■ 監査法人の行う監査とは?
監査法人とは、企業の財務諸表の適正性を監査し、投資家や株主に対して信頼性の高い情報を提供する独立した組織で、公認会計士を中心に組成されます。
監査法人では、所属する公認会計士が、企業の決算書や会計処理が適切であるかを検証し、法令や会計基準に準拠しているかどうかを確認することになります。
監査法人により行われる監査には主に以下の目的があります。
(1)財務諸表監査
企業が作成した財務諸表が適正であるかを確認し、評価します。
上場企業に対しては、金融商品取引法に基づく監査(いわゆる「金商法監査」)が義務付けられています。
(2)内部統制の評価
企業のリスク管理体制が適切に機能しているかを検証し、評価します。
内部統制報告制度(J-SOX法)に基づき、企業の経営管理体制が適正であるかを評価することになります。
(3)財務諸表への信頼性の付与
監査法人による上記評価を通じて、投資家や金融機関といったステークホルダーが企業の財務状況を正しく判断できるので、ステークホルダー保護が図られます。
監査の結果は、監査意見(適正意見・限定意見・意見不表明・不適正意見)として企業の財務諸表の信頼性に対する評価を「監査報告書」としてまとめることを通じて、企業の信頼性を向上させる重要な役割を果たすことになります。
■ 監査法人の規模
監査法人はその規模により大きく3つのカテゴリに分類されます。
(1)大手監査法人(Big4)
世界的に影響力のある4つの監査法人を「Big4(ビッグフォー)」と呼びます。
- 有限責任 あずさ監査法人
- EY新日本有限責任監査法人
- 有限責任監査法人トーマツ
- PwC Japan有限責任監査法人
これらの監査法人のクライアントは大企業やグローバル企業が中心となります。
クライアント数・売上高ともにトップレベル日本国内の上場企業の約80%を監査しています。
監査だけでなく、コンサルティングやアドバイザリー業務にも力を入れており、年収が高く、キャリアパスが豊富です。
(2)準大手監査法人
大手には及ばないものの、多くの上場企業の監査を担当する監査法人です。代表的なものは以下になります。
- 太陽有限責任監査法人
- 三優監査法人
- 仰星監査法人
- 東陽監査法人
上場企業だけでなく、成長中の企業や中堅企業の監査を担当することもあります。
大手に比べて個々の会計士の裁量が大きく、成長機会が多いです。
また、コスト競争力があり、クライアントとの距離が近いという特徴があります。
(3)中小監査法人
5名から15名程度の社員で構成される監査法人です。
上場企業はもちろんのこと、非上場企業や地方の企業を対象とする監査法人です。従業員数も少なく、クライアント数も限定的ですが、地域密着型の監査を行います。
会計士一人ひとりの業務範囲が広く、実務経験が積みやすいという特徴があります。アットホームな雰囲気の法人が多いと言えます。
■ 監査法人の仕事内容
監査法人の業務は年間を通じて変化します。また、監査の種類によって求められるスキルや業務範囲も異なります。
(1)時期による仕事の内容の違い
監査法人の業務は、四半期決算や年度決算の時期によって忙しさが異なります。
時期によって繁忙期と閑散期に分かれます。
①繁忙期(1月~5月)
日本の場合、3月決算会社が多いので、特に年度末(3月決算の企業の場合は4月〜6月)は、監査調書の作成や、クライアントへのヒアリング業務が増えるなど、夜遅くまで業務が続き、残業が多くなります。
②閑散期(6月~12月)
閑散期においては、内部統制監査や四半期監査など、業務の負担が軽減されます。
公認会計士に獲得が義務付けられているCPD単位取得のための研修や自己研鑽の時間が確保しやすい時期になります。
(2)公認会計士監査と会社法監査
①公認会計士監査
公認会計士が行う監査全般を指し、企業の財務状況を評価する業務を担当します。被監査会社は、主に上場企業が対象となります。
②会社法監査
会社法に基づき、大企業が義務付けられている監査のこと。主に非上場の大企業が対象に実施される監査法人監査になります。
(3)金商法監査と準金商法監査
①金融商品取引法(金商法)監査
基本的に上場企業に義務付けられた監査で、金融商品取引法に基づいて実施されます。
②準金商法監査
上場を目指す企業に適用される監査で、金融商品取引法第 193 条の 2 第1項の規定に準じて、IPOを目指す企業に対して行われる監査です。
なお、証券取引所の上場規則では、上場会社と同等の準金商法監査を受け、監査法人等によって無限定適正意見を表明されることが上場要件とされます。
■ 監査法人の業務範囲
監査法人のその名の通り「監査業務」を中核としていますが、一定の条件下で非監査業務も実施可能です。主な業務としては以下のようなものがあります。
(1)アシュアランス業務(保証業務)
- 内部統制監査(J-SOX)
- 合意された手続業務(AUP)
- サステナビリティ関連情報の保証業務
(2)コンサルティング業務(条件付きで)
(3)税務業務(分離された専門法人を通じて)
多くの大手監査法人は、税務業務に関しては独立した「税理士法人」などを設置し、監査法人とは組織的に切り離してサービスを提供しています。
■ 監査法人の業務に関するFAQ
以下、監査法人の業務に関連する内容をFAQ形式でまとめてみます。
Q1:監査法人が、コンサルティング業務を行うことは、今の日本ではできるのでしょうか。
A1:結論から言えば、「一定の条件のもとで可能」です。
日本において監査法人がコンサルティング業務を行うこと自体は禁止されているわけではありません。
ただし、独立性の確保という観点から、監査クライアントに対して直接的なコンサルティング業務を提供することには厳格な制限があります。
監査法人がコンサルティング業務を行う場合は、次のような対応が一般的です。
- 監査対象企業とは関係のないクライアントに対してのみコンサルティングを実施
- コンサルティング部門を独立させるなど、組織的な分離を行う
- 日本公認会計士協会(JICPA)の倫理規則を遵守する
特に、財務諸表監査などを行っている企業に対して、同時に戦略立案、内部統制構築などのコンサルティング業務を行うと、監査の客観性や中立性が損なわれると判断される可能性があるため、慎重な取り扱いが求められます。
Q2:監査法人が、監査業務以外の業務を行うことが制限されている理由を教えてください。
A2:制限の根本的な理由は、「独立性の確保」です。
監査という業務は、企業の財務諸表が適正に作成されているかを第三者の立場から検証し、社会に対して信頼性を提供するものです。そのため、以下のリスクがある業務は制限されます。
①利益相反の可能性
コンサルティングや税務指導をした企業の監査を行うと、自ら関与した内容をチェックすることになるため、客観性が疑われます。
②監査の中立性の喪失
企業の方針に影響を与えたり、意思決定に関与した場合、監査の「独立した立場」が損なわれると判断されます。
③社会的信頼の低下
監査法人の中立性が損なわれたと感じられると、監査報告書の信頼性そのものが低下するリスクがあります。
これらの理由により、日本公認会計士協会や金融庁などの監督機関は、厳格な独立性規則や倫理基準を定めています。
Q3:監査法人が、コンサルティング業務や税務業務の受注を受けたときはどのような対応を行っているのでしょうか。
A3:監査法人が監査以外の業務を受注する際には、以下のような対応が行われます。
①独立性の確認手続き(スクリーニング)
業務を受注する前に、その業務が監査業務と利益相反にならないかを確認します。特に以下の点を審査します。
- クライアントが監査対象企業でないか
- 同一グループ内で監査と非監査業務を同時に提供していないか
- 過去に関与した業務が監査内容に影響を与えないか
②業務分離体制の構築
コンサルティング業務などは、監査業務から完全に独立したチームや法人で実施されます。たとえば、PwC Japan有限責任監査法人などの大手法人は、PwCコンサルティング合同会社やPwC税理士法人などと明確に組織を分けています。
Q4:監査法人の中に税理士がいるのでしょうか。
A4:監査法人自体には税務サービス提供には制限があるため、通常は税理士法人などの別組織を設立して業務を行っています。
Q5:コンサル業務を積極的に行う監査法人はありますか?
A5:はい。大手監査法人のグループは、コンサルティング部門を別法人で持ち、戦略・IT・業務改革など幅広い支援を行っています。
Q6:中小の監査法人でも非監査業務は可能ですか?
A6:可能ですが、同様に独立性や利益相反に関する厳格な規制が適用されます。
Q7:監査法人と会計事務所の違いは何ですか?
A7:会計事務所は税務や記帳代行などを主に行い、監査法人は公認会計士が所属し、法定監査を専門とする法人です。
Q8:「独立性が損なわれる」とはどういう意味ですか?
A8:監査人が企業の意思決定に関与したり、利益関係を持つことで、公正な監査意見が出せなくなるリスクを指します。監査法人の監査にとって独立性とは、第三者性ともいうことができますが、自身の監査意見を提示するにあたって、きわめて重要な考え方になります。
■ 監査法人の年収はいくら?
監査法人に所属する公認会計士の年収は、法人の規模や役職によって異なります。
主に以下のようになると言われています。
(1)大手監査法人の年収
役職 |
年収目安 |
パートナー |
2,000万円〜5,000万円 |
マネージャー |
1,000万円〜1,500万円 |
スタッフ |
600万円〜800万円 |
(2)準大手監査法人・中小監査法人の年収
役職 |
年収目安 |
パートナー |
1,500万円〜3,500万円 |
マネージャー |
900万円〜1,200万円 |
スタッフ |
500万円〜700万円 |
(3)非常勤(大手・準大手)の年収
常勤の従業員を抱えているため、常勤でも抱えきれないときに仕事が降られてきます。
週2〜3日の勤務で、年収300万円〜600万円程度が目安です。
(4)非常勤(中小監査法人)の年収
関与の程度で異なります。人が常時足りない法人の場合は、かなり業務を任せられることになります。
週1〜5日の勤務で、年収200万円〜800万円程度が目安です。
■ 監査法人に転職するには
監査法人は、公認会計士監査を行う専門家集団になります。そのため、転職するには以下の条件が必要となります。
(1)必須の条件
①公認会計士資格(監査業務を担当する場合)
監査を行う専門家集団であるため必須の条件となります。
②監査法人での実務経験(経験者採用の場合)
監査実務経験の必要性:大手監査法人<<<<<<中小監査法人
中小監査法人は大手監査法人と比べて人的資源が限られてくるため、一通りの監査を行うことができる即戦力の人材が要求されます。そのため監査法人における実務経験が大手監査法人に比べて要求されます。
(2)望ましい経験
① 企業の財務部門・経理部門での経験
企業の財務経理を通じて会計監査を行うことになるため、経理実務の経験者は監査に当たって即戦力として期待されることになります。
特に監査経験のほかにCFO経験者など一通りの経理実務を行ったことがある人材は、一通りの監査経験ができるもの見做されるので大手監査法人を経て、CFO経験、独立しつつ中小監査法人の非常勤勤務というのは一つのルートになると思います。
② IT部門やシステムエンジニアとしての業務経験
財務諸表監査を行うにあたっては、必ず財務諸表のITへの依存状況を確認することになります。こうしたITへの依存の有無・程度は、監査実務を進めるうえでとても有用なため、監査法人内でも重宝されることになります。
③ その他
海外勤務経験、IPO実務経験などは望ましいということが監査法人の求人に明記されていることがありますが、いずれもこうした経験は、一通りの監査スキルを身につけた上でのことと認識してください。監査実務の現場では、監査のスキルを一通り身につけなければこうした経験が活きることはまずありえません。
■ 監査法人の求人
監査法人の求人は、以下のような職種で募集されることが多いです。
(1)公認会計士
監査業務全般を担当する専門職。資格必須。
(2)アシスタント職
公認会計士を補助する業務。資格不要で未経験者も応募可。
(3)アドバイザリー業務スタッフ
財務アドバイスやリスク管理を担当する職種。コンサル経験者向け。
(4)IT監査スタッフ
システムエンジニアや、ITセキュリティ管理の部署での経験を見込んでの応募となります。
■ まとめ
監査法人は、企業の財務諸表をチェックし、社会の信頼を支える重要な役割を担っています。規模に応じて監査法人の業務内容やクライアントの種類が異なり、年収やキャリアパスにも影響します。
転職を考える際は、必要な資格や経験を確認し、自分に適した規模の監査法人を選ぶことが重要です。監査法人の求人を見極め、規模や仕事内容、年収、転職方法を理解し、自身のスキルに合った職種を見つけましょう。