新株予約権「信託型」が3倍 昨年のIPO企業、22社が導入
日本経済新聞 朝刊 2022/2/16 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC09EZN0Z00C22A2000000/
■増える新株予約権(ストックオプション)「信託型」
スタートアップが社員らに付与する新株予約権(ストックオプション、SO)で「信託型」と呼ぶ形式が広がってきた。
あらかじめ決められた行使価格で株式を購入できるSO。保有者は株価が上がれば差益を得られるため、会社の成長に貢献する意欲を高められる一方で課題も抱えてきた。
SOが増え過ぎると、ベンチャーキャピタル(VC)など株主が持つ株式の価値が薄まってしまう。
このため、IPO時に予想される発行済み株式数の10%程度を上限とするのが一般的で、入社時期の遅い社員が成果を上げても反映しにいという問題点もあった。
今回は、それらを解決する仕組みとしての「信託型」について見ていこう。
■会計士の目線
(1)信託型ストックオプションとは?
信託型ストックオプション制度とは、信託と新株予約権(ストックオプション)制度の合わせ技といえる。
そもそも信託とは、「自分の大切な財産を、信頼する人に託し、他人または自分ために管理・運用してもらう制度」のことである。財産の管理・運用を、「誰のために?」「どういう目的で?」ということを自分が決めて、信託することである。財産を信託された人(受託者)は、信託した人(委託者)の決めた目的の実現に向けて信託された財産を管理・運用する。
他方、新株予約権(ストックオプション)制度とは、「あらかじめ決められた価格で、将来従業員などがIPO準備会社の新株の増資に応じる権利を付与される制度」で、将来株価が高くなっても、過去のあらかじめ決められた低い価格で新株の増資に応じることができる仕組みをいう。
すなわち、受託者である信託の資格を持つ法人や組織は、委託者であるIPO準備会社が決定した条件で、現在雇用関係にない従業員でも雇用関係に至り、人事考課など一定の条件をもとに、現在いる役員や従業員と同じ様に、ストックオプションの権利付与を受けることができるものが信託型ストックオプション制度である。
(2)信託型ストックオプションの利点
信託型ストックオプション制度の利点は、上記の記事にもあるように、入社時期に左右されずに、潜在的な従業員を含む働くメンバーに対して安い価格でのストックオプションの権利付与が可能になるという点にある。
信託という仕組みは、当初の設計で受託者と委託者の間で決めた条件などの約束に基づき、権利行使などが行われるため、客観性が保たれ、経営者が恣意的にストックオプションを特定の役員や従業員に付与することができない仕組みである。
他方、当初決めた取り決めにマッチするように、恣意的な評価が行われると、この信託という仕組みも公平性を欠くようになる。
IPO準備のはじめの段階で参加した従業員などへの経済的なメリットだけでなく、IPOへの活動の遅いタイミングやIPO後に参加した従業員にも、公平な人事考課などの結果により、より多くの経済的メリットを得てもらえる仕組みとして優れたものが信託型ストックオプション制度であると理解している。
(文責 監査法人コスモス 統括代表社員 公認会計士 新開智之)
- 執筆者プロフィール
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新開 智之(しんかい ともゆき)
公認会計士、監査法人コスモス統括代表社員平成4年3月岐阜大学教育学部卒業、平成10年3月公認会計士試験第3次試験合格後、社員、代表社員を経て、令和元年6月監査法人コスモス統括代表社員就任。会計監査・IPO支援のほか、財務・会計・税務を中心とした業務に就いて、マネジメント・コンサルティング、企業再編コンサルティング、環境ISOの構築支援及び審査を経験してきた。現在では、中小・中堅企業の株式上場・IPO支援を積極的に実施しており、最近5年間で11社を東京プロマーケット市場へ上場支援し、特に東京プロマーケット市場から一般市場へのステップアップ上場への支援にも積極的に活動中。
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