「会計士と税理士の違いってなんですか?」これは、こういった仕事に携わる誰もが一度は受けたことのある質問でしょう。
かくいう私も「なぜ税理士になったのか?」と言われると、たまたまこの仕事を紹介してくれた方が税理士の方だっただけで、会計士の方に誘われたら会計士を目指していたかもしれません。もしかしたら、このコラムを読んでいる方にも正確な違いがわからない方もいるのではないかと思います。
税務も会計に関わる業務を行う中で必須の知識であることは間違いありません。
今回は、「税効果会計」という「会計処理」を通して税務と会計の違いを見ていきましょう。
1.最もITに依存した税金
消費税は会社にまつわる他の税金に比べ、最もITに依存した税金といえます。なぜなら、一仕訳ごとに税額が発生する消費税の申告は日々の仕訳一件一件の積み重ねであり、個々の仕訳における課税分類を一つでも間違えてしまったら、間違った税額になってしまうからです。
企業における仕訳件数は膨大であり、これらをすべて集計したうえで税金計算を行わなければならないわけですから、人海戦術で確認することはほぼ不可能です。そのため、すべての仕訳から漏れずに消費税を集計できるだけでなく、誰が入力しても誤りがないような業務フローを考えなければなりません。
日本における消費税の導入は平成元年ですから、消費税はまさに、会計がシステム化されてからこそ導入できた税目なのです。
2.軽減税率と経理処理のIT化
これらの取引上の分類は、軽減税率の導入とともにさらに複雑さを増します。
テレビなどでも何度も話題になったように、単に税金が課税されるかどうかだけでなく、醤油は8%、みりんは10%といった具合に一見違いがわかりにくい税率の判断をしていかなければならないのです。
そのため、品目の多いスーパーやコンビニなどでは、バーコードで商品情報が判別できたうえでPOSレジなどを利用することでレジ担当者が判断せずとも正しい税額で会計ができるようにしておくなど、販売業務の段階でIT化されている必要があるのです。
(1)2023年問題、インボイスによって変わるミライ
こうしたわかりづらい軽減税率を政府が進めた一つの理由が2023年から導入される適格請求書等保存方式にあるといいます。これは、「日本版インボイス制度」ともいわれています。これまで日本においては、取引価額に含まれる消費税額は明示する必要がなく、税額は課税取引金額を納税を行う事業者側で算定し、申告するという日本独自の計算方法がとられていました。
これは、小規模事業者が多い日本の実情に合わせるための措置でしたが、これにより税制上、本来発生しないはずの税金を取引価額にオンさせて収受する、いわゆる「益税」が発生します。インボイス制度は、この益税を排除するため、対象事業者にみ消費税額等を請求書に記載することを求めているのです。
(2)インボイス制度による請求書のデータ化
これにより、2023年からは日本において商売を行うすべての事業者がこれに対応する請求書等を発行しなければならないこととなったのです。
このことは、小規模事業者においてもIT化を進めなければならないミライを意味します。インボイスは請求書等の厳格な記載要件が決められているため、これまでのように手書きの請求書などでは管理が難しくなってくるからです。
これを受けて、ベンダー各社や決済代行会社は顧客獲得に躍起になって、手数料優遇のキャンペーンなどを繰り広げました。しかし、これはあくまで「紙のレシートをデータ化する」にとどまります。
3.DX(デジタル・トランスフォーメーション)のミライと電子インボイス
これに対し、民間ベンダー5社から発足した「社会的システム・デジタル化研究会」では、請求書の発行プロセスから見直し、中長期的には、確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度等につなげていく「社会システムのデジタル化」を目指しています。
このデジタル化の当面の目標として国を挙げての電子インボイス制度の導入を目指しています。これは、決済情報を「まずデータとして」やり取りすることを目指したもので、これにより、会計情報はより人の手を離れ、情報の交換により、リアルタイムに帳簿上にデータが生成されるミライがやってくるのです。これにより、消費税も自動的に取引された正確な税額がデータで反映されることとなるのです。
4.DX時代の守りの経理と攻めの経理
こうしたDX構想は、国を挙げての課題となっています。これは、数年先の経理現場の業務を大きく変える可能性を秘めています。
これまで以上に、経理現場では入力作業ができる人材ではなく、データ化され収斂された経理データの正当性を判断できる能力が問われるようになるでしょう。
そして、これまで入力作業に忙殺されていた時間は、細分化する国内市場や身近になった国際市場において、バックオフィスに終始せず、当期利益に貢献する戦略的経理を目指す攻めの経理に置き換わる、そんなミライがもうそこまできているのです。