の一環で、70歳を超えた僕としては、そろそろ会長職に退いて、面白い仕事や場を提供する側に徹しようかと。あまり自分勝手なことばかり言っていると、また怒られちゃうから(笑)、僕なりの役割を全うせねばと考えているところです。
※本文中敬称略
みらいコンサルティング株式会社代表取締役(グループ代表)久保 光雄