■「中堅・中小 監査法人 パートナー」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?
(1)社会人としてのポジションは?
まず、最初にお伝えしたいことは、中堅・中小の監査法人のパートナーになるということは、会計士のキャリアパスのスタートラインにようやく到達したと考えるということです。「パートナーって法人のトップじゃないの?」と、思われるかもしれません。確かに役職としてはそれ以上の出世は監査法人の代表になるくらいだと思います。
しかしながら、よく考えてみてください。中堅・中小監査法人では、パートナーになるために必要な年数は、個人差はあってもおおよそ10~15年前後だと思います。
一般事業会社に置き換えてみればよくわかると思いますが、10~15年の経験年数というのはベンチャー企業でもない限りは、よくて課長、スピード出世しても部長クラス、社会人としてはようやく中間管理職の仲間入りを果たす程度の経験年数だということです。
(2)経験年数に対して得られる経験の質
「大手の監査法人に入所してから修了考査をパスし、公認会計士となったら独立したい」という話もよく耳にすると思います。うまく独立できたとして、世の中には業務は溢れているため、ある程度の収入は確保できるでしょう。
ただ正直なところ、たかだか3年程度働いた会計士に社会において信頼がつくのかといえば、答えは明白だと思います。
それにも関わらず、パートナーになった場合には直接上場企業等の経営者と対峙することになるわけですから、責任や緊張感というのは非常に重くのしかかります。
ただし、会計士というスキル、監査法人という職種の素晴らしい点は、上場企業のあらゆる部署や従業員の方々、様々な企業各社の内部統制や組織運営を“いい意味で”土足で踏み込んで体感できることにあります。
さらには、その会計スキルを駆使して企業経営のノウハウ等を経験し、経営者や役員クラスと直接議論できることにあります。これは、他のどんな職種でも経験することはできません。会計士として監査法人に勤めるからこそ経験できる、かけがえのないものです。
(3)中堅・中小監査法人のパートナーは社会人としてのスタートライン
以上より、パートナーになるということは、「会計士のキャリアパスにおいてスタートラインにようやく到達した」、つまりは「ようやく社会にとっては一人前の責任ある立場として信頼いただける会計士になった」といえるのではないでしょうか。
ただし、その経験はかけがえのないものです。監査法人の立場でも、個人の立場でも、あらゆる観点で起業支援を行うスキルを培っています。
世の中には、経験を持った会計士を必要としている中小企業は無数に存在しますので、中堅・中小監査法人のパートナーになった先のキャリアパスは、無限大の可能性を秘めているスタートラインに立ったといえるのではないでしょうか。
■「中堅・中小 監査法人 パートナー 」の業務内容
基本的に中堅・中小の監査法人のパートナーとして行う業務については、当然法人の経営メンバーの一角を担うわけで、大きな捉え方としては大手と比較しても差はないですし、特に監査業務という点では大きな差はありません。
ただし、いくつか大手のパートナーと比較した場合には人によっては異なる点も考えられるため、業務内容ごとにその差を比較します。
(1)法人経営
法人経営という点が最も異なる点だと思います。大手監査法人は従業員が数千名規模、パートナーだけでも数百名いるような大企業といえます。そのため、パートナーといえど、多くの方は日々監査業務に従事しながら、法人経営に直接携わるというよりは、各所属部署の管理業務等を行うにすぎません。一般事業会社でいえば部長や部長補佐程度のイメージです。
しかしながら、中堅・中小監査法人では、多くても従業員が200名程度、パートナー数も10~20名前後のため、各パートナーが法人経営に直接携わり、本当に「自分たちの会社」として法人経営についてリスクを共有し、分かち合い、手を取り合って全力で経営しています。
もちろん従業員も滞りなく見渡せるレベルですので、機動的で流動的な組織経営もボトムアップでスピーディに意見を吸い上げて経営できる点が大きく異なるといえます。
(2)監査業務
監査業務については冒頭触れた通り、大きな差はありませんが、中堅・中小のパートナーは、大手でいうところのシニアマネージャー、マネージャークラスと同様の動きを取ることが多く、クライアントやチームメンバーとコミュニケーションを頻繁に取る点が異なるといえます。そういった意味では社内外いずれにおいても関連当事者との距離感がより近いといえます。
(3)プロジェクト企画、業務開発等
中堅・中小監査法人では、法人経営のために、日々、距離の近いところで頻繁に意見を出し合う場がある点が大きな長所といえます。そのため、常に各パートナーが法人にとって必要と考えられる様々なプロジェクトを企画し、対外的な営業側面でも業務開発を行っています。大手ではこういった対応は一部のパートナーに限られている点が、法人経営と同様に異なる点といえます。
(4)副業について
上記まで触れると、副業なんてやる時間あるの?と思われてしまうかもしれませんが、そこはやはりパートナーになって社会的な信頼も大きくついたからこそ、個人での活躍の場も無限大に秘めています。
大手では原則副業は禁止されていますが、中堅・中小監査法人では基本的に自由ですし、弊社では特に副業を「推奨」しています。副業を行うということは、自らの会計士スキルを用いて業務開発を行い、切り拓いていくわけですから、当然会計士としての能力開発に繋がっていくものです。むしろやらない選択肢はない、といった観点でできる範囲で副業にも注力しています。
特に、中堅・中小監査法人では、多くの非常勤会計士も在籍しているため、彼らは独立した会計士が大半であり、優秀な会計士も多く在籍しています。その彼らからの業務委託もありますし、彼らに限らず職員間での業務の紹介もしています。
(5)経営コンサルティングやアドバイザリー業務との違い
よく会計事務所の独立、経営コンサルやその他のアドバイザリー業務に転職希望を出される方はいらっしゃいますが、そのような業務では基本的に企業の資料を無制限に閲覧することはできず、むしろ見えないで外部から分析を行い、クライアントに価値ある成果物を納品することが主目的です。
とても素晴らしい業務ではありますが、監査法人特有の経験を得ることはできません。よく独立した優秀な会計士の方で、あえて非常勤として監査法人に勤務される方がいらっしゃいますが、やはりそういった方々は監査法人で業務を実施できることの利点をしっかりと理解され、継続的に関与したいということをお話されています。
■「中堅・中小 監査法人 パートナー」の年収はどのくらい?
昨今は監査法人業界全体で会計士による監査法人離れが深刻化しています。そのため、限られたリソースの確保という観点から、中堅・中小と大手とで比較した場合に年収について大きな差はないと考えます。おおよそのレンジは以下の目安です。
スタッフ・・・400~600万円
シニア・・・600~900万円
マネージャー・・・800~1,200万円
パートナー・・・1,500万円以上
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
(1)中小・中堅監査法人での働き方
今の時代はダイバシティが当然の経営思想にありますので、このような人という限定的な考えを持つ必要はありません。ただし、どういった勤務条件を望まれるかは、入社面接時にしっかりと希望を伝え、意向を理解していただく必要はあると思います。
特に中堅・中小監査法人では、法人ごとに経営方針も大きく異なりますし、しっかりと希望される会社のことを理解する必要があります。
弊社では、特にダイバシティをうたっておりますので、通常の常勤職員の他にも、常勤週3~4日勤務で家庭や副業に時間を使われる方や、時短勤務、残業なしや主査業務免除といった様々な勤務形態の方も多く在籍しています。まずは入社時にご自分の希望される勤務条件を互いに合意し合うことが重要だと思います。
現代のダイバシティ経営では、法人はあらゆる人財を適材適所で必要としています。「自分は向いていないのではないか」という気持ちを持つ必要はなく、自分を必要としてくれる組織を見つけることが大切だと思います。全ての個を尊重することが最も大事な考えだと思います。
(2)パートナーに必要な素養とは
上述のとおり、中堅中小では特に経営にも深く従事し、自ら様々なプロジェクト企画、業務開発を行う場面が多くあるため、会計士としての自分を信じ、勇気をもって道を切り開いていく素養が必要だと思います。ただ、品質管理メンバーや人材開発等、当然ポジションは色々とありますので、必ずしも営業側面に秀でていなくてはいけないということでは全くないことは補足させていただきます。いずれにしても責任ある役職であることから、しっかりと先導して従業員を導いていく素養が必要なことは言うまでもありません。
■「中堅・中小 監査法人 パートナー」のやりがいやメリットは?
中堅・中小監査法人のパートナーのやりがいやメリットについては、すでに業務内容で記載していることに踏襲されると考えます。
- 自らの考えで法人経営の一翼を担うこと
- クライアントや社内のメンバーとのコミュニケーションも頻繁に取れること
- プロジェクト企画や業務開発等も自由に行えること
- 副業も自由にできるため、あらゆる点で個人に一定程度裁量があり、組織も対応してくれること
そして、無限大の選択肢を自分がどのように開発していくかという点が最大のやりがいでありメリットだと考えます。
ただし、当然そこには責任やリスクという物は重くのしかかることは言うまでもありません。それがプロフェッショナルとして社会に貢献する責務であり、やりがいではないでしょうか。