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序章 管理会計の担い手たれ!~役割転換が求められる会計人~

写真1

今回から新たに管理会計の連載をスタートします。
管理会計は、これから会計の世界を目指す者にとっても、既に会計の世界にいる者にとっても、非常に重要な分野です。なぜならば、管理会計は経営に密接に関係し、企業の競争力を左右するものだからです。管理会計こそが経営に求められる会計と言ってもよいでしょう。

ところが、管理会計に強みを持つ会計人は少ないのです。公認会計士をはじめとして、ほとんどの会計人は財務会計という制度の世界で暮らしています。
制度は重要ですが、制度通りに財務諸表が作成されることに大きな関心を持つ経営者はいません。制度だけでは企業の競争力にはつながらないからです。

ここに、会計人の役割に対する「期待ギャップ」があります。現在、企業の経理部において制度会計の仕事に携わる方にとっては多少耳の痛い話もあるかもしれませんが、おつきあいください。

目次

1.会計に対する経営者の本音

2.スマイルカーブで考える会計業務

3.AI時代における2つの方向性

4.管理会計に求められる6つの資質

5.まとめ

1.会計に対する経営者の本音

期待ギャップがよくわかる話として、企業の経営者が会計というものに対してどのような印象を持っているかをご紹介します。ここでご紹介するのは2人の経営者の方々です。これは私が実際にその方々の口から聞いた言葉です。

(1)ある大企業CFOの経理部に対する印象

まずは某大手上場企業CFOの方の発言です。あるカンファレンスでご一緒した際に、その方は次のようにおっしゃっていました。

「うちの経理部は毎日のように夜遅くまで決算業務に追われています。しかし私は、優秀な社員たちが決算のような“作業”に毎日忙殺されるのは本望ではありません。彼らにはもっと、経営に役立つ情報を役員に提供するような、そんな“経営参謀”としての役割を担ってほしいのです」

この方は、決算業務を「作業」とおっしゃいました。「経理部門が忙しいのはわかるが、それは“作業”で忙殺されているようにしか見えない」ということです。要するに、付加価値を感じられないということなのでしょう。

では、どうであれば付加価値を生み出しているといえるのでしょう。そのキーワードが「経営参謀」です。彼は経理部に経営参謀としての役割を期待しているのに、そのような役割を全く果たしてくれていないことに不満を持っているのです。

(1)ある大企業CFOの経理部に対する印象

もう1人は上場企業の社長の方です。この方は私と雑談している中で次のようなことをおっしゃっていました。

「ウチの経理部は毎月月次決算書を役員会で配ってくれるんだけど、あれ、正直言って私の仕事には全く役に立たないんですよ」

巷では、月次決算は非常に重要といわれているのに、この社長さんはこともあろうにそれを「役に立たない」とおっしゃったのです。
「なぜですか?」と聞くと、その社長さんはこうおっしゃいました。

「だって、決算書って、なんだかよく分からない難しい制度に基づいて作られていて、それを見ても経営の実態が見えてこないからですよ」

この社長さんの言葉は多くの経営者の気持ちを代弁しているのではないでしょうか。
決算をするためには、それこそ難しい制度をたくさん知っていることが必要で、会計に携わる当事者は、さも大そうな仕事をしている気になっているかもしれません。

当然のことながら私自身、制度会計の重要性は理解していますし、経理で働く皆さんが決算をまとめるのにいかに苦労しているかは知っています。しかし、社長にしてみれば「だから何なの?」と言いたいのでしょう。経営の実態が見えないのですから。

お2人の言葉をまとめると、「決算書は経営に役に立たない。それなのに、その役に立たないものを作るのに膨大な時間を費やしている」。これが会計に対して、この2人の経営者が抱いているイメージです。

ここまで明確な言葉にする経営者は少ないですが、私自身、似たような不満を会計に対して持っている経営者が多いと感じるのもまた事実です。

難しいことをやっていることと価値があることは、必ずしも同じではないのです。もし付加価値を生んでいないとしたら、その仕事は単なる自己満足に過ぎません。難しい仕事をしている自分に酔っているだけでしょう。

2.スマイルカーブで考える会計業務

(1)スマイルカーブとは?

スマイルカーブというのをご存じでしょうか。
スマイルカーブとは、ある製造業が、自社の業務プロセスのどこで付加価値が生まれているかを分析した際に、分析結果として得られたグラフのことです。

具体的には、図1のように、横軸に業務プロセスを取り、縦軸に付加価値を取った図です。グラフの形状が、人が笑ったときの口元のようなので、「スマイルカーブ」と呼ばれています。

図1

(2)製造業におけるスマイルカーブ

製造業においては、一番左の上流工程は企画開発があり、中央に狭義の物作りである加工・組立があり、一番右に完成した製品の活用というプロセスがきます。スマイルカーブが意味していることは、多くの人が「これぞ製造業の仕事」と考える中央の物作りの部分が最も付加価値を生んでいないという事実です。

これは、ある特定の企業の分析結果なので、すべての製造業に当てはまるわけではありません。ただ、多くの製造業がこのようなことになっているのではなかろうかとも思うのです。

①アップルの場合
たとえばアップル。アップルという会社は製造業ですが、彼らが行っているのは一番左の企画開発です。iPhoneやiPadという今までにない製品(さらにはスマートフォンやタブレットというカテゴリーそのもの)を考え出すのが、彼らがやっている仕事です。中央の「狭義の物作り」の部分は、台湾の鴻海などに全面的に任せています。
スマートフォン市場で他に誰が儲かっているかといえば、一番右側、すなわちできあがったスマホで動く人気アプリを開発している企業です。

②日本の電器メーカーの場合
では、スマイルカーブの中央部分、すなわち誰かが考えたものを言われたとおりに作っているだけの企業はどうなっているのでしょうか。それが日本の電機メーカーでした。ガラケーの時代にはほとんどの電機メーカーが端末を作っていましたが、今やほとんどが撤退してしまいました。全く儲からないからです。作り続けているメーカーも、スマートフォン事業はほとんどが赤字です。

鴻海のような企業はなぜ中央部分で利益を出せるかというと、その大きな理由は人件費が低いことにあります。日本が世界の工場だった時代は中央部分を担えましたが、その役割を人件費のはるかに低い中国や東南アジアに取って代わられた今は、日本の企業が中央部分であることは経済的に正当化されないのです。

(3)会計業務におけるスマイルカーブ

会計業務もこれと同じような状況にあるのではないかと思うのです。

多くの人が「これぞ会計の仕事」と思っている仕事は決算書を作成する仕事です。しかし、これは会計情報を“製造”する「狭義の物作り」に相当する業務です。製造業と同じく、そこは最も付加価値の低い仕事になっています。冒頭で紹介したCFOの方が”作業“と言ったのもそこの部分です。
会計業務において付加価値が高いのは、製造業と同じく、スマイルカーブの両端の部分ということになります。

左側の上流は、会計情報を作るための前提となる会計方針の策定や内部統制の整備などです。つまり、ルールと仕組みを作る側の仕事です。
そしてもう1つが右側の下流の仕事、すなわち作られた会計情報を活用する仕事になります。これは会計情報を分析し、意思決定を支援することです。一言で言えば、管理会計の担い手ということです。

3.AI時代における2つの方向性

(1)AI時代に消える仕事、残る仕事

2013年に英オックスフォード大学の研究者が、今後、コンピュータやロボットに取って代わられる職種の確率を計算した結果を発表しました。多くのところで取り上げられたので、ご存知の方も多いでしょう。会計に関わる人にとっては、聞き飽きてうんざりしているかもしれません。必ずといってよいほど出てくるのが経理・監査なのです。

経理・監査という職種が取って代わられる確率は94%とのことです。この確率はAIやIoT、もっと足元のところで言えばRPAによってもっと上がるのでしょう。つまり、ほぼ確実に取って代わられるということになります。

考えてみれば当然です。会計は数字を扱う分野なので、ITとはただでさえ相性がよいといえます。「もっと決算をよく見せたい」「もっと税金を減らしたい」などという感情が邪魔しなければ、今でももっと自動化できます。そこにAIなどが加われば、人がやっていた仕事はますます機械に奪われるでしょう。
しかし、すべてが奪われるわけではありません。奪われるのはスマイルカーブの中央の部分、すなわち作業の部分です。スマイルカーブの両端部分はAIといえどもなかなか難しいでしょう。

(2)会計においてAIに代替されないスマイルカーブの両端

①スマイルカーブの左側
左側の部分はルールと仕組みを作る仕事です。ここは人間しかできません。いつかはAIが自らルールと仕組みを作る日が来るのかもしれませんが、そうだとしてもそこはAIにやらせてはいけないところでしょう。AIが暴走した場合にどうなるか分からないし、人類の存在意義そのものが危機にさらされるからです。

②スマイルカーブの右側
右側の部分は、情報に基づき意思決定をするという非定型的業務であり、コンピュータが苦手な分野です。ここも、いつかはAIができるようになるかもしれませんが、AIの出す答えは一つの選択肢であり、最終的に“決断”するのは人間がやるべき仕事です。

③無くならない人の役割、進むべき方向性とは
こう考えると、「AIに仕事を奪われる」という表現自体がおかしいのかもしれません。スマイルカーブの中央部分の仕事しかやっていない人、やれない人にとっては、確かに仕事を「奪われる」でしょう。しかし、実はやるべき仕事はスマイルカーブの両端に山ほどあるのです。

問題は、すっかり豊かになった国の高い人件費の人が、その高い人件費に見合った付加価値を生む仕事をできていないことなのです。そして、日常の“作業”に忙殺されているのをいいことに、スマイルカーブの両端にある仕事の存在すら気付いていません。それが問題なのです。

スマイルカーブの中央部分はむしろAIを含むITに奪ってもらった方がいい。そうやって作業から解放されて初めて会計人が進むべき方向性が見えてきます。
その方向性は2つです。スマイルカーブの左側、すなわちルールと仕組みを作る側に行くか、右側、すなわち管理会計の担い手になるかのいずれかです。

この2つの方向性が、これからの会計人にとって、スキルアップのヒントになるのでしょう。管理会計は、その1つということです。

4.管理会計に求められる6つの資質

ここでは管理会計の分野で力を発揮するために、私が必要だと思う6つの資質をあげたいと思います。

(1)自分の頭で考える「主体性」

管理会計の担い手になるためには、今までとは異なる資質が求められます。
まず重要なこととして理解しておかなければならないのは、管理会計は、会計でありながら、制度モノではないということです。
会計基準のような模範解答も、監査法人や顧問税理士のような先生もいないのです。管理会計は会社の数だけあっていいですし、会社の数だけあるべきなのです。それを自分の頭で考える「主体性」が、まず第一に求められる資質です。

(2)知識量ではなく「論理的思考力」

自らの頭で主体的に考えるためには「論理的思考力」も求められます。制度の世界で生きている会計人にとって重要視されてきたのは、制度をどれだけよく知っているか、覚えているかという「知識量」だったかもしれません。しかし、知識量では人間はコンピュータに絶対に敵いません。特に、模範解答のない管理会計ではなおさらです。必要なのは、原理原則に遡って論理的に「考える力」です。

(3)わかりやすく説明する「プレゼンテーション力」

論理的に考えられるだけでは、まだ足りません。それを論理的かつ分かりやすく説明できる「プレゼンテーション力」も求められます。特に「わかりやすく」というのは非常に重要です。
会計に限らず、専門的な分野の人たちに共通して見られるのが、説明が難しくわかりにくいことです。法務然り、IT然りです。
私はある講演終了後、「会計士さんって、難しいことを難しく説明する人だと思っていましたが、先生は違うですね」と言われたことがあります。いかに多くの人が難しく説明しているかということです。

よく「わかりやすく説明する秘訣は何ですか?」と聞かれますが、私は話し手が本質から理解していることだと思っています。根底からちゃんと理解していないから、例え話もできないし、省略する勇気も持てません。説明がわかりにくい人は、要するに本人がちゃんとわかっていないのでしょう。ざっくりしか理解していない人は、ざっくりとした説明できないのです。

(4)木を見て森を見ずに陥らないための「大局観」

本質から理解することとも密接に関係しますが、「大局観」も重要な資質です。「個々の意味を考えること」と言い換えてもよいでしょう。会計のような細かく広範な分野を扱っていると、つい木を見て森を見ずどころか、木も見ないで枝や葉ばかりを見てしまうことがあります。

内部統制などはよい例です。やたらとルールを作り、大量のマニュアルを作ることが内部統制の整備だと思っています。しかし、それが会社の競争力、ひいてはお客様にどのような「意味」があるのかを考えているのでしょうか。大量のルールによって仕事のスピードは落ち、お客様にも迷惑を掛けているかもしれません。なにより、ルールだらけの職場が楽しいはずがありません。また、そんな企業の競争力が高まるわけもありません。

(5)会計と親和性の高い「ITスキル」

具体的なスキルでいうと、「IT」に関するスキルは外せません。既に述べたように、元々会計はITと親和性が高いといえます。会計事務所系コンサルティング会社の歴史を見れば、それは明らかでしょう。会計情報を扱っていた会計事務所が、それを処理するIT分野に業容を拡大して発展してきたのが、現在の巨大コンサルティングファームです。

さらに、ITによって会計の仕事が奪われるとするならば、そのITを作る側・考える側に行くしかありません。これは会計に限ったことではありません。これからはITに疎い人は間違いなく淘汰されるでしょう。

(6)算数ではなく「数学」

もう一つ具体的なスキルとして挙げられるのは「数学」です。財務会計は「算数」ですが、管理会計は「数学」だからです。財務会計に必要なのは、せいぜい足し算・引き算の算数です。しかし、管理会計は分析的・論理的な分野なので、どうしても数学が必要になります。実際、数学的な手法が少なからず存在します。

5.まとめ

以上の6つの資質、「主体性」、「論理的思考力」、「プレゼンテーション力」、「大局観」、「ITスキル」、「数学」が、管理会計を武器として経営参謀になるために求められる資質です。これらは、従来の典型的な会計人にはどれも欠けていることかもしれません。制度という模範解答があるなかで、知識量が重視され、会計分野以外の人に分かりやすく説明する機会も特になく、典型的な文系職種であることからITや数学は全くの苦手―。

もしそうだとするならば、求められる資質は180度変わることになります。

次回からは全6回にわたり、これから管理会計を学びはじめる方を対象とした連載をしていきます。下記の章立てを予定しており、ここであげた「管理会計において必要となる6つの資質」を補うものとしていきたいので、ご期待ください。

執筆者プロフィール

金子 智朗(かねこ ともあき)
コンサルタント、公認会計士、税理士

1965年生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科修士課程卒業。日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事しながら、1996年に公認会計士第2次試験合格。プライスウォーターハウスコンサルタント等を経て独立。現在、ブライトワイズコンサルティング合同会社代表社員。

会計とITの専門性を活かしたコンサルティングを中心に、企業研修や各種セミナーの講師なども多数行っている。名古屋商科大学大学院ビジネススクール教授も務める。

著書
『MBA財務会計』(日経BP社)
『「管理会計の基本」がすべてわかる本』(秀和システム)
『ケースで学ぶ管理会計』(同文舘出版社)
『新・会計図解事典』(日経BP社)
など多数。

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