経理にとって帳簿は一種の成果物です。
日々汗水流して働いた結果としての帳簿には、入力担当者の経理スキルが如実に表れます。ぜひ一度、自分の会社の会計システムを開いて、各科目の元帳を眺めてみてください。
ここでは、これから経理スキルを磨き、ゆくゆくはキャリアアップしたいという方に向け、具体的なスキルアップの方法を“7つの戦略”として提案しています。
経理スキルアップの「7つの戦略」
第3章 美しい元帳を作成する
ジャスネットキャリア編集部
経理にとって帳簿は一種の成果物です。
日々汗水流して働いた結果としての帳簿には、入力担当者の経理スキルが如実に表れます。ぜひ一度、自分の会社の会計システムを開いて、各科目の元帳を眺めてみてください。
ここでは、これから経理スキルを磨き、ゆくゆくはキャリアアップしたいという方に向け、具体的なスキルアップの方法を“7つの戦略”として提案しています。
Excelや外部システムも使いながら、勘定科目、補助科目、取引先等の各種機能を使い分けるのが、美しい元帳を作るポイントです。
どのように勘定科目や補助科目を設定し、取引を集約していくかについては、科目の分類、すなわち「切り方」が問われるのであり、これこそ経理の腕の見せ所と言っていいでしょう。
というのも、次の作業や将来の出来事といった大きな経理の流れと、その際に発生する具体的な作業の両方がそれぞれイメージできなければ、本当に適切な切り方はできないのです。
以下では、切り方を考える際のヒントになる視点を5つ紹介します。
次にどんな作業が待っているのか、帳簿からどんな情報が必要になるのかを考え、その情報を取りやすい切り方を選ぶ方法です。
預り金勘定に預かり源泉所得税の補助科目を設定し、さらに給与や報酬で補助を分けておけば、前月末の残高を確認するだけで納付書の作成まで簡単にできます。
納付書の作成を「次の作業」と捉え、「どうすれば次の作業が簡単になるだろうか」を考えると、こういった発想が出てきます。作業のたびに「前の作業を工夫することで、もっとスムーズにできないか」を考えてみましょう。
決算での必要書類作成に備えて補助科目や相手先を設定するのも、次に備えた切り方です。税金計算に備えて、接待交際費勘定に「一般交際費」「5000円以下の飲食費」「5000円超の飲食費」といった補助科目を設定するのもいいでしょう。
これは交際費の税務上の扱いがそれぞれ異なるからで、税金計算の際に必要になります。上場会社の場合、税金計算のために確保できる時間は非常に限られるため、すぐに必要な情報が入手できるようにしておきましょう。
未払法人税等の勘定科目には「法人税」「住民税」「事業税所得割・地方法人特別税」「外形標準課税」の4つの補助科目を設定すべきです。
これはそれぞれごとに会計・税務の取り扱いが異なるためです(【図表1】)。同じ「県税」であっても、道府県民税と事業税はまったくの別物であるため、同様に扱うべきではありません。
特に事業税については同じ名前の税金でも、所得割と外形標準課税(付加価値割・資本割)は会計上の取り扱いがまったく別物で、分けておかなければキャッシュ・フロー計算書作成時に大変な苦労を強いられます。
一方で、事業税所得割と地方法人特別税は、会計上も税務上も全く同じ扱いになりますので、帳簿上も一緒にしてしまったほうがいいでしょう。
雑収入や雑損失勘定の中に金額の大きい収益・費用が混在しており、監査法人に指摘されて毎期損益計算書上で別掲表記しているようなら、最初から独立した勘定科目で仕訳を切っていくべきでしょう。毎期、Excelで集計をかけているとすれば、非常に時間の無駄なのです。
「次の作業」として意識すべき決算作業では、他にも監査対応資料や連結パッケージなど様々な資料を作ることになるため、特に意識して切り方を考えるべきです。
決算期は非常に忙しく、時間と監査対応に追われながら仕事をしなければならないため、この時期のスピードアップのために、日ごろできることはすべてやるべきなのです。
記載する際の勘定科目を変更することに関しては、「継続性の原則に反するのではないか?」と考える人がいるかもしれません。
しかし、継続性の原則とは会計方針・会計処理をみだりに変更してはならないという原則であり、テクニックとしての記帳方法を変更することには何の問題もありません。
経理パーソンとして常に意識しておかなければならない概念に「あるべき残」と呼ばれるものがあります。
あるべき残とは「経理が正しく完了されたときに、結論となるべき残高」という意味であり、現預金であれば実在する金額、債権債務であれば期末までに発生した未収・未払いの残高を示します。決算修正は、すべての資産・負債の残高をあるべき残に合わせる作業といってもいいくらいです。
財務諸表はP/Lが一番多くの人に注目されやすいですが、少なくとも経理の決算作業においてはB/Sに注目する必要があります。経理スキルが高い人はB/S残高の精査に力を入れますし、監査法人は基本的にB/S科目ごとに監査を行います。
監査法人が売上高の妥当性を見る時は、売上高の元帳を入念にチェックするのではなく、残高確認書で売掛金はあるべき残と合っているかどうかを確認しているのです。
経理においてはそのくらい重要な「あるべき残」ですので、決算時に限らず常に意識しておく必要があります。チェックは頻繁かつ、非常に重要な作業ですので、あるべき残を容易に確認できる元帳体系にしておくべきです。
具体的には、あるべき残が把握できる単位で帳簿残高が把握できるといいでしょう。
その代表格が、普通預金勘定です。預金口座を複数持っている場合は、原則として1つの口座に1つの勘定科目を設定すべきです。そして毎月末に必ず全預金口座の残高をあるべき残に合わせるのです。こうすることでタイムリーに仕訳の漏れを防ぐことができます。
P/L科目は期が変わると残高がゼロになりますが、B/S科目は翌期に繰り越され、何もなければさらに翌期に繰り越されます。
したがって敷金保証金などは、計上した10年後20年後に取り崩しが発生することも珍しくありません。その際、きちんと残高を分けておかなければ、正しく取り崩しの仕訳を切ることができなくなってしまいます。
この分け方で管理する方法は、必ずしも補助科目を活用するだけには限りません。代表的な方法が台帳管理で、ほぼ全ての会計システムには固定資産台帳管理機能がついているため、敷金保証金等も含めて、なるべくこれを活用するといいでしょう。
金額の動きに一定の規則性がある取引は、同じ勘定科目の他の取引とは別個に把握しておくといいでしょう。
例えば、支払い手数料勘定には様々な費用が集合しがちですが、毎月ほぼ同額発生するものと、まったく規則性なく発生するものは、補助科目で明確に分けておくことをおすすめします。これによって、数値の異常も浮かび上がって見えてきます。
隔離すべき取引は規則的なものばかりではなく、同質なものもひとつにまとめてしまったほうがいいでしょう。
これは同質なものを集計したり、本当に同質であるか確認するという意味合いもありますが、異質なものを際立たせるという効果もあります。
例として租税公課勘定を見てみましょう。企業活動に関わってくる税金や行政手数料は意外と多く、租税公課勘定も非常に雑多な取引が入り込みやすいものです。たとえば【図表2】のような総勘定元帳だったとしましょう。
小売業などは印紙税が頻発し、【図表2】のように元帳の表示が印紙税だらけになってしまうことがあります。しかしよく見ると、ひとつだけ延滞税が発生しているのがお分かりいただけますでしょうか。
印紙税は会計上も税務上も経費なので、そんなに気にかける必要はないのですが、延滞税は税務上損金にならない、つまり税務申告上で調整が必要な項目であるため、決算時に抜き出さなければいけません。
しかし図のように大量の別の取引の中に紛れ込んでしまうと、探し出すのに非常に時間がかかるうえ、見落としのリスクも非常に高いのです。
そこで租税公課勘定に「印紙税」という補助科目を設定し、邪魔な印紙税を個別の補助科目へ追いやった残り、つまり「その他」の補助元帳が【図表3】です。
延滞税だけでなく、同じく申告書上調整が必要な源泉所得税や法人税均等割も容易に認識することができるようになりました。
このように、数が多くて邪魔な科目をまとめて隔離することによって、イレギュラーで重要な取引を探しやすくなるのです。
以上、仕訳における科目の切り分け方について述べました。
あまり細かく切り分けすぎると、あとあと集約することになって、かえって時間がかかる可能性もあります。とはいえ、まとまったものを後で切り分けるよりは容易な作業です。
科目切り分けの「コツ」を説明しましたが、これを経理パーソンの勘に落とし込むまでは、トライ&エラーでやってみることが大切です。恐れずにどんどん試してみていただきたいと思います。
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