■経理の残業時間は、実際のところどのくらいなのか
経理の残業時間を語るうえでまず押さえておきたいのは、「年間を通じて一定ではない」という大前提です。
閑散期と繁忙期で残業時間が大きく変わるため、単純な月平均の数字だけを見ても実態は見えてきません。
厚生労働省が公表する「毎月勤労統計調査(令和6年分結果速報)」によると、一般労働者の月平均所定外労働時間は13.5時間とされています。ただしこれはあくまで全産業・全職種の平均値であり、職種や業種・企業規模によって実態は大きく異なります。経理職は業務の性質上、繁忙期と閑散期の差が特に大きく、年間の平均値だけでは働き方の実態が見えにくい職種の一つです。
ジャスネットのエージェントが経理職の方々から聞く声では、
閑散期であれば月0〜20時間程度に収まることも珍しくない一方で、月次・四半期・年次の決算が集中する繁忙期には月60時間前後の残業が発生した
という経験談も珍しくありません。さらに上場企業の経理部門では、連結決算や有価証券報告書の作成対応が加わるため、繁忙期に月50〜80時間に達するという声も聞かれます。
つまり「経理の残業時間は月平均○○時間」という数字は、あくまでも年間を平準化した目安に過ぎません。自分が経理として働く上で重要なのは、平均値よりも「もっとも忙しい時期にどれくらいの負荷がかかるか」を把握することです。経理の残業は、繁忙期と閑散期の波を理解することから始まります。
<参考データ>
毎月勤労統計調査(令和6年分結果速報)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r06/24cp/24cp.html
■経理の残業が急増するのはいつか――繁忙期の実態
経理の業務は、年間スケジュールに沿ってある程度規則的に動いています。だからこそ「いつ忙しくなるか」は事前にある程度予測でき、計画的な対応が可能でもあります。ただし、その繁忙期の業務密度は相当なものです。
まず月単位で見ると、
月末・月初は毎月発生する繁忙のタイミング
です。月末には請求書の処理や集計・締め作業が集中し、月初にはその確認や報告書の作成が続きます。この月末月初の波は、担当範囲が広い経理ほど強く影響します。
四半期単位では、
3月・6月・9月・12月が決算対応の時期
にあたります。四半期決算では月次業務に加えて決算書の作成や関係部署との数字のすり合わせが必要になり、通常業務と並行して対応しなければならない分、残業が増えやすくなります。
年単位で見ると、もっとも負荷が高いのは
3月から5月にかけての年次決算・税務申告の時期
です。特に3月決算法人が多い日本では、4月から5月にかけて決算発表・株主総会・有価証券報告書の提出・確定申告といった重要業務が連続します。この時期は、普段は定時で退社できる職場でも深夜残業や休日出勤が発生することがあるほど、業務量が一気に増加します。
一方で、閑散期も存在します。各月の中旬は月次業務の谷間にあたるため、比較的残業が少ない時期です。また、7月以降は年度決算の対応が落ち着くため、
8月・9月は業務量が落ち着く傾向があります。
ただし、中間決算のある企業では9〜10月も繁忙期になるため、自分が働く企業の決算サイクルをしっかり確認することが大切です。
■なぜ経理の残業はなかなか減らないのか――5つの構造的な理由
経理の残業が発生しやすい背景には、業務の性質と職場環境に起因するいくつかの構造的な要因があります。「頑張ってもなかなか終わらない」と感じている経理担当者の方は、自分の職場に当てはまる要因がないか確認してみてください。
⑴業務が月末・決算期に集中する業務の性質
経理の仕事には「締め」のタイミングがあり、それに合わせて業務量が一気に増えます。月末の請求書処理・帳簿確認・決算期の資料作成など、特定の日付までに完了しなければならない業務が多いのが経理の特徴です。平準化が難しい業務の性質そのものが、繁忙期の残業を生む最大の原因と言えます。
⑵ミスが許されないことによる確認工数の増加
経理は会社の数字を扱う職種であり、わずかなミスが決算書の誤りや税務申告の問題につながりかねません。そのため、一つひとつの作業に高い正確性が求められ、確認・ダブルチェックの工数が積み重なります。スピードよりも正確性が優先される業務特性が、処理時間を押し上げる一因になっています。
⑶少人数体制と属人化による負荷の集中
経理部門は少人数で運営されることが多く、一人あたりの担当範囲が広くなりがちです。さらに「この処理は○○さんにしかわからない」という属人化が進んでいると、特定の担当者に業務が集中し、繁忙期に深刻な残業が発生します。マニュアルや引き継ぎ体制が整っていない職場ほど、この問題が顕著に現れます。
⑷紙・手入力が多くデジタル化が進んでいない
請求書の目視確認や手入力、紙資料のファイリングなど、アナログな作業が残っている職場では作業効率が著しく低下します。一つひとつは小さな作業に見えても、それが積み重なると膨大な時間になります。特にインボイス制度の導入後は、適格請求書の確認作業が増え、手作業中心の職場では残業が慢性化しやすくなっています。
⑸法改正・制度変更への対応業務の増加
インボイス制度や電子帳簿保存法の改正など、近年は経理に影響する法制度の変更が続いています。こうした制度変更のたびに新たな確認・対応業務が生まれ、既存業務にプラスαの負荷がかかります。人員や体制が変わらないまま業務量だけが増えれば、残業が増えるのは必然です。
■企業規模・業種によって残業時間はこれだけ違う
経理の残業時間は、個人の努力だけでなく、働く企業の規模や業種によっても大きく左右されます。転職を検討する際や就職先を選ぶ際には、この観点を意識することがとても重要です。
⑴企業規模による違い
中小企業の経理では、一人あたりの業務範囲が広くなりやすいため、繁忙期の残業が長くなる傾向があります。経理担当者が1〜2名しかいないような企業では、月次から年次決算まですべてを少人数でこなさなければならず、繁忙期には残業が発生するケースも珍しくありません。
一方、大企業では業務が細分化されているため、担当範囲が限定され残業が少ない部署もあります。ただし上場企業の場合は、連結決算・開示業務・監査対応・内部統制の整備といった追加業務が発生するため、経理部の中でもポジションによって残業の多寡が大きく異なります。
⑵業種による違い
製造業や小売・飲食、商社は取引量が多く、仕入・販売にかかわる伝票処理や関係部署との調整業務が増えるため、経理担当者の残業が多くなりやすい傾向があります。一方、IT系企業やベンチャー企業は業務のデジタル化が進んでいることが多く、クラウド会計の活用などで業務効率が高い職場も増えています。ただし急成長中の企業では業務量の増加に人員が追いつかず、残業が多くなるリスクもある点には注意が必要です。
また、不動産業や建設業は期中の取引が複雑なことが多く、特定の時期に業務が集中しやすい特性があります。業種ごとの業務特性を理解した上で転職先を選ぶことが、残業時間のミスマッチを防ぐうえで重要です。
■自分でできることから始める――個人レベルでの残業削減策
残業を減らすために、まず自分自身でできることに取り組むことも大切です。職場環境の問題がある場合でも、個人の工夫によって残業時間を一定程度コントロールできる余地はあります。
⑴会計知識・業務知識を深める
簿記や会計の知識が深まるほど、仕訳の判断に迷う時間や上司に確認する時間が減ります。「なぜこの処理になるのか」を理解して働くことで、手戻りが減り、作業がスムーズに進むようになります。簿記2級以上の知識は、経理実務において判断スピードに直接影響します。
⑵PCスキルを磨いて処理速度を上げる
ExcelのショートカットやVLOOKUP・ピボットテーブルなどの関数、さらにはマクロの活用は、集計や確認作業の時間を大幅に短縮します。特別なプログラミング知識がなくても、日常的に使える関数やショートカットを習得するだけで作業効率は変わります。会計ソフトの操作に慣れることも同様に有効です。
⑶繁忙期を見越した先回り準備
月末・決算期の繁忙を知っているからこそ、その前の閑散期にできる準備を進めておくことが有効です。前月のうちに処理できる仕訳は早めに入力しておく、チェックリストを整備しておく、など小さな先回りの積み重ねが、繁忙期の残業時間を抑えることにつながります。
⑷タスクを分解して優先順位を明確にする
「なんとなく忙しい」状態のまま残業するより、今日やるべき業務を締切から逆算して分解し、優先順位をつけて動くほうが作業効率は上がります。急ぎではないが重要な業務を後回しにしすぎないことも大切で、計画的に動くことが結果的に残業の削減につながります。
⑸社内コミュニケーションを重ねて関係を構築しておく
また、日ごろから社内コミュニケーションを重ねて周囲との関係を構築しておくことも効果的です。何度も連絡しないと必要書類の回収ができない、関係が浅いため依頼しにくい……といった問題が積み重なると、効率的な作業が難しくなります。営業の方などとの関係を深めておくことで、請求書など必要項目の早期回収に繋がり、残業を減らすことにつながります。
■職場・組織レベルで取り組む残業削減の方法
個人の努力だけでなく、職場・組織全体での取り組みが変わることで、残業時間は大きく改善することがあります。経理担当者として職場に働きかける立場にある方、あるいはマネジメント層の方はぜひ参考にしてください。
⑴業務フローの整理とマニュアル化
「誰でも同じ処理ができる状態」を作ることが、属人化解消の基本です。
処理手順の文書化・マニュアル整備を進めることで、特定の担当者に業務が集中する状況を防げます。
また、承認ルートや判断基準を明文化することで、確認待ちによる無駄な時間も削減できます。
⑵クラウド会計・電子化ツールの導入
クラウド型の会計システムや経費精算ツールを導入することで、データ入力の手間を大幅に削減できます。銀行口座の明細自動取込やAIによる仕訳提案など、かつては手作業だったプロセスを自動化できるようになりました。電子帳簿保存法への対応も兼ねて、紙・手入力中心の業務体制を見直すことは、今後の経理部門に不可欠な課題です。
⑶体制強化と業務分担の見直し
経理担当者の人数が慢性的に不足している場合、個人の効率化には限界があります。繁忙期に業務支援要員を確保したり、派遣スタッフを活用したりするなど、体制そのものを見直すことも有効な選択肢です。業務量に見合った人員体制が整って初めて、残業の根本的な改善につながります。
■それでも残業が改善しないなら――転職という選択肢
個人として努力し、職場への働きかけも試みた。それでも残業が一向に改善しない、あるいは職場の体制や文化として残業が当たり前になっている――そのような状況であれば、転職によって働き方を根本から変えることを検討する価値があります。
残業が多い職場に長く留まることは、キャリアの停滞だけでなく、心身の健康にも影響します。ジャスネットのエージェントが経理職の方々から聞く声をもとにすると、「決算期が終わるたびに疲弊していく自分が心配になった」「残業が当たり前の環境で、プライベートな時間がまったく確保できなかった」というように、長時間残業が続く職場では精神的・肉体的な消耗が蓄積しやすく、転職を決断する大きな理由になっているケースは少なくありません。
「今の会社では構造的に残業が減らない」と感じるなら、その判断は決して逃げではなく、自分のキャリアと健康を守るための合理的な選択です。
転職によって残業時間を大幅に改善できるケースは、実際に多くあります。同じ経理職でも、業種・企業規模・体制・デジタル化の進捗状況によって、月の残業時間が20時間以上変わることは珍しくありません。特に「残業なし」や「残業20時間未満」を前面に出している求人では、実際にその水準を実現できている企業が多く、働き方を変えるチャンスは十分にあります。
転職活動においては、求人票の記載など選考の過程で残業の実態について確認することが重要です。ただ、面接で残業の詳細を聞くことは難しいケースも多いため、転職エージェントを利用するのもひとつの方法です。
「月の残業時間の平均はどのくらいか」「繁忙期(決算期)の残業はどの程度か」「残業を減らすための取り組みはされているか」などについても、転職エージェントが答えてくれる場合があります。
<ジャスネットを利用して、残業を減らす転職に成功した例>
【残業の多くない会社にマネージャー候補として転職】
S.Yさん(30代・女性)
転職前:経理(年収360万円)
転職後:経理(年収470万円)
Yさんは税理士事務所に勤務した後、上場企業に転職。そこで年次決算や法人税・消費税申告書作成、監査対応などの経理業務を一通り経験しました。ただ同社は残業が多く、また上司との関係もぎくしゃくするようになったため、Yさんは退職を決意。ジャスネットにご登録されました。一体、どのように転職を成功させたのでしょうか。
→記事の詳細はこちら
残業なしの経理求人を見つけるための具体的な方法、働き方別の企業の見分け方については、別記事
「「残業なし」の経理転職を成功させるには?働き方別完全ガイド」
で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
■まとめ――経理の残業と、どう向き合うか
経理の残業時間は、「多い」とも「少ない」とも一概には言えません。全体平均では全業種と大きく変わらない水準ですが、繁忙期には大幅に増加し、企業の規模・業種・体制によって実態は大きく異なります。
残業が発生する背景には、業務の集中しやすい業務特性、ミスが許されない正確性への要求、属人化・デジタル化の遅れ、法改正対応など、複数の構造的な要因が絡んでいます。これを理解した上で、個人レベルのスキルアップや業務効率化、職場レベルのマニュアル化・ツール導入に取り組むことが、まず取り組むべきアプローチです。
それでも改善が見込めない場合は、転職によって働き方そのものを変えることが、長期的なキャリアと健康を守る現実的な選択肢となります。経理職の転職市場では、残業の少ない職場への転職を実現している事例は数多くあり、決して難しいことではありません。
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