■経理経験者にとって「実務経験を積む」とはどういうことか?
(1)日次・月次・年次で、求められる経験はどう違うのか
経理の業務は、大きく日次・月次・年次の3つのサイクルに分けて考えることができます。そして、それぞれのサイクルで求められる力は少しずつ異なります。
【日次業務】
日次業務の中心は、伝票の起票や会計システムへの入力、経費精算のチェック、入出金の確認などです。ここで問われるのは、
社内ルールや会計処理の決まりごとに沿って、正確に処理する力
です。
【月次業務】
月次業務になると、売上や仕入の計上漏れの確認、未払金・前払費用の整理、試算表の作成など、毎月の締めを期限内に終わらせるための段取りが求められます。
前月や予算と比べて数字の動きがおかしくないかを確認し、異常に気づく力
も必要になってきます。
【年次決算】
年次決算では、さらに一段上の業務が加わります。貸倒引当金や賞与引当金の計上、税効果会計、固定資産の減損検討など、
会計基準に照らして「どう処理するか」を判断する
場面が増えます。監査法人や税理士とのやり取りも本格化し、処理の根拠を説明する力も求められます。
こうして並べてみると、経理の実務経験を積むということは、単に業務の種類が増えることではありません。ルールに沿って処理する業務から、判断と説明を伴う業務へと、仕事の重心が移っていくことだと言えます。本記事では、この「判断を伴う業務にどれだけ関わってきたか」という視点で、実務経験の積み方を考えていきます。
(2)なぜ「経験年数」より「経験の中身」が問われるのか
経理の求人票では、「経理経験3年以上」といった条件をよく見かけます。そのため、まずは年数を重ねることが大切だと考える方も多いかもしれません。
しかし実際の選考では、経験年数はあくまで目安として扱われることが少なくありません。
採用担当者が確認したいのは、その年数のなかで何を担当し、どこまで任されてきたか
という点です。同じ経理経験5年でも、日次業務を中心に担当してきた方と、年次決算の主担当として監査対応まで担ってきた方とでは、応募できる求人の幅は大きく変わってきます。
裏を返せば、年数がまだ浅くても、決算や税務などの経験を意識的に積み重ねてきた方は、それだけ選択肢を広げやすいということです。経験年数ごとに市場でどう評価されるかについては、
【経理職の転職市場に見る、経験年数と求められるスキルを解説】
で詳しく取り上げています。
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■どの経験を積むと、キャリアの選択肢が広がるのか?
日常業務の次にどんな経験を積めばよいのかは、目指すキャリアによって異なります。ここでは、経理経験者が次に目指すことの多い経験を5つの「段差」として整理します。自分がいまどの段にいて、次にどの段を目指したいのかを確認するつもりで読み進めてみてください。
(1)単体決算
1つめの段差は、単体決算です。月次決算の一部を担当している段階から、年次決算を通して主担当として回せるようになるかどうかが、ひとつの大きな分かれ目になります。決算整理仕訳の全体を把握し、決算スケジュールを自分で組めるようになると、任される仕事の幅が一気に広がります。決算業務の流れについては
【経理の決算とは?決算業務の流れと必要スキル、転職での評価を徹底解説】
もあわせてご覧ください。
(2)税務
2つめは、税務です。法人税や消費税の申告書作成を経理部門で行うのか、外部の税理士に依頼するのかは、会社によって異なります。そのため、税務への関わり方は職場環境に大きく左右されます。申告書そのものを作成しない場合でも、税務調整項目の整理や消費税の課税区分のチェック、税理士への資料提出などを通じて、税務の実務に触れることはできます。詳しくは
【経理業務の中での「税務」とは?税務知識が経理担当者の市場価値を高める理由】
で解説しています。
(3)連結決算
3つめは、連結決算です。子会社から決算数値を集める連結パッケージの回収や、グループ内取引の消去、連結精算表の作成などが中心となる業務です。連結決算は子会社や関連会社を持つ企業でなければ経験できないため、所属先によっては、そもそも積む機会がないこともあります。転職市場での評価については
【連結決算の経験は経理転職でどう活きる? 年収・キャリア・成功事例を理解して強力な武器に!】
が参考になります。
(4)開示業務
4つめは、開示業務です。決算短信や有価証券報告書の作成など、投資家に向けて財務情報を公表する業務で、基本的には上場企業や上場準備企業に限られます。開示書類の作成には会計基準だけでなく法令上の記載ルールの理解も必要になるため、経験者が比較的少ない分野だと言えます。
(5)管理会計
5つめは、管理会計です。予算の策定や予算と実績の差異分析、部門別の損益管理など、経営判断のための数字を扱う業務です。財務会計とは目的が異なるため、経理の延長として経験を積む場合もあれば、経営企画などの部門との連携のなかで関わる場合もあります。基本的な考え方は
【管理会計と財務会計の違いとは?それぞれの目的や導入メリットを解説】
をご覧ください。
この5つは、必ずしも順番どおりに積む必要はありません。ただ、単体決算を一通り経験していることが、連結や開示に進むための前提になることは多いでしょう。
■今の職場で実務経験を広げるにはどうすればいいのか?
次のステップに必要な経験が見えてきたら、まず考えたいのは、今の職場でその経験を積めないかということです。転職をしなくても、日々の仕事への関わり方を少し変えるだけで、経験の幅は広げられる場合があります。
(1)決算の「一部」から「一連」へ広げるには
分業が進んでいる職場では、決算のなかでも特定の勘定科目や作業だけを担当しているケースがよくあります。その場合は、まず担当外の作業にも目を向けてみることから始めましょう。決算スケジュール全体を確認し、自分の作業がどの工程につながっているのかを理解しておくだけでも、決算の全体像はつかみやすくなります。
そのうえで、上司や先輩に「次の決算では、この部分も一緒に見せてもらえませんか」と相談してみるのも一つの方法です。決算期は誰もが忙しい時期ですが、だからこそ、作業を引き受けてくれる人の存在はありがたいものです。
補助的な立場からでも、担当範囲を少しずつ広げていくことが、主担当を任されるための近道になります。
(2)前工程・後工程を知ることがなぜ経験になるのか
経理部門に届く数字の多くは、営業や購買、人事などの他部署で発生した取引がもとになっています。売上がどのような契約条件で計上されているのか、仕入や外注費はどのような承認フローを経て経理に回ってくるのか。こうした前工程の流れを理解していると、数字に異常があったときに原因を突き止めやすくなります。
また、経理が作成した数字が経営会議や予算管理でどのように使われているのかという後工程を知っておくことも大切です。数字の使われ方を知ることで、どの精度とスピードが求められているのかが見えてくるからです。他部署との調整ができる人は、決算の取りまとめ役を任されやすくなります。
(3)外部とのやり取りに同席するには
監査法人による監査や、税理士との打ち合わせ、税務調査への対応などは、経理経験者にとって貴重な学びの場です。こうした場面では、会計処理の根拠を説明し、指摘を受けて修正するというやり取りが行われます。そのなかで、判断の基準や考え方を実際の事例を通して学ぶことができます。
自分が直接の担当でなくても、資料準備を手伝ったり、打ち合わせに同席させてもらったりすることで、外部対応の経験を少しずつ積んでいくことができます。
過去の指摘事項やその対応記録が残っていれば、目を通しておくのも効果的です。
(4)業務改善やシステム更新の担い手になるには
決算の早期化、会計システムの入れ替え、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応など、経理部門では日常業務とは別にプロジェクト型の取り組みが発生することがあります。こうした取り組みに自ら手を挙げて関わることも、実務経験を広げる有効な方法です。
業務改善やシステム更新に関わると、業務フロー全体を見直す視点が身につきます。さらに、「どのような課題に対し、何を変え、どんな結果になったか」を自分の言葉で語れる経験にもなります。こうした経験は、後で触れる職務経歴書でも大きな武器になります。
■社内で積めない経験は、転職で取りにいくべきか?
(1)今の職場では積めない、と判断できるのはどんなときか
社内で工夫を重ねても、構造的に積めない経験もあります。たとえば、分業が進んでいて担当業務が長年固定されている職場や、子会社を持たない非上場企業で連結や開示の業務がそもそも存在しない職場が該当します。決算や申告をほぼ外部の税理士に任せている職場も同様です。こうした環境では、本人の努力だけで経験の幅を広げることは難しくなります。
このような場合は、必要な経験が得られる環境に移ることも現実的な選択肢になります。ただし、焦って転職先を決める前に、「自分はどの経験を積みたいのか」をはっきりさせておくことが大切です。
(2)企業規模・フェーズによって、得られる経験はどう違うのか
どのような経験を積めるかは、企業の規模や成長フェーズによって大きく異なります。
中小企業の経理では、少人数で日次から決算、場合によっては税務まで幅広く担当することが多く、業務の全体像をつかみやすい環境です。一方、上場企業では業務が細分化されている分、特定分野を深く掘り下げられるうえ、連結決算や開示業務に関われる可能性があります。上場準備中の企業では、決算体制や内部統制の整備など、仕組みそのものを作る経験が得られます。外資系企業であれば、本国向けのレポーティングや英語での業務など、日系企業とは異なる経験を積むことができます。
それぞれの特徴については、
で詳しく紹介しています。
(3)経験を取りにいく転職には、どんなトレードオフがあるのか
経験を広げるための転職では、何かを得る代わりに何かを手放すことになる場合もあります。たとえば、中小企業で経理全般を任されていた方が上場企業に移ると、担当範囲はかえって狭くなる可能性があります。また、未経験の業務に挑戦する転職では、現職より年収や役職が一時的に下がることも考えられます。
それでも、3年後、5年後に目指したいポジションから逆算して、今その経験を積むことに意味があると判断できるのであれば、目先の条件だけにとらわれない選択も十分に検討する価値があります。
中長期のキャリアの描き方については、
【5年後10年後の経理職を見据えた効果的なキャリアプランとは?】
も参考にしてください。
■積んだ経験は、どう伝えれば評価につながるのか?
せっかく積んだ経験も、相手に伝わらなければ評価にはつながりません。経理経験者の職務経歴書で多いのは、「月次決算・年次決算を担当」といった業務名だけで終わってしまう書き方です。これでは、どの範囲を、どの立場で、どの程度担っていたのかが読み手に伝わりません。
経験を伝える際には、規模・範囲・役割・期限の4つを意識して書き分ける
と、内容がぐっと具体的になります。規模とは、会社やグループの規模感、子会社の数などです。範囲とは、単体か連結か、月次か年次か、税務まで含むかといった担当領域のことです。役割は、作業の担当者だったのか、主担当として取りまとめていたのか、メンバーを指導していたのかという立場を指します。期限は、締め日や決算発表までのスケジュール、早期化の実績などです。
たとえば「年次決算を担当」と書く代わりに、「子会社3社を持つグループで、単体の年次決算を主担当として取りまとめ、監査法人対応も担当。決算整理の手順を見直し、締め作業を前年より短縮」と書けば、経験の深さが一目で伝わります。数字を入れる場合は、自分が実際に関わった範囲の事実に限って記載するようにしましょう。
経理職ならではの書き方は、
で詳しく紹介しています。
■エージェントから見て、経験の積み方で差がつく人とは?
経理・会計分野の転職支援に携わるエージェントの立場から見ると、同じような経験年数でも、選考で評価されやすい人にはいくつかの共通点があると考えられます。
ひとつは、経験を業務名ではなく「関わり方」で説明できることです。どの業務を担当したかだけでなく、そのなかでどんな判断をし、どんな工夫をしたかを語れる人は、面接でも経験の深さが伝わりやすくなります。
もうひとつは、次に積みたい経験を自分の言葉で説明できることです。「連結決算に関わりたい」「開示業務まで経験したい」といった目標がはっきりしている人は、応募先の企業にとっても、入社後の活躍をイメージしやすい存在です。
さらに、短期間で転職を繰り返すのではなく、ひとつの職場で段差を一つずつ上がってきた人は、経験の積み上げに一貫性があるとして評価されやすい傾向があります。転職回数が選考に与える影響については、
【経理職の転職回数がもたらす影響とは?成功の秘訣を解説!】
でも詳しく解説しています。
■まとめ
経理の実務経験は、年数を重ねるだけで自然に広がっていくものではありません。日次から月次、年次決算、さらには税務・連結・開示・管理会計へと、判断を伴う業務にどれだけ関わってきたかが、その後のキャリアの選択肢を左右します。
まずは、自分がいまどの段差にいるのかを確認し、次に積みたい経験をはっきりさせることから始めましょう。決算の担当範囲を広げる、前後の工程を知る、外部対応に同席する、業務改善に手を挙げるなど、今の職場でもできることは少なくありません。そのうえで、社内ではどうしても積めない経験がある場合には、企業規模やフェーズの違いを踏まえて、転職という選択肢を検討してみてください。
ジャスネットでは、経理・会計分野に精通したエージェントが、これまでのご経歴をふまえて、次に積むべき経験やそれが得られる求人について一緒に考えます。キャリアの方向性に迷ったときは、お気軽にご相談ください。
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