現代の企業経営において、連結決算は欠かせない重要な業務となっています。特に経理・財務分野で転職を検討している方にとって、連結決算の知識と経験は大きなアドバンテージとなるでしょう。本記事では、連結決算の基本的な知識から転職市場での価値まで、幅広く解説していきます。
経理職における連結決算の重要性と転職求人情報

2025年7月23日ジャスネットキャリア編集部
目次
■連結決算の基本知識
(1)連結決算とは?
連結決算とは、親会社とその子会社や関連会社を一つの経済的単位として捉え、グループ全体の財政状態・経営成績・キャッシュフローを表示する決算制度です。この制度により、投資家や債権者は、単体決算だけでは見えない企業グループの真の姿を把握することができるようになります。
日本では会社法第444条および金融商品取引法第24条に基づき、一定の要件を満たす企業は連結決算書の作成が義務付けられています。具体的には、子会社を有する会社法上の「大会社」であり、有価証券報告書の提出義務がある会社が対象となります。
なお、連結対象となる子会社の条件は以下の通りです。(参照:連結財務諸表原則)
- 他の会社の議決権の過半数を実質的に所有している場合
- 他の会社に対する議決権の所有割合が百分の五十以下であっても、高い比率の議決権を有しており、かつ、当該会社の意思決定機関を支配している一定の事実が認められる場合
(2)連結決算が企業に与える影響
連結決算の導入により、企業経営には大きな変化がもたらされました。まず、経営の透明性が向上し、ステークホルダーからの信頼獲得につながっています。投資家にとっては、企業グループ全体の業績を一目で理解できるため、投資判断がしやすくなりました。
さらに、連結決算により経営者自身も企業グループ全体の状況を客観的に把握できるようになり、より戦略的な経営判断が可能となります。子会社間の取引の相殺や統一的な会計処理により、グループ内の非効率な部分が明らかになり、経営改善の糸口が見つけやすくなるのです。
■連結決算の構成要素
(1)連結貸借対照表
連結貸借対照表は、企業グループ全体の財政状態を表示する財務諸表です。単体の貸借対照表と異なり、グループ内取引で生じた債権債務を相殺消去し、外部との取引のみを反映させます。
この作成過程では、子会社の資産と負債を時価で評価し直し、のれんや非支配株主持分といった連結特有の項目も計上されます。のれんは買収時の投資額と取得した純資産の差額を表し、将来の収益力を示す重要な指標となります。
連結貸借対照表の作成には高度な専門知識が必要で、特に複雑な企業グループの場合は、各子会社の会計処理の統一や、異なる決算日への調整など、多岐にわたる作業が求められます。
(2)連結損益計算書
連結損益計算書は、企業グループ全体の一定期間における経営成績を示す財務諸表です。単体の損益計算書を単純に合算するのではなく、グループ内取引による収益と費用を相殺消去することで、外部との取引から生じる真の損益を表示します。
この作成過程では、グループ会社間の売上と仕入れ、受取利息と支払利息、配当金の授受などを適切に消去する必要があります。また、未実現利益の消去も重要な処理で、グループ内で販売した商品がまだ外部に販売されていない場合、その利益部分を調整します。
連結損益計算書により、投資家は企業グループの真の収益力を評価でき、経営者も各子会社の実質的な貢献度を把握できるようになります。
(3)連結キャッシュフロー計算書
連結キャッシュフロー計算書は、企業グループ全体のキャッシュフローの動きを営業活動、投資活動、財務活動の三つに分類して表示する財務諸表です。これにより、企業の資金繰りの実態や将来の資金需要を予測することができます。
営業活動によるキャッシュフローでは、本業から生み出される現金収支を示し、企業の収益力を現金ベースで評価できます。投資活動によるキャッシュフローでは、設備投資や有価証券投資など、将来の成長のための資金使途が明らかになります。
財務活動によるキャッシュフローでは、借入れや社債発行による資金調達、配当金の支払いなど、資金の調達と返済の状況が把握できます。これらの情報を総合することで、企業グループの財務健全性や成長性を多角的に分析できるのです。
(4)連結株主資本等変動計算書
連結株主資本等変動計算書は、企業グループ全体の株主資本の変動要因を詳細に示す財務諸表です。この計算書により、株主資本がどのような要因で増減したかを具体的に把握できます。
主な変動要因には、当期純利益、配当金の支払い、自己株式の取得・処分、その他有価証券評価差額金の変動などがあります。特に連結決算では、非支配株主持分の変動も重要な要素となり、子会社の業績が親会社の株主だけでなく、少数株主にも与える影響を明確にします。
この計算書の作成には、複雑な会計処理と法的知識が必要で、経理担当者には高度な専門性が求められます。特に組織再編や企業買収が行われた場合の株主資本の変動処理は、非常に複雑な作業となります。
■連結決算のメリット
(1)不正防止の観点
連結決算は企業の不正防止において重要な役割を果たします。単体決算のみの場合、親会社と子会社間の取引を利用した利益操作や損失隠しが行われる可能性があります。しかし、連結決算ではグループ内取引が相殺消去されるため、このような不正行為を防ぐことができます。
また、連結決算の作成過程では、各子会社の会計処理の統一性が求められるため、グループ全体での内部統制の強化につながります。監査法人による連結決算の監査も、不正の発見と防止に大きく貢献しています。
(2)グループ全体の業績の明確化
連結決算の最大のメリットは、企業グループ全体の業績を一つの財務諸表で明確に表示できることです。現代の企業経営では、事業の多角化やグローバル展開により、多数の子会社を抱えるグループ経営が一般的となっています。
単体決算だけでは、各子会社の業績は分かっても、グループ全体としての真の実力は見えません。連結決算により、投資家は企業グループの総合的な収益力、財務状況、成長性を正確に評価できるようになります。
(3)資金調達への貢献
連結決算は企業の資金調達に大きく貢献します。銀行や投資家は融資や投資の判断において、連結決算書を重要な判断材料として活用します。適切に作成された連結決算書は、企業グループの真の財務力を示すため、金融機関からの信頼獲得につながります。
特にグローバル展開を行う企業にとって、国際的な会計基準に準拠した連結決算書の作成は、海外での資金調達において必須の要件となります。グローバル投資家は、透明性の高い連結決算書を評価し、そのような企業への投資を積極的に検討します。
また、連結決算により企業グループ全体の安定性が示されることで、より長期的で有利な条件での資金調達が可能となり、企業の持続的成長を支える基盤となります。
■連結決算の経験が転職に与える影響
(1)連結決算経験が求められる理由
現代の転職市場において、連結決算の経験は非常に高く評価されています。その理由は、連結決算業務が高度な専門知識と実務経験を必要とする複雑な業務であるためです。
まず、連結決算には会計基準の深い理解が必要です。日本基準はもちろん、グローバル展開している企業では、国際会計基準(IFRS)、米国会計基準(US-GAAP)など、様々な会計基準に精通していることが求められます。また、税務知識、法務知識、IT知識なども必要で、まさに経理・財務分野の総合的な能力が問われる業務といえます。
さらに、連結決算は通常、厳しい期限の中で正確性を求められる業務です。決算期末から短期間で連結決算書を完成させる必要があり、プロジェクト管理能力やチームワークも重要な要素となります。このような複合的なスキルを持つ人材は希少であり、転職市場では高い評価を受けています。
(2)転職市場における連結決算の価値
連結決算の経験を持つ人材は、転職市場において極めて高い価値を持っています。特に上場企業や大手企業では、連結決算担当者の需要が継続的に高く、経験者には好条件でのオファーが提示されることが多いです。
年収面でも、連結決算の経験者は単体決算のみの経験者と比較して、平均で100万円から200万円程度高い水準での転職が可能です。特に管理職レベルでは、連結決算の統括経験があることで、CFO候補としての道筋も見えてきます。
また、連結決算の経験は業界を問わず評価されるスキルでもあります。製造業、商社、金融業、IT業界など、様々な業界で連結決算の知識と経験は活かすことができるため、転職先の選択肢が広がることも大きなメリットといえるでしょう。
■連結決算関連の求人情報
(1)連結決算経験者が求められる求人傾向
現在の転職市場では、連結決算関連の求人が活発に行われています。特に求人が多い職種は、連結決算担当者、連結決算マネージャー、経理部長、CFO候補などです。
大手上場企業では、連結決算の実務経験3年以上を条件とする求人が多く、年収レンジは600万円から1000万円程度が一般的です。外資系企業や急成長企業では、さらに高い条件での募集も見られます。
求人で重視される経験やスキルには、日本基準での連結決算経験、IFRSでの決算経験、連結決算システムの導入・運用経験、英語での財務諸表作成経験などがあります。また、公認会計士や税理士などの資格を持っている場合は、より有利な条件での転職が期待できます。
(2)連結決算に関連する求人事例
以下は、経理・会計分野に特化した転職エージェント「ジャスネットコミュニケーションズ」にて掲載された連結決算分野での求人例です。
【プライム上場企業/ゲーム業界】財務経理 連結・海外チームスタッフ
仕事内容 |
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応募条件 |
【必須条件】
【歓迎条件】
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想定年収 | 450万円~650万円 |
【上場準備中/在宅勤務可能】CMでもおなじみの老舗安定企業/経理部長候補の募集
仕事内容 |
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応募条件 |
※下記いずれかに当てはまる方
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想定年収 | 700万円~900万円 |
大手鉄鋼総合商社での単体・連結(IFRS)業務担当の募集
仕事内容 |
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応募条件 |
【必須条件】
【歓迎条件】
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想定年収 | 700万円~1200万円 |
【関連リンク】
■転職成功事例の紹介
事例1:製造業から金融業への転職
田中さん(仮名)は、大手製造業で5年間連結決算業務に従事していました。日本基準とIFRSの両方での連結決算経験があり、特に海外子会社の決算取りまとめに関する豊富な経験を持っていました。
転職活動では、その専門性が高く評価され、大手金融機関の経理部連結決算チームのマネージャー職として転職を実現しました。年収は前職から約200万円アップし、800万円となりました。金融業界特有の規制対応や複雑な金融商品の会計処理については入社後に学習しましたが、連結決算の基本的な知識と経験があったため、スムーズに業務に適応できました。
田中さんは転職後、「連結決算の経験は業界を越えて活かせるスキルだと実感しています。特に決算期の厳しいスケジュール管理や、複数の子会社との調整業務の経験は、どの業界でも重宝されると思います」と語っています。
事例2:中小企業から上場企業への転職
佐藤さん(仮名)は、従業員数100名程度の中小企業で経理全般を担当していましたが、より専門性を高めたいという思いから転職を決意しました。もともと連結決算の経験はありませんでしたが、公認会計士の資格を活かして、まずは中堅企業の連結決算担当者として転職し、2年間の経験を積みました。
その後、東証一部上場企業の連結決算チームリーダーとして再転職を果たしました。年収は最初の転職時の500万円から、最終的には900万円まで上昇しました。佐藤さんは、「連結決算の経験を積むことで、確実にキャリアアップできました。最初は未経験からのスタートでしたが、体系的に学習し、実務経験を積み重ねることで、市場価値の高い人材になれたと思います」と振り返っています。
現在は、部下の指導にも携わりながら、将来的にはCFOを目指してさらなるスキルアップに励んでいます。
■まとめと今後のキャリアプラン
(1)連結決算の重要性
本記事を通じて、連結決算が現代の企業経営において果たす重要な役割について理解していただけたでしょう。連結決算は単なる会計処理ではなく、企業グループの真の姿を明らかにし、経営の透明性を高める重要な制度です。
投資家にとっては投資判断の重要な材料となり、経営者にとっては戦略的な経営判断の基盤となります。また、不正防止や内部統制の強化にも大きく貢献し、企業価値の向上に直結する業務といえるでしょう。
このような重要性を持つ連結決算の知識と経験は、経理・財務分野での転職において極めて高い価値を持つスキルとなっています。
(2)キャリアプランの策定
連結決算の経験を活かしたキャリアプランを策定する際は、まず現在の自分のスキルレベルを客観的に評価することが重要です。連結決算の実務経験年数、担当した業務の範囲、使用した会計基準、システムの知識など、具体的な経験を整理してみましょう。
次に、目指したいポジションや年収レベルを明確にし、そのために必要なスキルや経験を特定します。例えば、CFOを目指すのであれば、連結決算だけでなく、予算管理、資金調達、M&A、IR業務など、幅広い財務知識が必要となります。
また、継続的な学習も重要です。会計基準の変更や新しい制度の導入に対応するため、常に最新の知識を身につける努力が求められます。公認会計士や税理士などの資格取得も、キャリアアップの有効な手段となるでしょう。
(3)まとめ
経理・財務分野での転職を成功させるためには、連結決算の知識と経験が極めて重要であることをお伝えしました。連結決算は複雑で専門性の高い業務ですが、その分、転職市場での価値も高く、キャリアアップの大きな武器となります。
現在連結決算の経験がない方も、計画的にスキルアップを図ることで、市場価値の高い人材となることが可能です。まずは連結決算の基本的な知識を身につけ、実務経験を積む機会を探してみてください。
既に連結決算の経験をお持ちの方は、その経験を活かしてより良い条件での転職を目指しましょう。継続的な学習と経験の積み重ねにより、CFOや経理部長などの上位ポジションへのキャリアアップも夢ではありません。
経理・財務分野での転職は、適切な準備と戦略があれば必ず成功できます。連結決算の知識と経験を武器に、理想のキャリアを実現していただければと思います。
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ジャスネットキャリア編集部
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