はじめに
突然ですが、皆さんは日々読書をしていますか。毎日忙しく読書をする時間などとても作れない、という声が聞こえてきそうです。
でも本当にそうでしょうか。
ダラダラとスマホやTVを見ている時間、気づけば無駄に過ごしてしまった時間などないでしょうか。公認会計士の試験勉強をしていた頃は寸暇を惜しんで勉強をしていた皆さんが合格後に「読書をする時間が無い」というのは、厳しいようですが言い訳ではないでしょうか。
一流の経営者で読書をしていない人はいないといっても過言ではありません。これからの皆さん自身の成長に向けて、人生全体のキャリア形成に向けて読書という習慣を身につけてみませんか。
今回はわたしが読んで役に立った本の一部を7つのジャンル・場面に分けてご紹介させていただきます。
1.会計実務編
経営と会計を、経営者視点で結び付けることができる一冊です。
「稲盛和夫の実学 経営と会計」
著者名:稲盛 和夫
出版社:日経ビジネス人文庫
(1)本書の概略、内容
言わずと知れた名経営者稲盛和夫氏の会計哲学を学べる一冊です。
稲盛氏自身が経営をしていて利益が出ているのに会社にお金が無いことに驚き、経営と会計の結びつきを経営者のリアルな視点で教えてくれます。費用収益対応の原則や内部統制、原価計算にまで触れられており、その洞察力の鋭さに舌を巻いてしまいます。
皆さんが試験勉強で学んだ会計基準はもちろん大事な知識ですが、経営者が経営の実態と会計をどのように結び付け、どのように会計を経営に活かすべきか、を学べる一冊です。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
皆さんは決算書をみる時、すぐに会計基準や会計理論が浮かび、クライアントの方々と話をしていませんか。
もちろん、会計基準も会計理論も大事であり公認会計士や監査業務にとって必須な知識です。しかし会計基準や会計理論ばかりを振りかざしては、経営と向き合っている経営者としては困ってしまうでしょう。
本書でも稲盛氏は
「私は(経理の担当者に)『会計的にはこのようになる』と言われても、「それはなぜか?」と納得できるまで質問を重ねてきた」と記されておられます。
経営者と会計について話す際には経営者の立場に立って、どのように会計が会社の経営実務と結びついているのか、どのように会計が経営を表すのかという視点が不可欠でしょう。
本書は皆さんの会計学を経営者視点から、どのように経営と会計を結び付けるか教えてくれる一冊です。「会計がわからんで経営ができるか」という稲盛氏の想いをぜひ手にとってみてください。
2.決算早期化編
監査業務では「会社の決算、もっと早くならないかな」と感じることがあるでしょう。本書は会計人なら皆が望む決算早期化が学べる一冊です。
「決算早期化が実現する7つの原則」
著者名:武田 雄治
出版社:中央経済社
(1)本書の概略、内容
著者の武田先生は、決算早期化の第一人者です。決算早期化について沢山の著作や多くのセミナー実績のある武田先生は、決算早期化についてこう語ります。
「決算早期化を実現している会社とそうでない会社の違いには、会社の業種や規模は関係ありません。優秀な経理スタッフがいるかどうかも関係ありません。ハイスペックな会計システムを導入しているかどうかも関係ありません。また決算早期化は気合と根性だけでなし得るものでもありません」。
「決算早期化を実現している会社に共通して言えることは、決算の「仕組み」があることです」。
さぁ、決算早期化の「仕組み」の7原則を学んでみませんか。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
本書で学べる決算の仕組み、決算早期化の7原則は監査人としても組織内会計士としても、会社の決算に向き合う時に役立つ原則です。
最近、クライアントからは「監査法人の先生は何も教えてくれない」と嘆く声を聞くときがあり、本書で得られる決算の仕組みを教えることが監査人として問題があることとは思えません。本書で得た知識を会社へアドバイスすることで、クライアントの決算早期化につながることは彼らにとっても皆さんにとっても喜ばしいことでしょう。
また皆さんが監査法人から組織内会計士へと転身した際も、本書の知識が自社の決算早期化、業務の効率化につながります。
ぜひ決算早期化の仕組みをチェックしてみてください。
3.ファイナンス編
ベンチャー経営者のバイブル!とも呼ばれる実務に即したファンナンスの教科書です。
「起業のファイナンス」
著者名:磯崎 哲也
出版社:日本実業出版社
(1)本書の概略、内容
近年、ベンチャー企業へ注目が集まっております。ビジネスのユニークさ、新しさ、成長速度から多額の資金調達を達成しているベンチャー企業も珍しくありません。
しかし会社にとって資金は血液と同じです。株式の持ち分を「これは会社にとって血の一滴だ」、と表現する経営者もいるくらい企業にとってファイナンスは真剣勝負です。
そんなファイナンスについて、そもそも会社とは何かから事業計画の作り方、企業価値、資本政策、そして今やメジャーな投資手法となった優先株式まで学べる一冊です。
本書は発刊されるや否や「ベンチャー経営者のバイブル」とまで呼ばれた起業家必須のファイナンス本です。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
わたし自身、会計士としてベンチャー支援をしておりますが、多く問い合わせを頂くのが「資本政策を教えてください!」という依頼です。
そして驚くなかれ、ベンチャー経営者のみならず独立した後輩会計士からも「これまで監査しかやってきていないので、資本政策が分かりません。教えてください!」と相談を受けます。
確かに監査法人勤務では、自ら資本政策を作る機会はないでしょう。しかしベンチャーファイナンス全盛の今の時代、ベンチャー企業の監査をする上では、資本政策や種類株式の知識は必要です。また皆さんが組織内会計士としてベンチャー企業CFO、そしてCFOにとどまらず経営者を目指すのであれば、ファイナンス知識は必須となります。
監査人としても組織内会計士としても、ファイナンスについて自信を持って臨むためには本書でファイナンスを学びましょう。
4.戦略思考編
会計力と経営で必要な戦略思考力を結び付ける一冊です。
「会計力と戦略思考力」
著者名:大津 広一
出版社:日経ビジネス人文庫
(1)本書の概略、内容
皆さんが会計を学ぶ理由は何でしょうか。元々は「役に立ちそうだから」「会計士に合格するため」など様々でしょう。
では会計を学ぶことが皆さんのゴールでしょうか。それは違いますよね。
学んだ会計をクライアントに役立てること、自身が属する組織の経営に活かすこと、社会に貢献することなどが目的ではないでしょうか。そのためには皆さんの会計力を、実際の企業活動を理解し、考察する力、すなわち「戦略思考力」に結びつけなければいけません。
本書は皆さんの「会計力」をビジネスで使える「戦略思考力」へ橋渡しをしてくれます。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
皆さんは公認会計士として、すでに十分な会計力を身につけていることでしょう。
しかし決算書を見た時に、当該企業の経営戦略や競争優位性、ビジネスモデルが見えてくる力は備わっているでしょうか。
本書を読むことで、決算書から企業のビジネスモデルや競争優位性が把握できるようになり、戦略思考力が身につきます。それは今後監査人として企業を監査する上でも、組織内会計士として企業で活躍するにしても役に立つ力です。
会計力ある皆さんが戦略思考力を身につけ、公認会計士の使命にある通り日本経済の発展に寄与していきましょう。
5.マーケティング編
マーケティングのエッセンスがストーリーで学べる一冊です。続編もお勧めです。
「100円のコーラを1000円で売る方法」
著者名:永井 孝尚
出版社:中経出版
(1)本書の概略、内容
企業は自社のサービスを提供する上で、様々なマーケティングを実践しています。日本企業がバブル経済崩壊後、失われた20年(最近では30年とも)と呼ばれる中、マーケティングの重要性は日々高まる一方です。
そんなマーケティング全盛の時代ですが、皆さんはマーケティングが得意でしょうか。本記事を読んでいただいている多くの方は監査法人に勤務されていると思いますので、マーケティングと言われても「???」となってしまうのではないでしょうか。
世の中にはマーケティングの名著と呼ばれる本が多数ありますが、本書では有名なマーケティング理論がストーリーで学べる大人気シリーズです。難しいマーケティングが「なるほど、こういうことか!」と楽しく学べます。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
監査法人の監査スタッフとして働いているとマーケティングを身近に感じる機会は少ないかもしれません。
しかし皆さんが訪問するクライアントはどんな価値を顧客へ提供すべきか、それこそ戦場に挑む勢いでマーケティング戦略を考えています。そんなクライアントのマーケティング戦略を理解するためにも、自身がクライアントと高い視点で話すためにも、また将来のキャリアのためにも、今からマーケティングを学んでおきましょう。
なお、本シリーズは1がマーケティング戦略、2が競争戦略、3がイノベーション論となっています。この3冊の内容は監査法人でも組織内会計士でもご自身の起業でも役に立つ知識ですので、ぜひチェックしてみてください。
6.起業家自伝編
稀代の起業家であるリクルート創業者江副氏を描いた魂の一冊です。
「江副浩正」
著者名:馬場 マコト、土屋 洋
出版社:日経BP社
(1)本書の概略、内容
言わずと知れたリクルート創業者江副氏を描いた一冊です。人材はもちろん、生活情報、不動産、飲食、自動車、結婚、教育とそのビジネス領域の幅広さ、ブランドの強さは日本企業屈指と言えるでしょう。また同社は人材輩出カンパニーとしても有名でわたし自身「元リクルートです」という起業家、経営者に多数お会いしております。
日本の経済社会に多大な影響を与え続けるリクルートの強さ源泉は何か、起業家江副氏の想いや苦悩、そして避けては通れないリクルート事件から江副氏が残したものまで、余すところなく語られています。
稀代の起業家と言われた江副氏の軌跡をたどってみませんか。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
偉大なる経営者には偉大なる起業家精神があります。若い方ですと江副氏の名前を知らない方も多いかもしれませんが、江副氏の名前は知らなくても「自ら機会を創り出し機会によって自らを変えよ」という江副氏の言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。
本書では偉大なる起業家江副氏の生い立ちから詳細に描かれています。なぜリクルートが生まれたのか、なぜこれほどまでにリクルートが強いのか本書を通じて学ぶことができます。
日本が生んだ偉大なる起業家の起業家精神を学ぶことで皆さんの生き方も少なからず変わるのではないでしょうか。そんな想いを起こさせるほどインパクトある一冊です。
本書はわたし自身、寝る間も惜しんで読んでしまいました。自分のブログで本書を紹介した頃、仕事で出会う経営者の方々が「ブログで紹介されていた江副さんの本は、わたしも読みました。すごい本ですよね」と、皆で興奮して話したことが思い出されます。ぜひチェックしてみてください。
7.自己啓発編
自己啓発の祖といわれるナポレオン・ヒル氏のベストセラー本です。自己啓発ジャンルで本書を外すことはできません。
「思考は現実化する」
著者名:ナポレオン・ヒル
出版社:きこ書房
(1)本書の概略、内容
タイトルがすべてを語っているといえる「思考は現実化する」です。
著者であるナポレオン・ヒル氏は雑誌記者時代に成功者カーネギー氏に出会い、多くの成功者へインタビューをして成功原則を体系化しないか、と勧められました。その成功者へのインタビューに基づき同氏がまとめ上げた成功原則が本書です。
「明確な目標を持つ」「プラスアルファの努力をする」「燃えるような願望や目標が、確固たる行動に転化したとき、あなたの思考は現実化する」など多くの名言を本書で学ぶことができます。
(2)会計士がこの本を読んでおくと、どのようなときに役立つか
日々、目の前の仕事に忙殺されていると、なかなか人生について考える時間がないかもしれません。しかし仕事の中に皆さんの人生があるのではなく、皆さんの人生の中に仕事があるのです。時には人生について考えてみるのもよいのではないでしょうか。
自己啓発というと最近では「意識高い系」と冷やかされる面もありますが、そんな人の声は気にせず、自分の人生に向き合ってみませんか。
人生において皆さんが何を目指したいのか、どんな人生を送りたいのか、若いうちに一度は考えてみることがよいでしょう。そんな時にヒントを与えてくれるのが自己啓発本であり、本書であります。古くからの世界的ベストセラーの一冊ですので、ぜひ手に取ってみてください。
8.まとめ
最近の方からすると読書は古いイメージがあるかもしれません。また忙しくて読む時間が無い、疲れているので本を読みたいと思わない、という声も聞きます。しかしそれはあまりに勿体ないと思います。
本を通じて専門家としての知識を高めることで、クライアントによりよいサービスを提供できます。また本を通して、自分では得られない経験を得ることができます。またキャリアの形成においても、本で得た経営戦略やマーケティング、ファイナンスの知識が活きてきます。時には人生の意味や悩みを解決してくれる時もあります。
わたし自身何度も本に人生を救ってもらいました。また多く経営者からの相談においても本から学んだことをフィードバックして感謝されています。本を通じて得たこと、助かったこと、読書が役に立ったことは数え切れません。
まずは一度書店に行って、様々な本を手にしてみてください。きっと人生が変わる「きっかけ」になりますよ!