The CFO –ニッポンの最高財務責任者たち-
株式会社SHIFT取締役CFO 兼
経営管理本部本部長福元 啓介
晴れて資格を手にした福元氏は、同年、監査法人トーマツ(当時)に入所する。法人では監査に携わる一方、企業のIPO支援などに取り組んだ。
「2年目くらいからは自分で仕事も取ってきて、けっこう自由にやらせてもらいました。IPO支援をやると、自分の成長を実感できるんですよ。現場に入って、経理や財務の人が実際に何をやっているのかが理解できたのは、僕にとって本当に大きかった」
06年には公認会計士に登録し、年次を重ねるごとに活躍の場を広げる。だが胸の中には、「コンサルをやっている人間のよくある悩み」も芽生えていた。「サポーターではなく、プレーヤーとして働いてみたい」という思いである。
それをかたちにするきっかけをつくったのがお姉さんだったというのは、縁というべきか、運と呼ぶべきか。なんと彼女はSHIFT社丹下大社長の、高校の同級生。福元氏にとっても、丹下氏は高校の先輩だったのだ。
「姉が『会社をつくった同級生がいて、コンサルで2億稼いだんだって』と言うわけです。『姉ちゃん、それきっとアブない人だから近づかないほうがいいよ』なんて最初は言ってた(笑)。でも調べてみたら、ちゃんとしたベンチャーでした。そこで、同郷でそんな人がいるんだ、何なら営業でIPO支援につなげられればいいな、くらいの気持ちで、『姉がお世話になってます』ってメールを書いて、会いに行ったのです」
初対面は10年の暮れだった。すぐに意気投合し、会って2回目には、丹下氏から「うちのCFOになってくれないか」と、誘いを受ける。「プレーヤー」になるチャンス到来、である。
「でも法人で海外に行きたいという気持ちもあったし、正直、迷いました」
繰り返したのは、「自分が本当にやりたいことは何なのか?」という自問自答。その結果、「ベンチャーに飛び込んで、実際に事業に携わる」ことを決意し、同社に入社したのは11年9月のことだった。
ところで現在の同社は「ソフトウェアのテスト事業」を主力とする。福元氏ならずとも、「第一印象は労働集約型のイメージ」だ。しかし、と彼は言う。
「できたばかりのソフトウェアは、そのままではうまく動作しません。実用に供されるには確認と修正作業が不可欠なのですが、ここがまったく標準化されていない。まさにこれから切り開いていく世界。『この仕事が、日本の将来の産業育成につながる』という丹下の言葉にも、共感を覚えました」
ただ、そこはベンチャー企業。「入社当時、経理や財務の機能自体が、ほとんどない状態」だった。
「やっぱりコンサルとは違う、と実感しましたね。知らないことだらけなんですよ。例えばストックオプション一つとっても、契約書をつくって、登記が必要で……こんなに“面倒な”ものなのか、と。銀行に融資を頼みに行くでしょう。利息の話をどのタイミングで切り出したらいいのか、なんてまるでわからない(笑)。まさにトライアンドエラーの繰り返しでした」
CFOに課せられた重要課題だった東証マザーズへの上場を果たしたのは、昨年11月である。
「4月頃、『“期越え”の上場をするなら、今決断してください』と社長に進言したんですよ。そうしたら、『いや、まだいいだろう』と。ところが1カ月くらい経ってから『やっぱりやろう』と言うわけです。なんで、と思ったけれど……その時、丹下の書いていた本のタイトルが、『できないとは言わない。できると言った後にどうやるか考える』。ははは、従うしかないですよね。まあ、そんな大変さはやりがいの裏返しで、監査法人時代に比べると、3倍くらい時間が早く流れている気がします」
株式会社SHIFT取締役CFO 兼
経営管理本部本部長福元 啓介
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