ニュース記事(2024年2月27日)
2024年2月27日の日経新聞の記事に、「金融庁、銀行融資の緩み点検へ コンプラ違反倒産急増で」という記事がありました。
ニュース記事概要
【要旨】
- 粉飾決算などコンプライアンス(法令順守)違反で倒産する企業が増えているため、金融庁は銀行の融資規律を点検する。
- マイナス金利政策解除で「金利ある世界」になれば、ずさんな融資が不良債権化するリスクも高まる。金融政策の転換も視野に金融システムの安定確保をめざす。
- 帝国データバンクによると2023年のコンプラ違反倒産は前年比26%増え、初めて300件を超えた。メガバンクや地方銀行が「優良先」として融資していたところも含まれる。
- 金融庁でモニタリング責任者をつとめる屋敷利紀審議官は融資規律の緩みに触れたうえで「融資に関するガバナンス、信用リスク管理体制について、立ち入り検査も活用しながら検証する」と話す。
この記事からは、コンプラ違反倒産を起こした企業が、貸出時に「優良先」として融資されていた点が問題となっていることがわかります。
このようなコンプラ違反倒産を起こした融資を事前に防止はできなかったのか、公認会計士監査の視点で考えてみたいと思います。
公認会計士の目
■ コンプラ違反倒産の定義と増加の背景
まず、記事にある「コンプラ違反倒産」というものはどのようなものなのでしょうか。
帝国データバンクによると、『架空の売り上げ計上や融通手形などの「粉飾」をはじめ、過積載や産地偽装などの「業法違反」、所得・資産の隠蔽などの「脱税」のほか、コンプライアンス違反が取材により判明した企業の倒産』と定義しているようです。
帝国データバンク資料のコンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2023年)によると、「全体の倒産が増加傾向で推移するなか、コンプライアンス違反倒産も2年連続で前年を上回る高水準で発生した。倒産の抑制要因ともなった民間ゼロゼロ融資等の返済にあわせて、金融機関に対して追加支援を申し入れた際に粉飾決算などが発覚し、資金調達の道を断たれて行き詰まるケースが目立った」と総括していました。
また記事によれば「「粉飾」は、コロナ禍以前に増加傾向にあったが、2020 年のゼロゼロ融資等の各種支援策の効果もあり、表面化しづらい状況が続いていた。しかし、ここにきて再び増加傾向を示している。加えて、粉飾決算による倒産企業の負債規模は大型化しており、金融機関をはじめとする多くの取引先を巻き込む倒産が発生している」というように分析しています。
■ 公認会計士監査における不正に対する扱い
公認会計士監査では、不正を「不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為」(監基報240 10(1))と定義しています。
このため、コンプライアンス違反倒産の内実を鑑みると、公認会計士監査にいう不正に該当する事例であるということができるかと思います。
また、こうした不正が発生する要因を、不正リスク要因といいます。下記がある場合に不正が発生しやすく、不正発生の重要なリスクがあると判断します。
- 不正を実行する動機やプレッシャーの存在を示す事象や状況(動機・プレッシャー)
- 不正を実行する機会を与える事象や状況(機会)
- 不正行為に対する姿勢や不正行為を正当化する状況(姿勢・正当化)
記事によると「粉飾」は、コロナ禍以前に増加傾向にあったということですので、「粉飾」を実行する「動機・プレッシャー」の存在は、コロナ前から潜在的に増加しつつあったわけです。
コロナという事態の発生で、ゼロゼロ融資等の各種支援策による「機会」の提供があり、会社を存続させるために粉飾を行うことへの「正当化」ができる下地が整っていたのは間違いないかと思います。
つまり公認会計士監査を行うならば、最低限こうした不正リスク要因の有無についての検討を、監査前にあらかじめ行わないと職業的懐疑心の有無を疑われかねない状況なのではないでしょうか。
もっとも、こうした監基報に言うところの不正リスク要因に当てはめなくとも、「粉飾」による不正の増加を鑑みれば、コロナ融資の導入が、不正リスク要因を増幅させていくことは十分に予見できたとも言えると思います。
■ 金融庁による融資点検について
コンプラ違反倒産の責任は、融資を受ける企業だけでなく、貸し手側にもあったのは間違いないかと思います。
「ある都内の信用金庫関係者は「審査が緩んだ面は否めない」と振り返る。ゼロゼロ融資は各都道府県が最初の3年間は利子を企業に代わって払うのに加え、返済が焦げ付いても信用保証協会が肩代わりする。金融機関の負うリスクは小さく、むしろ低利金にあえぐ信金や地銀は競い合うように貸し出しを積極化した。」(日経新聞2023年10月12日)
この記事にもあり、要するに信用保証協会が肩代わりする状況があったため、金融機関の融資担当者は多少審査が粗くても融資して差し支えないと判断したということではないかと思います。
このため、金融庁による融資点検の実施は、起こるべくして起こったものということができます。一方で、貸出先を「優良先」として融資判断した貸手側は、不正リスク要因について、どのような分析を行ったのか、興味深いところです。