■なぜ経理からコンサルタントへの転職を考えるのか、その理由
(1)経理職に限界を感じる理由
多くの経理担当者が転職を考える背景には、現在の業務環境に対する様々な課題があります。最も大きな要因の一つは、業務の定型化と単調さです。月次決算、年次決算、税務申告など、決められたスケジュールに沿って繰り返される業務が中心となり、創造性や戦略性を発揮する機会が限られています。
また、AIやRPAの普及により、従来の経理業務が自動化される流れが加速しています。データ入力、仕訳作業、レポート作成など、多くの定型業務がシステムに置き換わりつつあり、経理職の存在意義や将来性に不安を感じる人が増えています。
経理部門は一般的にコストセンターとして位置づけられることが多く、直接的な収益創出に関わる機会が少ないこともあります。営業や企画部門と比較して、経営に対する影響力や発言力が限定的であることに物足りなさを感じる経理担当者も少なくありません。
(2)コンサルという職種の魅力
会計コンサルという職種には、経理職では得られない多くの魅力があります。
まず、企業の経営課題に直接関わり、解決策を提案できることは大きなやりがいとなります。クライアント企業の業績向上に貢献し、その成果が明確に見える仕事は、高い達成感をもたらします。
多様な業界や企業と関わることができるのもコンサルタントの魅力です。製造業、小売業、金融業、IT業界など、様々な業界のクライアントと仕事をすることで、幅広い知識と経験を積むことができます。経理職では自社の業界に限定されていた視野が大幅に広がります。
会計コンサルは、経験とスキルに応じて年収アップも期待できます。成果に応じたボーナス制度も充実している企業が多く、努力が直接報酬に反映されます。
■会計コンサルの仕事内容とは?
(1)会計コンサルの役割
会計コンサルタントは、企業の財務・会計領域における課題を特定し、解決策を提案・実行支援する専門家です。単なる経理業務の代行ではなく、企業の財務体制を根本から見直し、効率化や高度化を図る戦略的な役割を担います。
月次決算の早期化、年次決算の効率化、連結決算の精度向上など、既存の経理プロセスを分析し、改善提案を行います。業務フローの見直し、システム活用、組織体制の最適化など、包括的なアプローチで課題解決を図ります。
内部統制の構築・強化も会計コンサルの重要な役割です。SOX法対応、J-SOX対応、金融庁の開示制度への対応など、法的要件を満たしながら実効性のある内部統制システムを設計・運用します。
システム導入支援も頻繁に行う業務です。ERPシステム、会計システム、予算管理システムなどの導入において、業務要件の定義、システム選定、導入プロジェクトの管理を行います。
(2)プロジェクトの流れと業務内容
会計コンサルのプロジェクトは、一般的に課題設定、現状分析、解決策立案、実行支援、効果測定という流れで進行します。
①プロジェクト開始時の課題設定フェーズ
クライアント企業の経営陣や財務担当者とのヒアリングを通じて、解決すべき課題を明確化します。決算早期化、コスト削減、内部統制強化、システム刷新など、様々な課題の中から優先順位を設定します。
②現状分析フェーズ
既存の経理プロセス、システム、組織体制を詳細に調査・分析します。業務フロー図の作成、処理時間の測定、システム機能の評価など、定量的・定性的な分析を行います。
③解決策立案フェーズ
分析結果を基に具体的な改善策を設計します。業務プロセスの再設計、システム要件の定義、組織再編案の作成など、包括的な解決策を立案します。
④実行支援フェーズ
立案した解決策の実装を支援します。プロジェクト管理、チェンジマネジメント、研修の実施、システム導入支援など、計画を実際の改善成果につなげるための活動を行います。
■会計コンサルにはどんなスキルと資格が必要?
(1)経理経験の中から活かせるスキル
経理から会計コンサルへの転職を成功させるためには、既存の経理スキルをコンサルティング業務で使える形までどう発展させるかということになります。
まず、財務諸表の分析スキルが必要です。単なる財務諸表の作成から、企業価値評価、投資判断、リスク分析など、より戦略的な分析能力が求められます。
プロセス改善スキルも重要な要素です。経理業務で培った業務効率化の経験を、他社の経理プロセス改善に適用できる汎用的なスキルに発展させる必要があります。
さらに社内報告が中心だった経理業務から、クライアントへの提案、経営陣への報告、プロジェクトチームの運営など、より高度なコミュニケーション能力が求められるため、コミュニケーションスキルの強化も重要な課題です。
プロジェクトマネジメントスキルも必要です。限られた期間内で成果を出すコンサルティングプロジェクトでは、スケジュール管理、リソース管理、品質管理などの技術が不可欠です。
(2)コンサル業務で高く評価される資格
コンサルとして活躍するために有効な資格は多岐にわたります。
まず、経理基盤を活かす資格として、公認会計士は最も価値の高い資格の一つです。財務・会計の専門性を証明する最高峰の資格であり、特にBig4系の財務会計コンサルでは、公認会計士資格を歓迎・優遇する企業が多く、キャリアの幅を広げる上で有利になります。
税理士資格も有効です。税務コンサル、事業承継コンサル、国際税務コンサルなど、税務領域での専門性を示すことができます。
MBA(経営学修士)は戦略コンサル分野で高く評価されます。国内外のビジネススクールでの学習経験は、経営戦略、マーケティング、組織論などの幅広い知識を証明し、キャリアアップに大きく寄与します。この場合、どこの大学で取得したのかも大きな要素となります。
英語関連資格も重要です。TOEIC800点以上、TOEFL、英検1級などの資格は、グローバル案件への参画機会を大幅に増やします。
■会計コンサルに転職するにはどんな準備をすればいい?
(1)履歴書と職務経歴書の書き方
経理から会計コンサルへの転職では、履歴書と職務経歴書の書き方が成功の鍵を握ります。単に経理業務の経験を羅列するのではなく、コンサルティング業務に活かせる能力や実績を戦略的にアピールすることが重要です。
職務経歴書では、問題解決能力を重点的にアピールしましょう。
「月次決算期間の短縮プロジェクトにおいて、現状分析により3つの主要課題を特定し、プロセス改善により決算期間を15日から8日に短縮、年間300時間の工数削減を実現」のように、課題設定、分析、解決策実行、成果創出の一連のプロセスを具体的に記述します。
数値による成果の定量化も重要です。コスト削減効果、効率化効果、品質向上効果などを具体的な数字で示すことで、説得力のあるアピールが可能になります。
他部署との連携経験も重要な要素です。営業部門との売上分析、人事部門との人件費管理、情報システム部門とのシステム連携など、クロスファンクショナルな業務経験は、コンサルティング業務での協働能力を示すものとして評価されます。
(2)面接対策と自己PRのポイント
コンサル業界の面接は、一般的な面接とは異なる特徴があります。
ケーススタディ、フェルミ推定、グループディスカッションなど、論理的思考力や問題解決能力を測る選考プロセスが含まれることが多く、十分な準備が必要です。
自己PRでは、経理経験をコンサルティング業務に適用できる形でアピールすることが重要です。「財務分析により業績悪化の根本原因を特定し、コスト構造改革により収益性を改善した経験を活かして、クライアント企業の財務改善を支援したい」のように、具体的な経験と将来への応用を結びつけて説明します。
ケーススタディ対策では、基本的なフレームワークを習得しておくことが重要です。3C分析、SWOT分析、5Forces分析などのツールを使いこなし、構造化された分析ができるよう練習しましょう。
企業研究も徹底的に行いましょう。応募先のコンサルティングファームの特徴、強み、最近の動向、主要なクライアント、プロジェクト事例などを詳しく調べ、面接で具体的な質問や提案ができるよう準備します。
■転職後のキャリアパス
経理からコンサルに転職した後のキャリア成長は、段階的に進めることが重要です。
最初の1〜2年は、コンサルティング業務の基本を習得することに集中しましょう。プロジェクトの進め方、クライアントとのコミュニケーション、資料作成技術、分析手法など、コンサルタントとしての基礎スキルを確実に身につけることが成功の基盤となります。
3〜5年目には、専門分野での深い知識と実績を築くことが重要です。財務・会計コンサルティング、業務改善コンサルティング、ITコンサルティングなど、自分の強みを活かせる分野で専門性を高め、クライアントから信頼される専門家としての地位を確立しましょう。
5〜10年目には、事業開発能力の習得が重要になります。既存クライアントからの追加案件獲得、新規クライアントの開拓、提案書作成、営業活動など、ビジネス創出に関わる能力を身につけることで、シニアコンサルタントやマネージャーレベルへの昇進が可能になります。
■会計コンサルの求人情報
「経理から会計コンサルタントへの転職」を目指す方向けの求人情報(事例)をご紹介いたします。
【求人①】ポテンシャル重視/大手税理士法人グループの会計コンサル職
雇用形態 |
正社員 |
勤務地 |
東京都千代田区(在宅勤務制度あり) |
想定年収 |
500万〜650万円 |
仕事内容 |
- 中小企業向けの業務フロー改善支援
- クラウド会計ソフト(freee/マネーフォワード)導入サポート
- 月次・年次決算のレビュー補助
- 顧問先への会計・税務まわりのアドバイザリー
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応募要件 |
- 事業会社での経理実務経験5年以上
- 日商簿記2級以上
- Excelの実務スキル(ピボットテーブル、VLOOKUP等)
- 「人と話す仕事」への志向がある方
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【求人②】上場準備企業支援に携わる会計コンサル/成長企業支援に強み
雇用形態 |
正社員 |
勤務地 |
東京都港区(フルリモート可) |
想定年収 |
700万〜900万円 |
仕事内容 |
- IPO準備企業の決算体制整備、会計基準適用支援
- 財務数値の可視化とKPI設計支援
- 経理人材の育成サポート、業務改善の提案
- 内部統制(J-SOX)整備支援
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応募要件 |
- 経理実務経験10年以上
- 上場企業または上場準備企業での実務経験(連結、開示含む)
- 高いコミュニケーション能力と提案力
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【求人③】シニアクラス募集/グローバル展開企業向け会計コンサル
雇用形態 |
正社員(役職:ディレクター候補) |
勤務地 |
東京都中央区(出社ベース/一部在宅可) |
想定年収 |
1000万〜1300万円 |
仕事内容 |
- 日系グローバル企業に対する経理財務業務の高度化支援
- 経理部門のBPR(業務改革)およびDX推進
- グループ経営管理、連結決算体制構築支援
- 部下マネジメント、プロジェクト全体管理
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応募要件 |
- 経理経験15年以上(うちマネジメント経験3年以上)
- 連結決算、IFRS、内部統制などの知識
- 経営層や外部専門家との折衝経験
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歓迎スキル |
- コンサルティングファームでの勤務経験
- 英語ビジネスレベル(TOEIC800点以上尚可)
- CFOポジション経験者優遇
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■会計コンサルタントの年収
会計コンサルタントの年収は、一般的な経理職と比較して高い水準にあります。
経理職の平均年収が400万円から600万円程度であるのに対し、会計コンサルの年収は、経理職より高水準であることが一般的で、600万〜1000万円前後が中心です。マネージャーやディレクタークラスでは1200万円以上も期待できます。
Big4(デロイト、PwC、KPMG、EY)では、アソシエイトレベルで600万円から800万円、シニアアソシエイトで800万円から1000万円、マネージャーで1000万円から1400万円程度が相場となっています。
■会計コンサルの将来性
会計コンサルタントの将来性は非常に明るいと考えられます。デジタルトランスフォーメーションの進展により、従来の経理業務が自動化される一方で、より戦略的で付加価値の高い財務・会計コンサルティングサービスの需要が急速に拡大しているためです。
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大も、会計コンサルにとって大きな機会となっています。サステナビリティ報告、統合報告、ESG指標の管理など、新しい領域での専門的な支援が求められています。
規制強化の流れも将来性を支える要因です。金融庁による開示制度の強化、国際会計基準の導入拡大、内部統制制度の高度化など、企業が対応すべき規制要件が増加しており、専門的なサポートの需要が継続的に拡大しています。
このように、会計コンサルは今後も高い成長性と安定性を兼ね備えた魅力的な職種として発展していくと予想されます。
■まとめ
経理からコンサルへの転職は、単なる職種変更ではなく、キャリアの大きな転換点となります。より戦略的で影響力の大きな仕事に携わることで、ビジネスパーソンとしての成長を大幅に加速させることができます。
それには長期的なキャリアビジョンを明確に持つことが重要です。
財務・会計の専門家として極めるのか、戦略コンサルタントとして発展するのか、独立・起業を目指すのかなど、自分の目標に応じてキャリアプランを策定しましょう。
経理からコンサルへの転職は大きな挑戦ですが、実現可能な目標です。ぜひ経理で培った専門性を基盤として、新たなキャリアステージでの活躍を目指してください。高い専門性と報酬、そして大きなやりがいを手に入れることができるでしょう。