ここでは「今まで経理業務の経験がない」という方のために、業務で求められることの多い「売掛金管理」について、そもそも『売掛金』とは何か、また具体的な業務内容はどんなものなのかについて、わかりやすく簡単にご説明いたします。
「売掛金」とは?その業務内容のポイント解説
税理士 田中義晴
目次
■「売掛金」とは?
■「売掛金」の具体例
■「売掛金」の業務内容
■「売掛金」管理のポイントは?
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)と採用ニーズ
■「売掛金管理」の経験を活かしたその後とのキャリアパスは?
■「売掛金」とは?
『売掛金』とは、商品やサービスを販売したため売上は発生しているものの、それに対しての代金が回収できていない状態(未回収の代金)のことを指します。
そもそも商売の基本とは何でしょう。古来は海で獲れた魚と、山で手に入れた肉を物々交換するようなものでした。やがて貨幣が生まれ、ものとお金を交換するようになり、「商品と現金の引き渡しは同時である」というのが商売の原理・原則となりました。
しかしこの売掛金では、この原則に反し代金はその場で支払われていないということになります。なぜこのようなことが起こるのかというのを具体的な例で説明しましょう。
■「売掛金」の具体例
ある建材会社A社が建築会社B社の建築現場に、建材を送ったとします。
本来であれば商品(建材)と交換で代金をその場で回収しなくてはならないので、B社は建築現場に建材が到着した時点でA社もお金を払わなくてはなりません。
しかし、B社のお金はB社の本社か銀行にあります。建築現場に建材が到着するたびに現金を現場に移動し、現場の責任者が毎回支払いをしていたのでは、本来の建築の業務に大きく支障をきたしてしまいます。
そこで考えられたのが『売掛金』というシステムです。
月に一度、A社は請求書をB社に発送し、後日、B社はA社にまとめてお金を支払う。
こうすることでA社は『売掛金』をいずれ回収するお金として売上に計上できますし、支払うB社も様々な手間を減らし、現金を後払いにできるなどメリットがあるのです。
A社から請求書を受け取ったB社は、いずれ払うお金『買掛金』として計上します。
これらのことから『売上』は商品やサービスを販売して得た金額全体のことであり、売上の中に『売掛金』も含まれているということになります。
余談ですが、江戸時代にこのシステムは「ツケ払い」と言われ、身元がはっきりしていて信用がおける相手であることを前提に、すでに運用されていました。盆と大晦日の半年に1度、お金を回収するのが風物詩となってたようです。
■「売掛金」の業務内容
(1)請求書の発行と管理
売掛金管理の最初のステップは、取引先に対して商品やサービスの請求書を発行することです。発行された請求書は、支払い期限や金額などの情報が含まれています。売掛金管理の担当者は、請求書の発行と管理を担当し、正確かつタイムリーに請求書を発行することが求められます。
また社内伝達不足で請求書にミスが起こるなどという事態は経理の現場では起こり得ることです。
例えば本来は1500円のものを、現場の営業同士の話し合いで今回は1300円で売ったというような内容が共有されず、1500円で作成した請求書を先方に送付してしまう、などです。
営業、営業事務、経理の中で誰が請求書を発行するのか、間違いが起こらないよう複数のチェック体制がとられているかなども注意しなくてはなりません。
経理部では、売上管理ソフトへの出入力作業とそれに対応する請求書が発行されているかの管理が基本中の基本となります。
(2)支払い期限の管理
売掛金管理では、支払い期限を正確に管理することが必要です。
入金の期限を過ぎても振り込みがない場合は、入金の催促することが必要になります。支払い予定日には発行している請求書に対して入金がされているかを確認する業務を行います。 これを入金消込といいます。
また、支払い期限が過ぎても入金がなかった場合には、滞留額の計算や債権回収の手続きなどを行います。
実際、入金がない場合の対応は、経理スタッフが行う場合もありますが、上司や現場の営業が行う場合など、企業によって違いがあります。
(3)売掛金の集計と報告
売掛金管理の担当者は、定期的に売掛金の集計と報告を行います。これには、売掛金の総額、未回収額、回収予定額などの情報を含みます。
これらの情報は、社内で売掛金の状況を報告(営業部門への状況報告等)するために使用されます。月1回は、何の案件が未入金になっているのか、経理と営業で打ち合わせの機会を持つ場合が多いでしょう。ヒューマンエラーに早期に気づき、早期に回収に繋げるための基本です。
以下、4、5に関しては上級レベルの業務となりますが、身につけておくといずれ経理のキャリアアップの際に役に立つでしょう。
(4)与信管理
与信管理は、取引先が支払いを滞らせた場合のリスクを最小限に抑えるための重要な業務です。担当者は、取引先の信用状況や過去の支払い履歴などを調査し、与信限度額を決定します。また、支払い期限を過ぎた場合や、与信限度額を超えた場合には、追加の審査を行い、今後の取引について判断します。
初めて取引する相手には前金で支払いをしてもらうなど、万一にも回収できないという事態にならないようなリスク管理が重要です。
(5)債権回収の管理
債権回収には、督促状の送付や法的手続きの開始などが含まれます。
売掛金管理の担当者は、未回収の売掛金に対して定期的に催促の手続きを行い、回収するために努力します。また、債権回収のための外部業者との契約や協力も必要になる場合があります。
■「売掛金」管理のポイントは?
何より大切なことは請求書の正確性になるでしょう。
日付、金額、送付先など基本的なことではありますが、最も間違えてはならない部分です。
また経理の立場からは力及ばない部分ではありますが、営業担当が売り上がったものとして請求書を発行しておきながら、実際には得意先に請求できず(請求せず)回収ができないという事態が起こったりもします。
それぞれの会社によるとしか言えないのですが、売上管理システムと請求書発行のタイミングの違い、営業が現場レベルでの話し合いで先に請求書を発行した場合、請求書を発行したあとに先方から値下げの交渉があった場合など、様々な理由が想定されます。
また、経理同士で請求書のやり取りをせずに、営業経由で請求書を発行している場合などは、単純に渡し忘れや、先方の確認ミスなどもあるかもしれません。
そのような様々な事態に慌てず正確に対処できるよう可能性を頭の片隅に入れておく、想定外のミスにいち早く気がつくことができる、などが経理として重要なスキルになると思います。
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)と採用ニーズ
経理事務と同様になりますので、こちらをご覧ください。
■「売掛金管理」の経験を活かしたその後とのキャリアパスは?
売掛金業務は会社内で行っている場合と代行会社など外部に委託している場合があります。
今後は経理の分野でもデジタル化はさらに進み、売掛金の入力作業などはAIなどに代替されていくことになるのではないでしょうか。
売掛金管理の業務自体はそこまで難しいものではありません。経理としてのスキルを積み上げていきたいと思うのでしたら、ぜひ与信管理や債権回収までの管理業務まで行うことをおすすめします。
これらは経験をもとに人間でなくては判断できない部分(AIには代替されにくい)なので、経理パーソンとして次のステップに進むための大きなセースルポイントになると思います。
- 執筆者プロフィール
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田中 義晴(たなか よしはる)
税理士大学卒業後、父の経営する税理士事務所に勤務し、2000年に税理士資格を取得。
2011年にはグロービス経営大学院を卒業し、MBAも取得した。中小企業の事業経営を通じて税務署対策、資金繰りや人の問題、上場企業のようにコスト削減ができないジレンマを経営者の立場から実感している。また、税理士業とは別に小売業、飲食業の経営者としても実業を営んでおり、りそな総研・東京商工会議所などでセミナー講師も務めている。
経営の実情と理論に裏付けられた実践的指導は、多くの経営者から絶大な信頼を得ており、その信念は「経営者が活き活き、精力的に会社経営ができるお手伝いをすること。そして経営者が自分の進むべき道に行くためのサポートをすること」。
経理部門の地位向上を図るために経理合理化プロジェクトを推進中。