この記事では、中堅・中小監査法人アドバイザリーの「業務内容」「仕事の魅力」「報酬の相場」「その他メリット・デメリット」などについて、実際に中堅・中小の監査法人で業務の経験がある会計士に執筆いただきました。
公認会計士が転職した場合、またその後のキャリアプランのヒントなどを知ることができます。
■「中堅・中小 監査法人 アドバイザリー」の業務内容
中堅・中小監査法人のアドバイザーの業務は大きく分けて、下記の5つとなります。大手との違いを中心にまとめてみました。
(1)決算支援、有価証券報告書作成支援
中堅・中小監査法人アドバイザリー業務で決算支援を担当する場合、クライアント規模も比較的小規模であることから、自身がクライアント経理部と協力し決算業務全体を統括する機会が得られます。
(2)IPO支援
IPO支援業務においても、中堅・中小監査法人アドバイザリー業務では大型IPOより若い会社や小規模な会社からの相談が多くあります。
創業間もない会社からのIPOに向けた相談業務やクライアント社長と対峙して事業計画や予算作成などCFOのようなポジションで業務に臨むことができます。
(3)J-Sox、内部監査業務支援
J-Sox、内部監査業務についてはクライアント側においては、これらのことに取り組むのが初めてのことが多いと言えます。監査法人担当者への期待が非常に大きい計画立案から実際の整備・運用業務、報告書作成など、実践的な業務となります。
(4)M&Aにおける財務デューデリジェンス、株価算定業務、FA業務
M&Aにおいても中堅・中小監査法人アドバイザリー業務では大手事務所と比較して小規模案件を担当する機会が多くなります。そのため案件を1名~3名程度担当することも多く、業務全体をしっかりと把握できます。時には財務DDから株価算定を一人で担当することもあります。
案件進行中の業務量は多いですが、一人ひとりの業務の責任が重いことから、それが仕事への高い充実感や達成感につながることとなります。
(5)事業再生支援業務
事業再生支援業務でも中堅・中小監査法人アドバイザリー業務では案件が小規模なことが多いことから全体を統括するとともに多くの業務を担うこととなります。
クライアント経営陣との打ち合わせ、再建計画立案・実行支援、金融機関対応など包括的に管理・運営することが求められます。地方企業の再生を担当すると多くの期間出張対応することもあります。
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
アドバイザリー業務には高い専門性と強いプロフェッショナル意識を持つ方が向いているといえます。また、クライアントの期待に応えることはもちろん、クライアントの期待値を超える成果を出すことも求められます。
クライアントの満足度には上限がありませんので、それに応えるプロフェッショナル意識が求められるでしょう。
特に中堅・中小監査法人におけるアドバイザリー業務では、BIG4でのそれよりもクライアント社長と直接対峙する機会が多く、クライアントのために自分自身で重要な判断を行う機会も多くあります。
そのため経営者のベストパートナーとして業務に臨み、自分自身の成長につなげたい人、高い責任感やそれに伴うやりがい、充実感を得たい人に向いています。
■「中堅・中小 監査法人 アドバイザリー」のやりがいやメリットは?
中堅・中小監査法人におけるアドバイザリー業務のやりがいは、クライアントや案件規模がそれほど大きくないことが多く、自分自身で案件全体をまとめ上げることができる点にあります。
クライアントからは社長をはじめ多くの役員と案件について協議するとともに、自分自身の専門家としてのアドバイスや成果物を報告することに強いやりがいを見いだせることでしょう。
自身のアドバイスによりにより、クライアントがIPOを達成したり、M&Aを成就させたり、事業再生を果たすなど、クライアントの成長に立ち会い、経営者とともに歩めることは自分自身の成長にもつながることでしょう。
■「中堅・中小 監査法人 アドバイザリー」の採用ニーズ
(1)求められるスキル、人材
ここでは中堅監査法人にて、採用担当をしていた経験をもとに述べさせていただきます。
アドバイザリー業務として求められるスキルは、まずは公認会計士としての会計に関する専門知識。
また、業務によりますがFASとよばれるファイナンシャル・アドバイザリー・サービス業務では業務でエクセルを多用します。そのため、それなりのエクセルスキルが求められるでしょう。
さらに、アドバイザリー業務では、報告書をパワーポイントスタイルでまとめ、クライアントへ報告する場面も。そこでは高い説明力・プレゼン力も求められることとなります。
(2)採用されるポイント
アドバイザリー業務とひとことで言っても、上述したようにその幅は広いです。そこで具体的に「どのようなアドバイザリー業務に関心があるか」を意識して採用面接に臨むことが採用されるポイントにつながります。
採用側も新卒採用であれば、丁寧にアドバイザリー業務の内容や求める人物像などを面接官側から教えてくれることもありますが、中途採用の場合は即戦力を求めている場合が多いと言えます。
たとえば、「M&Aに関する仕事をしたい」と思った場合でも、「わたしはM&Aにおける財務DD業務や株価算定業務に関心があります。なぜなら~」「わたしは、再生業務に関心があります。なぜなら~」とその業務への関心度や具体的に臨みたい業務をしっかり伝えることが採用されるポイントとなります。
(3)転職で気をつけるポイントや難易度
転職においては前述したように、具体的にどのようなアドバイザリー業務に関心があるか伝えることがポイントです。
逆にいうと、漠然と「アドバイザリー業務に関心があります」「コンサルティングをしてみたいです」という態度では採用側としても困ってしまいますし、転職が成功することは難しいでしょう。
まずは身近な先輩や同僚などで自分が関心のあるアドバイザリー業務に従事している方の話を聞いたり、関連する書籍を読んでみたり、と事前に情報を得ておくことも良いでしょう。
ちなみに筆者は若手のころに中小の会計コンサルティング会社の面接に臨んだ際、面接官から「税制適格のストック・オプションの要件を述べてください」「株価算定における主要な手法と、あなたが考える理想的な株価算定手法について考えをお聞かせください」と質問され、しっかりと答えることができず、見事面接に落ちた経験があります。
ここまでの専門性ある質問をされることは少ないとは思いますが、関心のあるアドバイザリー業務について基礎的な知識は身につけて面接に臨まれることをお勧めします。
■「中堅・中小 監査法人 アドバイザリー」の年収はどのくらい?
アドバイザリー業務においては概ね監査法人の年次と同程度の年収に加えて案件への貢献度や当該部門の年度業績等に応じた業績賞与などを得られるケースも有ります。
監査法人でいえばシニアスタッフからマネージャー職クラスという点で700万円~1千万円などが年収イメージとなります。
■「中堅・中小 監査法人 アドバイザリー」の経験を活かしたその後のキャリアアパスは?
アドバイザリー業務を経験した方の次のステップとしては多様なキャリアが待っています。
例えば、中堅・中小事務所では経験することができない大型、グローバル案件などを求めて大手ファームのコンサルティング部門へ進む道があります。
一方で最近増えているのが組織内会計士として企業の経営企画室や内部統制・内部監査部門、M&A部門へ進まれる方も増えております。
アドバイザリー業務ではクライアントのパートナーとして活動していた立場からクライアントの一員として、その成長に貢献することをめざすキャリアです。
またアドバイザリー業務経験を活かし、独立に進む人も多数おります。
中堅・中小監査法人におけるアドバイザリー業務であれば、M&A支援であってもIPO支援や再生支援業務であっても、取り扱う案件の業務全体を踏まえて業務を執行する習慣が身につきます。
その経験から独立へ進む方が多いです。逆にいうならば、独立を目指すために中小・中堅クラスのアドバイザリー業務に就かれる方も多いですね。
収入面についてもアドバイザリー業務に一度就いた経験を活かしてのステップアップですので、現状の年収水準をベースに、それよりも上を目指しての転職・独立をされる方が多い傾向にあります。