「公認会計士として監査法人で仕事をしているが、実は政治に興味がある」「公認会計士の資格を活かして政治に関わる仕事ができると知った」などの理由から、国会議員政策担当秘書の仕事に興味のある方もいらっしゃると思います。
実際に話を聞く機会はなかなかない職業ではありますが、公認会計士の資格を持ち、国会議員政策担当秘書として仕事を担ったことのある先生にお話を聞くことができました。
大変貴重なお話になっておりますので、興味のある方はぜひご一読ください。
公認会計士のための「国会議員政策担当秘書」仕事の魅力、業務内容は?
「公認会計士として監査法人で仕事をしているが、実は政治に興味がある」「公認会計士の資格を活かして政治に関わる仕事ができると知った」などの理由から、国会議員政策担当秘書の仕事に興味のある方もいらっしゃると思います。
実際に話を聞く機会はなかなかない職業ではありますが、公認会計士の資格を持ち、国会議員政策担当秘書として仕事を担ったことのある先生にお話を聞くことができました。
大変貴重なお話になっておりますので、興味のある方はぜひご一読ください。
国会議員政策担当秘書は、主に政策立案及び立法活動を補佐する日本の国会議員の秘書です。議員が国費で雇用できる公設秘書3人のうちの1人(政策秘書、第一秘書、第二秘書)で、衆参両院の主催する国会議員政策担当秘書の資格試験に合格するか、選考採用審査認定を受けた者が就任することができます。
ただし実際には、「10年以上の秘書在職」を以て審査認定を得た者が9割程度で大半を占め、高度な国家試験合格者(*1)等それ以外の要件による審査認定者と、前述の政策担当秘書資格試験に合格した試験組は合わせても1割程度しかいません。試験の難易度は、国家公務員総合職試験(旧国家公務員採用Ⅰ種試験)と同レベルとされていますので、費用対効果を考えると思い切ってトライしづらいのかもしれません。
*1 公認会計士の場合は弁護士等とならび高度の試験合格者として、資格試験に合格しなくとも選考採用審査認定を受けることで政策担当秘書資格が付与されます。
わたしの場合は、いわゆる小泉(純一郎)旋風が吹き荒れた際、与党(自由民主党)からはじめて、公認会計士資格を有する代議士が誕生し、日本公認会計士協会会長へ政策秘書の件で相談が行き、たまたまお鉢が回ってきたというところでしょうか。
もともと、会計士補会の代表をしていた際、故中川昭一先生の薫陶を受け、講演会開催等を通じて、中曽根康弘先生、宮澤喜一先生等、歴代総理と直接お会いしてお話を伺う機会をえた事などを通じて、政治の世界に対する漠然とした憧れのようなものもあったと思います。
さらに遡れば、大学の偉大なる先輩である故白鳥栄一先生(元・アーサーアンダーセン日本代表、国際会計基準委員会委員長)のご紹介でお会いしたアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)のトップの方が、政策秘書へ転身をはかられたお話を伺っていたことも影響しています。
国会議員の主な仕事は、平たく言えば「法律」を作ること。公認会計士監査の仕事は、あらかじめ定められた一般に公正妥当と認められた会計基準に照らして、その適否に関する意見表明を行うことですから、その意味では、真逆の仕事といえます(もちろん、公認会計士も企業会計基準委員会や金融庁の監査・内部統制部会等、メンバー単位ではルール作りには参画しています) 。
「ルールは作るもの」、「ルールは守るもの」の考え方の違いと言えば分かりやすいでしょうか。この点、大きな衝撃を受けたことを覚えています。
健全なる懐疑心を持って物事を冷静かつ批判的に検証する、公認会計士が監査業務を行う場合に叩き込まれるこのマインドセットは、政策秘書に限らず、どのような仕事に従事する際にも役に立つのではないでしょうか。
逆に、監査の場合、リスクアプローチ、リスクマネジメント等、リスクを回避すべきハザード(危険)ととらえがちですが、政治の世界ではリスクをオポチュニティ(機会)と捉える傾向が強いのではないでしょうか。
余りに慎重な判断は、政治の世界ではなじみにくいかもしれません。
国会議員政策担当秘書としての仕事は多岐に渡ります。以下に代表的なものを列記します。
代議士があらかじめ時間をもらって委員会質問などを行う場合、原案を作成します。作成に当たり、コーポレート・ガバナンス、CSR(企業の社会的責任)等の研究団体の役員を務め、継続的に勤しんできたことは、大変役立ちました。総論部分の書きぶりは、官僚のそれを凌駕していたと個人的には自負しています。
国会事務所へ訪問される方は、地元事務所に多い、生活に密着した陳情よりも、どちらかというと、様々な組織(企業、団体)のトップクラスの方が来訪しての提言といったパターンが多いと思います。中には、よからぬ企みを持つ方々も来訪されるため、審美眼や事務所間の情報交換等が必要な場合もあります。
わたしの場合は、専ら東京の衆議院会館勤務であったため、地元支援者の方との関係づくりで特筆すべきことはありません。無論、必要に応じて地方事務所に赴き、交流させていただいたことは、今でも思い出として残っています。
いわゆる小泉チルドレンと言われる国会議員は83名おり、「83(ハチサン)会」と命名され、政治団体も設立しました。記念本の出版を行い、出版記念パーティーを開催したりもしました。
代議士が、公認会計士であることから初代の会計責任者になった関係で、政治資金報告書作成の実務は専らわたしが行いました。
政治のお金に関するルールは企業会計の基準と比較するとアバウトなことが多く、他の事務所の秘書の方などから、公認会計士としてアドバイスを求められることもたびたびありましたが、正直判断に迷ったのを覚えています。
まずは、国家の根幹に関わる重要な情報を見聞きできる立場であることから、口が堅く、秘密を守れる人であることが求められます。
選挙で信任された国民の代表であり、一定の権力を有する国会議員の元には、様々な立場、利害を有する方たちが集まってきます。
したがって、相手の本音を引き出す対話力やその人の本質を見抜く力があることも求められます。
また、勤務実態も、事業会社のように9時~17時、土日はお休みという訳にもいきません。議員事務所は究極の個人商店、代議士も人間ですから、時にはストレスを秘書にぶつけて発散することもあるかもしれません。したがって、心身両面におけるタフさも重要です。
加えて、「機を見て敏」、「1を聞いて10を知る」と言えばいい過ぎかもしれませんが、状況判断の的確さや素早い行動力も求められるでしょう。
TVや映画などでは政治家の秘書は腹黒い悪役のイメージが強いですが、長く勤められる秘書の方は、実直、誠実で人の心の痛みがわかる思いやりのある方が多いと感じています。この点は記して強調しておきたいと思います。
政策担当秘書は基本的に、永田町の議員事務所勤務となるため、政策の意思決定メカニズムの坩堝の中で過ごすことになります。部会→委員会→国会と法律が制定される流れを見届ける、歴史の生き証人の一人にもなる訳です。
具体的な業務内容については、その他の項目でも触れていますので、ここではその一例を挙げましょう。
2000年代初頭からはじまった会計・金融ビックバンにより、関連法規等が改訂され、会計基準の設定主体が民間に移行(財務会計基準機構、企業会計委員会)、それまで許認可であった監査法人の設立も届出制に変更されました。
その後数年間を経て、皮肉なことに、中央青山監査法人が会計不祥事により解散劇に追い込まれ2007年7月21日解散、同年9月30日、金融商品取引法が改正されました。
会計の政策に長けていても票にはつながらず、流れを理解できていない政治家が、「なぜ、国家の大事なインフラを民間まかせや届出制にしているのか」と官僚を恫喝していたのを興味深く覚えています。一連の流れは、まるでドラマを見ているようでした。
無事、選考採用審査認定をクリアすれば、晴れて政策秘書の名簿(データベースのようなもの)に登録されることになります。理論上は、国会議員がその名簿から適任と思う人物を毎期あらかじめ定められた期日中に選び、両者の合意が成立すれば、当該事務所に採用されることになります。
しかし、極めて秘匿性の高い仕事ですから、どれだけの議員が、全く見ず知らずの他人をいきなり事務所経営の中枢を担うポストに招き入れるかどうかは正直わかりかねます。
また、政治家の事務所は究極の個人事務所ですから、良好な人間関係は極めて重要です。そのため、信頼しうる適任者がいない場合、既存の秘書等の人間関係にも配慮して、政策秘書を行いケースもあります。
国会議員本人が直接しっている人ならベストですが、信頼する人物、後援会、団体から推薦してもらうのがベストかもしれません。
いわゆる秘書官の場合、元警察官僚で警備、監察双方のトップを務められた金重 凱之さん(現:国際危機管理機構代表)のように、歴代総理の事務秘書官を3代続けて務められた方もおられますが、政策秘書は、前述のとおり政策立案のサポートというよりも、長く代議士に仕え、選挙や資金集めに長けた年長のベテラン秘書というイメージが強く、次から次へと事務所を渡り歩くというケースは稀かもしれません。詳しくは、下記、その後のキャリアをお読みください。
政策秘書の年収は約730万~1080万円といわれています。以前(バブル期)は約1200万円が上限でしたが、一連の公務員の人件費削減政策で予算が削られたと聞いています。ただし、国会議員の許可を得て兼業を営むことができます。
具体的には、議員の秘書の給与等に関する法律別表第一の定めるところにより、1級2号給以上の給与を受け取れます。したがって、下記別表3の内、下限362,200円×1.2(地域手当)=434,400円になります。
給与のほかには、住居手当、通勤手当、期末手当、勤勉手当が支給され、退職時には退職手当も受け取れます。政策秘書になったときの年齢に応じて金額は上下します。
別表第一(第三条関係)
級 | 号給 | 給料月額 |
---|---|---|
一 | 一 | 344,300円 |
二 | 362,200円 | |
二 | 一 | 417,400円 |
二 | 427,400円 | |
三 | 437,400円 | |
四 | 447,400円 | |
五 | 457,500円 | |
六 | 467,500円 | |
七 | 477,500円 | |
八 | 484,200円 | |
九 | 490,900円 | |
三 | 一 | 508,700円 |
二 | 519,600円 | |
三 | 526,800円 | |
四 | 534,000円 |
出典:国会議員の秘書の給与等に関する法律 別表第一(漢数字から英数字に変換)
アメリカの上下両院議員を支える政策スタッフ等とは異なり、政策秘書をステップに、例えば民間のシンクタンクや大学の教員なるといったケースは稀で、むしろ、民間企業に返り咲く際には、就いていた国会議員にもよるでしょうが、色眼鏡で見られることもあるでしょう。
公認会計士、弁護士等の有資格者の場合は、永田町時代に培った政官財の人脈を活かし、活躍の幅を広げることも可能になります。講演等を行う場合にも、他人と違った視点、国家の意思決定のダイナミズムの視点から話ができることは差別化と成り得るでしょう。
もちろん、政策秘書の経験を活かし、国会議員、地方議員、首長選挙に打って出る戦略もあります。というよりもそもそも秘書になる方の多くは、程度の差はあれ、議員になる色気を持ち合わせている人が多いのではないでしょうか。
政策秘書は刺激的な仕事です。一方、自身の人生設計の中での位置づけを明確にしておかないと、その後の人生に必ずしも良い影響があるとも限りません。
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