新規登録 求人検索
新規登録

最初に押さえる原価計算の基本【第1回】原価計算の目的・基本的な手続きの流れ

写真1

2025年12月26日 伊藤 隆雄

このコラムでは、原価計算が法人税・企業会計とどのようにつながっているのかを整理したうえで、原価計算の目的と基本的な手続きの流れを解説します。経理部門でこれから原価計算の業務にすることになった方、また初めて学ぶ方はもちろん、実務であらためて整理したい方にも役立つ内容です。

目次

■原価計算と法人税との関係

原価計算は、法人の利益計算の基礎となるため、法人税額の計算に密接な関係があります。

法人税法を学んだ方や、実務で携わっている方はご存じのことと思いますが、法人税法においては、原価計算の基本的なルールや計算手続きについては定められていません。法人税法では、原価計算のルールや手続きの根拠を何に委ねているのでしょうか。

(1)法人税法と企業会計原則との関係

法人税の課税標準となる「各事業年度の所得の金額」の計算方法については、法人税法第22条第1項において、「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と定められています。益金は資産の販売や役務(サービス)の提供の対価といった売上などの収益が該当し、損金は売上原価や販売費及び一般管理費などの費用が該当します。

また、益金の額と損金の額の計算方法は、法人税法第22条第4項において「別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と定められています。

なお、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、企業会計原則や中小企業会計指針、会社法の計算規定等が該当します。

このうち、 「企業会計原則」とは、昭和24年に企業会計制度対策調査会により公表され、法令ではないものの、すべての企業が会計処理を行う際に従わなければならない基準 です。

したがいまして、法人税の所得金額は、企業会計原則に沿って計算された「企業会計上の損益」を基礎とし、役員報酬や寄付金など、法人税法において「別段の定め」があるものについて、加算・減算を行うことにより計算されます。

(2)企業会計原則と原価計算基準との関係

企業会計原則は、一般原則、損益計算書原則、貸借対照表原則及びこれらを補足する企業会計原則注解により構成されています。

売上原価の計算方法は、損益計算書原則において、 「製造工業の場合には、期首製品たな卸高に当期製品製造原価を加え、これから期末製品たな卸高を控除する形式で表示する。」 とされています。

また、製品の製造原価の計算方法については、企業会計原則注解の「〔注8〕「製品等の製造原価について(損益計算書原則三のC)」において、「製品等の製造原価は、適正な原価計算基準に従って算定しなければならない。」とされています。

なお「適正な原価計算基準」とは、企業会計審議会が設定した「原価計算基準」を指しています。

■原価計算基準とは何か

「原価計算基準」とは、原価計算を制度化するための実践規範として、昭和37年に企業会計審議会により設定されたものであり、原価計算の目的や一般的基準、実際原価計算、標準原価計算など、原価計算の方法や手続きなどにより構成されています。

なお、原価計算基準は、企業会計原則の一環を成しているものの、それぞれの企業の原価計算手続きを画一的に規定するものではなく、この基準にのっとり、業種、経営規模など企業の条件に応じて、実情に即するように適用されるべきものであるとされています。いわば、原価計算の教科書的ルールブックといえます。

■原価計算の目的

原価計算の目的について、原価計算基準では、次の5つが掲げられています。

(1)財務諸表作成のための原価集計

売上原価の計算式は、損益計算書においては下記となります。

「期首製品棚卸高」+「当期製品製造原価」-「期末製品棚卸高」

また、当期製品製造原価の計算式は、製造原価報告書において下記となります。

「期首仕掛品棚卸高」+「当期総製造費用」-「期末仕掛品棚卸高」

したがいまして、 売上原価を正しく計算するためには、仕掛品や製品の在庫金額を正しく計算する必要があります

なお、会社の資産の状況を正しく表すためには、貸借対照表に計上される材料費・仕掛品・製品等の棚卸資産の金額が正しく計算される必要があります。

そのためには、材料費・労務費・製造経費といった製造原価を集計したうえで、原価計算を行い、仕掛品棚卸高や製品棚卸高を正確に計算する必要があります。

(2)価格計算のための原価資料の提供

客先との販売価格の交渉において、「見積書」の作成・提出を行いますが、販売価格を適正に見積もるためには、 製品別の製造原価の見積(見積原価計算) が必要となります。

原価計算を行うことにより、製品別の製造原価の実績や、賃率や加工費の時間当り単価(レート)など、見積原価計算に必要な原価情報を提供することができます。

(3)原価管理のための原価資料の提供

原価管理とは、目標利益を達成するために、製品別の目標原価を設定し、目標原価の範囲内で製品の製造を行うことができているかを確認し、目標原価を超えている場合は、製造作業の見直しなどの改善活動を行い、目標原価の範囲内に納めようとする活動をいいます。

原価管理を行うためには、製品の製造に実際に要した製造原価(実際原価)を把握することが必要ですが、原価計算を行うことにより、製品ごとの実際原価を把握することができます。

(4)予算編成・予算管理のための原価資料の提供

事業年度の予算編成は、1年間の売上高の見通しに基づいて売上目標や利益目標を立て、これらの目標に対応する売上原価目標を設定します。

売上原価の予算編成については、製品別の材料費や外注費など変動費の総額と、工場全体の労務費や経費など固定費の総額を合計する方法などがあります。変動費は、製品ごとの販売予定数量に変動費の単価を掛けることにより計算することができます。

上記の方法の場合、売上原価予算を正確に計算するためには、原価計算に基づいて計算された製品別の変動費を参照する必要があります。

また、製品別の販売予定数量と製品別の作業時間を掛けることにより、工場全体の総作業時間を見積もることができ、年間の生産計画や要員計画を立案することができます。

なお、事業年度開始後は、月次決算を行い、毎月の売上高や利益の予算に対する達成率を確認する必要があります。

目標利益と実際利益との差額を分析するためには、製品別の原価分析を行う必要があり、原価計算に基づいて製品別の売上原価を把握する必要があります。

(5)経営計画策定のための原価資料の提供

中期計画や長期計画などの経営計画を策定する際にも、事業年度の予算編成と同様に、売上目標や利益目標を立て、これらの目標を達成するための製品ごとの売上高目標や売上原価目標を設定します。

そのため、売上原価目標を正確に計算するためには、原価計算に基づいて計算された製品別の変動費や作業工数を参照する必要があります。

■原価計算の手続きの流れ

(1)原価の費目別集計

製品を製作するために工場で発生する様々なコストを 「製造原価」 といいます。これらの製造原価は、材料費、労務費、電力量、消耗品費などの費目別に集計されます。費目別に集計された製造原価は、さらに材料費、労務費、製造経費に分類されます。

なお、製造原価報告書においては、「勘定科目」を用いて、製造原価の費目別集計が行われています。

(2)原価の部門別集計

工場には、製品の加工・組立を行う「製造部門」のほか、材料の購入・払出などを行う資材管理部門、生産計画から出荷までの各工程を管理する生産管理部門、検査や工場全体の品質管理を担当する品質管理部門など、製造作業をサポートする「補助部門」が設けられています。

工場の規模が大きくなるにつれ、多種類の製品を扱うようになると、複数の製造ラインや製造部門が設置されるようになるため、製造ライン別や製造部門別の製造原価を集計する必要がでてきます。この場合、それぞれの製造ラインや製造部門における生産量が異なることなどから、材料の払出や機械装置のメンテナンスなど、補助部門の提供する業務の頻度や割合が異なるため、製造原価を製造部門別・補助部門別に集計したうえで、補助部門の製造原価を各製造部門への業務の提供割合などに応じて配分する必要があります。

また、原価計算の目的として、予算編成で設定された売上原価目標を達成するために、予算管理を行う必要があることから、工場内の各部門を「原価部門」として設定し、製造原価を原価部門別に集計し、各部門で発生した製造原価が予算の範囲内に収まっているか確認する必要があります。

さらに、製品別の原価計算を正確に行うためには、製品ごとの使用量や消費量を正確に把握する必要があります。原価計算の方法によっては、製造作業に直接携わる従業員の労務費を「直接労務費」として、1時間または1分当りの労務費(賃率)を計算し、製品ごとの作業時間に賃率を掛けて「直接労務費」の計算を行う必要があります。そのためには、製造部門の労務費が補助部門の労務費と明確に分けられる必要があります。

以上のことから、工場の各部門を「原価部門」として設定し、製造原価を原価部門ごとに集計する必要があります。

(3)原価の製品別集計

製品別の原価を把握するためには、費目別・部門別に集計された製造原価を製品別に集計する必要があります。

製造原価を製品別に集計する方法は、個別原価計算と総合原価計算に大別されます。

個別原価計算は、受注生産を行う製品に適しており、総合原価計算は、継続して大量に生産する製品に適しています。

■製造直接費・製造間接費とは何か

(1)製造直接費

製造直接費とは、製品の生産活動において、製品別に投入数量や消費数量を把握することが可能である製造原価をいいます。

①直接材料費

材料費のうち、原材料や部品など、払出記録を行うことにより、製品別に投入数量や消費数量を把握することができるものが該当します。

②直接労務費

労務費のうち、製造作業に直接携わる従業員(直接工といいます)に対する給与、賞与、法定福利費が該当します。

③直接経費

製造経費のうち、外注加工費など、特定の製品の製造作業に関連して発生するものが該当します。

(2)製造間接費

①間接材料費

ウエスや油脂類などの消耗品や、製品別の払出記録を行わずに出向されるボルト・ナットなどの金額の小さい部品などが該当します。

なお、間接材料費に該当する製造原価は、製造原価報告書では、消耗品などの勘定科目に計上され、製造経費に分類されることが多いです。

②間接労務費

生産管理業務や資材管理業務など、製品の製造作業を直接行わない従業員(間接工といいます)に対する給与、賞与、法定福利費が該当します。

③間接経費

製造経費のうち、製品別の使用量や消費量が特定できないものが該当します。製造原価報告書に製造経費として計上されている勘定科目のうち、外注加工費や、特定の製品の据付けや修理作業に伴う出張旅費などを除き、間接経費とされる場合が多いです。

(3)法人税基本通達における製造間接費の取り扱い

仕掛品棚卸高には、期末時点で製作途中の製品(仕掛品)に使用されている材料や、加工・組立に係る労務費や製造経費が含まれます。ただし、国税庁が次の通達を出していることから、製造間接費については、仕掛品棚卸高に含めていない中小の製造企業様も多いのではないのでしょうか。

※国税庁の通達
(製造間接費の製造原価への配賦)

5-1-5 法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品又は仕掛品に配賦することが困難である場合には、その製造間接費を半製品及び仕掛品の製造原価に配賦しないで製品の製造原価だけに配賦することができる。

出典:国税庁ホームページ 第2款 製造等に係る棚卸資産
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_02.htm

関連リンク

執筆者プロフィール

伊藤 隆雄(いとう たかお)
税理士

合同会社原価計算 代表社員

2003/2-2006/9
エイチエス証券株式会社引受審査部所属
2006/9-2010/7
あずさ監査法人第5事業部(IPO専門部署)所属
2010/8-2012/10
あずさ監査法人 IT監査部所属
2012/10-2017/11
LINE株式会社 内部監査室 マネージャー
2017/11-2020/9
ライフアンドデザイングループ 取締役CFO
2020/10-2023/1
日本M&Aセンター TPM事業部 上場審査部 JQS

新着記事一覧

経理のためのコラム集

経理転職に関するカテゴリーごとにまとめたページです。

会計人の人生観・仕事観を紹介「Accountant's Magazine」最新号

「Accountant's Magazine」は、著名な会計プロフェッションにスポットをあて、その人生観・仕事観を紹介。会計・経理分野に従事する人と仕事の将来像を提示する、読者と共に考えるヒューマンドキュメント誌です。今なら新規登録していただくと、「Accountant's Magazine」(WEB版)の全記事を無料で閲覧することができます。

新規登録をしてWEBマガジンを読む(無料)

関連コンテンツ