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【プライム上場企業編】Appier Group、CFOに求められる財務だけではない“現場感”という武器

経理部門のリーダーに求められるものは、企業の規模やステージによって大きく異なります。様々な企業の経理部門で、リーダーとして働く方を紹介するこのコラム。

今回は台湾発のAIネイティブのマーケティングカンパニーであるAppier Group株式会社にて、財務担当シニアバイスプレジデント兼ヘッドオブジャパンを務める橘浩二様にお話をお伺いしました。

目次

橘浩二氏_写真

Appier Group株式会社 財務担当シニアバイスプレジデント ヘッドオブジャパン 橘 浩二 氏

■現在の会社の事業内容は?

(1)事業内容

わたしが所属するAppier Groupは、2012年に台湾で創業したAIネイティブのマーケティングカンパニーです。主にBtoC企業向けに、AIを活用したデジタルマーケティングのソリューションを提供しています。新規顧客の獲得から購買の後押し、継続利用の促進まで、マーケティングファネル全体を一気通貫でカバーできる点が弊社の強みです。お客様の多くはイーコマース企業で全体の約6割を占め、ゲームやオンライン旅行系のサービスなども名を連ねています。

検索広告のように既に大手プラットフォームが強い領域ではなく、各種の広告枠が並ぶメディアを対象に、スマートフォンの機種やOSの種類といった断片的な情報シグナルからユーザーの属性を推測し、狙いを定めた広告配信を行うのが弊社独自のAI技術です。通勤中に見られる広告と帰宅後に見られる広告では効果的な内容が異なる、といった行動パターンの違いまで分析対象にしています。既存のお客様のデータから見出した相関を新規のお客様にも応用する点も特徴で、たとえば最新機種と最新OSを使うユーザーは海外旅行への関心が高い傾向がある、といった知見を新規顧客の属性推定に活かし、精度の高いレコメンドにつなげています。オンライン旅行会社をはじめとするお客様との協業で蓄積してきたデータ基盤があるからこそ実現できる強みで、こうしたマーケティング分野に特化したリアルタイム対応型のAIは自社で独自に開発したものです。

(2)日本法人の位置づけ

日本法人の位置づけについても触れておきます。日本、韓国を含む北東アジアが売上の約7割を占め、台湾発の企業でありながら財務関連の取引は日本に集約しており、事業の認知向上を狙って日本で上場しました。全社およそ800名のうち1割程度が日本に在籍し、開発人材の採用にも力を入れています。グローバルな人材がどこで働きたいかというニーズを踏まえて採用地を決めており、日本では週に数回出社するハイブリッド勤務を取り入れています。

■これまでの職務経歴と、Appierを選んだ理由

わたしは1997年に野村証券へ入社し、経営企画や投資銀行部門で9年間の経験を積みました。その後、中国・北京への私費留学、経済産業省資源エネルギー庁での国有資産売却業務、独立系投資アドバイザーを経て、2011年にDeNAへ入社。海外子会社の管理強化を皮切りに経営企画部門全体を統括しました。2020年にAppierへ加わり、財務部門の責任者としてIPOを実現し、現在は財務担当シニアバイスプレジデント兼ヘッドオブジャパンとして日本代表を務めています。台湾企業の日本上場は四半世紀ぶりだったと聞いています。

Appierを選んだ理由は、挑戦心にあふれる企業だったからです。台湾ではユニコーン企業(非上場で評価額が10億ドルを上回る)として既に確固たる地位を築いていたにもかかわらず、日本での事業拡大を見据え、あえて日本上場を目指すという挑戦に取り組もうとしていました。そこに自分も当事者として貢献してみたいと思いました。また、自分のこれまでの知見・経験が、IPOプロセスおよび上場後の基盤構築において最大限に発揮できる機会だとも考えました。

■グローバル企業のCFOとしての仕事は?

(1)CFOとして複数の役割を兼ねる

グローバル企業のCFOという立場では、財務だけでなく日本代表、メディア対応など複数の役割を兼ねることに意義を感じています。CFO業務だけだと数字を作ることや金融機関との関係構築に業務が偏りがちですが、複数の立場を持つことで現場の実態を踏まえた経営判断ができるからです。日本拠点の重要な役割の一つは、要求水準が高い日本のお客様の声を吸い上げ、台湾の開発チームへフィードバックすることだと考えています。日本のお客様に鍛えられた製品は世界でも通用すると感じており、実際に欧米での売上シェアはここ数年で大きく伸びています。たとえば、ターゲティングの成功率について、日本では他国以上の精度が求められることもあり、日本市場の厳しさを日々実感しています。

(2)拠点ごとの役割分担

拠点ごとの役割分担も明確です。財務部門のヘッドクオーターは日本にあり、日本は上場企業として財務を統括しながら営業機能も担っています。一方、台湾は開発拠点とローカル営業、シンガポールはエンタープライズ営業のヘッドクオーターという位置づけで、グローバルで勝つために必要な人材がどこにいるかを基準に拠点ごとの役割を決めています。社内の共通言語は英語で、国籍の異なるメンバーが一人でもいれば英語でコミュニケーションを行います。研究開発部門には全社約800名のうち約半数が在籍しており、プロダクトへのフィードバックの会議にはCEOも関わって進めているため、事業部門との連携に大きな問題は感じていません。

台湾の経営陣とは日常的に、事業の方向性やM&A、株式市場からの評価のあり方などを議論しています。一般的なCFOは財務情報を中心に扱うことが多いと思いますが、わたしはお客様の生の声を持ち込みながら経営陣と対話できることが自分の強みだと考えていて、現場感を伴う提言が今後のCFOに求められる役割になっていくと感じています。

■数字を使って事業の意思決定をどう支えているか

弊社の3つのプロダクトそれぞれの損益や収益状況を継続的に分析し、リソース配分の判断に生かしています。お客様はまず一つのサービスを試験的に導入し、効果を実感してから契約を拡大するパターンが多いため、株主やお客様への価値提供のためにも損益管理はシビアに行うようにしています。

業績予測においては、ARR(年間経常収益)を軸に、既存のお客様からの見込み収益、顧客単価、新規獲得のペース、解約率などを積み上げて算出しています。営業活動については個人の力量に左右される部分もありますが、可能な限りロジカルに数字を積み上げる姿勢を大切にしており、経営目標が現場の実態と乖離した「トップダウンの数字」にならないよう注意しています。プロダクトの精度が下がれば解約率が上がるため、精度向上への研究開発投資も欠かせないと考えていて、日本の売上規模とお客様への理解を踏まえた提言を経営陣に行うようにしています。

■AI・SaaS企業ならではの経営管理とは

AI・SaaS企業特有の難しさとして、技術とお客様のニーズの変化の速さが挙げられます。生成AIの登場以降、企業のAI活用ニーズが急速に高まったことは事業への追い風になっていると感じている一方、AIによって財務・経理業務そのものも変わっていくと考えています。

現在、Appierでは全社的にAI活用を進めており、財務部門でも業務量をどれだけ削減できるかを検証している段階です。基幹システムに乗り切らないデータ処理はAI化が進みやすい領域で、銀行対応など出納関連業務も将来的にAIが一元管理できるようになれば、業務内容は大きく変わると見ています。決算業務がリアルタイムに近づくほど、経理・財務担当者には数字を作る以上の付加価値が求められるようになります。退職給付や固定資産、株式報酬などの特殊処理がAIに代替されれば、その分の時間をFP&Aや経営への助言に振り向けられるようになると考えています。

今後は税制改正や会計基準の変更など、AIに正しい指示を出すための知識習得も経理・財務人材に求められると思いますし、キャッシュフロー改善の提案ができる人材の重要性が増していくと感じています。財務諸表の作成というと損益計算書や貸借対照表に目が向きがちですが、今後はキャッシュフローの部分まで踏み込んで提案できる人材がより求められるのではないでしょうか。

■経営に貢献する経理・財務部門の組織のつくり方

Appierグループの経理体制は17か国の拠点に対して全体で20名という規模で、経理機能そのものは台湾に集約しています。日本の経理担当はわたしを含め3名で、国内の開示対応や銀行対応を担っています。少人数ながら週次・月次・四半期単位でデータを分析する体制を敷くことで、踏み込んだ経営判断ができるようにしています。

現在でこそ、少人数で高効率な業務運営を実現していますが、月次決算をはじめとする上場企業水準の業務遂行能力を組織に定着させる過程では、多くの壁に直面しました。その理由は、わたし自身のドメスティックな業務経験に起因する、「あうんの呼吸」などのハイコンテクストなコミュニケーションでした。国籍やバックグラウンドの異なる多様なメンバーと協働するためには、業務の目的・期日・期待する成果などを明確に伝えることが重要であるということを学びました。

■CFOとしてAppier Groupをどのように成長させたいか

日本国内で使われているソフトウェアの多くは欧米発です。わたしたちはアジア発で世界に使われるソフトウェア企業になりたいという思いを持っていて、財務の立場からその実現にどう貢献できるかを日々考えています。

そのためには、資本市場から高い評価を得ることで、財務戦略の柔軟性を確保することが肝要だと考えています。

近年、グロース企業に対する市場の見方は大きく変化しています。かつては、売上の成長性だけが重要視されていましたが、今では、収益性の改善やキャッシュフロー創出能力、さらには株主還元までもが問われています。こういった市場の変化を先回りして把握し、経営の一員としてタイムリーに議論し、事業戦略と財務戦略を両輪で連携させることで、持続的な企業価値の向上に貢献していくことを常に念頭に置いています。

■CFOを目指す方へのメッセージ

経理・財務の知識をすでに持ちCFOを目指している方には、2つのポイントをお伝えしたいです。

一つは、実際に自分の手でさまざまなAIツールを使ってみること。経理の実務は紙ベースの処理からインターネットやERPシステムの普及、算盤や電卓からExcel、スプレッドシートへの移行と、この数十年で大きな変化を遂げてきましたが、今後はAIによって、それ以上の変化が訪れると思っています。

もう一つは、数字の専門家である以前に事業そのものを深く理解すること。お客様と直接対話し、自社の製品やサービスがどのような課題解決を提供できているか、あるいはできていないかを把握する姿勢が重要だと考えています。

転職を通じたキャリア形成が一般的でなかった時代と異なり、今後はCFOに至る道筋も多様化していくと思いますので、ぜひ自分に合ったルートを見つけていただきたいです。

橘浩二氏_写真
執筆者プロフィール

ジャスネットキャリア編集部

WEBサイト『ジャスネットキャリア』に掲載する記事制作を行う。
会計士、税理士、経理パーソンを対象とした、コラム系読み物、転職事例、転職QAの制作など。
編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。

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