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管理会計とは?基本概念と財務会計との違いを解説

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2025年9月4日 ジャスネットキャリア編集部

現代のビジネス環境では、企業の持続的な成長と競争力の維持が重要な課題となっています。その中で、経営者や管理職が適切な意思決定を行うために欠かせないのが管理会計です。しかし、管理会計という言葉を耳にしても、具体的にどのような役割を果たし、なぜ重要なのかを理解している方は意外に少ないかもしれません。

本記事では、管理会計の基本的な概念から実践的な活用方法まで、わかりやすく解説していきます。また、よく混同されがちな財務会計との違いについても詳しく説明し、企業経営における管理会計の真の価値をお伝えします。

目次

■管理会計とは何か

(1)管理会計の定義と目的

管理会計とは、 企業内部の経営管理者が適切な意思決定を行うために必要な会計情報を提供する仕組みのこと です。通常想定されている会計(財務会計といいます)が主に外部への報告を目的としていたのに対し、管理会計は企業内部での経営判断をサポートすることに特化しています。

具体的には、売上や費用の詳細な分析、部門別の収益性の把握、将来の業績予測、投資案件の評価など、経営陣が日々直面する様々な判断材料を財務会計と異なる角度から提供し、時に管理会計から導かれた数値をグラフや指標といった情報で提供します。これにより、感覚や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいた経営判断が可能になるのです。

管理会計の最も重要な目的は、経営の基本計画や予算編成や予算統制を通じて、 企業の価値向上と持続的な成長を実現すること です。そのために、現状の正確な把握、問題点の早期発見、改善策の効果測定、将来計画の策定といった一連のプロセスを管理会計を通して支援します。また、組織内の各部門や担当者が自らの業績を客観的に評価し、改善に取り組むための基盤も提供します。

(2)管理会計が企業に与える影響

管理会計の導入は、企業の経営体質そのものに大きな影響を与えます。まず、管理会計の導入に成功すれば、 経営の透明性が大幅に向上 します。これまで漠然と感じていた課題や問題点が数値として明確に浮かび上がることで、何をどのように改善すべきかが具体的に見えてくるのです。

例えば、ある製品の収益性が低いと感じていても、管理会計により詳細な原価分析を行うことで、材料費なのか人件費なのか、それとも間接費の配賦に問題があるのかが特定できます。問題の根本原因が明確になれば、効果的な対策を講じることができ、結果として企業全体の収益性向上につながります。

また、管理会計は組織運営の効率化にも大きく貢献します。各部門の責任範囲と成果が明確になることで、無駄な作業の削減、重複業務の整理、リソースの最適配分が可能になります。さらに、従業員のモチベーション向上にも寄与します。自分たちの仕事の成果が数値として評価され、それが適切に処遇に反映される仕組みが整備されることで、より積極的に業務に取り組む環境が生まれるのです。

このため、長期的な視点で管理会計を見てみると、企業の競争力強化に貢献します。市場環境の変化に迅速に対応し、新しいビジネスチャンスを的確に捉えるためには、正確で迅速な情報収集と分析が不可欠です。管理会計を上手く活用すれていれば、こうした変化に素早く対応し、競合他社に先駆けて適切な戦略を実行することができるのです。

■財務会計との違い

(1)財務会計の基本概念

財務会計について理解することは、管理会計との違いを明確にする上で非常に重要です。 財務会計は、企業の財政状態や経営成績を外部の利害関係者に対して会計情報の提供を目的とした会計の総称です。 株主、債権者、取引先、税務当局など、企業の外部にいる様々なステークホルダーが企業の財政状態や経営成績を把握するために活用します。

財務会計では、一定のルールや基準に従って会計処理が行われます。日本では企業会計原則や会社法、金融商品取引法などの法的要請に基づき、統一された方法で財務諸表が作成されます。これにより、異なる企業間での比較可能性が確保され、投資家や債権者が適切な判断を行うことができるのです。

財務会計の主要な成果物である財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などがあります。これらの書類は、企業の実績を正確に記録し、法的な要件を満たす形で作成される必要があります。そのため、財務会計は既に確定した取引や事象を客観的に記録することに重点が置かれています。企業は、財務会計の成果物である財務諸表を通じて、経営情報の透明性を確保し、外部の利害関係者との信頼関係を築くことができます。

(2)管理会計と財務会計の比較

管理会計と財務会計の最も大きな違いは、その目的と対象者にあります。 財務会計が外部報告を目的とするのに対し、管理会計は内部管理を目的としています。

財務会計は、企業の財政状態(資産や負債など)や経営成績(利益の状況)を客観的に把握でき、投資や取引の意思決定に役立てることが第一義的な目標です。

これに対して、管理会計は、経営陣(Management)が経営判断を行うときに利用する、経営管理のための会計です。主に企業内部での意思決定を支援する役割を担います。
この根本的な違いから、様々な特徴の違いが生まれてきます。

①報告の相手

まず、情報の利用者が大きく異なります。財務会計の情報は主に企業外部の投資家、債権者、規制当局などが利用しますが、管理会計の情報は経営陣、部門長、現場責任者など、企業内部の意思決定者が活用します。

②時間軸の違い

時間軸の違いも重要なポイントです。財務会計は過去の実績を正確に記録することが中心となりますが、管理会計では過去の分析に加えて、現在の状況把握と将来予想が重視されます。予算作成、業績予測、投資評価など、未来志向的な情報提供が管理会計の重要な機能となっています。

③報告の頻度

報告の頻度や詳細度も大きく異なります。財務会計では年次や四半期といった決まったタイミングで、法的要件を満たした形式の報告書が作成されます。一方、管理会計では日次、週次、月次など、経営判断に必要なタイミングで、必要な詳細度の情報が提供されます。

④準拠すべきルール

準拠すべきルールにも違いがあります。財務会計では法律や会計基準への準拠が要件となりますが、管理会計では必要に応じて企業独自の基準や方法を採用することができます。これにより、各企業の業種や規模、経営方針に最も適した形で管理会計システムを構築することが可能になります。

■管理会計の主な業務

(1)予算実績管理

予算管理は管理会計の中核的な業務の一つです。 企業が将来の事業計画を数値化し、その達成度を継続的に監視することで、経営目標の実現を支援します。 単純に予算を作成するだけでなく、実績との差異を分析し、必要に応じて修正を加えていく動的なプロセスとなっています。

この予算実績管理の利点は、計画と実際の数値を比較することで、目標を下回った要因を明らかにし、次回の達成に向けて戦略を見直せるところにあります。

(2)原価管理

原価管理は、企業の収益性向上において最も直接的な影響を与える管理会計業務です。 モノやサービスを作るのにかかったコスト(材料費・人件費・経費など)を正確に把握し、それを適切にコントロールすることで、利益率の改善と競争力の強化を実現します。 単純にコストを削減するだけでなく、いくらでサービスを提供すべきかという価格の決定にも寄与します。

たとえば製造業なら、「1個あたりいくらで作れるか」を事前に見積もり(標準原価)、実際にかかった費用(実際原価)と比較します。差があれば、その原因を分析し、「無駄な材料が多かったのか」「作業時間が長すぎたのか」などを確認して改善につなげます。

(3)資金繰りの管理

資金繰りの管理は、 企業の持続的な事業運営を支える重要な管理会計業務 です。いくら帳簿上の利益が出ていても、手元資金が不足すれば企業は存続できません。特に成長期の企業や季節性のある事業では、適切な資金繰り管理が事業の成功を左右する要因となります。

具体的には、売上代金が入る時期、仕入れや設備投資に支払う時期、借入金を返す時期、人件費の支出時期、税金支出など、資金の入出金をカレンダーのように並べて把握します。そのうえで、過去の実績データを参考にしつつ、今後の事業計画や景気の変化も踏まえて資金繰り予測の精度を高めることが求められます。

(4)経営分析・意思決定

経営分析と意思決定支援は、管理会計の最も高度で戦略的な業務です。 企業が直面する様々な経営課題に対して、客観的なデータと分析に基づいた解決策を提示し、経営陣の意思決定をサポートします。 経営分析を実施すると、自社がどれだけ利益を生み出しているか、資産をどの程度安定的に活用できているかといった現状を客観的に確認でき、その中から強みや改善すべき課題を見つけ出すことが可能になります。

この業務では、単純な数値の集計や比較だけでなく、ビジネスの本質を理解した上での洞察力が求められます。

■管理会計を導入することのメリット

(1)経営判断の質を向上させる

適切な管理会計の導入は、 経営判断の質を飛躍的に向上させます。 従来の勘や経験に頼った意思決定から、客観的なデータに基づいた科学的な意思決定への転換が可能になるのです。これは特に、事業規模が拡大し、一人では管理できない複雑化した企業において大きな力を発揮します。

意思決定の迅速化も重要なメリットの一つです。管理会計システムが整備されていれば、必要な情報を素早く収集し、分析することができます。市場環境の変化に対する対応速度が競争力に直結する現代のビジネス環境において、この迅速性は企業の生存に関わる重要な要素となっています。

また、意思決定の説明責任も強化されます。なぜその判断を行ったのか、どのような根拠に基づいて決定したのかを明確に説明できるようになります。これは株主や投資家に対する説明責任を果たすだけでなく、組織内部での合意形成や納得感の醸成にも大きく貢献します。従業員が経営方針を理解し、一致団結して目標に向かって努力する組織文化の構築にもつながるのです。

(2)コスト削減と効率化

管理会計は、企業のコスト構造を詳細に分析し、効率的な資源配分を実現するための強力なツールです。単純にコストを削減するだけでなく、付加価値を生まない活動を特定し、より価値の高い活動に資源を再配分することで、企業全体の生産性向上を実現します。

無駄な作業や重複業務の発見と削減は、管理会計による効率化の典型例です。各部門の活動を詳細に分析することで、本来不要な作業や、複数の部門で重複して行われている業務を特定できます。これらの改善により、同じ成果をより少ない資源で達成することができ、空いた資源をより重要な活動に振り向けることができます。

(3)部門別の業績評価が可能

管理会計により、企業内の各部門や担当者の業績を客観的かつ公正に評価することが可能になります。これは組織運営の効率化と従業員のモチベーション向上において極めて重要な機能です。適切な評価システムの構築により、企業全体のパフォーマンス向上を実現することができます。

部門別・セグメント別に事業を見ていくことにより、各事業部の責任範囲と評価基準が明確になります。営業部門であれば売上高や粗利益率、製造部門であれば生産効率や品質指標、管理部門であればコスト管理や業務効率など、それぞれの部門の特性に応じた評価指標を設定できます。これにより、各部門が自らの役割を明確に理解し、責任を持って業務に取り組む体制が整備されるでしょう。

■管理会計の導入方法

(1)導入前の準備と計画

管理会計システムの導入を成功させるためには導入前の準備と計画が大切です。十分な準備なしに導入を進めると、システムが十分に活用されなかったり、現場に混乱を生じさせたりする可能性があります。段階的で計画的な導入プロセスを設計することが成功の鍵となります。

最初に最も重要なことは、ビジネスの理解です。自社がどのようなプロセスで収益を獲得しているのか。その内容を見えるようにすることです。見える化された事業の内容、事業活動実態をベースを把握することが、どのような会計処理するのが適切かに近づく1歩になります。

その上でプロジェクトチームの編成を行います。経営陣のコミットメントを得ることはもちろん、経理財務部門、情報システム部門、各事業部門から適切なメンバーを選出し、役割と責任を明確にしたプロジェクトチームを組織します。外部コンサルタントの活用も時には必要ですが、まずは社内の知識とノウハウの蓄積を重視し、内部人材を中心としたチーム構成とすることが望ましいです。

こうした作業の後に、業務プロセスの現状分析と改善作業を行います。現在の管理会計業務がどのように行われているのか、どこに問題があるのか、どのような改善が必要なのかを詳細に分析します。システム導入を機会として、業務プロセス自体の見直しと改善を行うことで、より大きな導入効果を得ることができます。

■まとめ:管理会計の重要性と今後の展望

管理会計は、現代企業の経営において不可欠な基盤となっています。グローバル化の進展、技術革新の加速、顧客ニーズの多様化など、企業を取り巻く競争環境がますます複雑化する中で、管理会計の重要性はさらに高まっています。

これまで見てきたように、管理会計は単なる数値の集計や報告にとどまらず、企業の戦略策定、業務改善、組織運営の効率化において中核的な役割を果たしています。適切な管理会計システムの導入により、企業は客観的なデータに基づいた意思決定を行い、持続的な競争優位性を構築することができるのです。

企業が長期的な成長と発展を実現するために、管理会計は今後ますます重要な役割を担っていくことになるでしょう。今こそ、自社の管理会計システムを見直し、新たな価値創造の基盤として活用していくことを検討すべき時期と言えるのではないでしょうか。適切な管理会計システムの導入と活用により、企業は確実に競争力を高め、持続的な成長を実現することができるはずです。

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執筆者プロフィール

ジャスネットキャリア編集部

WEBサイト『ジャスネットキャリア』に掲載する記事制作を行う。
会計士、税理士、経理パーソンを対象とした、コラム系読み物、転職事例、転職QAの制作など。
編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。

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