■監査トレーニーとは?
(1)監査トレーニーの基本概要
監査トレーニーとは、監査法人や企業で監査業務の補助を行うポジションのことです。公認会計士試験の受験生や監査業界に興味を持つ未経験者が、監査の実務を学びながらキャリアを築くための監査法人を中心に設置されている制度になります。
ひと昔前までは監査法人に就職して働けるのは合格した人だけだったのですが、昨今の公認会計士業界の人手不足を解消する目的で、先に就職しつつ働いて受験してもらうために設置されたようです。
なお海外では、こうした監査トレーニーを制度として取り入れている会計事務所は一定の市民権を得ているようです。
(2)監査法人での役割とは?
監査トレーニーは、監査法人においては、監査チーム内の補助者の役割、これにつきます。
会社受領した財務諸表のチェックや簡単なデータ分析などを、監査アソシエイトやシニアの指示のもと担当し、作業を進めます。
監査トレーニーと他の監査職(アソシエイト・シニア)との違いは下記のようにまとめられるかと思います。
役職 |
主な業務内容 |
必要な経験年数 |
監査トレーニー |
監査補助、データ整理、資料作成 |
0年(未経験可) |
監査アソシエイト |
監査計画の実行、監査調書の作成 |
1~3年 |
シニアアソシエイト |
チームリーダーとして監査業務を管理 |
3~5年 |
■監査トレーニーの仕事内容
監査トレーニーの業務は、監査アソシエイトの補助を中心に行われます。
(1)具体的な業務内容
- 監査補助業務:財務データの整理、監査調書の作成
- 監データ分析:企業の財務データのチェック、異常値の特定
- 監書類のチェック業務:契約書や請求書の内容確認
- 監監査的に簡単な勘定科目(現金や貸付金、借入金などの簡単な勘定科目)を担当
その他に、監査チーム内の各人の出張手配や非常勤職員のスケジュール調整、法人内研修のサポートなどを行っている事務所もあるようです。
(2)1日のスケジュール(繁忙期・閑散期の違い)
監査業界では、決算期の影響を受けて業務の繁忙期・閑散期が発生します。正社員で採用された監査トレーニーを前提に大雑把な繁忙期と閑散期のそれぞれの業務内容をイメージすると下記のようになるようです。
時間帯 |
繁忙期の業務内容 |
閑散期の業務内容 |
9:00 |
メールチェック、資料整理 |
資格勉強、研修 |
10:00 |
監査チームミーティング |
クライアント対応 |
12:00 |
昼休憩 |
昼休憩 |
13:0 |
監査データの分析 |
過去の監査調書の見直し |
15:00 |
監査報告書の作成補助 |
内部研修への参加 |
18:00 |
退社(残業の場合あり) |
退社 |
求められるスキルと心構え
- 監簿記・会計の基礎知識(簿記2級以上が理想)
- 監Excelスキル(関数・ピボットテーブルの活用)
- 監コミュニケーション能力(監査チームとの連携が必要)
■監査トレーニーになるには?
監査トレーニーとして採用されるための資格要件は、監査法人によってまちまちのようですので、単純に羅列してみます。ただどの監査法人でも一定の知識や適性が求められているようです。
(1)必要な資格・学歴
- 公認会計士試験の受験生(合格前でも採用されることが多い)
- USCPA(米国公認会計士)資格保持者(外資系監査法人で有利)
- 簿記2級以上(未経験でも基礎があると評価されやすい)
- 4年生大学卒業以上(ここは前提条件のところが多いようです。)
(2)監査トレーニーの採用条件・募集要項
- 大学在学中の応募も可能
- 英語力があると外資系監査法人で有利
■監査トレーニーのメリットとデメリット?
どんな制度でもメリットとデメリットがあります。公認会計士試験は、試験に自分の人生をかけて挑戦している資格試験である以上メリットもあれば、デメリットもある。その内容を見てみましょう。
(1)メリット
- ① 受験勉強を続けながら経済的な収益が得られる
- ② キャリアに穴ができない
- ③ 他の人よりも早く公認会計士になることができる
- ④ 実務の経験がそのまま試験に役に立つ
(2)デメリット
- ① 仕事と勉強の両立が難しい。
- ② 試験に落ちると周りとの関係が気まずい
- ③ 試験合格後一定期間その監査法人で働かなければならない
(3)メリット・デメリットの詳細
それぞれ見ていきましょう。
メリット① 受験勉強を続けながら経済的な収益が得られる
公認会計士試験の勉強は、学生時代のうちに合格することがベストです。ところが、すべての人が実現できているわけではありません。こうした中、試験勉強に関係する仕事を行いながら給与を貰えるというは、理想的な環境といえるでしょう。
メリット② キャリアに穴ができない
公認会計士試験に合格しないと最も大きなリスクは、自身のキャリアに空白期間を作ってしまうことです。
無職期間が長いとキャリアとしてカウントされなくなるので今後のキャリア形成に悪影響を与える可能性があります。その点監査トレーニーはこうしたリスクを回避することができるので、理想的と言えそうです。
メリット③ 他の人よりも早く公認会計士になることができる
普通に合格した人は最低でも2年間は公認会計士になれないですが、監査トレーニーだった人はこの期間を短縮できます。このことで、同期よりも早く公認会計士として登録することができます。
公認会計士試験に合格すると修了考査を受けなくてはなりません。修了考査には、①補修所の単位と、②2年間の実務期間が必要となります。
①が取れてしまえば、②はすでに実務経験を積んでいることとしてカウントされるので必要ありません。すなわち早くに公認会計士になれます。
メリット④ 実務の経験がそのまま試験に役に立つ
監査チームのサポート役に徹するということは、監査実務を現場の肌感覚で理解することができます。この経験が論文式試験における「監査論」や「財務会計論」に遺憾なく発揮されることになります。
デメリット① 仕事と勉強の両立が難しい
試験に専念して勉強する人は当然自分のペースで学習を進めることができます。一方で、監査トレーニーは、仕事のスケジュールと折り合いを付けながら勉強を進めていかなければなりません。
お金をもらって仕事を行っている以上、残業も含めて仕事に優先的に対応していかなければならない場面も生じることがあります。ここに、学習がうまく進まないというリスクがあります。こうした精神的負担やバランス感覚を保持しつつ公認会計士試験の合格を勝ち取っていくということは、並大抵のことではできないと思われます。
デメリット② 試験に落ちると周りとの関係が気まずい
監査トレーニーの採用は、短答式試験合格者が優先的に採用される可能性が高いです。これは監査法人側の、ある程度の論文式試験合格者の囲い込みたいという目論見があります。
このため、論文式試験に合格しないと監査法人内の周りのスタッフも気を使うことになり、その関係も気まずいものとなります。監査作業は皆さんが想像している以上にチームプレイですので、この辺りのリスクは知っておいたほうがよいと思います。
デメリット③ 試験合格後一定期間その監査法人で働かなければならない
監査トレーニーの仕事をつづけながら論文式試験に合格したとしても、採用の段階で他の法人への転職に一定の制約がある場合はありえます。
労基法の課題はここでは割愛しますが、この辺りは信義則の問題かとも思いますので採用時に確認を取ってみるとよいかもしれません。
■監査トレーニーの年収・待遇
(1)初任給・年収の相場
監査トレーニーの年収は300万~500万円程度。監査アソシエイトに昇格すると、500万~700万円に上昇するようです。ただ、監査アソシエイトになる条件は監査法人によってさまざまだと思いますので、事前に調べておいた方がよいと思います。
(2)監査法人・企業ごとの待遇の違い
- BIG4(PwC、EY、KPMG、Deloitte):給与は高め、繁忙期の残業が多い
- 中小監査法人:ワークライフバランスを重視する傾向
(3)昇進・昇給の仕組み
監査トレーニーの評価が高い場合、1~2年で監査アソシエイトに昇格できます。その後、シニアアソシエイト→マネージャーとキャリアを進めることが可能です。
ただ、「公認会計士試験合格者の資格がないと昇進はできない」などの規則がある場合もあると思います。この辺りが就職を希望する監査法人に、確認するとよいかもしれません。
■監査トレーニーの評判・リアルな体験談
(1)良い口コミ・やりがい
- 「会計の実務経験が積めるので、将来のキャリアに役立つ」
- 「監査法人の中で人脈が広がる」
(2)きついと言われる理由
(3)体験談
新日本監査法人では、監査トレーニーの実情を説明した対談記事がアップされているようですね。
■監査トレーニーのキャリアパスと将来性
監査トレーニーのキャリアパスは非常に多様です。
- 監査法人で昇進(アソシエイト→シニア→マネージャー)
- コンサルティング業界へ転職
- 経理・財務職へのキャリアチェンジ
公認会計士試験の勉強をしながら、こうしたキャリアアップ、キャリアパスの可能性があるのは素晴らしいことですが、多くのメリットがあるが故に、監査法人への就職の倍率は高いようです。
■監査トレーニーに向いている人・向いていない人
(1)向いている人の特徴
- 会計・監査に興味がある
- 細かい作業が得意
- 監査アソシエイトなど、上位者の指示に従って作業を進められる。
- 短答式試験に合格するなど公認会計士試験に対して既に一定の成果を収めている。
(2)向いていない人が辞める理由
- 繁忙期のストレス
- 限られた時間内に正確な作業を求められることがプレッシャー
- 試験勉強と仕事のバランスをとることが難しい
■監査トレーニーについての良くある質問(FAQ)
(1)監査トレーニー職とはなんですか?
監査トレーニー職とは、監査法人や企業の監査部門で、将来的に公認会計士や監査の専門家として活躍するための実務経験を積む職種です。
トレーニーは、監査チームの一員として、財務諸表のチェックや内部統制の評価などのサポート業務を担当します。実務を通じて、会計基準や監査手法の理解を深めるとともに、コミュニケーション能力やチームワークも養います。
トレーニーとしての経験は、公認会計士試験合格後のキャリア形成に役立ち、監査業務の基礎をしっかりと身につけることができます。
(2)監査トレーニー職の待遇はどのようなものですか?
監査トレーニーの待遇は、勤務先や雇用形態により異なりますが、一般的には時給制または月給制で報酬が支払われます。また、交通費の支給や社会保険への加入が可能な場合もあります。
勤務時間は柔軟に調整されることが多く、公認会計士試験の勉強と両立しやすい環境が整っています。繁忙期には業務量が増えることがありますが、監査法人ではワークライフバランスを考慮したサポート体制が整っていることが多いです。
(3)監査トレーニーの選考基準はなんですか?
監査トレーニーの選考は、主に会計や財務に関する知識、論理的思考力、そしてコミュニケーション能力が重視されます。
具体的には、公認会計士試験の短答式試験に合格していることや、簿記や財務諸表の知識が一定水準以上にあることが求められます。また、チームでの協働が多いため、他者と円滑にコミュニケーションを取る力や、指示に従って正確に作業を進める力も重要です。
(4)監査トレーニーにどうすればなりやすいですか?
監査トレーニーになるためには、公認会計士試験の短答式試験に合格していると有利です。監査トレーニーは、いうならば公認会計士の囲い込みという意味合いがあるため当然といえます。
少なくとも日商簿記検定2級以上の資格を取得しておけば、財務や会計に関する基礎知識をアピールできます。さらに、監査法人や会計事務所でのインターンシップに参加することで、実務経験や業界理解を深めることができます。面接では、会計知識だけでなく、責任感やチームワークを意識したコミュニケーション力を示すことも重要です。
(5)社会人経験があっても監査トレーニーになれますか?
社会人経験があっても監査トレーニーになることはできます。むしろ、社会人経験を通じて培ったビジネススキルやコミュニケーション力は、監査業務において強みとなります。
特に、財務や会計関連の職務経験がある場合は、即戦力として評価される可能性が高いです。異業種からの転職でも、公認会計士試験の合格や簿記資格を取得していれば、積極的に採用されるケースがあるようです。社会人経験を生かして、監査チームに貢献することが期待されます。
■まとめ
監査トレーニーは、会計・監査業界への第一歩として最適な職種です。未経験でも挑戦しやすく、キャリアの幅も広がります。
監査業界を目指す方は、簿記や会計の基礎を学び、ぜひチャレンジしてみてください!