■なぜ経理の転職では「この会社を選んだ理由」が特に重視されるのか
経理職の採用面接で「なぜ当社なのか」という質問が重視される背景には、経理という職種特有の事情があります。営業職やマーケティング職であれば、扱う商材やサービス、ターゲット顧客が企業ごとに大きく異なるため、志望理由も自然と差別化ができます。しかし経理の場合、日々行う仕訳処理、月次決算、年次決算、税務申告といった業務の本質は、どの企業でもほぼ共通しています。
採用担当者が最も警戒するのは、「どこでもいいから経理として働ければいい」という姿勢です。
経理は企業の数字を扱う重要なポジションであり、長期的に腰を据えて働いてくれる人材を求めています。短期間で辞められてしまうと、採用や引き継ぎの負担が大きく、企業にとって大きな損失となるからです。
また、経理部門は少人数体制の企業が多く、一人ひとりの役割が重要です。だからこそ、
「この会社で長く働きたい」という明確な意思を持っている人材かどうかを、面接官は慎重に見極めようとします。
表面的な志望動機では、その本気度が伝わらないのです。
面接官は志望動機の組み立て方を通じて、応募者の論理性や物事を考える力も見ています。抽象的で曖昧な志望動機は、「論理的思考力のない人」と受け取られかねません。
■説得力のある志望動機のためには「企業研究」が必要
説得力のある志望動機を作るには、まず徹底的な企業研究が欠かせません。しかし、ただ企業のWEBページを眺めるだけでは不十分です。それだけでは「現場の温度感」はつかめないでしょう。求人票に書かれていることや面接での質問内容の裏側に、実際の体制や課題感が隠れています。
(1)企業の経理部門の役割を理解する
最も重要なのは、その企業の経理部門の役割を理解することです。
上場企業であれば、有価証券報告書や決算短信を読み込むことで、企業がどのような財務戦略を取っているのか、どの事業に投資しているのか、今後どのような成長を目指しているのかが見えてきます。有価証券報告書までは見ないまでも、企業のXやインスタは確認しましょう。直近の売上や、会社の動向に触れているケースもあります。
非上場企業の場合でも、業界紙やニュースサイト、企業の採用ページやSNSなどから、事業戦略や組織体制についての情報を収集できます。
上場企業にしろ非上場企業にしろ、こういったことを自身に調べきれない場合は、ジャスネットなどの経理分野専門のエージェントに登録し、それぞれの企業担当に聞くのも一つです。
(2)経理部門の組織構成とシステム環境を確認
次に注目すべきは、経理部門の組織構成とシステム環境です。
求人票や採用ページには、経理部門の人数規模や、使用している会計ソフト、ERPシステムなどの情報が記載されていることがあります。
少数精鋭で幅広い業務を担当するのか、それとも分業体制で専門性を高めるのか、この違いは働き方に大きく影響します。
これも求人票や、企業のWEBページで確認できない場合は、転職エージェントに聞くのが確実でしょう。エージェントであれば、企業別にこの辺りのことを掴んでいないということは、ほぼないでしょう。
(3)企業の成長フェーズにも注目
また、企業の成長フェーズも重要な視点です。スタートアップ企業なら経理体制の構築から携われる可能性があり、成熟企業なら安定した環境で業務に集中できるかもしれません。どちらが自分のキャリアビジョンに合うのかを考えることで、志望動機に深みが出ます。
(4)実際に企業の製品やサービスに触れてみる
さらに、可能であれば実際にその企業の製品やサービスに触れてみることもよいでしょう。経理職だからといって、企業のビジネスに無関心でいいわけではありません。自社の事業に愛着を持って働ける環境かどうかは、長期的なモチベーション維持に直結します。
実際に製品を使ってみた感想や、サービスの社会的意義への共感を志望動機に盛り込むことで、他の応募者との差別化が図れます。
■どうすれば「どこでも言えること」から脱却できるのか
志望動機を作る際に最も陥りがちな罠が、「どの企業にも当てはまる内容」になってしまうことです。たとえば「グローバルに展開している企業で働きたい」「成長企業で自分も成長したい」「風通しの良い社風に惹かれた」といった理由は、一見もっともらしく聞こえますが、具体性に欠けています。
(1)まずは「比較」と「具体化」
この問題を解決する鍵は、
「比較」と「具体化」
にあります。
まず、
志望企業と他の企業を具体的に比較し、その企業ならではの特徴を見つけ出します。
たとえば同じ製造業でも、完成品メーカーと部品メーカーでは経理の役割が異なります。完成品メーカーなら販売管理や在庫管理との連携が重要になり、部品メーカーなら原価計算の精度が求められるかもしれません。
また、
前職との違い
に注目するのも効果的です。
「前職では2名体制で幅広く担当していましたが、御社では担当制をとられているようなので、担当となった業務を得意分野として深められると感じました」など、
自分のこれまでの経験との比較で語るとリアリティが増します。
(2)見つけた特徴を自分のキャリア目標と結びつける
次に、見つけた特徴を自分のキャリア目標と結びつけます。
「私は原価計算のスペシャリストを目指しており、貴社のような精密部品メーカーで、製造現場と密接に連携しながら原価管理の精度を高めたいと考えています」というように、企業の特徴と自分の目指す方向性を具体的に結びつけるのです。
(3)企業の数字に言及する
また、企業の数字に触れることも効果的です。
「売上高が3年連続で20%成長している」「海外売上比率が60%に達している」「研究開発費が売上の15%を占めている」といった
具体的な数字は、あなたが本当にその企業を研究していることの証明になります。
■なぜ前職での経験を志望動機に織り込むことが重要なのか
強力な志望動機を作るもう一つの要素が、
前職での経験と志望企業での目標をつなげることです。
単に「新しい環境で挑戦したい」と言うだけでは、なぜ前の会社を辞めるのか、なぜこの会社なのかが伝わりません。
(1)前職でのスキルをどう活かし発展させるかアピール
効果的なアプローチは、
前職で得た経験やスキルを具体的に示し、それを志望企業でどう活かせるか、またはどう発展させたいかを明確にすることです。
たとえば「前職では単体決算を担当しておりましたが、御社のような連結決算を行う企業で、グループ全体の数字を俯瞰する力を身につけたいと考えています」というように、キャリアアップの道筋を示すのがよいでしょう。
ただし、前職の批判的な内容は避けるべきです。「前の会社はシステムが古くて効率が悪かった」といったネガティブな表現ではなく、「貴社で導入されている最新のERPシステムを活用し、より効率的な業務フローの構築に貢献したい」とポジティブに言い換えます。
(2)前職での具体的な成果・改善経験をアピール
また、前職での具体的な成果や改善経験があれば、それを志望動機に盛り込むことで説得力が増します。「前職ではExcel集計のテンプレートを自作して、日次処理を効率化するなど、身近な改善にも取り組んできました。」というように、
小さな工夫でも「業務をより良くしよう」という姿勢は、面接官に確実に伝わります。
■面接官の心に響く志望動機の構成と作り方
志望動機を伝える際の構成も、説得力を左右する重要な要素です。経理職として論理的な思考力を示すためにも、整理された構成で志望動機を組み立てましょう。
(1)「現状認識→課題意識→解決策→志望理由」型
効果的な構成の一つは、「現状認識→課題意識→解決策→志望理由」という流れです。まず自分の現在の状況やキャリアを簡潔に述べ、次にそこで感じている課題や成長の限界を示します。そして、その課題を解決するために何が必要かを明確にし、最後にそれが志望企業で実現できる理由を具体的に説明します。
たとえば
「現在は中小企業で経理全般を担当しており、一通りの業務を経験してきました
(現状認識)
。しかし、連結決算や開示業務といった上場企業特有の業務経験がなく、キャリアの幅を広げる必要性を感じています
(課題意識)
。
上場企業での経理実務を学び、より高度な財務報告スキルを身につけたいと考えています
(解決策)
。貴社は近年M&Aを積極的に行っており、連結決算の複雑性が増していると拝察します。この環境で実践的な経験を積みながら、貴社の適切な財務情報開示に貢献したいと考え、志望いたしました
(志望理由)
」という具合です。
(2)「共感→実績→貢献」型
もう一つの効果的な構成は、「共感→実績→貢献」という流れです。まず企業のビジョンや事業に対する共感を示し、次に自分の実績やスキルを具体的に述べ、最後にそれをどう活かして貢献できるかを伝えます。
「貴社の『テクノロジーで社会課題を解決する』というミッションに深く共感しました
(共感)
。前職では業務自動化プロジェクトに参加し、RPA導入によって経理業務の30%を効率化した経験があります
(実績)
。貴社でもこうした技術活用の視点を持ちながら、成長を支える経理体制の構築に貢献したいと考えています
(貢献)
」という形です。
どちらの構成を選ぶにしても、重要なのは一貫性です。話の流れに矛盾がなく、すべての要素が「なぜこの会社なのか」という結論につながっている必要があります。
■どうすれば志望動機を面接で効果的に伝えられるのか
優れた志望動機を作成しても、面接で効果的に伝えられなければ意味がありません。最後に、面接で志望動機を伝える際のポイントをお伝えします。
まず重要なのは、
志望動機を丸暗記しないこと
です。完璧に暗記した文章を棒読みすると、セリフっぽくなってしまいます。多少言い間違えても、自分の言葉で語る方が誠実さと熱意が伝わります。面接では意外に「一緒に働けそうか」という人柄の部分も重視されます。
次に、時間配分を意識することです。
志望動機は通常1分から1分30秒程度で述べるのが適切
です。あまり長すぎると面接官の集中力が途切れますし、短すぎると熱意が伝わりません。事前に時間を計りながら練習し、適切な長さに調整しておきましょう。
また、
志望動機を述べた後の質問に備えることも重要
です。面接官は必ずと言っていいほど、志望動機に関連した深堀りの質問をしてきます。たとえば「当社の財務戦略についてどう思うか」「具体的にどのような貢献ができると考えているか」といった質問です。こうした質問にも答えられるよう、企業研究を深めておく必要があります。
最後に、志望動機は面接の最初だけでなく、最後にも効いてきます。面接の終盤で「最後に何か伝えたいことはありますか」と聞かれたときに、志望動機の核心部分を改めて簡潔に述べることで、印象を強く残すことができます。「本日のお話を伺い、貴社で経理として貢献したいという思いがさらに強くなりました。ぜひ貴社の一員として働かせていただきたいと考えております」といった一言を添えることで、面接を締めくくりましょう。
■まとめ
経理の転職において「なぜこの会社なのか」という問いに答えることは、決して容易ではありません。しかし、徹底した企業研究と自己分析を重ね、自分だけの志望動機を組み立てることができれば、それは転職活動における最強の武器となります。
本記事でお伝えした視点や具体例を参考に、あなた自身の言葉で語れる志望動機を作り上げてください。その努力は、必ず面接官の心に届き、理想のキャリアへの扉を開くはずです。
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