ここでは「今まで経理業務の経験がない」という方のために、業務で求められることの多い「買掛金管理」について、そもそも『買掛金』とは何か、また具体的な業務内容はどんなものなのかについて、わかりやすくご説明いたします。
「買掛金」とは?その業務内容と管理のポイント解説
税理士 田中 義晴
目次
■「買掛金」とは?
■「買掛金」の業務内容
■「買掛金」管理のポイントは?
■「買掛金管理」の採用ニーズ、および時給はどのくらい?
■経理業務における伝票
■「買掛金」とは?
『買掛金』とは、取引先から購入したものに対して、まだ支払いをしていない状態のお金のことを言います。未払金、未払費用などとも呼ばれます。
商売の原理原則は、“品物と現金の交換”になりますが、業務を行う上で必要な原材料や商品、備品など、様々なものを都度、請求書をもらい支払いをしていたのでは業務過多となってしまいます。
そこで通常は請求書を受け付ける期日(月末など)を決めて、1カ月分の支払いをまとめてすることになります。
経理担当者はその支払いがいくらになるのか、金額が間違っていないかなどを含めて厳密に管理しなくてはなりません。様々な発注に対し、まだ支払っていない金額を帳簿に入力する際に使用する勘定科目が『買掛金』になります。
『買掛金』はこれから支払うべき債務になるため、会社の資産状況を表した賃貸対照表では「負債」に含まれます。最終的には与信管理の際などに取引先から厳密にチェックされることになるため、経理担当者が日々の管理を徹底することが重要です。
ちなみに『売掛金』(注1)とは、商品やサービスを販売したため売り上げは発生しているものの、それに対しての代金が回収できていない状態(未回収の代金)のことを指します。『買掛金』とは対になる反対の勘定科目です。
■「買掛金」の業務内容
経理事務における『買掛金』の業務内容を以下となります。
(1)仕入れ先との取引の管理
経理担当者は、仕入先との取引に関連する情報を定期的に社内の会計システムの買掛金元帳で確認し、正確な買掛金残高を把握しなくてはなりません。
仕入担当者とのコミュニケーションを怠らず、誰がいつ、どこに、何を発注したのか、経理担当者も把握しておく必要があります。
(2)請求書の処理と入力
会社の締め日に応じて(月末など)取引先からその月の請求書が届きます。
仕入先から請求書が届いたら、まずその請求書の内容が実際に発注した数量、単価と合致しているのか必ず確認しなければなりません。請求書の記載ミスは少ないですが、まれに生じることがあります。
そのため支払い前に、発注したものと納品された内容が正しいかの確認は必須です。これは「検品作業」といい、納品伝票と実物に相違がないか確認する作業です。ただし、この確認作業は仕入担当者社がすることも多いです。
そして請求書の確認が完了したら会計ソフトに仕入/買掛金の仕訳を入力します。仕訳の入力が完了したら、支払日に合計でいくらの金額が必要になるのか確認し、支払いの準備を行います。
(3)支払い管理とスケジュール作成
経理担当者は、あらかじめ買掛金の支払先ごとに締め日、支払方法の確認、振込手数料の負担先など、基本的な支払いに関する情報を確認し整理しておく必要があります。
そして支払日に請求書に記載されている内容に基づいて実際の支払い業務を行います。
支払業務に関しては、経理担当者の勝手な支払いや不正防止の観点から、通常は決裁権のある経理部長や社長などが承認者となることが多いです。
以下に関しては、経理事務の段階で求められることは少ないと思いますが、スキルアップしていくと必要になり、最終的には経営判断に関わるような業務につながっていきます。
(4)買掛金の調整と債務管理
預金残高が少ない会社や資金繰りが厳しい会社は、買掛金の支払いに必要な預金残高を確保する必要が生じます。資金繰りの調整ができる経理担当者は経営者にとって心強い存在です。
さらに業務オペレーションを見直し、仕入先の変更や製造方法を検討することで発注金額を下げることができれば、結果的に買掛金を減らすことができます。
その結果、預金を増やすことも可能なため、経営者が会社全体の利益について検討する際に必要な「資金繰りの問題」につながっていきます。ここにCFOや経理部長に対して、財務的な目線でアドバイスができるようになると、代えがたい経理人材として会社に貢献できるのではないでしょうか。
■「買掛金」管理のポイントは?
買掛金は会社にとっては「負債」なのですが、相手から請求書が届かない限り金額を確定することができません。月末ごとに作成する試算表などでは、概算で数字を入れて作成する場合もありますが、最終的には1円単位まで金額を確定する必要があります。
経理事務担当の実務としては「仕入れ先に請求書をなるべく早めにもらう」「遅れている場合は督促する」ということがとても重要になります。
請求書を受け取ってからは、ミスがないかを確認して処理をし、期日に余裕を持って決済権者に渡すことで、スムーズな支払いが行われることになります。
また教科書的なセオリーとしては、会社経営の運転資金は「売上代金をもらってから仕入代金を払った方が良い」とされています。確かに資金繰りの面では先にもらって後で払った方が良いですが、実際の経営では必ずしもそうだとは言えません。
自分の会社からさらに協力会社に仕事を依頼している場合などは、こちらからの支払いはなるべく早く行うことが、取引上の信頼関係を結ぶ上では重要だったりするからです。
一例ですが、現在の建設業では人手不足がはなはだしく、業務を委託する協力会社が確保できずに仕事の受注ができない、というようなことが起こっているようです。つまりそれは会社の売上が立たないといことになります。
そういった時にも助けてもらえるよう、日ごろから買掛金の支払いなども期日を守り、なるべく競合他社より早く支払いをすることで、協力会社と良好な関係を築いておくことが大切だとわかるのではないでしょうか。
■「買掛金管理」の採用ニーズ、および時給はどのくらい?
下記記事の「経理事務」の採用ニーズ、「経理事務」の時給はどのくらい?と同様になりますので、そちらを参照ください。
■経理業務における伝票
今後は経理の分野でもデジタル化はさらに進み、買掛金・売掛金の入力作業などはAIなどに代替されていくことになると思います。また最初の段階の経理事務の業務は、そこまで難しいものではありません。
経理としてのスキルを積み上げていきたいと思うのでしたら、さらに知識を深め、経理部門のマネージャーやエキスパートとしてより高度な業務に関わることで、なくてはならない人材になることができると思います。
経理としての経験をもとに人間でなくでは判断できない部分を担っていくことのできる経理人材を目指しましょう。
- 執筆者プロフィール
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田中 義晴(たなか よしはる)
税理士大学卒業後、父の経営する税理士事務所に勤務し、2000年に税理士資格を取得。
2011年にはグロービス経営大学院を卒業し、MBAも取得した。中小企業の事業経営を通じて税務署対策、資金繰りや人の問題、上場企業のようにコスト削減ができないジレンマを経営者の立場から実感している。また、税理士業とは別に小売業、飲食業の経営者としても実業を営んでおり、りそな総研・東京商工会議所などでセミナー講師も務めている。
経営の実情と理論に裏付けられた実践的指導は、多くの経営者から絶大な信頼を得ており、その信念は「経営者が活き活き、精力的に会社経営ができるお手伝いをすること。そして経営者が自分の進むべき道に行くためのサポートをすること」。
経理部門の地位向上を図るために経理合理化プロジェクトを推進中。