監査法人とは?もう迷わない監査法人の選び方(前編)大手と中小を徹底比較!

監査法人について色々調べてみると、監査法人には大きく大手監査法人と中小監査法人があることに気がつくのではないでしょうか。
公認会計士試験合格後は多くの方が監査法人へ就職します。今回の記事では大手と中小の監査法人の比較について、その両方を経験した公認会計士が解説します。
※近年は大手監査法人、準大手監査法人、中小監査法人という区分も見受けられますが、本稿ではわかりやすく大手監査法人と中小監査法人(準大手含む)とさせていただきましたのでご了承ください。
1.大手監査法人とは
監査法人業界では、大手と呼ばれる監査法人が4つ存在します。その名の通り大規模な監査法人で、大手が4つあることから4大監査法人やBig4監査法人といわれることがあります。
この4大監査法人とは、下記の4法人を指します。
- 有限責任あずさ監査法人
- EY新日本有限責任監査法人
- 有限責任監査法人トーマツ
- PwCあらた有限責任監査法人
それぞれ海外の大手会計事務所のメンバーファームとなっており、コンサルティングファームや税理士法人をグループに有しています。
働いている方の人数をみると監査法人だけで6,000人規模にもなり、グループファームであるコンサルティング会社や税理士法人などを含めると1万人規模にもなるとも聞きます。
監査法人が巨大化したのは、大企業の監査においても高品質な監査サービスを提供すべく、監査法人同士が様々な再編を経て現在の4大監査法人の姿となりました。
4大監査法人で働く方々は皆さん自分の監査法人が大好きで、「当監査法人はクライアント数ナンバー1です」や「当監査法人は監査の品質で1番です」「ベンチャーに強いのはうちの監査法人です」などとおっしゃいます。
監査法人は他の業種・業界と異なり、公に公表されたいわゆるランキングというものが明確には存在しません。クライアント数のランキングや売上高、公認会計士の数などで比較したりランキングをつけたりすることもありますが、そのランキングであなたの仕事内容が変わるわけでもありません。
外部からみた四大監査法人に対する評価も「大手監査法人ですね」という点では大きく変わらず、むしろ「○○先生が担当しているのですね」と個人が評価される業界です。個人が評価される点は中小監査法人も同様です。
2.中小監査法人とは
大手監査法人以外の監査法人は中小監査法人のカテゴリーとして見られます。
ただ、中小監査法人といっても300名以上の規模の監査法人から公認会計士数名の監査法人まで規模は様々です。また海外の会計事務所と提携している監査法人もあれば、提携していないところもありますし、中には上場企業の監査が認められる事務所としての登録をしていない(上場企業の監査を受託できない)監査法人もあります。
もし「海外事務所との提携がある監査法人がいいな」や「上場企業の監査を経験したい」という気持ちで中小監査法人を検討するのであれば、まずは希望する中小監査法人が海外事務所と提携しているのか、上場企業の監査を引き受けられるのか(上場会社監査事務所登録といいます)を確認しましょう。
中小監査法人というと監査の質や教育・研修制度を気にする方が多いのですが、多くの中小監査法人は大手監査法人出身者が存在し監査の質も高く保たれています。研修制度や福利厚生制度も整備されている事務所が多いので、そのような点ではあまり心配はいりません。
ただ中には、「うちの法人は新人を採用する制度はないから」という監査法人もありますので、さすがにそのようなところに試験合格後に入所するのはお勧めできません。
近年は企業が大手から中小へ監査法人を変更する動きが増えつつあり、中小監査法人のプレゼンスが高まってきています。大手の先生方に負けず劣らず中小監査法人の先生方も自分達の監査法人にプライドを持っており「大手に負けていませんよ」「フットワーク軽く、迅速に対応します」「一社一社、丁寧に監査をさせていただきます」など自分達の存在をアピールされています。
後述しますが中小監査法人の方が早くから様々な経験を積むことができるメリットもあります。中には海外業務に特化している監査法人もあります。
組織が小さい分、パートナーや先輩との距離も近く、監査のプロとしても社会人としても多くのことを短期間で吸収できる機会も中小監査法人のメリットかと思います。
3.大手監査法人と中小監査法人の特色について
ここからは、大手監査法人と中小監査法人を11項目の観点で分析していきます。
(1) 監査業務について
大手監査法人であっても中小監査法人であっても監査業務は監査業務です。本質的な違いはありません。また上述したように中小監査法人には大手監査法人出身者も多く、大手監査法人の品質管理に劣らない業務運営がなされている事務所が増えています。
大手監査法人ではグローバルネットワークに加盟し、グローバルファームで用いている監査ツールを導入しています。この点でも中小監査法人は積極的にグローバルネットワークに加盟し、グローバルファームの監査ツールを導入し、国際レベルの監査サービスを提供する法人が増えています。
また中小監査法人だからこそ小さな監査チームでパートナーや先輩から監査現場で密に先輩方からOJTが受けられたり、クライアントが小さいことから入所後の早い時期からインチャージとして監査業務全体を経験できたりすることもあります。
(2) クライアントについて
大手監査法人のクライアントにはグローバル企業が数多くあります。大企業だけに決算書には何千億円、何兆円という数字が並んでいて、新人の頃ですと会社のイメージがつかみにくいこともあります。
数字が大きいだけでなく、決算書の勘定科目や連結子会社も多く、会社の全体像を把握するのに時間がかかり、自分がこの会社の決算書を監査しているという実感がなかなかわきにくいことがあるかもしれません。
とはいっても自分が小さいころから親しんでいた会社や普段利用している会社、TVCMで見た会社の監査を担当できるのは嬉しいものです。
わたくし自身、新人1年目にしてヤクルト本社やローソンの監査チームに配属され、小さいころから飲んでいるヤクルトの工場に行けたり、普段使っているローソンの裏側を見ることができたりと、大変楽しく仕事をさせていただきました。
時価総額や会社規模でトップクラスの会社の監査を経験しようと思った場合は、大手監査法人が担当していることが多いため、必然的に大手監査法人を検討することになるでしょう。
一方、中小監査法人の場合でも上場企業クライアントは数多くあります。一口に上場企業といってもその規模は様々です。中小監査法人では上場企業でも小規模なクライアントも多いので、決算数値や会社全体像の把握がしやすいでしょう。
また、新人の頃から、クライアントの役員クラスと接する機会を得られたり、監査チームが少人数だからこそクライアントから専門家として期待をされたり、監査チームが小さいからこそ自身の成長チャンスがつかめることもあるでしょう。何よりも小さなクライアントが自分自身のアドバイスで成長していく姿を見るのは嬉しいものです。
もちろん大手監査法人でも小規模なクライアントがありますので、大手監査法人に行ったからといって小規模なクライアントに行けない訳ではありません。
自分がどのようなクライアントを担当し、どのような監査の経験を積みたいのか意識しておくとよいでしょう。
(3) 監査チームについて
大手監査法人の大企業クライアントは監査チームも何十人という人数で監査チームを組成します。そして大企業の監査の場合、最初の数年はどうしてもシンプルな科目の担当が続きます。簡単な突合作業の連続に「監査って地味ですね」とこぼす新人の声を聞いたことがあります。早く成長したいジレンマから「難しい会計処理や複雑な監査論点に早く挑戦したい」という焦りに近い思いが生じるかもしれません。そのような場合は大手監査法人でも、IPO支援チームや小規模な会社の監査チームへ配属させてもらうとよいでしょう。
一方、中小監査法人ですが大企業の監査の場合は大手監査法人と同様大人数の監査チームとなります。ただ上場企業でも比較的小規模な会社がクライアントのことも多いので監査チームも4人~6人ぐらいと少人数なことがほとんどです。そして少人数だからこそ監査チーム全体が何をしているのか把握しやすく、多くの科目や多様な監査論点を早めに経験できる機会も得られます。
さらにインチャージと呼ばれる現場の責任者も若手の頃から経験できることがあり、リーダーシップ力やマネジメント力、クライアントとのコミュニケーション力がいち早く身につけられる機会もあります。実際「早く成長して、早くインチャージがやりたい」という思いで中小監査法人を選ばれる方もいらっしゃいます。
(4)以降は、後編に続きます。


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