■なぜ経営企画が「企業参謀」と呼ばれるのか
経営企画が「企業参謀」や「経営の右腕」と称される理由は、その役割の本質にあります。戦国時代の軍師が戦略を練り、主君の意思決定を支えたように、現代の経営企画も企業のトップと密接に連携しながら、会社の方向性を決める重要な判断をサポートしています。
具体的には、市場環境の変化を敏感に察知し、競合他社の動向を分析し、自社の強みと弱みを客観的に評価した上で、最適な戦略を提案する役割を担います。
経営陣が「感覚」や「経験」だけでなく、データに基づいた合理的な判断を下せるよう、様々な角度から情報を整理・分析することが求められるのです。
また、経営企画は各部門の橋渡し役としても機能します。営業部門の現場感覚、開発部門の技術的制約、財務部門の資金状況など、異なる視点を持つ部署間の意見を調整し、全社最適の観点から戦略を組み立てることも重要な使命です。この調整力があってこそ、机上の空論ではない実行可能な戦略を策定できるのです。
さらに重要なのは、策定した戦略を確実に実行に移すための仕組み作り
です。KPIの設定、進捗管理の体制構築、課題が発生した際の対応策検討など、PDCAサイクルを回しながら戦略の実効性を高めていく役割も経営企画の重要な仕事といえます。
■どのように経営企画の日常業務は進むのか
経営企画の日常業務は、定型業務(Running業務)と非定型業務(Project業務)の両方で構成されています。この二つのバランスが、経営企画の仕事の特徴を形作っているといえるでしょう。
(1)定型業務
定型業務の中心となるのは、
年次・中期経営計画の策定と進捗管理
です。毎年決まった時期に行われる予算策定プロセスでは、各部門からのヒアリング、市場予測の分析、投資計画の検討を経て、翌年度の事業計画を組み立てます。この際、単に数字を積み上げるのではなく、事業環境の変化を踏まえた戦略的な視点での計画作りが求められます。
月次・四半期ごとの業績レビュー
も重要な定型業務です。計画と実績の差異分析を行い、遅れている部分については原因分析と対策案の検討を行います。この分析結果は経営会議で報告され、必要に応じて計画の修正や追加施策の検討につながります。経営陣が迅速かつ的確な意思決定を行うための基礎情報を提供する役割といえます。
(2)非定型業務
一方、非定型業務は
企業の成長戦略に直結する重要なプロジェクトが中心
となります。
M&Aの検討では、買収候補企業の選定から財務・事業のデューデリジェンス、買収後の統合計画策定まで幅広く関与します。新規事業の立ち上げでは、市場機会の分析、事業モデルの構築、収益性の検証を行い、事業化の是非を判断する材料を提供します。
また、
組織再編や業務プロセス改革といった変革プロジェクト
では、現状分析から改革案の策定、実行計画の作成まで、変革の全体設計を担うことも多くあります。これらのプロジェクトは通常、数ヶ月から数年の期間を要し、経営企画担当者には高い専門性と推進力が求められます。
■どうすれば経営企画として求められる人材になれるのか
経営企画として活躍するために必要な能力は、大きく分けて分析力、企画力、実行力の三つに整理できます。それぞれの能力を具体的にどのように身につけていけばよいかを考えてみましょう。
(1)分析力
分析力については、
財務諸表の読解能力が基礎となります。
損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を正確に理解し、企業の財務状況を多角的に分析できることが必要です。さらに、市場データや競合情報を収集・分析し、事業環境の変化を的確に把握する能力も重要です。これらの分析結果を経営陣にとって価値ある情報として整理・提示するスキルが求められます。
(2)企画力
企画力は、分析結果を基に具体的な戦略や施策を構想する力です。
現状の課題を明確化し、目標達成のための複数のシナリオを検討し、最適解を導き出す論理的思考力が核となります。
同時に、実現可能性を十分に検討した上で、関係者が納得できる説得力のある提案を作成する能力も必要です。
(3)実行力
実行力については、策定した計画を着実に推進するためのプロジェクトマネジメント能力が重要です。関係部門との調整、進捗管理、課題解決など、
計画を実現に導くための実務スキルが求められます。
また、経営陣から現場まで、様々なレベルの関係者とのコミュニケーション能力も欠かせません。
これらの能力を身につけるためには、まず現在の職場で数字に関わる業務に積極的に取り組むことをお勧めします。経理・財務部門での経験はもちろん、営業企画や事業管理などの職種でも、数値分析や企画立案のスキルを磨くことができます。また、MBA取得や中小企業診断士などの資格取得を通じて、経営戦略やマーケティングの体系的な知識を身につけることも効果的です。
■どのようなキャリアパスで経営企画を目指すべきか
経営企画への転職を成功させるためには、段階的なキャリア構築が重要です。経営企画は企業の中核的な職種であるため、いきなり未経験で転職することは困難ですが、計画的にスキルと経験を積み重ねることで道筋を作ることができます。
(1)財務・経理部門からのステップアップ
最も確実なキャリアパスの一つは、財務・経理部門からのステップアップです。
財務諸表の分析能力、予算管理の経験、資金調達の知識など、経営企画に直結するスキルを身につけることができます。特に、連結決算や管理会計の経験は、経営企画での業務に直接活用できる貴重な経験となります。
(2)営業企画や事業企画からのキャリアチェンジ
営業企画や事業企画からのキャリアチェンジも有力な選択肢です。
市場分析、競合研究、事業計画策定など、経営企画で必要とされる企画立案のスキルを実践的に習得できます。また、現場との距離が近いため、実行可能性を重視した現実的な企画力を身につけることができます。
(3)コンサルティングファームからの転職
コンサルティングファームでの経験も経営企画への転職に有効です。
論理的思考力、プレゼンテーション能力、プロジェクトマネジメントスキルなど、経営企画で重宝される能力を総合的に身につけることができます。ただし、コンサルタントとしての提案力と、事業会社での実行力は異なる側面もあるため、事業会社特有の制約や文化を理解する姿勢が重要です。
(4)最適な転職の年齢は?
年齢的には、
30代前半から40代前半が経営企画への転職に最も適した時期
といえます。ある程度の専門性と管理経験を身につけた上で、まだ新しいチャレンジに対する柔軟性を持っている年代だからです。ただし、実際には20代後半で経営企画に就く人もいますし、50代で転職するケースもあります。優れた専門性や実績があれば、年齢にかかわらずチャンスは存在します。
転職準備においては、志望企業の事業内容と課題を深く研究し、自分の経験がどのように貢献できるかを具体的に示すことが重要です。単なる憧れではなく、実現可能な価値提供を明確に伝えることで、採用担当者の関心を引くことができます。
■どうすれば経営企画に必要な資格とスキルを習得できるのか
経営企画として活躍するために、特定の必須資格はありませんが、専門性を示し、実務能力を向上させるために有効な資格がいくつか存在します。これらの資格取得を通じて、体系的な知識を身につけると同時に、転職市場での競争力を高めることができます。
これらの資格やスキルの習得においては、現在の業務との関連性を意識することが重要です。例えば、財務部門勤務であれば簿記1級の取得、営業部門であればマーケティング関連の知識強化など、現職での経験と資格取得を有機的に結びつけることで、より説得力のあるキャリア形成が可能になります。
(1)中小企業診断士
中小企業診断士は、経営企画を目指す方にとって最も有効な資格の一つです。企業経営理論、財務・会計、運営管理など、経営企画の実務に直結する幅広い知識を体系的に学習できます。また、この資格は経営コンサルタントとしての独立開業も可能であり、キャリアの選択肢を広げる効果もあります。
(2)日商簿記検定
簿記検定については、2級以上の取得が望ましいといえます。
財務諸表の理解は経営企画の基本的なスキルであり、1級を取得できれば、より高度な財務分析や管理会計の知識を証明できます。特に、連結決算や原価計算の知識は、事業部門の収益性分析などで直接活用できます。
(3)MBA
MBAの取得も有効な選択肢です。経営戦略、マーケティング、ファイナンス、組織論など、経営企画に必要な知識を包括的に学習できます。特に、
海外のビジネススクールでの学習経験は、グローバル展開を図る企業での経営企画には大きな価値を持ちます。
(4)英語力
英語力も見逃せない要素です。経営企画の求人ではTOEIC700〜850点程度を目安とする英語力が求められるケースが多く、海外展開や外資系企業での勤務を考える場合、より高いレベルの英語力が求められます。財務資料の英文読解、海外との会議参加、グローバル戦略の策定など、実務での英語使用機会は多岐にわたります。
■経営企画の求人例からわかる、企業側が求めていること
実際の経営企画求人を分析することで、企業が真に求めている人材像と能力を具体的に理解することができます。多くの求人に共通する要求事項から、経営企画として成功するための要素を読み取ってみましょう。
(1)大手企業
【求人例1:東証プライム上場企業(IT系)】
募集職種:経営企画マネージャー
年収:800万円〜1200万円
業務内容:
-
中期経営計画・年度予算の策定と進捗管理
-
M&A案件の企画立案・実行支援(DD、PMI含む)
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新規事業領域の市場調査・事業性評価
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ESG・サステナビリティ戦略の策定
-
投資家向け資料作成・IR活動支援
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経営会議・取締役会の運営
大手企業の経営企画求人では、「戦略策定からM&A案件への対応、ESG経営の企画立案まで幅広い経営課題への対応」といった記述が頻繁に見られます。これは、現代の経営企画に求められる業務範囲の広さを示しています。従来の予算管理や計画策定に加えて、企業価値向上のための多様な施策を企画・実行できる人材が求められているのです。
(2)IPO準備企業
【求人例2:IPO準備中ベンチャー企業】
募集職種:経営企画担当(IPO準備)
年収:600万円〜900万円
業務内容:
-
上場準備に向けた内部統制システムの構築
-
資本政策・資金調達計画の策定
-
主幹事証券会社・監査法人との調整
-
事業計画精緻化・KPI管理体制構築
-
株主総会・取締役会運営の整備
-
開示資料作成・IR体制構築
IPO準備企業の求人では、「予算統制に関する実務スキル」「主幹事証券会社との調整役」といった具体的な業務内容が明記されています。これらの企業では、上場という明確な目標に向けて、財務管理の厳格化とガバナンス体制の構築が急務となっており、実務経験豊富な人材が重宝されています。
(3)外資系企業
【求人例3:米系グローバル製薬会社】
募集職種:Corporate Strategy Manager
年収:1000万円〜1500万円
業務内容:
-
Asia-Pacific地域の戦略立案・実行
-
Global headquartersとの戦略会議参加・報告
-
クロスファンクショナルチームでのプロジェクト推進
-
競合・市場分析(英文レポート作成含む)
-
ライセンス・提携案件の評価・交渉サポート
-
Regulatory strategiesの策定・実行
必須要件:
-
Strategic thinking能力(論理的思考・仮説構築力)
-
Business level English(TOEIC850点以上推奨)
-
Cross-cultural communication skills
-
製薬業界またはヘルスケア業界での経験3年以上
外資系企業の求人では、「Strategic Thinking」「ビジネスレベルの英語力」「グローバル戦略の立案」といった要求が明確に示されています。グローバルな視点での戦略思考と、多様な文化背景を持つメンバーとの協働能力が不可欠とされています。
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■なぜ経営企画の年収は高水準に設定されているのか
経営企画の年収水準が他の職種と比較して高く設定されている背景には、その職種が企業にもたらす価値の大きさがあります。各種転職調査では経営企画の平均年収は600〜700万円台が中心とされ、1000万円以上を得ている人も一定数存在します。
まず、経営企画が企業の中核的な意思決定に直接関与することが、高年収の理由として挙げられます。
戦略策定、投資判断、事業再編など、企業の将来を左右する重要な決定において中心的な役割を果たすため、その責任の重さに見合った処遇が設定されている
のです。一つの判断ミスが企業全体に大きな損失をもたらす可能性があるポジションだからこそ、それに見合った対価が支払われています。
また、経営企画に求められるスキルセットの希少性も高年収の要因です。財務分析能力、戦略思考力、プロジェクトマネジメント能力、コミュニケーション能力など、多岐にわたる専門性を高いレベルで統合できる人材は限られています。このような総合的な能力を持つ人材への需要が供給を上回っているため、自然と市場価値が高くなっています。
さらに、経営企画の成果は企業業績に直結することも見逃せません。
効果的な戦略策定や業務改革により、企業の収益性向上や競争力強化に大きく貢献できるため、その成果に応じた報酬体系が設定されている
ことが多いのです。特に業績連動型の賞与制度を採用している企業では、経営企画の貢献度に応じて相当額のボーナスが支給されるケースもあります。
年収レンジについては、経験と専門性によって大きく異なります。未経験から経営企画にチャレンジする場合は400-600万円程度からのスタートとなりますが、5年程度の経験を積めば700-900万円レベルに到達することが可能です。10年以上の豊富な経験と確固たる実績を持つシニアレベルでは、1200万円以上の年収を得ることも珍しくありません。
ただし、高年収には相応の責任とプレッシャーが伴うことも理解しておく必要があります。長時間労働や高いストレス環境、常に結果を求められるプレッシャーなど、年収の高さと仕事の大変さは表裏一体の関係にあります。経営企画を目指す際は、年収の魅力だけでなく、仕事内容や働き方についても十分に検討することが重要です。
■どのように経営企画でキャリアを発展させていくべきか
経営企画として確固たるキャリアを築くためには、段階的なスキル向上と戦略的なキャリア設計が欠かせません。経営企画の経験を通じて得られる知識と経験は、将来的に多様なキャリアパスへの扉を開く鍵となります。
(1)キャリア初期段階
キャリア初期段階では、
経営企画の基礎的なスキルを確実に身につけることが重要
です。
財務分析、市場調査、競合分析、事業計画策定など、経営企画の核となる業務を一つ一つ丁寧に習得していきましょう。この段階では、完璧を求めすぎず、多様な業務に積極的にチャレンジし、幅広い経験を積むことが重要です。
(2)キャリア中期
キャリア中期では、特定領域での専門性を深めることが求められます。M&A、新規事業開発、海外展開、デジタル変革など、
自分の興味と会社のニーズが合致する分野で深い専門知識を築きましょう。
この専門性こそが、将来的な市場価値の源泉となります。同時に、部門を横断したプロジェクトのリーダーとして、推進力と調整力を磨くことも重要です。
(3)キャリア後期
キャリア後期では、経営企画で培った経験を活かして、より大きな責任を担うポジションへの挑戦を検討します。事業会社のCFOやCOO、コンサルティングファームのパートナー、スタートアップの創業メンバーなど、選択肢は多岐にわたります。この段階では、
単なる実務家ではなく、組織を率いるリーダーとしての資質が求められます。
転職によるキャリアアップも有効な戦略です。異なる業界での経営企画経験は、視野を広げ、より高い市場価値を生み出します。例えば、製造業からIT業界、国内企業から外資系企業といった転職により、新しい知識と経験を獲得できます。ただし、転職のタイミングと企業選択は慎重に検討する必要があります。
(4)その他、アドバイス
また、社外での学習機会も積極的に活用しましょう。業界団体への参加、セミナーや研修への参加、他社の経営企画担当者との情報交換など、社外ネットワークの構築は知識向上とキャリア機会の拡大につながります。特に、同じ業界の他社との情報交換は、自社の立ち位置を客観的に把握する上で非常に有益です。
経営企画のキャリアにおいては、常に学習し続ける姿勢が不可欠です。ビジネス環境の変化は加速しており、昨日まで有効だった戦略や手法が今日には陳腐化する可能性があります。新しい経営手法、テクノロジーの動向、社会情勢の変化などに敏感にアンテナを張り、継続的にスキルアップを図ることが、長期的なキャリア成功の鍵となります。
■まとめ:経営企画という仕事の未来と可能性
経営企画という職種は、今後さらに重要性が高まり、進化を続けていくと予想されます。デジタル化の進展、グローバル化の深化、持続可能性への注目など、企業を取り巻く環境変化は加速しており、これらの変化に適応し、競争優位を築くための戦略的思考がより重要になっているからです。
特に、AI(人工知能)やビッグデータの活用により、経営企画の業務は大きく変化しています。従来は直感や経験に頼っていた部分も、データドリブンな分析に基づいた客観的な判断が可能になっています。このような技術革新を活用し、より精度の高い戦略策定と迅速な意思決定を実現できる経営企画人材の価値は、今後さらに高まるでしょう。
ESG(環境・社会・ガバナンス)経営への注目も、経営企画の役割を拡大させています。従来の財務的な観点だけでなく、社会的責任や環境への配慮を経営戦略に組み込むことが求められており、これらの要素を統合した戦略策定能力が重要になっています。
グローバル展開を図る企業においては、文化的多様性を理解し、各国・地域の特性を踏まえた戦略策定能力も不可欠です。単一の市場での成功体験をそのまま他の市場に適用するのではなく、現地の特性を深く理解した上で最適な戦略を構築する能力が求められています。
このように変化する環境において、経営企画として成功するためには、従来のスキルに加えて、新しい技術や概念に対する学習意欲と適応力が不可欠です。しかし、これらの挑戦を乗り越えることができれば、企業の未来を創造する最前線で、大きなやりがいと成長を実感できる素晴らしいキャリアが待っています。
経営企画は単なる職種ではなく、企業と社会の未来を築く重要な役割です。この職種に興味を持った方は、まず現在の職場で数値分析や企画立案に積極的に取り組み、段階的にスキルを積み重ねていくことから始めてみてください。きっと、企業の中核で活躍する経営企画としての充実したキャリアを築くことができるはずです。
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