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「ベンチャー企業CFO」の業務内容と仕事のやりがいは?

この記事では、ベンチャー企業のCFOとしての経験を持つ公認会計士として、会計士目線での業務や仕事のやりがいを語りたいと思います。

ベンチャーCFOは、経営陣の1人として、資金調達、IR、予算管理、管理体制の構築等を行いつつ、企業価値を向上させていきます。

また、最重要業務の1つが、重要なマイルストーンであるIPOの達成です。リソースが少ない中でこれらの広範な業務を担いながら目標を達成することは、日々ハードシングスの連続ですが、それを1つ1つ乗り越えて行くことで、自身の経験値もキャリアも非連続な成長を遂げられる可能性があります。

目次

■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)

■「ベンチャー企業CFO」の業務内容

■「ベンチャー企業CFO」の業務のやりがいやメリットは?

■「ベンチャー企業CFO」の採用ニーズ

■「ベンチャー企業CFO」の年収はどのくらい?

■「ベンチャー企業CFO」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?

■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)

ベンチャーCFOの場合、管掌範囲が広くリソースは十分にない場合がほとんどです。ステージにもよりますが、CFOを採用しようとしているフェーズだと大半はそうだと思います。

また、経理や内部統制関連の業務のウエイトは非常に低い場合が多いです(ステージや管理部のメンバー構成によっても大きく異なります)。そのため、得意とする軸はありつつも、広範囲に業務をやっていきたい、会社・自己成長のためにフルコミットしたいという方の志向性に合います。

逆に、マネージメントだけやって手を動かしたくないという人にはまったく向きません。財務会計の道に絞って、その道を深く進んで行きたい人にもフィットしない可能性があります。多くの範囲をやらなければいけない分だけ大変ではありますが、その反面、やり切ることができれば自らの成長に大きく寄与します。

後述していますが多岐の業務を行うため、監査法人の〇〇業務が出来れば即ベンチャーCFOにフィットするといったようなものはないように思います(経理責任者や上場準備責任者であれば監査法人の業務とはフィットしやすいです)。

(1)活かせるスキル

CFOの業務の一部としてのIPO準備における監査法人の課題対応、内部統制の構築、Iの部の作成といった点については早期の戦力となれるでしょう。

また、会計士には責任感が強く、クライアントのためにコミットしてやりきるパワーを持った方が多くいらっしゃいますので、そのようなスタンスやマインドはベンチャーでも歓迎されると思います。また、会社法を使うことも多いため、その知識は役に立ちます。

(2)キャッチアップが必要なスキルと必要な考え方

一方、その他の業務については、監査法人のみの経験では未経験であることが多いです。特に最重要業務の1つである資金調達や予算管理等については大きな責任が伴うため、未経験である場合には早期のキャッチアップが必要となります。

監査法人出身の方の中には、完璧に近いものを求める方も少なくないように思います。初期のベンチャーにおいて管理体制が出来上がっていることはほとんどなく、それをステージに合わせて試行錯誤しながら、事業成長を阻害しないようにバランス良く構築していくことが仕事です。そのため、制度が既に整った会社で勤務したいという方には向かないです。

また、CFOの業務の多くについては、テキストに記載されているような汎用的な正解はないことがほとんどです。会社にとって何がベストかを試行錯誤しながら泥臭く考えて行きます。誰かが答えを用意してくれることを期待できません。クライアントの話に耳を傾け、粘り強く調べながら答えを見つけ出すことにやりがいを感じる方の方がフィットする可能性があります。

■「ベンチャー企業CFO」の業務内容

管掌範囲となる可能性が高い業務を列挙します。各社のフェーズ、在籍しているメンバー次第で自らがどの業務にどれだけ深く関与するかは大きく異なります。

(1)資金調達・IR・資本政策

大手企業と異なり、ベンチャーは黒字化を達成している企業は稀です。ステージや経営方針によって異なりますが、少なくとも、CFOを募集している段階では赤字の会社が非常に多いです。

一般論として会社は資金が尽きたら終わりのため、資金調達を成功できるかどうかは企業の存続に直接的に関係しますので最重要業務の1つです。資金調達において、いついくらどのような方法で調達するかは各社各様で、ステークホルダーや考慮すべき因数は非常に多く、マクロ環境の影響も大きく受けます。常に戦略(資本政策)をアップデートし、攻めと守りの両面を考えながら実行する必要があります。責任は極めて重く、メンタル面でのタフネスも必要です。

また、出資後に都度、投資家とコミュニケーションを取っておくことも重要です。顧客紹介、事業面や財務面でのアドバイスをいただけることも多く、うまく味方につけることで、より企業価値の向上に寄与できます。

(2)IPO準備

多くのベンチャー企業がIPOを目指します。IPO時期をいつにするかについては会社の戦略は様々ですが、ベンチャーキャピタルから資金調達している以上、ほとんどのベンチャーはIPOを目指します。

業務内容としては、監査法人、証券会社の課題対応、証券審査、東証審査、財務局対応、Iの部の作成、成長可能性資料の作成、Valuation検討、売出・ロックアップ交渉、シンジケート団の組成等々、非常に多くの業務が短い期間に発生します。

これらは非常に多くの関係者と協議しながら、大規模プロジェクトの長として、責任を持って実行します。リソースが十分でない中、通常業務と並行して行うため、茨の道であることは間違いないでしょう。

(3)Financial Planning & Analysis(予算策定・管理)

資金調達、IRの前提として事業計画を策定する必要があります。見積りを誤り、早く資金が尽きてしまえば会社の存続に影響するため、精度の高い事業計画を策定する必要がありますし、株主、証券会社、監査法人と対話する際の共通言語となります。また、この精度が低いままだとIPOはできません。

ベンチャーは通常、リソース(資金、人員)が限られているため、そのリソースをいかに配分すれば最適な企業成長につながるかは経営上の重要な課題であり、最適な資源配分も経営上の重要な検討事項です。

(4)法務

法務の担当が社内にいる場合は少ないです。顧問弁護士は初期段階のベンチャーでも通常いますが、常に相談していては費用も高額となり時間もかかるため、法務もCFOの責任範囲の下で行う場合が多いです。

内容は、通常の契約書レビュー、株主間契約や投資契約等のファイナンス関連、知的財産関連等、多岐に渡ります。重要性の高いものは顧問弁護士のアドバイスを受けながら行います。

(5)人事総務・組織構築

人事総務については、管掌役員がいない場合は通常、CFOが管掌します。ステージが早い企業であれば自らが採用活動を行う可能性もあります。人数規模が小さく、体制がしっかり整っていない場合も多いため、どのベンチャーも、組織課題は大なり小なり頻繁に発生するため、想定以上に時間を使うことも散見されます。

また、管理部門の採用であれば、当然に自らが主導して行います。

(6)わたしの場合

わたしは大手の事業会社在籍時にベンチャーに出向したことを含め複数のベンチャーに在籍して来ました。入社するフェーズ、プロジェクトの進み具合、入社して来るチームメンバーの強み弱みによって業務のウエイトはまったく異なることとなります。

ジョイントベンチャー(JV)によって設立されたシードのベンチャーに兼務出向していたときは、事業提携に当たり、どの会社がどの範囲で責任を負うかという点が争点に。契約関連の業務が非常に多く、出資ストラクチャーの再構築等も行いました。

また、事業面でのサポートのため、沖縄や広島等へ出張し現場対応等を行うことも。ここでは財務会計や内部統制関連のスキルはほとんど使うことはなく、会社法の知識は役に立ちました。

別の会社では、入社時には派遣社員1名以外管理部門のメンバーはいなかったため採用や入社手続、請求書の発行からすべて自分でやりつつ(時にはマーケティング関連のセミナーのため全国を回っていた時期もありました)、チームメンバーが揃って来たら、資金調達や経営企画関連の業務(主に予算管理、報酬制度の設計等)へとシフト

財務会計や内部統制関連のスキルはほとんど使うことはなく、ベンチャーファイナンスや経営企画関連のスキルが役に立ちました

また別の会社では、株式による資金調達は一段落しているフェーズであったため、デットによる調達、株式譲渡、組織課題の対応を進め、落ち着いたタイミングからIPOのための体制構築、証券会社や監査法人対応、IR等へシフトしていきました。

時期的に採用が難しく相当な範囲を作業者としてカバーしたと思っています。IPOするにあたっての監査法人の課題対応、Iの部作成等においては、監査法人時代の経験が役に立ちました。

■「ベンチャー企業CFO」の業務のやりがいやメリットは?

他の箇所に記載していることと重複しますが、下記のようなやりがい、メリットが挙げられます。

  • 非常に広範な業務に管掌できる
  • 会社の経営陣の1人として経営に関与する
  • 大きな裁量を持つことができる(当然に大きな責任も伴う)
  • IPO等による成功を達成することができれば、自身のキャリアが大きく向上する
  • 非連続的な成長を遂げることができる

■「ベンチャー企業CFO」の採用ニーズ

(1)求められるスキル、人材

管掌する業務としては上記に記載したとおり広範囲に及びます。これらの業務について、チームを組成しながらも自らの責任で達成する必要があると言えます。入社時点で全てのスキルセットを高いレベルで持っている方は多くはないでしょう。そのため、得意な軸を持ちつつ、周辺領域もカバーできるよう成長していく必要があります。

最も必要なことは、「やりきる力」だと思います。資金調達時に逃げると会社は滅びます。

部署全体として非常に多くの業務があり自分が思い描いていたとおりに進めないことが毎日のように起こります。十分なリソースが確保されていることは、ほとんどのベンチャーではありません。メンバーが辞めれば自分がダイレクトに被ることに。IPOのための諸業務は相当にハードです(特に直前は)。組織課題も噴出します。株主、証券会社、監査法人、社内等の四方八方から好きなことを言われ、それぞれがトレードオフであることも少なくはありません。

1つ1つのタスクはとても泥臭いです。このようなハードシングスの連続を乗り越え、資金調達やIPO等をやり切る力が求められます。

(2)採用されるポイント

ベンチャーCFOとなっている会計士は多くいます。会計のプロフェッショナルであること、管理体制の構築というテクニカルな点について言えば、他の職業の方より有利であり、多くの先輩方が切り拓いてくださった恩恵もありますので、会計士の資格は土俵に上がるに当たっては有利に働くことも多いです。

ただ、会計士の資格だけで採用されて十分に活躍できるということはありません。上記のとおり、ベンチャーCFOとして求められることは非常に多岐にわたり、監査法人の経験のみではほとんどの業務が未経験であるためです。入社する前か後かにかかわらず、回せる業務の幅を増やし、社内外の高い期待に応え続けて行く必要があります。

面接で聞かれることは様々です。CFOであればほとんどすべてのケースで社長が面接に出て来ます(万が一最後まで出て来ないなら辞退することをお薦めいたします)。

CEOの方が管理や会計について詳しく理解している場合は稀で、想定しない質問をしようとする方が多いです。質問は多岐に及びますので、対策をすることにあまり意味はないと思います。なお、会社HPやエージェント情報等から会社やビジネス等を事前に確認しておくことについては、大企業であろうとベンチャーであろうと当然に行う必要があります。

(3)転職で気を付けるポイントや難易度

経営メンバー、ビジネス、組織構成、社風等については、解像度高くイメージできるようにしておくことがよろしいかと思います。

財務情報は開示されている場合は少ないですが、確認できる範囲で確認しておくべきかと思います。上場企業と異なり、世に出ている情報が少ないため、面接での情報収集の重要性は相対的に高いです。

■「ベンチャー企業CFO」の年収はどのくらい?

これは完全に会社によりけりです。大手企業と異なり、会社の給与テーブルもない場合が多いです(それを作るのもCFOの仕事の1つです)。

ご自身のスキルセット、現年収、経営陣の年収等を考慮の上、決められます。もし入社時は低かったとしても入社後に会社の成長とともに上がる場合も多いです(もちろん会社の成長に貢献し、その貢献度に応じて)。また、多くの場合、IPOを成功した場合に行使できるストックオプションが付与されます。

大手企業と異なり、ほとんどのベンチャー企業には余裕がありません。高い成長を継続的に求められるもののそのリソースは十分ではなく、会社の成長は1人1人の活躍にかかっており切実です。年功序列という体系を置いているベンチャーは皆無と言ってよいでしょう。

だからこそ会社に対して貢献できる優秀な方を強く求めており、貢献して会社が成長すれば大きく昇給する可能性があります。

■「ベンチャー企業CFO」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?

その後の進路としては、他のベンチャーでCFO職に就く場合が多いように思います。他には、独立する、IPOコンサルティング会社に行く、複数社の非常勤監査役になる、副社長または社長へ転向する等の進路もあります。もしIPOを達成することが出来れば稀有な人財となるため、可能性は拡がります。

多くの場合が他社のCFOであるように記載すると進路が硬直的なのかと思われるかもしれませんが、多くのことを求められる職業です。会社によって業務ウエイトは異なるため、同じCFOでの転職であっても成長機会は十分にあるかと思います。また、自分の力量次第で会社の成否に影響を与えることのできる非常に魅力ある仕事であるため、引き続きやっていきたいという方も多いのではないかと思います。

大変ではありますが、この仕事を本気でやって得られる経験は代替し難く、苦労の末に目標を達成した時の喜びは筆舌に尽くし難いです。チャレンジできる時にチャレンジしてみるのもよいのではないでしょうか。

なお、ベンチャー企業の数は昨今、膨大な数があり、一括りに「ベンチャー」と言っても、シードなのかレイターなのかで規模感や求められるものはまったく異なります。本記事は未上場ベンチャーを前提に記載させていただいておりますが、上場後ベンチャーでも、在籍者の退職等により、責任者クラスのポジションが空いている場合も稀にあります。何が自分にあっているのかをしっかり考えた上でご決断されるのがよろしいかと思います。

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