大手監査法人の国際部に所属していたことのある会計士に、その経験をふまえて業務について説明いただきました。
現在は独立開業し、外資系企業の会計業務、監査業務等を行いつつ、税務業務も行っており、今後は海外での業務も視野に入れて活動されています。
■監査法人の国際部とは
外資系企業や海外子会社が多い日系企業など、主に海外とのやり取りが多くなるクライアントを集約させた部署として位置づけられます。
ただ、監査法人によっては国際部がない場合もあります。その場合はクライアントを業種別に分けて部署を構成し、結果的に各部署に海外とのやり取りが多いクライアントが割り当てられることになります。
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
(1)志向性
国際部は英語を学ぶ意欲のある人や、将来的に国際的な仕事に携わりたい人に向いています。
外資系企業や海外での事業を多く行う日系企業などのクライアントの比率が増えるため、国内の監査部門と比較して、英語を使う機会が増えることが理由です。
(2)英語力
業務の性質上、英語力が高いことが望ましいです。ただ、部署の人員を英語力が高い人ばかりで充足することは現実的には難しいため、英語力が高くない人も多くいます。また、語学学習の補助制度(オンライン英会話や語学学校の割引)もあるので、それらを利用して語学力を伸ばすチャンスもあり、わたしも利用していました。
わたしの主観ではありますが、使用する英語技能とその理由は以下のようなものであると考えています。
(1)Reading(70%):受領資料が英語であることが多いため。
(2)Writing (20%):クライアントの現地担当者に英語で依頼や質問をすることがあるため。
(3)Speaking (5%), Hearing (5%):英語の会議に参加することがあるため。ただし頻度は少ない。
(3)会計知識
IFRSやUSGAAPの知識については、必要になれば調べて対応するため、会計知識については特別なものは必要ありません。
(4)どんな人が国際部にアサインされるのか
語学力はあまり関係なく、本人が希望すればアサインされる可能性は高いです。
監査法人にもよりますが、他部署に所属する方で語学力に自信がない場合でも、希望すれば国際部のクライアントに単発でアサインされる可能性も高いです。また、自身の希望と関係なく配属、アサインされる方もいます。わたしのいた部署でも、毎年数名は英語の学習経験が全くない人が配属されていました。
(5)法人内の外国人比率など
大手監査法人の外国人比率は低いことが大半です。明確な数値等は把握しかねますが、5%未満になると思われます。
そのため、上司が外国人になることはほぼありません。また、法人内の外国人の方は、日本語を話せる方も話せない方もいるので、コミュニケーションに必要な言語は相手によります。ただ、上司が外国人になった場合でも、コミュニケーションに大きな問題は生じないと考えられます。
外国人が上司になるような部署には、英語が得意な日本人がいる可能性が高いため、英語が得意な方に翻訳を依頼できたり、外国人もある程度日本語を話せることが多いなど、自身が英語を得意でなくてもコミュニケーションできる環境となる可能性が高いからです。
わたしの経験では、わたし以外全員外国人というチームにアサインされたこともあります。そのため、わたし以外の方々は英語で会話を行っていました。ただ、日本語をある程度話せる方ばかりでしたので、わたし自身は雑談も仕事の相談も日本語と英語を交えながら行っていました。
また、英語の調書の作成を求められることもありましたが、その際は長期間英語圏に住んでいたチームの方に表現のレビューをお願いしていました。
英語ができたほうがいいのは当然ですが、不得意であってもコミュニケーションはできます。
■「大手監査法人の国際部」の業務内容
(1)外資系企業の日本法人の監査
実施する手続きは基本的な監査と大きな違いはありません。唯一いえるのは、海外の本社からインストラクションが送付され、監査の手続きや監査対象の勘定科目、重要性の基準値などが指示されるという点にあります。
(2)日系企業の海外子会社に対する監査
日系企業の海外子会社が現地の監査法人から監査を受けている場合には、その情報を海外子会社から入手し、監査の状況について把握します。その結果、問題があればその点について現地監査人に問い合わせるなどの手続きを行っていきます。
(3)有価証券報告書の英訳
日本語で記載された有価証券報告書を英訳します。主に前年度の英訳資料をベースに、変更点があればその部分について英語での表記を考えるということが業務の中心になります。
(4)わたしの場合
わたしは上記のいずれの業務も行っておりました。英語を用いることが多い点を除けば、通常の監査業務と大幅に異なるものではないため、日系企業の監査と大きな違いはありません。
有価証券報告書の英訳に関しては、大手監査法人ではデータベースがあるため、英語での記載内容の例文を参照することができ、英文の作成が得意でなくでも英訳に対応可能なサポート体制があります。
■「大手監査法人の国際部」での業務のやりがいやメリットは?
国際部での業務を行うメリットは英語での業務に強くなることです。
近い将来にコロナ禍も落ち着き、日系企業の海外進出、外資系企業の日本進出が増加することが予想され、その時には英語を使用して業務に関わることが求められます。その際に国際部での業務経験が役立つことが考えられます。
また、会計士は英語を苦手とする人が多いため、他部署では対応が難しい英語関係の業務をこなすときに、周囲に貢献している実感があり、やりがいを感じました。
わたし自身の経験では、他部署から部分的に監査資料の翻訳や、外国の方とのメールでのやり取りを任されたときに、国際部ならではの面白みを感じました。
■「大手監査法人の国際部」の採用ニーズ
(1)求められるスキル、人材
当然ですが、英語力が求められるスキルになります。海外留学の経験やUSCPAの保有者、TOEIC800以上の方などは採用されやすいと考えられます。
ただ、英語力が高くない人でも国際部に所属しており、英語力がなくても採用される可能性が十分にあるといえます。そのため、現状の英語力に関わらず英語で業務を行うことや、英語を学習することへの意欲があることが大事になるとも言えます。わたしも夏休みを利用して、短期の語学留学を行ったこともありました。また、部署内で短期の語学留学に行く方は多かったです。
(2)転職で気を付けるポイントや難易度
転職先の監査法人の国際部で英語を使う仕事の割合がどの程度あるのか確認しておく方がいいと思います。
国際部とはいえ、すべてが海外絡みのクライアントということはなく、国内の監査部門よりも外資系企業などのクライアントの比率がある程度高いということがほとんどです。
監査法人によっては数少ない海外絡みのクライアントをまとめているために、国際部という名称を付けている場合もありますので注意が必要です。
また、クライアントの大部分が外資系企業の監査法人に勤務している人が、人員の関係で海外との関係がほとんどない日系企業の監査を任されるという事例も聞いたことがあります。
■「大手監査法人の国際部」の年収はどのくらい?
年収は他部署と同じになります。手当がつく場合もあるようですが、年間で10万円など大きな金額ではないことが多いです。
■「大手監査法人の国際部」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?
キャリアパスについては、大きく「監査法人」「一般企業」「独立」で分けて記載したいと思います。
(1)監査法人
国際部の経験があることで、他部署への異動後も英語に関する業務を割り振られることが多くなります。
また、海外駐在に行く人も多くいます。ただ、この点に関しては、国際部にはそもそも駐在を目標としており、英語への学習意欲が高い人が他部署よりも多いという部分が影響しています。
出世という点では特別扱いはないように感じられます。出世の要件に語学力が考慮されるのであれば、国際部での経験はプラスに働くと考えられます。
また、国際部でも、国内企業の監査業務も数多く行いますので、国内の監査部門やFASへの異動、事業会社への出向もよくあります。他の監査法人への転職も同じで、同様のポジションはもちろん国内の監査部門へ転職する方もいます。
(2)一般企業
転職の場合には国内監査部門の方と大きく違いはありません。本人の志向もありますが、海外に強い会社に転職する人ばかりではありません。
海外向けの業務に関するニーズがある会社への転職には、国際部での経験は採用にプラスになると考えられます。
(3)独立
独立した場合は、海外に強い会計事務所や監査法人から業務委託の仕事を得やすくなるというメリットがあります。また、事業会社のクライアントに対しては、国際部での経験をアピールし、海外関係の仕事を得やすくなるというメリットもあります。