新規登録 求人検索
新規登録

税理士を目指すなら簿記1級は必要?社会人が知るべき本当のメリットと最短ルート

写真1

2025年10月28日 ジャスネットキャリア編集部

「税理士を目指しているけれど、まずは日商簿記1級を取得すべきなのだろうか」。こうした疑問を抱える社会人は少なくありません。日商簿記1級は合格率10%前後という難関資格でありながら、税理士試験の科目免除にはならないという事実があります。それでも多くの税理士受験生が日商簿記1級の取得を目指すのには、明確な理由が存在します。

本記事では、税理士を目指す社会人が日商簿記1級を取得することの実質的なメリット、税理士試験との関連性、そして戦略的なキャリア設計について、具体的なデータと実務経験に基づいて解説していきます。日商簿記1級が税理士への道のりにおいて、どのような役割を果たすのか。その答えを、あなたの状況に照らし合わせながら見つけていただければと思います。

目次

■税理士試験と日商簿記1級の基本的な関係性を理解する

(1)税理士試験の受験資格として機能する日商簿記1級

税理士を目指す上で、まず押さえておくべき重要な事実があります。それは、日商簿記1級が税理士試験の受験資格のひとつとして認められているという点です。令和5年度から税理士試験の受験資格は緩和され、簿記論と財務諸表論については誰でも受験できるようになりました。しかし、 税法科目を受験するには依然として受験資格が必要 です。社会人として働きながら税理士を目指す場合、大学で法律学や経済学を履修していない方、あるいは会計事務に2年以上従事していない方にとって、日商簿記1級の取得は最も現実的な受験資格取得方法となります。

日商簿記1級は日本商工会議所が実施する検定試験で、年2回(6月と11月)実施されています。合格率は例年10%前後と低く、必要な学習時間は500時間から1000時間程度とされています。この難易度の高さは、試験範囲の広さと専門性の深さに起因します。商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算という4科目すべてで40%以上、かつ合計70%以上の得点が求められるため、苦手科目を作らずにバランス良く学習することが需要です。

(2)科目免除にはならないが学習内容は大きく重複する

よく誤解されるのですが、 日商簿記1級に合格しても税理士試験の科目が免除されるわけではありません。 税理士試験の科目免除が得られるのは、大学院での学位取得、国税業務従事、あるいは弁護士や公認会計士の資格を持つ場合に限られます。しかし、科目免除がないからといって、日商簿記1級の取得が無意味というわけでは決してありません。

税理士試験の必須科目である簿記論と、日商簿記1級の 学習内容には約80%もの重複 があるといわれています。具体的には、商業簿記の範囲がほぼ共通しており、日商簿記1級で学ぶ税効果会計、企業結合などの論点は、そのまま簿記論でも出題されます。工業簿記についても、原価計算の基礎概念は税理士試験で問われる知識の土台となります。つまり、日商簿記1級の学習は税理士試験の準備期間を大幅に短縮する効果があるのです。

実際に日商簿記1級合格者が簿記論の学習を始める場合、必要な追加学習時間は300時間から400時間程度とされています。一方、日商簿記2級レベルから簿記論の学習を始める場合は500時間から1000時間が必要とされるため、日商簿記1級の取得によって200時間から600時間もの学習時間を節約できる計算になります。

■日商簿記1級と税理士試験「簿記論」の難易度比較

(1)合格率から見る両試験の位置づけ

日商簿記1級の過去5年間の平均合格率は約13%であるのに対し、一方で税理士試験の簿記論は約19%となっています。単純に合格率だけを比較すると日商簿記1級の方が難しいように見えますが、これは受験者層の違いを考慮する必要があります。日商簿記1級の受験者には日商簿記2級合格者が多く含まれており、基礎から積み上げて受験する層が中心です。一方、簿記論の受験者は、多くが税理士試験に特化した専門学校で学習した人たちで、既に日商簿記1級レベルの知識を持つ層も少なくありません。

両試験とも相対評価の要素が強く、特に日商簿記1級は上位約10%に入ることが合格の目安とされています。簿記論も同様に、受験者全体の中での相対的な位置が合否を左右します。つまり、どちらの試験も「絶対に70点取れば合格」という単純な試験ではなく、他の受験者との競争に勝つ必要があるのです。

(2)出題傾向と求められる能力の違い

日商簿記1級と簿記論では、出題の性質に微妙な違いがあります。 日商簿記1級は企業会計の基準や会社法に基づいた会計処理を体系的に理解しているかを問う試験 です。理論的な背景を理解した上での計算能力が求められ、会計学では記述問題も出題されます。一方、 簿記論は全問が計算問題で構成され、圧倒的な問題量を限られた時間内にいかに効率的に解くかという処理能力 が重視されます。

簿記論の試験時間は120分ですが、出題される問題量は全問回答することが事実上不可能な量とされています。このため、問題を見た瞬間に「捨て問」を見極める判断力や、解ける問題から確実に得点する取捨選択能力が必要です。一方で日商簿記1級は時間的に余裕があり、じっくり考えて解く問題も含まれています。

日商簿記1級に合格した後に簿記論の学習をする場合、この「スピード感」と「取捨選択能力」の習得が最大の課題となります。知識レベルは十分でも、税理士試験特有の時間との戦い方を新たに身につける必要があるのです。

■社会人が日商簿記1級を取得する実務的メリット

(1)転職市場での評価と資格手当の現実

税理士を目指す過程で会計事務所や税理士法人への転職を考える社会人にとって、日商簿記1級の取得は明確なアドバンテージとなります。多くの会計事務所では、税理士試験の科目合格者に対して資格手当を支給していますが、簿記1級合格者にも同様の手当を設けている事務所が少なくありません。月額5,000円から15,000円程度の手当が一般的ですが、これは年間にすると6万円から18万円の収入増となります。

また、未経験から会計事務所への転職を目指す場合、日商簿記2級では書類選考でアピールしきれない場合もあります。しかし日商簿記1級があれば「本気で会計の専門性を高めようとしている」という意思表示となります。面接においても、合格率10%の難関試験をクリアしたという事実は、継続的な努力ができる人材であることの証明となるのです。

(2)一般企業の経理部門でのキャリアの広がり

税理士を目指す過程で、必ずしもすぐに会計事務所に転職する必要はありません。一般企業の経理部門で働きながら税理士試験の科目合格を積み重ねるというキャリアパスもあります。この場合、 日商簿記1級の取得は大企業の経理職での評価を大きく高めます。

特に上場企業や連結決算が必要な企業では、日商簿記1級レベルの知識が実務で直接活用できます。連結会計や税効果会計といった高度な会計処理は、日商簿記2級でも基本的な内容は学習しますが、上場企業で求められる水準としてはやや不十分です。日商簿記1級を取得していれば、経理部門の中でも専門性の高いポジションに配属される可能性が高まり、より実践的な経験を積みながら税理士試験の学習を続けることができます。

■効率的な学習戦略:日商簿記1級から税理士試験へのステップ

(1)同時並行学習のメリットとリスク

税理士を目指す決意が固まっている場合、日商簿記1級の学習と税理士試験の簿記論・財務諸表論の学習を並行して進めるという選択肢があります。この戦略の最大のメリットは時間効率です。日商簿記1級の試験は6月と11月、税理士試験は8月に実施されるため、スケジュール的には両立可能です。

実際、専門学校では日商簿記1級コースと税理士コースを並行受講できるカリキュラムを提供しています。日商簿記1級の学習で会計の基礎を固めながら、税理士試験特有の出題傾向や時間配分の訓練を行うことで、相乗効果が期待できます。両試験とも商業簿記の範囲が重複しているため、学習内容の重複が多く、効率的に知識を定着させることができるのです。

ただし、この戦略にはリスクもあります。 両方の試験を同時に準備するということは、年間1200時間から1500時間の学習時間が必要になります。 社会人として働きながらこれだけの学習時間を確保するのは容易ではなく、平日は毎日2時間から3時間、週末は1日8時間程度の学習を継続する覚悟が必要です。

(2)順序を踏んだ段階的アプローチの現実性

多くの税理士試験受験指導者が推奨するのは、段階を踏んだアプローチです。まず日商簿記2級を取得し、その知識を土台として日商簿記1級に挑戦、合格後に税理士試験の簿記論・財務諸表論に進むという流れです。この方法は時間がかかりますが、各段階での成功体験が次のステップへのモチベーションとなり、挫折のリスクを減らせます。

特に社会人の場合、仕事との両立を考えると 一度に複数の目標を追うよりも、一つずつクリアしていく方が精神的な負担が少なくなります。 日商簿記1級に合格した時点で、自分に会計の適性があるかどうかも見極めることも可能です。もし日商簿記1級の学習が非常に苦しく感じるのであれば、税理士試験はさらに過酷な道のりとなるため、キャリアプランを再考する良い機会にもなるのです。

■税理士を目指す社会人のための現実的なキャリア設計

(1)年齢と学習可能時間から逆算する戦略

税理士試験は長期戦です。5科目すべてに合格するまでに平均して3年から5年、人によっては10年以上かかることもあります。社会人として働きながら目指す場合、自分の年齢と確保できる学習時間から逆算して、現実的なキャリアプランを立てる必要があります。

20代であれば、じっくりと基礎から積み上げる時間的余裕があります。日商簿記3級、2級、1級と段階を踏み、その後税理士試験に挑戦するという王道ルートを選択できます。この過程で会計の本質的な理解を深めることができ、最終的に税理士として活躍する際の実力の土台となります。

30代の場合は、効率性と確実性のバランスが重要です。日商簿記1級を取得するかどうかは、現在の実務経験や学習に充てられる時間によって判断します。週に20時間以上の学習時間を確保できるのであれば、日商簿記1級と税理士試験の並行学習も視野に入るでしょう。一方で、学習時間が限られる場合は、日商簿記2級合格後に直接「簿記論」「財務諸表論」に挑戦し、早期に科目合格を重ねて実績を作ることを優先すべきです。

(2)科目合格を活かした段階的なキャリアアップ

税理士試験の最大の特徴は科目合格制であるという点です。この制度を最大限に活用することが、社会人として税理士を目指す上での成功の鍵となります。日商簿記1級合格、あるいは税理士試験の1科目合格という段階でも、転職市場での評価は高まります。

また、 必ずしも全科目合格にこだわる必要はありません。 税理士試験の科目合格と実務経験を組み合わせることで、会計事務所内での専門性の高いポジションを確立することが可能です。特に日商簿記1級と税理士試験の複数科目に合格している場合は、法人税申告や相続税対応など、高度な業務に携わる機会が増え、担当できる業務の幅が大きく広がります。

■まとめ:あなたにとっての日商簿記1級の価値

(1)日商簿記1級取得を推奨する人の特徴

日商簿記1級の取得が特に有効なのは、次のような人です。

  • 会計の基礎からしっかり学びたい人
  • 時間的に余裕のある20代の人
  • 一般企業の経理部門でキャリアを積みながら税理士を目指す人
  • 独学で学習を進めたい人
  • 税理士以外の選択肢(公認会計士や企業内会計士など)も視野に入れている人

これらに当てはまる場合、日商簿記1級は税理士への道のりにおいて強固な基礎を築く投資となります。合格率10%という難関を突破することで得られる自信と、体系的な会計知識は、その後の税理士試験の学習を確実に支えてくれるでしょう。

(2)日商簿記1級をスキップすべき人の特徴

一方、次のような人は日商簿記1級を経由せずに直接税理士試験に挑戦することを検討すべきは下記のような人です。

  • すでに会計事務所で実務経験がある人
  • 35歳以上で学習時間に制約がある人
  • 専門学校に通う予定があり、税理士試験に特化したカリキュラムで学べる人
  • 簿記2級まで順調に合格し、次のステップへの自信がある人

税理士になることが明確な目標であり、そこに至る最短ルートを選びたいのであれば、日商簿記1級の学習期間を省略して、その時間とエネルギーを税理士試験の科目合格に集中させる方が合理的です。

(3)最終的な判断のために

日商簿記1級を取得すべきかどうかという問いに、万人に当てはまる唯一の答えはありません。しかし、明確なのは、日商簿記1級が税理士を目指す上で 必須」ではないものの、多くの場面で「メリットがある」 いうことです。受験資格の取得、学習内容の重複による効率化、転職市場での評価、そして会計の本質的な理解の深化という複数のメリットがあります。

あなた自身の現在の状況、確保できる学習時間、年齢、実務経験、そして最終的なキャリアビジョンを総合的に考慮して判断してください。どちらのルートを選んだとしても、継続的な努力と戦略的な学習計画があれば、税理士への道は開かれています。日商簿記1級は、その道のりを支える選択肢のひとつなのです。

(執筆協力:簿記講師 鯖江悠平)

関連リンク

執筆者プロフィール

ジャスネットキャリア編集部

WEBサイト『ジャスネットキャリア』に掲載する記事制作を行う。
会計士、税理士、経理パーソンを対象とした、コラム系読み物、転職事例、転職QAの制作など。
編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。

新着記事一覧

経理のためのコラム集

経理転職に関するカテゴリーごとにまとめたページです。

会計人の人生観・仕事観を紹介「Accountant's Magazine」最新号

「Accountant's Magazine」は、著名な会計プロフェッションにスポットをあて、その人生観・仕事観を紹介。会計・経理分野に従事する人と仕事の将来像を提示する、読者と共に考えるヒューマンドキュメント誌です。今なら新規登録していただくと、「Accountant's Magazine」(WEB版)の全記事を無料で閲覧することができます。

新規登録をしてWEBマガジンを読む(無料)

関連コンテンツ