1.国内で中国語を使う会計の仕事は?
(1)監査法人内
監査法人との提携事務所が中国にある場合には基本的に会話ができたり文章の読解ができたりするほどの語学力は必要とされませんが、会計用語レベルの中国語の理解は求められます。
監査法人で中国語を使うケースとしては、関与先の中国子会社と債権債務の内容を確認する書面のやり取りをする時ぐらいとなります。ただこの場合に要求される中国語のレベルはそれほどに高くなく、基本的な中国の会計用語がわかっていれば辞書を使いながら誰でもできます。
中国から来客があった時に通訳などの要員として重宝されるかもしれませんが、それほど頻度は多くないと思われます。
(2)一般企業内での活用
①日本国内での活用
日本にも中国の企業は多く進出しているため、中国語ができて、かつ日本における会計の専門家である会計士のニーズはそれなりにあります。例えば、中国企業が日本企業を買収した場合、中国企業側が日本の会計監査制度等を理解するためには、やはり会計の専門家である日本人会計士が中国語で説明することが説得力に繋がります。
ただし、通訳者がいればことが足りる場合もあるので、コミュニケーションに重点を置く場合に限って中国語のできる会計士が重宝されることになります。
また、日本に進出してきている中国資本の事業会社でも中国語ができることを要求されるケースは多くありません。大企業であれば英語で十分足りるため、中国語を活かす場面は限られているといえます。
一方、中国に現地法人を有しており、その現地法人が日本の連結財務諸表の対象となっている場合、かつ現地で日本語対応の連結パッケージを使用していていない場合には、中国語ができることを要求されます。中国語で作成された財務諸表等を連結する際に必要になるからです。
さらにその連結対象となった現地法人が内部報告書の対象範囲に含まれる重要な子会社である場合には、現地に行ってモニタリング等を実施する必要があり、中国語を話せるレベルでの対応が要求されます。
②日系企業の現地法人に赴任された際の活用
中国に進出する日系企業が、中国の現地法人へ日本人の会計士を赴任させるケースはあまりないといえます。
日本では大企業であっても中国の現地法人は小規模な会社であることが多く、通常は中国で上場していないケースが多いため、わざわざ会計士を赴任させる必要性が薄いのです。
一方、Big4をはじめとする日本の監査法人や会計コンサルティング会社であれば、日本から赴任させられる可能性があります。この場合、現地採用の場合と比べて給与の他、住居手当等の福利厚生がよく、中国においてプチセレブな生活を送ることができます。ただし中国に赴任する期間が5年を超えると税制上不利になるため、通常2年から4年と短期間であるケースがほとんどです。
現地採用であれ、赴任であれ、中国では日本の会計士資格で監査報告書にサインすることはできません。
会計士としての仕事内容は、主に下記の通りとなります。
- ①日本の本社へ、会計情報が適切に提供するお手伝い
- ②内部統制モニタニングの徹底
- ③日本から来た監査法人や本社の人間に中国における経済や税制の変更の事業に与える影響等を説明する
- ④現地の社長、日本の経理部等に中国税制への対応の助言をする
中国では会計よりも、むしろ税務対応の方が強く求められることを頭に入れておいた方がよいかもしれせん。
中国語と中国税制に強くなり、中国の会計資格(日商簿記レベルのもの)を取れば(中国では経理に最低一人以上資格者がいることが要求されます)、そのまま中国で現地就職するという選択肢も増えます。
(3)海外進出支援
中国語ができ、かつ中国における法規制に詳しく、中国企業を相手に会計・法務のサービスを提供している企業であれば、中国に進出を考えている日本の企業にとっては、心強い提携先になれると思われます。
特に中国は今や“世界の工場”ではなくて“世界のマーケット”になってきているため、中国という巨大なマーケットをターゲットとしている日本企業も増えてきています。コンサルティング会社において「中国語+会計+マーケティング」の3点で、企業の中国進出をサポートするのは、会計士資格の活かしどころの一つかもしれません。
(4)独立開業
独立開業を考えた場合、当然ながら中国語ができるだけでは開業し成功することはできません。中国では日本の常識は非常識、中国の常識や商慣行を熟知した上で、会計士としての知識やスキル、人脈を活用することになります。
中国の常識や商慣行に詳しいのはやはり中国人であり、一番初めに見つけなければならないのは信頼できるビジネスパートナーとなってくれる中国人の会計士でしょう。
2.中国語ができることの実務上のメリット
(1)英語に比べて、日本人で中国語を使える人は少ない
中国語ができることで、監査の他、監査の結果明らかになった会社の問題点を改善するためのコンサルティングを提案し、中国人従業員とコミュニケーションを取りながらスムーズに進めることができます。
(2)(1)と関連するがライバルが少ないので昇給や昇格、転職、開業に有利
先に大企業においては英語で足りるため中国語を活かす機会は限られていると述べましたが、やはり日本国内で、日系企業や欧米の外資系企業に就職した場合、英語よりも中国語を話せる人材は少ないため、差別化を狙うことはできます。
ただし、中国人と同じ土俵となる中国で現地企業に就職した場合、中国語と日本語ができることでそこまで優遇されることは少ないといえます。
(3)中国企業、中国経済が成長しているので今後もチャンスが大きい
日本を抜いてアメリカに次ぐ経済大国となった中国ですが、日本に進出する中国企業や日本企業を買収する中国企業も増え、監査関与先の社長がある日とつぜん中国人になるケースもあります。
監査現場において中国語ができることは、中国子会社からの中国語による文書が理解できたり、中国人スタッフとコミュニケーションをとり円滑に監査を進めることができるというメリットがあります。
3.国民性の違いなど、注意すべきこと
日本は性善説の考え方が主流かと思いますが、中国では性悪説ということを頭に入れておいた方がよいでしょう。日本の常識は中国では非常識となりますので注意が必要です。
とにかく、日本人の好きな「暗黙の了解」に期待してはいけません。これはまったく通じないといってよいでしょう。
例えば、支払期限は日本の企業は相手の迷惑を考えて必ず守ろうとし、支払いが遅れた場合は先方に謝ります。ところが中国ではそもそも支払期限は守らなければならないという発想がなく、遅れても謝ることが嫌いな中国人は謝りません。払わなくてすむものならなるべく先延ばしにして払おうとしません。なので、何回も何回も催促する必要があります。このように日本とは常識が違うのです。それ以外には、子供と老人にはとても優しい国柄といえます。
4.わたしの場合
(1)中国語を業務で使うきっかけ、勉強方法など
わたしの場合は、夫の転勤に伴いニーハオしか喋れないまま、2歳の娘と2か月の息子を連れて上海へ渡りました。現地では、週一回中国語教室に通い、中国人家政婦を雇い日常会話を磨いたのち、上海マイツで中国人会計士とともに2年間常勤で働きました。
上海マイツには翻訳スタッフや日本語のできる中国人会計士もいたので、言葉がわからなくて困るということはありませんでした。中国語を話せるようになりたいという気持ちがあったので通勤時間中に中国語講座のテープを聞くなどして、日本に帰る前の最後のころは、中国語しか話さない中国人会計士と中国語で会計の議論ができるようになりました。
(2)監査法人や独立後に、どのような形で中国語を活用しているか
独立後は、往査先の企業の経理が中国人の場合に使いますし、台湾企業から中国語のできる会計士としてオファーを受けたりすることもあります。日本もそうだと思いますが、まだ中国には英語ができない中国人がたくさんいます。日本において、対応に困っている日系の中小会計事務所も多い状況にあるので、中国語ができる会計士はニーズが高いといえます。
5.まとめ
わたしは留学などして中国語をきちんと勉強したわけではないのですが、独学により日常会話のレベルを越え、仕事で使うレベルまで磨いてきました。
語学を学ぶことは同時に文化を学ぶことになり、人生の幅が一気に広がります。国が違えば価値観も、本当に千差万別であることを思い知らされます。
中国では日本以上にまだ英語をしゃべらない人が沢山います(もちろん英語が上手な中国人もたくさんいます)。語学を武器にする段階まで上げるには、その背景となっている文化や社会制度や慣習、風習などを積極的に学ぶことがキーになると思います。