■ なぜ人がすぐ辞めるのか ―― その本当の原因
(1)「辞める理由」は、目に見えるものだけではない
「人が続かない」「採用してもすぐ辞める」――
そんな悩みを抱える税理士事務所の所長は少なくありません。
多くの所長は、
「給料が安いからだ」「仕事がきついからだ」「最近の若者は根性がない」
と考えがちです。
しかし、実際にスタッフが辞める理由の多くは、
そうした“外側の要因”ではなく、
心の内側にある感情
に関係しています。
(2)表の理由とその裏にある本当の理由
人が辞めるときには、必ず「表の理由」と「その裏にある本当の理由」があります。
たとえば――
「仕事が多すぎる」と言って辞めた人の本音は、
「忙しい中で誰にも相談できず、孤立していた」かもしれません。
「ミスを責められた」と語る人の裏には、
「安心して話せる雰囲気がない」という不安が隠れています。
「教えてもらえない」という不満の裏には、
「質問したら嫌な顔をされるのでは」と感じていた恐れがあります。
また、「評価が不公平」と感じる人の多くは、
「所長が自分に関心を持ってくれていない」と感じていることがあります。
このように、退職のきっかけは“出来事”そのものではなく、
「どう感じたか」――つまり感情の問題
なのです。
心理学的に言えば、人は「事実」ではなく「感じ方」で行動します。
同じ仕事でも、「信頼されて任された」と思う人もいれば、
「押しつけられた」と感じて心が折れてしまう人もいる。
この“感じ方の違い”こそが、離職を生む分かれ道なのです。
(3)心の中で孤立する ―― “心理的な孤立”の正体
多くの退職者が共通して口にする言葉があります。
それは、「誰にも相談できなかった」という一言です。
職場の中にいても、心の中では孤立している。
それが、辞める人に共通する“心理的な孤立”です。
たとえば、
わからないことがあっても質問しづらい。
上司に話しかけたいけれど、忙しそうで声をかけるタイミングがない。
そんな小さな我慢が積み重なるうちに、
「自分はここで必要とされていないのかもしれない」と感じてしまうのです。
人は安心を感じる場所では成長し、不安を感じる場所では萎縮します。
「間違えたら怒られるかもしれない」
「また注意されるくらいなら黙っておこう」
そう思うようになると、挑戦する気持ちが消えていきます。
そして、いつの間にか“心だけが職場から離れていく”のです。
(4)「話しかけづらい上司」が生まれる理由
では、なぜ職場に「話しかけづらい」「質問しにくい」空気が生まれるのでしょうか。
その背景には、お互いの
立場の違いによる思い込み
があります。
所長は「自分はきちんと話しかけている」「必要なときは相談に来てほしい」と思っています。
一方でスタッフは、「忙しそう」「怒られるかもしれない」と感じて話しかけられない。
こうして、見えない“遠慮の壁”ができてしまうのです。
さらに、人は「言葉の内容」よりも「トーン」「表情」「態度」から感情を読み取ります。
少し強めの口調や無表情な対応が続くだけで、
「この人は怖い」「話しかけにくい」という印象が定着してしまいます。
また、部下が相談したときに上司がすぐ答えを出してしまうと、
「自分の考えは必要ないんだ」と感じてしまうこともあります。
その積み重ねが、「どうせ言っても無駄」というあきらめにつながるのです。
(5)辞める理由は“仕事”ではなく“人間関係”
結局のところ、人が辞める本当の理由は
人との関係
にあります。
どんなに待遇が良くても、
「認めてもらえない」「理解してもらえない」と感じる職場では、人は続きません。
反対に、多少忙しくても「話を聞いてもらえる」「助けてもらえる」と思える職場では、
人は安心して踏ん張れます。
つまり、離職を防ぐために必要なのは、
残業を減らすことや給与を上げることだけではありません。
それよりも大切なのは――
「心が通うコミュニケーション」を取り戻すこと。
人は“つながり”の中で働き、“理解される”ことで成長します。
スタッフが「ここにいていい」と思える環境をつくることこそ、
人が育ち、事務所が成長していくための第一歩なのです。
チェックリスト:「こんな所長の会計事務所は人がすぐ辞める!」
□ 「忙しい」が口ぐせになっている
□ ミスが起きると、まず「誰がやった?」と聞いてしまう
□ 「言わなくてもわかるでしょ」と思っている
□ 感謝よりも注意の言葉が多い
□ 雑談や笑顔が少ない
□ ミスを報告されたとき、つい顔が険しくなる
□ スタッフの努力より、結果ばかり見ている
チェックの目安
3項目以上当てはまったら、「伝え方」や「接し方」を見直すチャンス。
スタッフが「話しかけづらい」「相談できない」雰囲気になっている可能性があります。
■コミュニケーションのズレはなぜ起こるのか
「伝えたはずなのに伝わっていない」
「言われた通りにやったのに怒られた」
職場でこうしたズレが起こるのは、相手の理解力が足りないからではありません。
実は、人は誰でも“自分なりのフィルター”を通して物事を見ているからです。
同じ言葉を聞いても、感じ方も受け取り方も人によって異なります。
(1)人は“同じ現実”を見ていない
私たちは同じ出来事を体験しても、まったく同じようには感じていません。
それぞれの人が、これまでの経験や考え方、価値観を通して出来事を理解しているからです。
つまり、人は「現実そのもの」ではなく、「自分の頭の中で描いた“現実のイメージ”」を見ているのです。
この小さな違いが、職場での誤解やトラブルのもとになります。
では、実際にどのようなズレが起こるのでしょうか。
(2)伝えたことが省略されて受け取られる
たとえば、所長が「この仕事、急ぎでやっといて」と言ったとします。
部下は“急ぎ=今日中”と思い込み、他の仕事を止めて取りかかりました。
ところが所長は“今週中”のつもり。
結果として他の業務が遅れ、「なぜ今それをやっているんだ!」と叱られる――。
このように、人は話を聞くときに無意識のうちに“自分なりに要約”してしまいます。
でも、その要約の仕方が人によって違うため、「伝えたつもり」と「聞いたつもり」の間にズレが生まれるのです。
「いつまでに」「どこまで」「誰が確認するのか」――
これらを具体的に言葉にするだけで、誤解は大幅に減ります。
言葉を丁寧にすることが、実は一番の生産性アップにつながるのです。
(3)相手の行動を“勝手に解釈”してしまう
たとえば、メールの返信が遅いときに、
「嫌われているのかな」「信用されていないのかも」と感じたことはありませんか?
実際には、相手がただ忙しかっただけかもしれません。
しかし、人は不安になると「理由を探そう」とする傾向があり、
つい“自分に都合のいい解釈”をして心を落ち着けようとします。
こうした思い込みが続くと、
「この人は冷たい」「どうせまた同じことを言われる」と決めつけてしまい、
関係がどんどんぎくしゃくしていきます。
そんなときは、少し立ち止まって考えてみましょう。
「本当にそうなのかな?」
「他の理由もあるかもしれない」
この一言を自分に問いかけるだけで、心に余裕が生まれ、
相手を見る目が柔らかくなります。
そして、対話の糸口が戻ってくるのです。
(4)過去の経験で「今」を判断してしまう
人は、これまでの経験をもとに「普通こうするもの」「前もこうだった」と考えがちです。たとえば、前の職場で「上司の仕事は最優先」というルールに慣れていた人は、
どんな仕事よりも所長の指示を優先しようとします。
しかし、今の事務所では「締め切りが近い案件を優先する」という方針だった場合、
その行動は「空気が読めない」と誤解されてしまうかもしれません。
つまり、「普通はこうする」という考え方は、
あくまでその人の“過去の常識”にすぎないのです。
育った環境や経験が違えば、“当たり前”の基準も違って当然。
ズレが起きたときに「相手が間違っている」と決めつけるのではなく、
「この人はこういう見方をしているんだな」と理解する姿勢が大切です。
それだけで、対立は対話に変わります。
(5) 見ている世界が違うだけ
私たちは同じ職場にいても、同じ“現実”を見ていません。
それぞれが、自分の経験・感情・考え方というレンズを通して世界を見ています。
だからこそ、人間関係のトラブルの多くは、
「相手が悪い」のではなく、「見ている世界が違うだけ」で起きているのです。
大切なのは、違いをなくすことではありません。
違いを理解しようとすること。
「この人はなぜそう感じたのだろう」
「どうしてこの判断をしたのだろう」
そうやって相手の立場に目を向けることで、
人間関係は少しずつほどけていきます。
理解しようとする姿勢――
それこそが、信頼関係を築く第一歩なのです。
■所長ができる3つの改善ステップ
人と関わるうえで、誤解やすれ違いを完全になくすことはできません。
それでも、相手の気持ちを理解しようとする姿勢を持つだけで、
不信感は少しずつ「信頼」へと変わっていきます。
ここでは、職場で今日から実践できる3つのポイントを紹介します。
どれも、言葉のかけ方や受け止め方を少し変えるだけで、
驚くほど関係がスムーズになる方法です。
(1)丁寧に質問する ―― 「伝えたつもり」をなくすために
コミュニケーションのトラブルの多くは、
確認不足
から生まれます。
「言ったはず」「聞いたつもり」「わかっていると思った」――
この“つもり”がズレを生む最大の原因です。
たとえば、部下が「急ぎで対応します」と言ったとします。
所長は「今日中」と思い、部下は「今週中」のつもり。
結果、どちらも悪気がないのに、怒られる・落ち込むという事態が起こります。
そんな時こそ、少し丁寧に聞き返してみましょう。
「急ぎって、どのくらいを考えてる?」
「他の仕事とのバランスはどう見てる?」
この一言で、お互いの頭の中の“ズレ”がぐっと小さくなります。
大切なのは、「確認する=責めること」ではないという意識です。
質問は、
相手を理解しようとする思いやりの言葉
です。
「ちゃんと見てくれている」と感じた瞬間、相手は安心し、信頼が生まれます。
(2)相手に期待しすぎない ―― 「できたらラッキー」くらいの余裕を
人は誰でも、無意識のうちに他人に期待をしています。
「これくらい言わなくても分かるだろう」「前に言ったから覚えているはず」――
しかし、その期待が裏切られると、怒りや失望に変わります。
そんな時こそ、発想を少し変えてみましょう。
「やってくれたらラッキー」
「できなかったら、もう一度伝えればいい」
このくらいの余裕を持つだけで、人への見方が柔らかくなります。
心理学的にも、人は「許されている」と感じた時に最も伸びると言われています。
完璧を求めず、少しの“ゆとり”を持つこと。
それが、職場全体の空気を穏やかにし、
「この人と一緒に仕事がしたい」と思ってもらえる信頼関係を生みます。
(3)相手を知る努力をする
人は誰でも、「理解されたい」「認められたい」という気持ちを持っています。
だからこそ、まずはこちらから「理解しよう」とする姿勢を見せることが大切です。
たとえば、スタッフにはそれぞれ個性があります。
-
じっくり考えてから動くタイプ
-
直感で行動するタイプ
-
数字に強い人、会話が得意な人
同じ指示でも、相手によって伝え方を変えると届き方が違います。
さらに、次のような質問をしてみましょう。
「どんな時に仕事がやりやすい?」
「どんな言葉をかけられるとうれしい?」
「今、一番力を入れたいことは何?」
こうして相手の価値観や得意分野を知ると、
「この人は自分をわかってくれている」と感じてもらえるようになります。
相手を「育てる対象」ではなく、「理解する仲間」として見ること。
それが、信頼を育てる最も確実な方法です。
(4)まとめ ―― 理解する姿勢が信頼をつくる
人とのズレをなくすことは難しくても、
「丁寧に質問する」「ゆとりを持つ」「相手を知る」――
この3つを意識するだけで、人間関係は確実に変わります。
コミュニケーションとは、相手を変えるためのものではなく、
お互いを理解するための時間
です。
理解しようとする姿勢こそが、
信頼を生み、職場の雰囲気を温かくしていくのです。
■事務所の規模別・コミュニケーション改善のポイント
税理士事務所といっても、その形はさまざまです。
数名で運営する小規模事務所もあれば、10〜30人規模の中規模、100名を超える大規模法人もあります。
そして、人間関係のトラブルや離職の原因は、規模によって少しずつ違ってきます。
ここでは、それぞれの規模に合った「コミュニケーションの整え方」を見ていきましょう。
(1)小規模事務所:所長の姿勢がすべてを決める
少人数の事務所では、所長の人柄や言葉がそのまま“職場の空気”になります。
スタッフ同士の関係よりも、
所長との関係
が働きやすさを大きく左右します。
心理学的に言えば、人は「自分が大切にされている」と感じることで、安心して力を発揮できます。
逆に「どうせ何を言っても聞いてもらえない」と感じると、やる気が下がり、最終的には離職につながります。
①改善のポイント
・
ミスが起きたときは「誰が悪いか」ではなく「どうすれば防げたか」を一緒に考える。
→
「守ってもらえている」と感じると、信頼が深まります。
・ 感謝や承認の言葉を惜しまない。
→ 「助かったよ」「ありがとう」の一言が、承認欲求を満たし、やる気を引き出します。
・アドバイスよりも共感を。
→ 「そう感じたんだね」「それは大変だったね」と受け止めることで、安心のスイッチが入ります。
②小さな事務所のコツ
「所長が笑えば、職場が明るくなる」――これは単なる比喩ではありません。
リーダーの感情は周囲に“感染”します。
笑顔・あいさつ・共感の3つを意識するだけで、
人が辞めにくい、温かい職場を自然に作れます。
(2)中規模事務所:方針の共有とフォロー体制を強化
スタッフが10〜30名ほどになると、
人間関係のズレは「所長との距離」よりも「チーム間のすれ違い」から起こりやすくなります。
人の価値観や優先順位が増えるため、意識を“合わせる仕組み”が必要です。
①改善のポイント
方針を言葉にする。
「どんな価値観で仕事をしているか」「何を大切にしているか」を明確にする。
例:「スピードより正確さを優先」「お客様に安心を与える対応を」
共通の言葉があるだけで、判断のズレが減ります。
フォロー体制をつくる。
新人が孤立しないよう、“相談できる人”を決めておく。
例:新人1人に対してメンター1名+確認担当1名を配置。
「聞ける人がいる」と思えるだけで、不安は大きく減ります。
振り返りの場を定期的に。
週1回のミーティングや月1回の面談で、「できたこと・難しかったこと」を共有。
失敗を「成長の材料」として扱う文化を育てましょう。
②中規模事務所のコツ
人数が増えるほど情報は分断されがちです。
だからこそ「全員で同じ方向を見ている感覚」を定期的に作ることが重要です。
「何のためにこの仕事をしているのか」を確認する時間が、
チームのやる気と一体感を育てます。
(3)大規模事務所:面談制度と交流の仕組みを整える
30人を超えると、職場の「人間関係の悩み」は表に出にくくなります。
誰かが困っていても、周りが気づかないまま時間が過ぎてしまう――そんなケースも珍しくありません。
だからこそ、「信頼関係を偶然に任せない」仕組みづくりが必要です。
①改善のポイント
定期面談(1on1)を制度化。
一人ひとりが安心して話せる時間を確保します。
「最近どう感じている?」「困っていることはある?」
業務報告よりも“感情の共有”を重視すると、信頼が深まります。
部門を越えた交流の場を。
月1回のランチ会や「成功事例共有会」など、業務以外の場で関わることで、
心理的な壁が低くなり、チーム間の協力がスムーズになります。
「ありがとう」を見える化。
チャット上で「感謝カード」や「ありがとう投稿」を取り入れると、
互いを認め合う文化が根づき、職場の雰囲気が一気に明るくなります。
②大規模事務所のコツ
人数が増えるほど、人は「自分は小さな歯車だ」と感じやすくなります。
だからこそ、上司が「あなたがいてくれて助かっている」と伝えることが大切です。
一人ひとりが“意味ある存在”として扱われることで、モチベーションも定着率も上がります。
(4)まとめ
事務所の規模が違っても、根本は同じです。
それは、「人は理解されたい生き物」だということ。
-
小規模では「所長の姿勢」で伝える
-
中規模では「方針とフォロー体制」で支える
-
大規模では「仕組み」で安心をつくる
規模に合った“人と心をつなぐ工夫”を取り入れることで、
スタッフは安心して働き、自然と力を発揮するようになります。
■スタッフが辞めない事務所に共通する「心理的安全性」
どんなに待遇を整えても、どんなに効率的な仕組みを作っても、
人が長く働き続ける事務所には共通点があります。
それは、
「ここでは質問しても大丈夫」
「失敗しても責められない」
――そう思える“安心の空気”があることです。
この安心感こそ、心理学でいう「心理的安全性」と呼ばれるもの。
スタッフが自分の力を発揮できるかどうかは、スキルよりも、
「安心して話せる環境」があるかどうか
で決まります。
(1)「質問しても大丈夫」「失敗しても責められない」職場が人を育てる
人は安心しているときにこそ、もっともよく学び、成長します。
逆に、常に緊張している状態では、脳は“防御モード”になり、
新しいことを吸収する余裕がなくなってしまいます。
たとえば、
「また間違えたのか!」と言われた瞬間、
人の意識は“次にどう改善するか”ではなく、“どう怒られないか”に向かってしまいます。
これでは成長のチャンスが失われてしまいます。
つまり、「叱る文化」では人は育たず、
「支える文化」がある職場でこそ、人は伸びていくのです。
安心を生む3つの関わり方
①
ミスは責めるのではなく、一緒に直す。
「誰のせいか」より「どうすれば良くなるか」を一緒に考える姿勢が、安心を生みます。
②
質問を歓迎する空気をつくる。
「いい質問だね」「聞いてくれて助かったよ」と伝えるだけで、
“質問=勇気ある行動”だと感じてもらえます。
③
完璧よりも“成長途中”を認める。
「できないことがある=伸びしろがある」と考えれば、
人は安心して挑戦できるようになります。
安心は甘えではなく、
挑戦を支える土台
なのです。
(2)感謝・承認・フィードバックの3つの習慣
心理的安全性を育てるうえで大切なのは、日常の“ちょっとした言葉”です。
その中でも特に効果的なのが、「感謝」「承認」「フィードバック」の3つです。
①
感謝 ―― 「ありがとう」を言葉にする
「忙しい中、助けてくれてありがとう」
「丁寧に対応してくれて助かったよ」
たったこれだけで、人は“自分が認められた”と感じ、心が軽くなります。
感謝の言葉は、仕事の報酬以上に、
人のやる気を引き出す心の栄養
になります。
②
承認 ―― 結果より過程を見つめる
人は努力を見てもらえないと、自信を失っていきます。
たとえ結果が出ていなくても、
「前より早く対応できるようになったね」
「工夫していたね」
そんな言葉が大きな励ましになります。
“努力を見てもらえている”と感じると、仕事への誇りが育ちます。
③
フィードバック ―― 相手を責めずに、成長を支える伝え方
注意するときも、「事実」と「感情」を分けて伝えることが大切です。
「資料の提出が少し遅れて、お客様への説明が後ろにずれました。
でも、急ぎの中でよくまとめてくれたね。次は早めに相談してもらえると助かるよ。」
このように、“責める”のではなく“次にどうすればいいか”を一緒に考える伝え方が、
相手のやる気を引き出します。
(3)所長が“守る・育てる”姿勢を見せるだけで空気が変わる
心理的安全性は、制度や研修よりも、所長の一言から生まれます。
スタッフは「何を言われたか」より、「どう扱われたか」で心を動かします。
たとえば――
-
ミスを報告したときに「報告してくれてありがとう」と言われた
-
忙しいときに「無理しないでね」と気遣ってもらえた
-
成果が出たときに「よく頑張ったね」と笑顔で言われた
こうした小さな言葉が、
「この人のもとで働きたい」と思わせる力を持っています。
“守る・育てる”を形にするコツ
①
責任は所長、成長はスタッフ。
責任は自分が取る。その安心感が、挑戦する勇気を生みます。
②
「話せる時間」を意識的に作る。
短くてもいいので、1対1で心の声を聴く時間を持つ。
それがスタッフにとっての「安全基地」になります。
③
「怒る」より「伝える」。
怒りは感情をぶつけること。伝えるは相手を動かすこと。
この違いを意識するだけで、信頼関係が深まります。
(4)まとめ:安心できる職場は、人が育つ場所
心理的安全性は、特別なスキルではありません。
それは、「人を信じ、丁寧な言葉を選ぶこと」から始まります。
-
質問しても大丈夫な空気
-
失敗しても立ち上がれる安心
-
感謝と承認が飛び交う毎日
この3つが揃うだけで、
スタッフは「ここで成長したい」と思うようになります。
所長のたった一言が、
人を辞めさせることも、育てることもできます。
今日から、「守る」「認める」「支える」――
この3つを意識してみてください。
その瞬間から、あなたの事務所の“空気”は確実に変わり始めます。
■まとめ:人が育つ事務所は、所長が変わるところから
税理士事務所における最大の資産は「人」です。
どんなに最新のシステムを導入しても、どんなに効率化を進めても、
人が安心して力を発揮できる環境がなければ、事務所は成長しません。
その環境づくりの出発点は――
所長のコミュニケーション
です。
組織の雰囲気は、所長の言葉と姿勢によって自然と形づくられていきます。
(1)コミュニケーションを「スキル」ではなく「文化」に
「自分は人と話すのが苦手で…」
そう感じている所長も少なくありません。
けれど、コミュニケーションは“才能”ではなく“習慣”です。
心理学の考え方では、コミュニケーションとは「情報を伝えること」ではなく、
「相手に安心を届ける行為」だとされています。
だからこそ、「うまく話そう」とするよりも、
「安心してもらえる関わり方をしよう」と意識することが大切です。
たとえば――
-
相手の話を最後まで聴く
-
感謝やねぎらいを言葉にする
-
間違いよりも、できた部分に目を向ける
これらの行動を日常の中で積み重ねることで、
事務所全体に“安心の空気”が少しずつ広がっていきます。
コミュニケーションは、特別なスキルではなく、
文化として育てるもの
なのです。
(2)スタッフを信頼し、対話を重ねることで組織は変わる
人は「信頼されている」と感じたときにこそ、最も力を発揮します。
逆に、「監視されている」「疑われている」と感じると、
本音を言えなくなり、ミスを隠すようになります。
つまり、信頼の有無が職場の“温度”を決めるのです。
所長が「どこで困っている?」「どうすればもっとやりやすくなる?」と
丁寧に対話を重ねることで、スタッフの表情や動きは確実に変わります。
信頼関係は一日で築けるものではありません。
けれど、
一日一回の小さな対話
を続けることで、
少しずつ「この人になら話しても大丈夫」という安心が育ちます。
その積み重ねこそが、組織を温かく強くしていくのです。
(3)「人が辞めない」ではなく「人が育つ」事務所を目指して
これからの時代に求められるのは、
“辞めない人を増やす”ことではなく、“育つ人を増やす”ことです。
辞めないだけの職場は「現状維持」にとどまりますが、
育つ職場は「未来をつくる」力を持っています。
人が育つ事務所には、次の3つの共通点があります。
①
安心して意見が言える
―― 質問や提案が歓迎される雰囲気がある。
②
失敗が学びに変わる
―― 責めるのではなく、次の改善を一緒に考える。
③
努力を見てくれる人がいる
―― 結果よりも過程を認め、挑戦を応援する。
この3つがあるだけで、人は自然と「ここで成長したい」と感じ、
自ら学び、動き出すようになります。
所長がすべてを背負う必要はありません。
ただ、
“変わろうとする姿勢”を見せるだけで、周りも変わり始めます。
(4)終わりに:人が育つ組織は、所長の一言から始まる
「ありがとう」
「大丈夫、一緒にやっていこう」
「君がいてくれて助かってるよ」
たったこの3つの言葉が、スタッフの心を変え、事務所の空気を変えます。
コミュニケーションとは、特別なテクニックではなく、
日々の小さな思いやりの積み重ね
です。
所長が変われば、言葉が変わり、
言葉が変われば、行動が変わり、
行動が変われば、職場の雰囲気が変わります。
その結果――
「人が辞めない事務所」ではなく、「人が育つ事務所」が生まれるのです。
次の一歩
明日の朝、スタッフに「おはよう、いつもありがとう」と声をかけてみてください。
その一言が、あなたの事務所を変える最初の一歩になるかもしれません。
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