コーポレートガバナンス体制の維持・強化を行うのは、企業価値を維持するという目的を達成するための手段であることは従来から説明しているかと思います。
こうした企業価値を維持するためには、会社自身が反社会的勢力との関係を実際に遮断していること、並びに遮断できる体制にあるということは極めて重要な項目になります。
それでは、企業が反社会的勢力との関係を遮断していると言うために、何を行えばよいのか、今回はこうした点について解説をしていきたいと思います。
【企業が知っておかなければならない】反社会的勢力の調べ方と関係遮断の方法
コーポレートガバナンス体制の維持・強化を行うのは、企業価値を維持するという目的を達成するための手段であることは従来から説明しているかと思います。
こうした企業価値を維持するためには、会社自身が反社会的勢力との関係を実際に遮断していること、並びに遮断できる体制にあるということは極めて重要な項目になります。
それでは、企業が反社会的勢力との関係を遮断していると言うために、何を行えばよいのか、今回はこうした点について解説をしていきたいと思います。
日本では、1992年に施行された「暴力団員による不当行為の防止等に関する法律」(暴対法)により、暴力団による資金獲得活動を規制する動きがあります。
さらに2010年~2011年にかけて全国各都道府県が、暴力団排除条例(暴排条例)を制定しました。これは自治体の事務・事業や住民・事業者の経済取引や事業活動から、反社会的勢力を排除するためのルールを定めたということです。これは現在、47都道府県全てで制定・施行されています。
また、上場するに際しても実質審査基準で、「反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること」と明確に定めているように、反社会的勢力との関係遮断が求められます。
ここでは反社会的勢力の定義を確認しておきましょう。
反社会的勢力とは、日本証券業協会の自主規制関連用語集によると「暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者のこと。」とされています。
この定義は、少し古いかもしれません。これよりも少し新しい定義として、2007年6月19日犯罪対策閣僚会議で策定された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」で、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を指すとされています。
「反社」かどうかの境界線は非常に曖昧であるため、下記の説明するような識別する方法によって、反社会的勢力と認識する範囲は少し幅広にみておく方が良いかもしれません。
反社会的勢力との関係遮断については、以下の点から企業にとっては、必要不可欠である認識されています。
① 反社会的勢力を社会から排除していくことは、暴力団の資金源に打撃を与え、治安対策上、極めて重要な課題です。企業にとっても、社会的責任の観点から必要かつ重要です。
② 近時、コンプライアンス重視の流れにおいて、「反社会的勢力に対して屈することなく法律に則して対応すること」や、「反社会的勢力に対して資金提供を行わないこと」は、コンプライアンスそのものであると認識されています。
③ 反社会的勢力は、企業で働く従業員を標的として不当要求を行ったり、企業そのものを乗っ取ろうとしたりします。最終的には、従業員や株主を含めた企業自身に多大な被害を生じさせるものであることから、反社会的勢力との関係遮断は、企業防衛の観点からも必要不可欠です。
上記のように企業価値、株主価値の維持の観点から反社会的勢力との関係の遮断は必要です。
新たな対象と会社とで関係性を結ぶ際に、どのようなことを行うべきか、遮断を検討すべき対象であるか否かの判断方法を説明したいと思います。
企業にとって、反社会的勢力との関係についての調査対象となる者は、以下のようになります。
調査対象 | 調査時期 | 調査範囲※ |
---|---|---|
株主(投資ファンドの出資者を含む。ただし、投資ファンドの情報提供が無い場合は除く) | 株主となる前 | 個人は、本人のみ |
未上場法人の場合は、会社・代表者および株主(帝国データバンク等で把握できる範囲) | ||
上場法人の場合は、会社・代表者および大株主上位10名 | ||
役員 | 就任前 | 本人および関連当事者 |
本人については過去の勤務先についても社名をもとにチェック | ||
従業員 | 採用前 | 本人、本人の過去の勤務先 |
取引先(販売先、仕入先、外注先、コンサル・顧問契約先、貸付先、その他継続取引先等) | ①取引開始前 ②継続取引先については年1回 ③代表者・大株主に変動があった場合 |
個人は本人のみ |
取引先の法人(出資先除く)会社・役員および主要株主(HP、帝国データバンク等で把握できる範囲) | ||
その他法人(出資先除く)会社・代表者および大株主(HP、帝国データバンク等で把握できる範囲) | ||
その他調査対象者と密接な関係があると懸念される先(例:代表者の資産管理会社、取引先の代表者が兼務している法人等) | 出資先については、未上場法人の会社・役員および株主、上場法人の場合には会社・役員および大株主上位10名 |
※あくまでも一例であるので調査範囲については、個別に主幹事証券会社などと相談して対応することが必要です。
反社チェックを行うときに利用するツールとし、日経テレコン(有料サービス)を利用することが多いです。日経テレコンの使用方法とGoogle検索の方法について説明いたします。
なお、日経テレコンとは、日本経済新聞社が提供するデータベースです。新聞・雑誌、企業情報、業界レポート、人物情報、海外情報を、750を超える情報源から検索・収集できるサービスです。
膨大な新聞記事の中から、自社や取引先、競合情報に関する記事を瞬時に検索が可能。取引先の与信情報を速やかに収集し、企業同士の良好な関係を築くために利用されているサービスになります。
新規の取引先、株主、債権者、新規就任の役員、新規雇用の従業員については取引等の関係の開始前に調査する。
また既存の相手先(取引先、株主、債権者、役員、従業員)については、原則として年に1回調査を行います。
該当する部署が、インターネットでの新聞記事検索サービスを利用した調査を、以下の手順で行う。
① [取引申請書]をもとに、取引先名及び代表者名を調査する。個人が取引先となる場合には、その個人名をもって調査する。
② 新聞記事検索サービス「日経テレコン」にて、取引先名と代表者名にて検索を行う。当該検索にあたっては、キーワードにて検索を行う。
例えば、過去に恐喝で事件を起こし逮捕されていれば、新聞や雑誌、ネットニュースの記事に掲載されています。この場合、「恐喝 ●●●●(個人名)」で記事検索することで、調査対象者が反社会的勢力かどうかを調査するという方法になる。
反社会的勢力に関連するキーワードとしては、以下のようなものがある。
③ 記事検索結果が0件の場合には、当該検索結果をPDFで保存する。
検索結果が1件以上の場合には、見出しをPDFで保存した上で、重要な記事のみを抽出してPDFで保存する。反社会的勢力等との関係があると思われる記事がある場合には、その記事内容をPDFで保存する。
④調査結果において何らかの該当があった場合には、当該結果を[管理本部長]に提出した上で、追加調査の手続を行う。
⑤追加調査においては、[管理本部長]は記事検索調査結果等で、住所、年齢等により同一人物かどうかの確認をする。
⑥前項の結果、住所、年齢等が一致しない場合は、反社会的勢力等との関連が無いものとみなす。
⑦前々項の確認の結果、同一人物かどうか判断が難しい場合には、必要に応じて、警察その他外部機関等に照会する。
<注意点>
同姓同名の方が検索でヒットしてしまうことはよくある。その場合は、生年月日や住所などから、本人かどうかを判断する。
(2)-1:「語順も含め完全一致」 に 対象者 または 会社名
(2)-2:「いずれかのキーワードを含む」に
の反社ワードを入力
(2)-3:「詳細検索」ボタンで検索
契約書の中に暴排条項(暴力団排除条項)を設けます。
暴排条項とは、契約を締結する際、反社会的勢力ではないことや、暴力的な要求行為等をしないことなどを、相互に示し保証する条項です。通常は、契約書の中に一つの条項を設けて記載します。
コンプライアンスや企業の社会的責任などの観点から、企業が締結する契約には反社条項を盛り込むことが必要です。相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を解除できるようにして、反社会的勢力とのつながりの一切を断ち切るようにします。
従業員に対しては就業規則にて、反社会的勢力排除の基本的な方針を定め、社員に周知した上で対応します。
例えば、以下の事項を就業規則に盛り込むことが考えられます。
反社会的勢力排除の基本方針:不当な要求に屈しないこと、資金提供を受けないこと、裏取引をしないことなど
懲戒事由:従業員の反社会的勢力とのあらゆる関与が、懲戒事由になること
会社の安全配慮義務:企業が組織として社員を反社会的勢力から守り、安全を確保すること
損害の賠償:反社会的勢力に関わったことで会社に与えた損害を賠償する必要があること
また、入社が決まったら、誓約書に反社会的勢力ではないと誓約し、かつ、今後も反社に関わらないよう約束をさせることで、予防策になります。
仮に、誓約書の提出や就業規則に反社会的勢力を排除する旨の条項がないと、従業員に反社会的勢力との関係が発覚したとしても解雇は困難な場合もあり得ます。
そのため、できるだけ採用時に誓約書等の提出を求めたり、就業規則に反社会的勢力を排除する旨の条項を設けておくことが重要です。
日経テレコンによる検索やGoogle検索の結果、相手先が反社会的勢力かどうかを判断するのに不明瞭な場合、最終的に全国暴力団追放運動推進センター(暴追センター)などの専門機関に問い合わせして照会してもらいます。
各都道府県には、「暴力団追放運動推進センター(暴追センター)」の窓口が設置されています。賛助会員になり、暴追センターのデータベースにアクセスしてもらえるようにしておくことが有効です。
反社会的勢力との関係遮断の取り組みの過程において、よく質問を受ける事項を取りまとめてみましたので、ご参考にしてください。
Google検索は、風評チェックに適していますが、根拠としての裏付けとしては記事検索が必要です。日経テレコンなどの記事検索も含めて検証を行って、調査対象が反社会的勢力との関係があるものであるかの検討をしていくことが必要だと思います。
記事検索ツールは日経テレコンに限定されていません。そのため、検証対象ツールとして日経テレコン以外でも代替は可能であると思います。上場準備企業で主幹事証券会社から日経テレコンの利用を薦められた場合は、他のツールの利用でも可能であるかを確認することが有効だと思われます。
業法的に反社会的勢力であっても、要請があれば対応するということも考えられます。上場を目指す場合は、業法上の明確な根拠を特定した上で、主幹事証券会社を通じて取引所に確認するのがよいでしょう。これが最も無難な対応であるかと思われます。
該当者が従業員や役員の場合、明確な根拠資料を揃えてから面談などの対応をしておくことが必要かと思います。
実務的な経験から申しますとこのような場合は、自然と会社を辞められていきます。よって、実際の排除に至ったことはないのですが、慎重な対応が必要かと思います。
株主に該当者がいた場合は、公正な価格による株式の買取などの対応も考えられるかと思います。上場を目指す場合、慎重な対応が求められるかと思います。
取引先が何件あるかはわからないですが、通常反社チェックを行って引っかかる方が稀です。よって、検証した結果ゼロでしたというのはよくあることです。むしろその方が多いのではないでしょうか。
ただ万一に発覚した場合は、たった1件でも企業の命運を左右するほど重要案件となってしまうので万全の対策をとることが必要です。
反社会的勢力の不当要求があると、人の心には不安感や恐怖感がおよびます。企業で何らかの行動基準等を設けないままに担当者や担当部署だけで対応した場合、要求に応じざるを得ない状況に陥ることもあり得るでしょう。
企業の倫理規程、行動規範、社内規則等に明文の根拠を設け、担当者や担当部署だけに任せずに、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体として対応することが必要です。
また、直接的な損害だけではなく、反社会的勢力との関係が発覚したがゆえに、取引の停止を受けたり、上場廃止になったりする事例もあります。
反社会的勢力との関係は、事前に予防すること、仮に関係を持ってしまった場合は遮断するために毅然とした対応をとることが極めて重要になることに留意してください。
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