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【連載】独立会計士のための はじめての税務実務 第1回 源泉徴収税額(源泉税)

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監査法人にいる間は、特に気にすることもなかった源泉税。監査法人を卒業し、公認会計士として「事業所得」を得ることになるタイミングでは、知っておかなくてはなりません。ここでは最低限おさえておかなくてはならない源泉税の知識を、開業5年目を迎える公認会計士の解説で確認しておきましょう。

1.はじめに

早いもので、個人の公認会計士事務所で業務を開始してから、5年が経ちました。大学を卒業してから、15年以上、大手監査法人で仕事をしていましたので、初めての経験が沢山あった5年間でした。

監査法人に所属していた期間については、給与所得のみで、年末調整で税金の処理は終わりました。クライアントの税務申告書を見ることはあっても、個人の申告書を見ることも、自分で申告書を作ることもありませんでした。

このため、監査法人を卒業して個人で仕事を始めるといろいろ分からないことが多く大変だったという経験があります。当時を振り返り、気づいたことを記載していきたいと思います。

2.税務署へ開業の届け出

監査法人を辞めた翌日以降、クライアントからの仕事の依頼を直接受けたり、知り合いの仕事を手伝ったりという形で収入を得ていくことになります。

そのような場合は給与としての収入ではありませんので、公認会計士として「事業所得」を得るということになります。業務委託契約などになりますので、雇用契約ではありません

個人が事業を開始すると、税務署、都道府県へ「開業届」を提出する必要があります。なお、「青色申告承認申請書」も併せて提出することで、税務メリット(所得から65万円控除など)を得ることができます。

わたしは、税理士である親族、公認会計士である友人の手伝いをする予定でしたので、監査法人を辞めるとすぐにこれらを提出しました。

また、税務署(所得税)だけでなく、住民税・事業税について、都道府県へ開業届が必要であることにもご留意ください。

3.請求書の作成(源泉税を控除、消費税を加算)

(1)忘れがちな源泉税

監査法人に勤務していたころは、給与規定に基づいて金額が決まっていましたので、振込口座だけ人事へ伝えれば、毎月給与が振り込まれました。

しかしながら、監査法人を辞めて業務を開始する場合には、仕事の内容、時間、金額などを直接交渉し、合意する必要があります。先方から提示するケースが多いと思いますが、こちらから提示する場合、あまり高額だと継続的に依頼が来ないことがあるので、知り合いに相場を聞いておくのがよいでしょう。

金額が決まって、実際に仕事を実施して成果物を提出するなどして完了すると、報酬を先方に請求するため、請求書を送ることになります。

ここでウッカリして忘れてしまうことが多いのが、源泉税です。

源泉税とは個人が給与や報酬をもらう場合、金額の一部について、その個人ではなく、税務署が先に受け取っておくという税金の前払いの仕組みです。

もちろん、翌年3月15日までの確定申告、あるいは給与所得の場合、年末の年末調整で、精算することになるのです。(無利息ですが…)

(2)源泉税を差し引いた請求書の例

それでは、請求金額を計算してみましょう。源泉税の税率は100万円以下は10.21%になります(100万円を超える場合、超える部分の税率は20.42%)。

例えば、10万円(売上)と消費税8千円を請求することになった場合、源泉税は、10万円×10.21%=10,210円となりますので、請求金額97,790円(=売上100,000円+消費税8,000円 ― 源泉税10,210円)となります。

請求書の内容は以下のイメージです。

ご請求金額:97,790円
(請求明細)

XXXX業務 100,000円
源泉徴収税額 10,210円
差引 89,790円
消費税 8,000円
合計金額 97,790円

ここでウッカリして忘れてしまうことが多いのが、源泉税です。

このような取引を積み重ねていきます。1年分の売上と必要経費に基づいて、事業所得を計算して税額を計算しますが、その税額から、すでに前払いしてある源泉税を差し引くことにより、支払う税金(あるいは還付される税金)が決まることになります(税務申告書を作成し、翌年3月15日までの確定申告により精算されるのです)。

4.請求を受けた会社側の業務と会計処理<源泉税の納付>

参考までに、上記の請求書を受け取った会社側は、どうすればよいかを確認しておきましょう。

源泉税は、原則として、給与・報酬を支払った月の翌月10日までに納付する必要があります。所定の納付書へ必要事項を記載して、金融機関で納めます。

なお、給与支給人員10人未満の会社の場合、「納期の特例」を申請することにより、6カ月分まとめて納付することができます。人手不足の会社は、毎月納付が面倒なので認められているものです。

報酬を支払った会社における具体的な会計処理(仕訳)は、前述の例に基づくと、以下のイメージです。業務を実施した日に報酬を支払ったものと仮定します。

●業務を実施した日(=報酬支払日)
(借) 支払報酬
(XXXX業務)
100,000円 (貸) 普通預金 97,790円
仮払消費税等 8,000円 預り金 10,210円
●翌月10日までに納付
(借) 預り金 10,210円 (貸) 普通預金 10,210円

なお、給与も報酬も、源泉税を納める必要のある相手先について、源泉税を納付することを怠った場合、税務調査などで問題になり、延滞税も納めることになってしまいますので、ご注意ください。

すなわち、源泉税の仕組みを理解しておくことが、専門家として信頼してもらう基礎となります。

上記、3.4.(源泉税)の詳細については、下記リンク先、国税庁のタックスアンサーなどをご確認ください。

次回以降は、下記のテーマでお届けします。

執筆者プロフィール

小林 正和(こばやし まさかず)
公認会計士

1996年 東京大学経済学部卒業
同年、監査法人ト―マツ(現有限責任監査法人ト―マツ)入所
上場企業各社の財務諸表監査・内部統制監査、本部の品質管理業務等に従事
1999年公認会計士登録
2007年から2010年まで企業会計基準委員会へ出向し、各種専門委員会の専門委員・研究員として会計基準等の開発業務に従事
2013年 小林公認会計事務所を開業
2014年 税理士登録、税理士法人小林会計事務所設立
会計監査、税務顧問、会計コンサルティング、執筆等を中心として活躍中、明治学院大学非常勤講師も務めている。

著書

「M&A・組織再編の会計・税務」「収益認識の会計・税務」「固定資産・リースの会計と税務」(いずれも中央経済社>

「合併・連結の会計と税務」(税務経理協会)等

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