経理業務における1つのゴールが「決算」の作業といえます。会社が経理を行う最も重要な目的が年次決算における財務諸表等の開示資料の作成であるといえるからです。
経理職の求人においてもこの「決算」における業務の全体像が把握できているかは重要な判断指標といえます。そもそも「決算」とは、なにをするのでしょうか?
今回はこの「決算」業務についてAIの活用を通して見ていきましょう。
【第8回 年次決算】(AI・IT代替危険度予想 ランクC)
*上記ランクについてはAが代替危険度が高く、BCの順で低いものと予想する。
経理業務における1つのゴールが「決算」の作業といえます。会社が経理を行う最も重要な目的が年次決算における財務諸表等の開示資料の作成であるといえるからです。
経理職の求人においてもこの「決算」における業務の全体像が把握できているかは重要な判断指標といえます。そもそも「決算」とは、なにをするのでしょうか?
今回はこの「決算」業務についてAIの活用を通して見ていきましょう。
一般的に損益計算書は、一事業年度内の「経営成績」、貸借対照表は、期末一時点における「財政状態」を現す表といわれています。
ここで、貸借対照表と損益計算書の関係を、たとえ話を使ってもう少し見直していきましょう。
ケンジくんが自分で貯めた10円のお年玉と弟から借りた4円のお年玉をもとに14円のおもちゃを買いました。なぜなら、近所のおもちゃ屋さんで14円で買えるそのおもちゃを、隣町のサトシくんが17円で買いたいと言っていたからです。
ケンジくんは、14円でおもちゃを購入し、サトシくんに渡すと、サトシくんは17円をケンジくんにくれました。
この話を貸借対照表と損益計算書の関係で図式化すると下記の図のようになります。
簿記を知っている皆さんでしたら、この話を聞いたときに頭の中でケンジくんは「3円儲かったね」と結論づけるでしょう。
しかし、ケンジくんとしては、持っていた14円があるプロセスを経て17円に変わっただけということもできます。この前期末と当期末の関係性が貸借対照表です。
ケンジくんとしては14円が17円に増えたのだから、単純に「お金が増えてうれしかった」と思うでしょう。しかし、これが会社の事業となると14円が17円になった理由が重要になるのです。
なぜなら、会社には株主がいるため、継続する事業として行うからには、この3円儲けた過程が「事業として将来の見込みがあるのか?」、「来期も継続して利益を生み出せるのか?」など、利益を生み出す過程が重要となるからです。
そこで、「14円で仕入れて、17円で売った」という過程を、損益計算書を通じて公表することになるのです。
この話の本質は「14円が17円に増えた」という話です。いくらケンジくんが「3円儲かったんだ」といったところで、実際に現金が増えているところを見なければ誰もこの話を信じないでしょう。
会計の世界は、さまざまな時代背景や経済状況、それに伴う要請により、より複雑さを増しています。しかし、いつの時代にも会社を評価する指標として変わらないものが貸借対照表に裏付けされる「純資産価格」といえるでしょう。すなわち、貸借対照表は、会社の期末時点の姿を現す鏡なのです。
この鏡が本当の姿ではなく、間違えやでたらめに評価された金額が載っていたらその会社の本当の姿がわかりません。お見合い写真をソフトで加工し、見栄よくしたようなイメージです。そのため、まず「現物」である資産や負債を整理することで、会社の本当の姿が浮き彫りになる、すなわち、決算とはこの現物を「あるべき姿」に整理していく作業なのです。
この「あるべき姿」という視点で、決算業務をみていきましょう。
たとえば、減価償却の手続きは、手元にある備品や建物が新品の状態に比べ、使用した分価値が落ちてしまいます。これを、その使用分を見積もり中古資産として評価していく作業ですし、何らかの原因によりその価値が暴落してしまい、大幅に価値が下落してしまったら、それを見積もるのが減損会計です。
貸付金などの債権も取引先が倒産などしてしまったら、いくら1,000万円の借用書があっても取り返せる可能性はゼロに近いかもしれません。こういった評価を見積もったものが貸倒引当金です。
このように、決算とは現状、その会社にあるものを実現しうる正しい価値で見直す作業であり、そのさまざまな処理の基準が会計基準なのです。
こうした決算業務において、AIがどのように影響するのでしょう?
一つの活用例として、ソフトベンダーが推奨する「AI月次監査」という機能があります。
これは、たとえば、本来なら固定資産として処理すべき金額の資産が消耗品費で計上されていたら、損益計算書上に確認を促すアラートが表示されるといったように、あらかじめプログラミングされた一般的な会計処理に照らし、AIがその正確性を判断し、アラートを出す機能です。
また、公認会計士が行う監査業務においても大手監査法人内でAIによる監査システムが多数開発され、今後大きな活用が期待されています。
会計監査はあらかじめ定められた会計基準に則り、企業が作成する決算書類に不正等がないかを監査する作業ですから、決められた作業をプログラミングどおりに行うAIと親和性が高い業務といえるでしょう。公認会計士協会においても、監査業務の効率化や精度の観点からこういったAIの活用を推進しています。
この関係は「コンピューター会計」という言葉が一般的になりつつあった70年代から80年代に似ています。それ以前、経理は紙の伝票や帳簿に手書きで記帳し、電卓を使って計算をしていました。まさに簿記検定の世界さながらの処理が本当に行われていたのです。
しかし、これではスピード感が求められる現代においては、あまりにも時間がかかりすぎるし、処理するデータ量も膨大に増え、同じようには行えません。
今となっては、記帳業務は経理がパソコンに入力をして行うことが当たり前となっていますが、当時はコンピューターでできるようになれば人はそれほどいらないと真剣に議論されていたのです。
翻って、AIの技術がさらに進化する将来において、人はいらなくなるのでしょうか?
これに関しては、日本公認会計士協会も明確に否定をしています。
なぜなら、会計という分野がより国際性を増し、また、専門性が高い分野になってきているからです。
ケンタくんのように「物を買って売る」という商品売買が中心の時代、現代の複式簿記という要素は必要ありませんでした。しかし、国をまたにかけて大規模に商品売買を行う「貿易」という概念が生まれたことにより、株主が登場し、そのために会計という作業が必要になりました。ケンタくんひとりの問題なら「お金が増えた」だけでよかったものが、株主ができたことにより、より状況を正確に説明する必要ができたからです。
このように、経済の移り変わりとともに、少しずつ要請される内容が変わってきます。
現代社会のように、金融やサービスといった物体のない取引が、国境という垣根もなく行われる時代においては、会計という分野においてもこれまで以上に考えることが膨大に増え、その結果、人がやらなければならない分野も少しずつ変わってきているのです。
前述のように、取引が多様化し、日本だけでなく国際的社会の中での自社のポジションを確立しなければならない経済情勢の中で、これまで何十年も続けられていた経理処理そのままで対応できるのでしょうか。
もちろん、その答えはNO。
これまで見てきたように、AIは人が行う業務のサポート役として開発されたプログラミングにすぎません。これは、ちょうど手作業を効率化するために生まれたパソコン(コンピューター)と人との関係に似ています。
AIが発展するこれからの社会において、われわれ会計人が行わなければならない決算業務、それこそが、複雑な取引環境の中で、会社の持つ本来の姿を正確に評価していく専門性の高い業務なのです。
神奈川県出身。税理士。
早稲田大学在学中から地元会計事務所に勤務。その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。幅広い実務経験と、講師経験から実務家向けセミナー講師多数担当。「実務」と「教えるプロ」の両面に基づいたわかりやすい解説に定評がある。実務においては、街歩き、旅行好きの趣味を生かし、日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、『旅する税理士』。
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