この記事では公認会計士の資格を持ち、複数の上場企業経理部での勤務経験をお持ちの方に、会計士目線で上場企業の経理部門の業務の内容や仕事のやりがいを語っていただきました。
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
今までの経験を活かし、自ら考え、行動し、周りと協調していける人が向いていると思います。
事業会社では、会計知識やノウハウを持ち、自ら考えて行動してくれる即戦力を欲しています。色々なクライアントと仕事をし、会計知識やノウハウを豊富に持つ会計士が活躍できる機会はたくさんあります。
キャリアを考えるうえで、誰かが作ったものをチェックするのではなく、自ら手を動かして責任をもってやりたい方であれば、事業会社が合うと思います。
ただ、手を動かしてやると言っても、ある程度、業務範囲を限定して徐々に経験を積みたいと考えるのであれば、人の数が多い、上場会社の経理部が合うと思います。一方、業務範囲を広めにして、早めに経験を積みたいのであれば、スタートアップなど規模が小さいところがよいでしょう。
上場会社の経理部では、経理部以外の方とも一緒に働くことになりますので、そのなかで一緒に溶け込んで仕事ができる方が好まれます。面接のときにも、その点がどうなのかは見られてきます。
■「上場企業 経理部」の業務内容
(1)単体・連結決算業務
単体・連結決算業務では会計伝票の起票から財務諸表の作成まで会計知識をフルに活かせます。数値の正確性チェックや増減理由の確認など、監査でのチェック方法や比較分析などの経験が活きてきます。
ただ、会計システムを使う機会は監査ではそれほど多くなかったと思いますので、メンバーに教えてもらいながら進めていくのがいいでしょう。
今後、業務の効率化などでRPAや経費精算等のシステム活用がさらに進んできます。会計システムの活用は、業務上欠かせなくなっていくので、経理周りのシステムについて興味をもって勉強しておくと役に立ちます。
(2)開示業務
はじめのうちは、開示書類作成ツールの操作や会社の作成体制など、わからない部分はありますが、監査では有価証券報告書や計算書類等開示資料の作成はよく行っているため、全体概要をよく知っていることからも経験を活かしやすいです。
新しい開示内容がでたときには、その内容の把握やメンバーへの伝達において、監査でのクライアントとのコミュニケーションの経験が活きてきます。
有価証券届出書など、あまり経験がない開示書類を作成することもあります。財務局や印刷会社とやり取りすることもあるので、基準を読んで理解する監査の経験が役に立ち、非常に助かりました。
(3)予算管理業務
予算管理業務は監査では経験がないので、従来のやりかたを確認し、一から勉強をしました。
具体的には、各部署とのコミュニケーションや依頼方法、予算損益計算書の作成から経営層への報告までの予算作成、そして実際に期が始まった後の月次決算分析、四半期ごとの予測作成など。予算管理では数字の作成以外に各部門とのコミュニケーションがあるので、監査でいろいろな部署の管理職とコミュニケーションをしていたのが役に立ちました。
予算管理業務は会計システムではなく、Excelでやることが多いです。Excelは事業会社に入ってからよく使うようになったので、あまり得意でない方は基本書を改めて勉強すると業務がスムーズにできます。
(4)経営者への月次報告
月次決算がしまったあとに、経営者への月次報告業務があります。前期比較などを実施し、数字の増減額だけでなく、その背景を確認し報告します。このとき、すべてを報告するのではなく、重要なポイントを抽出し報告事項をまとめるのは、監査で培った数字を読む力などの経験が活きてきます。
経営者への月次報告は、短い時間で数字の加工、分析を実施する必要があります。それには、報告までの数字の流れの仕組みづくりが必要になります。仕組みづくりには業務プロセスの構築が必要であり、業務フロー構築の経験が役に立ちました。予算管理業務同様、ここでもExcelを使用することが多いです。
(5)わたしの場合
わたしは、上場会社3社を経験しました。
子会社の決算業務、連結決算業務、開示資料作成と取りまとめ役、予算管理業務などを経験。その間、プロジェクト業務として、子会社設立、買収後子会社の経理周りの取りまとめ、基幹システムのリプレイスや内省システム改修のリーダーなどを行いました。
役職は、経理部長や経営管理室長などの管理職まで経験させていただきました。手を挙げればいろいろと経験をさせてもらえたので、様々な経験を早く積みたいと思っていたわたしにはよかったです。
このような経験ができたのは、上司や同僚など周りの方からのサポートをいただけたからです。基本的なことですが、早く人の名前を覚えたり、コミュニケーションを自分からとったり、他の部署の人との人脈を経理メンバーにつないでもらうようにお願いもしました。
周りからサポートを待つだけでなく、自分の力を発揮するためにも、能動的に人脈を作っていくことが大切でした。いくら会計知識などをもっていても、会社の人脈がないと力を発揮できないのです。
■「上場企業 経理部」での業務のやりがいやメリットは?
監査で培った経験やノウハウを使って、経理メンバーの役に立つことはうれしく、やりがいを感じます。喜んでくれたりするのがわかると、やりがいが増してきます。1年を通して一緒に働いているので、やりがいを感じる機会が多いのもよいところです。
また、一つの会社に集中して業務をやりきることができるので、集中してやりたい方には、それもまたやりがいになります。
監査では複数のクライアントを受け持ち、なかなか1社に集中できません。事業会社のなかに入れば、一つの会社に集中し最初から最後まで完結することができます。
ただ、会社規模が大きくなればなるほど、自分が担当する業務の範囲が狭くなってきますので、物足りなさを感じたりもします。しかし、経理部のなかでジョブローテーションや昇格により、未経験の業務を経験できます。様々な経験を積むことで、自分の成長にもつなげられます。
■「上場企業 経理部」の採用ニーズ
(1)求められるスキル、人材
求められるスキルとしては、コミュニケーション能力が大事だと思います。
事業会社だと経理やそれ以外の部署の方とも話をするので、専門用語を使わず、相手にわかりやすいように話していく必要があるからです。
ほかには、謙虚であることが大切です。事業会社のなかでは会計士という肩書で仕事をするわけではなく、会計知識・ノウハウを持った会社の一員です。メンバーと一緒にやっていくことの意識が大事になります。面接時にも組織のなかにフィットするかどうかを見られてきますので、謙虚であることは大事です。
(2)採用されるポイント
会計士資格を持っていると、会計知識ノウハウを多く持っている専門家なので、採用時に有利に働きます。ただ、採用時にはその業務の経験者や他の会計士と比較されますので、ほかの人との違いをわかりやすくしておきましょう。
具体的には、監査法人時代にご自身のやってきた業務の棚卸をしておき、会社のなかでどう活かせるかを、ストーリーとして語れるように準備しておくとよいです。
例えば、多店舗展開している会社であれば、多店舗経営をする企業の監査経験があることを伝える。なかったとしても、それに近いような会社の監査をしていたのであれば、それを伝えるなど、少しでも会社にフィットするようなことがあれば、それを伝えていく。
また会社の規模が小さい場合は、ご自身が監査の主査やそれに準じた立場でのご経験があれば、複数のメンバーマネジメントをしていたことを伝え、チームマネジメントができることを伝えたりします。
ご自身が言ったことを会社がすべて良いようにとらえてくれるわけではありませんので、面接を受ける会社がどんな人を採用したいのかを想定しながら、ご自身の経験とマッチすることを考えてみてください。
会社は即戦力を探していますので、会社のなかで自分がどう使えるのかを相手に想像させることが大事です。
(3)転職で気を付けるポイント
転職エージェントには登録をしておきましょう。自分で探すよりもその道に詳しい方に協力してもらったほうがスムーズです。
また、転職活動には忍耐が必要になります。自分の経験をお話しすると、最初のころは、応募してもなかなか面接に行けないことがありました。そのようなものであると最初のころはわからなく、エージェントの方からそのような話をしてもらい、精神的にも救われました。
希望業種や年収など基準を決めておくと、エージェントの方も話がしやすくなります。わからなければ、いくつか求人案件を見て、ご自身でどこか引っかかるポイントがないかを確認してみましょう。
この求人案件を確認することが今までの仕事の棚卸にもなりますし、傾向として求められているものが見えてきます。ピンポイントでマッチしていなくても、かする部分もありますので、ご自身の分析をしてみてください。
面接前にはエージェントに過去の面接での質問内容を確認し、会社への質問内容等も考えます。こちらからの質問はエージェントとともに考えるのがよいでしょう。具体的には下記のようなものが考えられます。
① 経理部内の雰囲気や業務分担
② ジョブローテーションについて
③ WEBページを見て、会社のビジョンなど気に入った点
④ 気に入った点について、経理部ではどのような活動等をしているのか
会社への質問は、相手に興味・関心があることを示すので、良い印象を与えられます。一方で、ご自身が会社に入ったときのことを想像するためにも大事ですので、気になったことは聞いておきましょう。これからご自身がそこでやっていくのです。選ばれることも大事ですが、ご自身が選ぶ立場であることも忘れないようにしてください。
面接官は段階によって、人事担当者であったり経理の現場の方であったりします。会計知識だけでなく、組織へのフィット感などを見ているので、相手の質問の意図を考えながら発言してください。想定問答を考えておくと、質問に答えやすくなります。
例えば、学生時代の部活の経験について聞かれることもあります。この質問の意図としては、下記について聞いているということです。
① 組織のなかの複数で一緒に何かに取り組んできた経験があり、それが好きなタイプなのか
② もしくは一人で黙々と進めるのが好きなタイプなのか
③ バックグラウンドが違う人たちの中で、コミュニケーションの取り方をどれだけ気を付けているか
わたしの経験上の話として、経理部は会計知識がバラバラでメンバーの専門性が異なることが多いです。そのなかでもうまくやっていくことができるかを面接では聞かれました。
■「上場企業 経理部」の年収はどのくらい?
給与ベースは上場会社のなかで年齢と役職によりレンジがあるので、そのレンジに当てはめられます。監査法人はそもそも給与ベースが高いので、下がることは想定しておいたほうがいいです。業種によって下がるレンジは変わってきます。ただ、資格手当などで少しばかり上乗せがあるかもしれません。管理職に上がれば、給与は上がっていきます。
■「上場企業 経理部」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?
上場企業の経理部のなかでも、単体・連結決算業務、開示資料作成、予算管理業務などいろいろと業務を経験できます。経理部内でのジョブローテーションを考えてみてもよいでしょう。また、経理部以外では、会計知識を活かして、経営企画部への転籍も考えられます。
転職の場合、英語が得意であれば、給与ベースが高い外資系企業も視野に入ります。管理職などの役職に早くつきたいのであれば、会社規模は小さくなりますが、管理職ポストで国内一般企業への転職という道もあります。
独立も一つの道です。事業会社と監査法人での両方の経験をした会計士としてニーズはあります。わたしは経理や管理会計、Excelの知見を経理パーソンに伝えたいと思い、独立しました。今は管理会計やExcelのセミナー講師や雑誌の執筆等。またご縁があり、2022年4月からスタートアップの社外役員に就任しました。
事業会社と監査法人の両方の経験した方はこれから増えていくと思いますし、その経験の活かし方は変わりますので、ご自身でいろいろと模索してみるのもよろしいかと思います。