■なぜ簿記3級の取得から始めるべきなのか
簿記の学習経験がまったくない状態から日商簿記2級に挑戦しようと考えている方には、まず3級の取得をお勧めします。これには明確な理由があります。
日商簿記2級では商業簿記と工業簿記という2つの分野が出題されますが、これらを理解するには簿記の基礎がしっかり身についていることが不可欠です。
3級で学ぶ仕訳の基本、試算表の作成方法、決算整理の流れといった内容は、2級を学ぶ上での土台となります。
この土台が不安定なまま2級の学習に進んでも、理解が追いつかず挫折してしまう可能性が高くなります。
3級の学習期間は約2か月を目安としています。
この期間で簿記の基本的な考え方や処理の流れをしっかりと体得することで、2級の学習がスムーズに進むようになります。遠回りに見えるかもしれませんが、結果的には最も確実で効率的な合格ルートといえるでしょう。
実際、3級を飛ばして2級から始めた方の多くが、途中で基礎の理解不足に直面し、結局3級の内容まで戻って学習し直すケースが少なくありません。最初から順を追って学ぶことが、時間と労力の節約につながるのです。
■日商簿記2級合格にはどれくらいの勉強時間が必要になるのか
社会人が日商簿記2級に合格するために必要な勉強時間は、一般的に300〜500時間とされています。
この幅があるのは、学習者の背景や勉強方法によって効率が変わってくるためです。
全くの初学者の場合、まず3級合格まで約2か月間の学習が必要です。具体的には100時間程度を見込んでおくとよいでしょう。その後、2級合格までさらに半年程度、つまり200〜400時間の学習時間を確保することになります。
この時間配分には理由があります。2級では3級の内容に加えて、連結会計や税効果会計といった高度な商業簿記の論点、さらには工業簿記という新しい分野が加わります。それぞれの分野で十分な理解と演習を積み重ねる必要があるため、どうしてもこれだけの時間が必要になってくるのです。
ただし、これはあくまで目安です。会計や経理の実務経験がある方は、実際の業務で培った知識が活きるため、もう少し短い時間で合格レベルに到達できることもあります。逆に、数字に苦手意識がある方や、継続的な学習習慣がない方は、やや長めに時間を見積もっておくほうが無理のない計画を立てられます。
■どのような勉強方法を選ぶべきか
日商簿記2級の学習方法には、大きく分けて独学と通信教育・スクール利用の2つがあります。それぞれに特徴があり、自分の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
(1)独学の場合
独学の最大のメリットは、自分のペースで学習を進められることと、費用を抑えられることです。
市販のテキストや問題集を購入すれば、数千円程度で学習をスタートできます。時間の使い方も自由なので、不規則な勤務時間の方には向いているかもしれません。
しかし、2級レベルになると内容の難易度が上がるため、独学には大きなデメリットも存在します。
最も深刻なのは、わからない部分を質問できる環境がないこと
です。簿記は理論的な理解が必要な科目であり、一度つまずくとそこから先に進めなくなることがあります。また、どの論点が重要で、どこでつまずきやすいかといった試験のポイントも、独学では把握しづらいものです。
(2)通信教育やスクールの場合
一方、通信教育やスクールを利用する場合は費用がかかりますが、その分のメリットも大きいといえます。
プロの講師による体系的なカリキュラムが用意されているため、効率よく学習を進められます。
理解できない部分や間違えた問題について質問できる環境があることは、学習のスピードと質を大きく向上させます。
個人的には、2級レベルからは通信教育やスクールの利用をお勧めしています。特に社会人の場合、限られた時間で確実に合格を目指すなら、プロのサポートを受けながら効率的に学習するほうが結果的に近道になるケースが多いのです。
■どうすれば平日と週末の学習時間を確保できるか
社会人にとって最大の課題は、仕事とプライベートを両立させながら学習時間を確保することです。ここでは現実的で継続可能な学習スケジュールの例をご紹介します。
(1)平日の学習時間
平日は1日1.5時間の学習を目標とします。これを週5日間続けると、1週間で7.5時間の学習時間を確保できます。
平日の学習では、通勤時間を活用することが鍵となります。例えば、行きの電車内で30分講義動画を視聴し、帰りの電車内で30分テキストを読む。そして自宅で残りの30分から1時間を使って復習や簡単な問題演習を行うといった形です。
朝型の方なら、出勤前の30分を学習時間に充てるのも効果的です。夜型の方は就寝前の時間を活用するのもよいでしょう。
大切なのは、毎日決まった時間に学習する習慣をつけることです。
(2)週末の学習時間
週末は平日よりもまとまった時間を確保します。
土日それぞれ3〜5時間、月に換算すると約20時間の学習時間を目指しましょう。
週末は集中して問題演習に取り組む時間として位置づけます。まとまった時間がなければ解けない総合問題や、じっくり復習したい分野に取り組むには、週末の時間が欠かせません。
このスケジュールなら、1か月で約50時間の学習時間を確保できます。
半年間継続すれば300時間に達し、2級合格に必要な学習量をこなすことが可能です。無理のない範囲で計画を立て、確実に実行することが合格への最短ルートとなります。
■どのように学習時間を配分すれば効率的か
限られた時間で最大の効果を上げるには、学習内容ごとに適切な時間配分を考える必要があります。ここでは、3級から2級まで一貫した学習計画の例をお示しします。
(1)日商簿記3級
3級の学習では合計100時間を目安とします。この段階で簿記の基礎をしっかり固めることが、2級学習の効率を大きく左右します。
【内訳】
□講義動画やテキストでの学習に40時間
□問題演習などのアウトプットに20時間
□試験直前の対策に20時間
□間違えた部分の復習に20時間
(2)日商簿記2級
2級の学習では200〜400時間を確保します。
2級では商業簿記と工業簿記という2つの分野から出題されるため、それぞれバランスよく学習する必要があります。商業簿記のほうが範囲が広く複雑な論点も多いため、やや多めに時間を配分しています。ただし、工業簿記も決して軽視してはいけません。理解すれば確実に得点できる分野なので、しっかりと時間をかけて学習しましょう。
【内訳】
□商業簿記には講義70時間とアウトプット50時間
□工業簿記には講義40時間とアウトプット20時間
□過去問や模擬試験の対策として最低でも20時間、できれば50時間程度を確保
また、試験前の過去問演習は非常に重要です。可能であれば、
答案練習や過去問を10回程度解くことをお勧めします。
繰り返し解くことで、様々なパターンの問題に対応できる力が身につきます。
■複雑な商業簿記では「仕訳から財務諸表までの流れ」が重要
商業簿記を攻略するための最重要ポイントは、
仕訳から試算表、決算整理を経て財務諸表を作成するまでの一連の流れを理解することです。
この流れが頭の中で自然に描けるようになれば、個別の論点も理解しやすくなります。
2級の商業簿記では、3級と比べて問題文が長く複雑になります。そのため、問われている内容を正確に把握し、その前後にどのような処理が必要かをイメージする力が求められます。例えば、決算整理の問題が出題されたとき、その前段階でどのような取引があり、最終的にどの財務諸表のどこに影響するのかを理解していなければ、正確な解答にたどり着けません。
特に仕訳問題は、簿記のすべての基礎となる部分です。できる限り多くの問題を解き、様々なパターンに慣れることが重要です。最初はルールを覚えて機械的に処理するかもしれませんが、数をこなすうちに「なぜこの勘定科目を使うのか」「なぜ借方なのか貸方なのか」といった理論的な理解が深まってきます。
この感覚が身につくまで繰り返し練習することが、商業簿記攻略の鍵となります。暗記に頼るのではなく、理屈を理解しながら問題を解く姿勢を大切にしてください。
■どうすれば工業簿記を得点源にできるか
工業簿記は多くの受験生が初めて学ぶ分野ですが、実は理解すれば確実に得点できる科目です。
商業簿記に比べて出題パターンが限られており、一度流れをつかんでしまえば安定して高得点を狙えます。
工業簿記でも、商業簿記と同様に流れを理解することが最も重要です。原材料の購入から製造、そして製品の完成に至るまでの一連のプロセスで、どのように原価が計算されていくのか。この流れを頭の中でイメージできるようになれば、個別の計算問題も格段に解きやすくなります。
工業簿記の学習では、問題演習を繰り返すことが特に効果的
です。最初は用語や計算方法に戸惑うかもしれませんが、同じタイプの問題を何度も解くうちに、自然と原価計算の流れが身についてきます。製造間接費の配賦や、標準原価計算の差異分析といった複雑に見える論点も、パターンを理解すれば機械的に解けるようになります。
工業簿記を完璧に仕上げることは、2級合格への大きなアドバンテージとなります。商業簿記で難しい問題が出題されたとしても、工業簿記で確実に点数を稼げれば合格ラインに到達しやすくなります。むしろ工業簿記こそ、満点を目指して徹底的に対策すべき分野といえるでしょう。
■なぜ模擬試験を10回以上受けることが必要なのか
日商簿記2級に1回で確実に合格するためには、本試験と同じ形式・制限時間で模擬試験を10回以上実施することを強く推奨します。
これは単なる目安ではなく、合格に必要な最低限の回数だと考えてください。
10回以上というと多く感じるかもしれませんが、確実に合格するためには必要な回数です。最初は時間内に終わらなくても構いません。回数を重ねるごとに解くスピードが上がり、正答率も向上していきます。本番で実力を発揮するための準備として、模擬試験の反復は欠かせないステップなのです。
(1)時間内にすべての問題を解き切るため
模擬試験を繰り返す目的は複数あります。まず、実際の試験時間内にすべての問題を解き切る時間感覚を養うことです。簿記の試験では、知識があっても時間が足りずに解けない問題があると致命的です。どの問題から手をつけるべきか、難しい問題にどれだけ時間をかけるべきか、こうした判断は実践を通してしか身につきません。
(2)自分の弱点を明確にするため
また、自分の弱点を明確にする効果もあります。
間違えた箇所は必ず復習し、なぜ間違えたのかを分析します。
根本的な理解が不足していたのであれば、該当する論点の講義動画を見直したり、テキストを読み返したりする必要があります。単純な計算ミスや転記ミスであれば、同じミスを繰り返さないための対策を考えます。
このように、できなかった理由をパターンに分けて、それぞれに適した対策を講じることが重要です。ただ漫然と問題を解くのではなく、一回一回の模擬試験を最大限に活用する意識を持ちましょう。
■どうすれば効率的に学習を進められるか
限られた時間で最大の成果を上げるには、学習方法にも工夫が必要です。ここでは、社会人が効率的に学習を進めるための3つのポイントをお伝えします。
(1)インプットとアウトプットのバランスを意識する
第一に、インプットとアウトプットのバランスを意識することです。講義を聞いてテキストを読むインプットも大切ですが、それ以上に重要なのがアウトプットです。簿記は「理解できる」ことと「解ける」ことの間に大きな差がある科目です。講義を聞いて理解したつもりでも、実際に問題を解こうとすると手が動かないという経験は、誰もが通る道です。
そのため、
できるだけ多様な問題を解き、実際に手を動かして計算する訓練を積むことが不可欠です。
また、一度やった部分も時間をおいてから見直すことで、知識の定着度を確認できます。忘れかけた頃に復習することで、長期記憶として定着しやすくなる効果もあります。
(2)スキマ時間を徹底的に活用する
第二に、スキマ時間を徹底的に活用することです。社会人の場合、仕事が忙しくてまとまった学習時間が取れない日もあるでしょう。そんなときこそ、通勤時間や昼休み、待ち時間といったスキマ時間が貴重な学習機会となります。
スマートフォンで講義動画を視聴したり、アプリで仕訳問題を解いたりすることで、1日の中で細切れに学習時間を積み重ねることができます。今までテレビやSNSを見ていた時間を学習に切り替えるだけでも、月単位で見ると大きな差が生まれます。特に移動時間は集中しやすい時間帯でもあるので、積極的に活用しましょう。
(3)本番に近い環境での練習を重視する
第三に、本番に近い環境での練習を重視することです。前述の模擬試験もその一つですが、実際の試験会場をイメージしながら、緊張感を持って問題に取り組む経験が重要です。自宅でリラックスして解ける問題も、試験会場の独特の雰囲気の中では思うように解けないことがあります。
時間配分の訓練も含めて、本番を想定した練習を繰り返すことで、試験当日のミスを最小限に抑えることができます。
簿記を深く理解している人ほど、試験対策をしっかり行うことで実力を発揮できるのです。
■まとめ:どうすれば合格という目標を達成できるか
日商簿記2級に合格するために必要な勉強時間は300〜500時間です。社会人として働きながらこれだけの時間を確保するのは、確かに簡単なことではありません。しかし、この努力は決して無駄にはなりません。
日商簿記2級は転職市場で非常に高い評価を受ける資格です。経理職はもちろん、営業や企画、管理部門でも、財務諸表を読める力や原価意識を持っていることは大きなアドバンテージとなります。この資格を取得することで、キャリアの選択肢が広がり、年収アップのチャンスも増えるのです。
学習期間中は大変かもしれませんが、一生続くわけではありません。数か月から半年という限られた期間、集中して取り組むことで、その後の人生に大きなリターンをもたらしてくれる投資だと考えてください。
もし「もっと短期間で合格したい」と考えているなら、集中的な学習プランを検討するのもよいでしょう。状況によっては、3級を飛ばして2級に挑戦することも可能です。ただし、その場合はより綿密な計画と強い意志が必要になります。
大切なのは、自分に合った方法で、無理なく継続できる計画を立てることです。平日と週末のバランスを考え、スキマ時間を活用し、インプットとアウトプットを繰り返す。そして何より、模擬試験を通じて本番に備える。こうした基本を着実に実行すれば、必ず合格という目標に到達できます。
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