日本経済新聞 朝刊 2022/8/25
東京証券取引所は24日、新規株式公開(IPO)の規則や手続きに関して見直しを検討する項目を取りまとめた。評価軸を決めにくい先端技術企業の上場審査の円滑化につなげる他、上場承認後に上場予定日を変えたりできるようにし、より柔軟に上場日を設定できるようにする。
また資金調達を伴わない「ダイレクトリスティング(直接上場)」はプライム市場やスタンダード市場で可能だが、グロース市場に広げるかどうかも議論を進める。グロース市場は公募による資金調達を条件にしていて、ダイレクトリスティングは対象外になっている。
目次
会計士の目線
■上場承認後の上場予定日の柔軟な設定は効果的か
新型コロナウィルス感染症による初めての緊急事態宣言が発出された2020年4月前後では、6社ほどがIPO銘柄で上場承認をうけるも、上場予定日における株式相場や今後の自社の業績不安など、諸事情により上場申請を取り下げた。このうち3社程度は時期をずらして、再度上場申請をして後日IPOすることができた。
上場予定日の柔軟な設定について、上場承認がおりれば、当初予定していた株価で資金調達できるのであれば、いつでも上場できるというのは魅力的であるが、相場の回復や業績不安が解消されるのかといった外部要因次第だと、柔軟な上場予定日の設定にも限界があると感じる。
そういった場合には、①ダイレクトリスティングによる上場の活用や②上場予定日の柔軟な設定に併せて、いったん、東京プロマーケットのような資金調達を予定しない市場に上場し、相場の回復などを待つというやり方が効果的と考える。
■資金調達を伴わないダイレクトリスティングは広がるか
一般のIPOの場合には、株価が決定して幹事証券会社などによる公募・売り出しが行われ、この時の増資・売り出し金額に応じて幹事証券会社の受け取る手数料収入が決まる。
現在、東京プロマーケット市場では基本的には上場時に資金調達をしない。このため、東京プロマーケットのJ-adviserなどになっていない証券会社は、口をそろえて、東京プロマーケット市場に上場することは「意味がない」と公言する。時価総額が小さい中小企業が上場して成長を促すような市場であり、中小企業にとっては大変意味ある上場市場であるにも関わらず、資金調達による手数料を稼げないというだけで「意味がない」と公言するのは一般の中小企業に誤解を与えてしまっているようにも思える。
同様のことが、ダイレクトリスティングによる上場手法にも言えるのではないだろうか。欧米やアジアでも一般的となっている手法であるにも関わらず、一部の実績はあるものの日本には浸透していない。ダイレクトリスティングでは、大手証券会社を含む引受証券会社が収益源としている資金調達時に得られる引受手数料を得られないからである。
今回課題となっているのが、グロース市場にだけある500単元の公募基準である。公募を必ず行わなければグロース市場に上場できないため、引受証券会社の収益性が担保される。
しかし500単元の公募基準を外したからと言って、今後、ダイレクトリスティングが増加する保証はないことは既に述べた通りである。
(文責 監査法人コスモス 統括代表社員 公認会計士 新開智之)