■金融機関の経理は一般企業とどこが違うのか
経理職は業界を問わず「企業のお金の流れを管理する」という役割を担いますが、金融機関の経理は一般事業会社とは異なる特殊性を持っています。転職を検討する前に、その本質的な違いを理解しておくことが大切です。
⑴独自の報告義務が課せられている
最も大きな違いは、
開示書類の量と複雑さ
にあります。一般企業が作成する財務関連の開示書類は有価証券報告書や決算短信が主なものですが、金融機関はそれに加えて、銀行法・金融商品取引法・保険業法といった業法に基づく独自の報告義務が課せられています。
銀行であれば金融庁や財務局への定期報告、証券会社であれば証券取引等監視委員会への各種届け出など、規制当局と向き合う業務が経理部門の重要な役割のひとつになります。
⑵会計基準が複雑
次に、
会計基準の複雑さ
も特徴です。金融機関では、有価証券や金融商品の時価評価・減損処理、デリバティブの公正価値測定など、一般事業会社ではなじみの薄い会計処理が日常業務に組み込まれています。IFRS(国際財務報告基準)を任意適用している大手金融機関も多く、国際会計基準への対応力が求められる場面も増えています。
⑶経理部門の呼称が異なる
また、経理部門の呼称が異なる点も覚えておくとよいでしょう。
多くの金融機関では経理部門のことを「主計部」と呼びます。
主計部が担うのは一般企業の経理と基本的に同じ役割ですが、規模と専門性の高さから独立した組織として機能していることが多く、財務・経営管理との連携も密接です。
⑷中途採用においては即戦力を好む
さらに、
即戦力を前提とした採用が多い
ことも実情です。金融機関は中途採用においては同業他社での経理経験や、会計事務所・監査法人での実務経験を持つ人材を好む傾向にあります。一般企業から転職する場合、この点が最大のハードルのひとつになります。
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■【銀行編】銀行の経理はどんな業務をしているのか
銀行の経理(主計部)の仕事は、他業種の経理と大きく異なる業務が複数あります。日常的な仕訳や決算書作成といった基本業務に加えて、銀行業特有の処理を理解することが不可欠です。
⑴有価証券の会計処理
銀行の中心的な経理業務のひとつが、有価証券の会計処理です。
銀行は莫大な規模の有価証券ポートフォリオを保有しており、その時価評価や減損処理を会計基準に従って適切に計上する作業が毎期発生します。国債・社債・株式など種類も多く、それぞれに会計処理のルールが異なるため、高い専門性が必要です。
⑵BIS規制(自己資本比率規制)への対応
次に重要なのが、BIS規制(自己資本比率規制)への対応です。
BIS規制とは、国際的に業務を展開する銀行に対して国際決済銀行(BIS)が定めた自己資本比率の最低基準であり、日本の銀行もバーゼル合意に基づくこの基準を遵守しなければなりません。
自己資本比率の計算・報告は主計部が中心となって行う業務
であり、会計知識だけでなく規制の理解が求められます。
⑶預金保険料の算出
預金保険料の算出も主計部の業務のひとつです。銀行は万が一の破綻に備えて預金保険機構に保険料を納付しており、その算出・管理は経理部門が担います。
⑷メガバンクと地方銀行の違い
規模感という意味では、メガバンクと地方銀行では大きく異なります。三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行のようなメガバンクでは、連結グループ全体の財務管理や海外子会社の経理対応、IFRSへの対応が求められる高度な業務が中心です。一方、地方銀行では業務の幅が広く、経理全般をある程度オールラウンドに経験できる特徴があります。
なお、銀行の経理職において特徴的なのは、
財務局・金融庁への報告業務が存在すること
です。「考査」と呼ばれる当局検査への対応も主計部が関与するケースがあり、規制対応の最前線に立つことがあります。銀行業法や外為法、金融商品取引法などの法令知識が実務で問われる場面が多いことも、一般企業の経理との大きな違いといえるでしょう。
■【証券編】証券会社の経理はどんな業務をしているのか
証券会社の経理部門は、金融機関の中でも特に専門性が高い分野のひとつです。銀行の主計部と重なる部分もありますが、証券会社ならではの独自業務も多く存在します。
⑴金融商品の日次時価評価
証券会社経理の最大の特徴は、金融商品の日次時価評価にあります。
株式・債券・デリバティブ(先物・オプション・スワップなど)の残高を毎営業日ベースで時価評価し、その損益を計上する作業
が日常業務として発生します。市場が動くたびに帳簿も動くため、他業種の経理に比べてリアルタイム性と精度の両立が強く求められます。
⑵純財産額(ネットキャピタル)の管理
純財産額(ネットキャピタル)の管理も証券会社特有の業務です。証券会社は金融商品取引法の規制に基づき、
顧客の資産を保護するための自己資本規制比率(純財産額比率)を一定水準以上に維持しなければなりません。
この比率の日次管理・月次報告は経理部門の重要な役割であり、証券取引等監視委員会への定期的な報告業務も伴います。
⑶顧客分別管理に関する経理処理
また、証券会社では顧客分別管理に関する経理処理が求められます。顧客から預かった有価証券や現金は、会社の固有財産とは厳格に分別して管理する義務があり、その会計処理や照合業務が経理の日常に組み込まれています。
⑷英語力を活用した業務
大手証券(野村證券・大和証券・SMBC日興証券など)では、海外拠点との連結処理やIFRS対応、外貨建て取引の会計処理など、グローバルな視点が必要な業務が増えています。英語力を活用した海外拠点とのやり取りも珍しくなく、語学力がキャリアの幅を広げる要素になります。
■【保険編】保険会社の経理はどんな業務をしているのか
保険会社の経理は、銀行・証券とはまた異なる専門性が要求されます。保険業ならではの会計処理の特殊性を知ることが、転職を考える上での重要な判断材料になります。
⑴責任準備金の計上
保険会社の経理で最も特徴的なのは、責任準備金の計上です。保険会社は将来の保険金支払いに備えて、保険業法の規定に基づき「責任準備金」を積み立てる義務があります。この金額は保険数理に基づいて算出されるため、アクチュアリー(保険数理人)との連携が不可欠です。
経理部門は保険数理の計算結果を受け取り、会計基準に従って財務諸表に正しく反映する役割を担います。
⑵ソルベンシー・マージン比率の管理
また、ソルベンシー・マージン比率の管理も保険会社経理の重要業務のひとつです。ソルベンシー・マージン比率とは、保険会社が予測を超えるリスクに対応できる財務的余力を示す指標で、保険業法上200%以上の維持が求められています。この比率の計算・報告は経理部門が担い、金融庁への定期的な開示も行います。
⑶有価証券の時価評価・ヘッジ会計の処理
さらに、保険会社は多額の運用資産を抱えているため、有価証券の時価評価・ヘッジ会計の処理も経理の重要な領域です。大手生命保険会社はIFRS17(保険契約に関する国際会計基準)への対応を進めており、国際会計基準の知識が今後ますます求められる環境になっています。
⑷支払備金の管理
損害保険会社では、事故発生から保険金支払いまでの期間にわたる支払備金の管理も特有の業務です。発生しているが未処理の損害(IBNR)の見積もりなど、一般企業の経理にはない概念を扱う機会があります。
■【外資系金融編】外資系金融機関の経理で働くとはどういうことか
外資系金融機関(投資銀行・外資系証券・外資系保険など)の経理は、日系の金融機関とはまた異なる特性を持っています。高い専門性と英語環境が組み合わさる職場であり、キャリアの選択肢として関心を持つ経理パーソンも少なくありません。
⑴会計基準が日本基準でないケースが多い
外資系金融機関の経理において最初に理解しておくべき点は、
会計基準が日本基準でないケースが多い
ということです。US GAAP(米国会計基準)やIFRS(国際財務報告基準)が適用されている企業では、日本の会計基準とは異なるルールの下で業務が進みます。連結パッケージの作成・本国への報告業務には英語が必須であり、財務諸表そのものが英語で作成されることも一般的です。
⑵英語力は実質的な必須要件
英語力は実質的な必須要件です。社内会議や本社とのやり取りはすべて英語で行われることも多く、会計英語の読み書き・ビジネス会話レベルのスキルがなければ業務が成り立ちません。ただし、
英語力の基準は企業や部門によって幅があり、TOEIC700〜800点台から実践的なビジネス英語まで幅広い水準が求められます。
⑶USCPA(米国公認会計士)は評価される
外資系金融の経理職で評価される資格として、USCPA(米国公認会計士)が代表的です。US GAAPを体系的に理解していることを示す資格として採用担当者の評価が高く、特に外資系投資銀行や外資系資産運用会社では取得者が多く在籍しています。
⑷雇用の安定性
雇用の安定性について、よく「外資は突然リストラされる」というイメージがありますが、経理部門に関しては比較的安定しています。フロントオフィスの収益部門は景気に左右されやすい一方、会計・コンプライアンス・リスク管理といったバックオフィスは事業継続に不可欠であるため、組織再編の局面でも最後まで維持される傾向があります。
■金融機関の経理の年収はどのくらいか
金融業界の年収水準の高さは広く知られていますが、「経理部門は具体的にどのくらいもらえるのか」は気になるところです。まず経理職全体の年収水準を押さえた上で、金融機関における位置づけを考えてみましょう。
経理・財務・会計に特化した転職エージェント「ジャスネットコミュニケーションズ」のデータによると、経理職(正社員)の平均年収は529万円です。国税庁「令和5年分民間給与実態統計調査」によれば給与所得者全体の平均給与は460万円であるため、経理職はすでに平均を約69万円上回っています。(出典:ジャスネットキャリア「
経理の年収はどれくらい?年代別・業界別・資格別に徹底解説!
」)
同データに基づく年代別の想定年収は以下のとおりです。
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年齢
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想定年収(目安)
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20代前半
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445万円
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20代後半
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456万円
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30代前半
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466万円
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30代後半
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584万円
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40代
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647万円
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50代以上
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796万円
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※ジャスネットコミュニケーションズ「年収診断」登録者5万人のデータをもとに試算。勤務地東京・日商簿記資格あり・スタッフ(一般社員)職・強みは「年次決算経験」の条件による。(出典:ジャスネットキャリア「【2026年版】経理の年収はどれくらい?年代別・業界別・資格別に徹底解説!」)
金融機関の経理はこの水準よりも高い傾向にあります。理由は大きく二つです。
一つは、金融業界そのものの給与水準が一般事業会社よりも高いこと。国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、「金融業・保険業」の平均給与は702万円で、製造業(568万円)やサービス業(389万円)を大きく上回り、全業種中トップクラスの水準です。もう一つは、金融機関の経理が銀行法・金融商品取引法への規制対応や特殊な会計処理など高い専門性を要することです。特にメガバンク・大手証券・大手保険会社では、専門性の高さや規制対応の負荷が待遇に反映されるケースもあり、上場企業の経理で経験を積んだ30代であれば転職時に現職より年収が上がるケースもみられます。
一方で、地方銀行や中堅証券会社など規模が小さくなるほど金融機関の全体年収水準は下がるため、「金融機関なら必ず高い」とは一概に言えません。また、外資系金融機関はフロントオフィスほどの高報酬ではないものの、バックオフィスの経理職であっても日系企業の同ポジションより高い水準が期待できることが多く、英語力と会計スキルの掛け合わせによってキャリア価値が大きく高まります。
「高い年収」と「求められるスキル・経験のハードル」はセットで考えることが大切です。転職前に自分の市場価値を正確に把握しておくことが、金融機関の経理を目指す上での第一歩になります。
出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2024/minkan.htm
■金融機関の経理に転職するためにどんなスキル・資格が必要か
一般企業の経理から金融機関の経理に転職するには、基礎的な経理スキルだけでは不十分です。金融機関が中途採用で求める人材像を正確に把握しておくことが、転職活動成功の前提になります。
⑴資格はどのようなものが評価されるか
簿記2級以上は実質的な基礎要件とされることが多いです。金融機関の経理中途採用において、日商簿記2級の保有は応募要件として明記されているケースが多く、実質的な足切り基準となっています。ただし簿記2級はあくまでスタートラインであり、それだけで評価されることはありません。経理経験者としての実務の深さと、金融機関特有の業務への親和性が問われます。
日商簿記1級・公認会計士(CPA)は、大手金融機関の主計部や財務部門において特に評価される資格
です。とくに連結決算・開示業務を担うポジションでは、会計基準への深い理解が必要なため、有資格者が重宝されます。
外資系金融や、IFRSを任意適用している日系金融機関を目指す場合には、USCPA(米国公認会計士)やIFRSの知識・資格が大きな武器になります。特にUSCPAはUS GAAPの体系的な理解を示せる唯一の国際資格として、外資系金融機関の採用現場での評価が高いです。
⑵求められる英語力
英語力については、日系の銀行・証券・保険会社でも海外拠点対応や英文開示書類の作成機会が増えており、「英語は一切不要」という環境は大手では減りつつあります。外資系金融機関ではビジネス英語が必須です。TOEIC600点台でも応募できる求人はありますが、700〜800点以上あると選択肢が大きく広がります。
⑶実務経験のレベル
実務経験の観点では、
上場企業での決算業務経験(月次・四半期・年次)が高く評価されます。
連結決算・開示書類の作成経験があれば、さらに有利に働きます。監査法人や会計事務所での経験も、専門性の証明として評価される傾向があります。
また、金融機関の経理はエクセルの高度なスキルを前提とする業務が多く、ピボット・VBA・各種財務モデルの操作経験があると実践的な即戦力として認識されます。
■一般企業の経理から金融機関の経理に転職するにはどうすればよいか
金融機関の経理への転職は、一般事業会社間の経理職の転職に比べてハードルが高いのは事実です。しかし正しい戦略を取れば、着実にチャンスを広げることができます。
ステップ①
自分の経験の翻訳作業は欠かせません。一般企業での月次・決算業務、開示書類の作成・関与経験、内部統制対応などは、金融機関の経理でも通用するスキルです。「なぜ金融業界の経理でこの経験が活きるのか」を自分の言葉で語れるよう、職務経歴書と面接の準備を進めましょう。
ステップ②
資格取得による差別化も有効です。現職で経理業務を続けながら、日商簿記1級やUSCPAの学習を開始することで、転職市場での評価を高めることができます。金融機関はスキルの証明を資格に求めることが多く、在職中の取り組みが採用担当者に「本気度」を示す材料になります。
ステップ③
転職エージェントの活用は、金融機関の経理転職において特に重要です。金融機関の経理求人は、一般の求人サイトには掲載されない非公開案件もあり、エージェント経由でしか情報が得られないケースが少なくありません。経理・財務・会計に特化したエージェントを選ぶことで、業界の採用事情に精通したアドバイザーから具体的な応募先の提案や面接対策を受けることができます。
金融業界の経理は、専門性の高さと処遇の良さの両面が揃った職種です。準備を着実に重ねながら、自分のキャリアステージに合った金融機関の経理ポジションへの転職を目指してみてください。
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■まとめ
金融業界の経理は、一般事業会社の経理と共通する基本業務を土台にしながら、業法対応・特殊な会計処理・高水準の開示要件など、業界特有の専門性が重なる職種です。銀行・証券・保険・外資系金融では、それぞれ求められるスキルや業務の性質が異なるため、自分が目指す業種の特徴を理解した上でキャリアプランを設計することが大切です。
年収面では、一般企業の経理と比較して高い水準が期待できる一方、即戦力採用が基本であるため、会計知識・実務経験・資格・英語力の組み合わせが転職成功の鍵を握ります。経理・財務・会計に特化した転職エージェントへの相談を入口に、自分のスキルと業界ニーズの交点を見極めながら、金融機関の経理というキャリアの可能性を広げてみてはいかがでしょうか。
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