■ 取締役の構成について
(1)会社法に基づく取締役会の運営
取締役会を設置した会社では、社内に3名以上の取締役が在籍することになります。
コーポレートガバナンスを充実させるためには、これらの人々が置けば十分ということではなく、メンバーに必要な資質がなければ、取締役会の運営は立ち行きません。会社法では、取締役は、会社の業務執行の決定機関である取締役会の構成員であるとされています。会社法上は、取締役会では、以下の事項を決定すると明記されています。
- ① 重要な財産の処分及び譲受け
- ② 多額の借財
- ③ 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
- ④ 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- ⑤ 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
- ⑥ 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
- ⑦ 定款の定めに基づく役員及び会計監査人の会社に対する損害賠償責任の免除
上記事項以外にも、代表取締役の選定や解職、取締役の利益相反取引の承認など、取締役会の決議事項として会社法に規定されている事項はいくつかあります。
こうした決定しなければならない事項は、一言でいうと会社にとって重要な事項を決定する感じに見えますね。
(2)上場企業に求められる取締役会の運営
上場会社の取締役会では、各取締役は、株主に対する受託者責任・説明責任があるため、取締役会では、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るために以下の役割が適切に果たすことを想定しています。
有効なコーポレートガバナンスを構築するためには、取締役会がこうした役割を備えるようにしなければならないため、取締役会の構成員の役割が課題になります。
■ 取締役会の構成員の役割
(1)取締役の構成員の役割
取締役会において、「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論が行われる」ようにしなければなりません。
また、取締役会では、経営陣幹部による健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、迅速・果断な意思決定を支援すべきです。
さらに取締役会では、独立した客観的な立場から、実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価が行われ、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督が行われるようにすべきです。
こうした取締役会の運営を行うことが取締役会の構成員に求められることになります。
(2)取締役会では何を報告するのか
とはいえ、実際に取締役会を置いてみると取締役会では何を報告し、何を監督しなければならないのかということが課題になります。例えば月次の業績などを報告することになりますが、こうした情報も鮮度が大事ですので、取締役会運営においては必要な事項が迅速に議論されるようにしなければなりません。
また、忘れがちではありますが、「■ 取締役の構成について(1)会社法に基づく取締役会の運営」であげた①~⑦などについても必要に応じ該当事項を拾い上げて、速やかに議論することが求められます。
取締役は、経営のプロとしての株主から業務の委託を受けているという立場にあるため、公私混同に陥りやすい経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反となる取引の実施を適切に管理すべきとされます。
(3)取締役の資質
設置された取締役会が有効に運営されるためには、取締役会のメンバーが、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を備えることが求められます。
大企業ではなくとも、取締役会のメンバーには、会社の規模、態様、ビジネスモデルが異なれども、会社の業務に何らかの形で精通していることは必要となります。
取締役の資質を確認するため、取締役会のメンバーの略歴書に必要事項を記入するように主幹事証券会社から求められることがありますが、空白期間があった場合、その期間何を行っているか問われることになります。これは、その空白期間中、反社会的勢力と関係がなかったかなどの確認を行うためのものです。聞かれた場合は答えるようにしましょう。
上場企業では、取締役会の構成員が適切な者であることを説明するため、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスや取締役の選任に関する方針・手続を開示している企業が多数あります。
また独立社外取締役を置くことも要求され、当役員には、他社での経営経験を有する者を含めるべきであるとされています。
■ 反社会的勢力への対応
上場企業の場合、反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備しています。当然取締役の構成員等が反社会的勢力と関連がないことなども求められることになりますが、この点は上場非上場に関係なく、必要なことかと思われます。
取締役が反社会的勢力と関係がありそうか否かについては、いわゆる「反社チェック」という手順を経てその取締役の身元に問題がないかを会社として確認しなければなりません。
反社チェックを行ってみると稀に該当者にあたることもあり、上場を断念するというケースがあるくらい、反社チェックの結果は重要な事項になりますので、上場を決意したらなるべく早く会社役員など会社の重要な利害関係者の反社チェックを行うことをお勧めいたします。
なお、会社法においては、株主総会の決議によって選任される取締役について、取締役になることはできない人の要件を定めております。
- ① 法人
- ② 会社法やその他の法律に規定された罪を犯して刑に処せられ、その執行が終わるか、または、その執行を受けることがなくなってから2年を経過していない人
- ③ 上記②以外の法定の規定に違反し、禁固以上の刑に処せられ、その執行が終わるか、または、その執行を受けることがなくなるまで(刑の執行猶予中を除く)の人
このため、取締役の構成員に対しては、各取締役の略歴を照らし合わせて考え、各取締役が会社組織上、適切な位置に存しているか、反社会的勢力と関係がないか、会社法上問題がないかといった確認が必要となります。