ひとつ前の記事(「公認会計士試験に受からない。撤退するタイミングの判断」)では、撤退するタイミングについて触れましたが、ここではその後の進路について、ご紹介したいと思います。
「公認会計士になる」という目標を達成できなかったことで、気を落としたり、自信を無くしてしまったりしている方もいることでしょう。
長く勉強してきた公認会計士試験の知識を無駄にしないためにも、具体的にどのような道があるのかを解説します。この記事が、それぞれの方にとって最善の道をみつけられるきっかけになればと思います。
目次
■ 監査法人に「監査補助者」として入所する
■ 監査法人以外に、就職・転職をする
3.まとめ
■ 監査法人に「監査補助者」として入所する
(1)監査補助者とは?
ここでは、公認会計士試験勉強を諦めた場合の進路について触れていきますが、試験合格者のみが監査法人へ就職しているわけでもありません。まずは、完全に試験勉強を辞めてしまう前に、試験合格者以外が監査法人に就職する方法について解説します。
現在、大手監査法人を中心に「監査補助者」の採用が行われています。ほとんどが短答式試験合格者限定で契約社員(正職員採用もある)として入所し、監査法人で仕事をしながら試験合格を目指します。
(2)監査補助者として働くことのメリットは?
最大の利点は、監査法人での実務経験を積みながら勉強ができ、職場環境としても公認会計士が周りにいるため勉強の励みにもなります。法人によっては、学費を一部負担する制度を導入したり、試験前は長期休暇を取得できたり、合格へ向けて法人としてサポートをしてくれるため、この制度を利用して早期に試験合格を目指したいところです。
ただし、今まで試験勉強に専念していた場合は、業務の時間も入ってくるため時間管理は大切になります。また、これは「試験合格を目指す制度」であるため、必ず合格を手にする以外の選択肢は無いとの意気込みで入所しなければなりません。
■ 監査法人以外に、就職・転職をする
次に、監査法人以外で公認会計士試験の勉強の知識を活かしたいと考えた場合に、具体的にどのような進路があるのかをご紹介します。
(1)一般企業
大学や大学院から公認会計士試験勉強をしてきた方で、卒業後数年で断念した場合は、一般企業の第二新卒としての就職活動が可能です。
試験勉強で得てきた知識は経理職以外でも活かせますので、受験経験が無駄になることはありません。経理職など、やりたいことにこだわりがある場合は、中途採用として活動していくことが想定されます。
現状、売り手市場となっているため、若手ポテンシャル採用を活発にしている企業も多く存在します。
① 『応募書類の書き方』と『面接対策』
ここでポイントとして挙げられるのが、『応募書類の書き方』と『面接対策』です。人事担当者が書類選考や面接をする場合、会計士試験の試験制度や学習内容、難易度を理解していない状況も十分に予想されるため、しっかりと説明し理解してもらう必要があります。
特に、卒業後も勉強に専念していた場合は、社会人経験がないため、何もしていないブランク期間と見られないよう書類の書き方について工夫する必要がありますし、面接でも得意とする分野をアピールしていく必要があります。
公認会計士試験の学習する分野は多岐に渡っています。財務会計だけではなく、監査論や企業法も学習していたり、租税法まで学習していたりする場合は、むしろ強みとして捉えて欲しいと思います。
つまり日商簿記2級程度の知識ではなく、より広く深い知識があるということをアピールしてみてはどうでしょうか。面接官が経理担当者の場合は、試験制度について理解している場合も多く、担当者が公認会計士や元受験生だったということもありますので共感が得られることが多いです。
選考を進める上で大切となる応募書類については、書き方のポイントがありますので、まずは転職エージェントに相談されるとヒントを得られるかと思います。
② 入社後の心がまえ
入社後も引き続き勉強と両立して、合格までの受験勉強を支援するという企業は無いと考えるべきです。企業としては採用する以上、長期にわたってキャリアを築いて欲しいというのが本音ですし、仮に試験合格した場合に監査法人へ入所するといった考えの人を採用することはありません。
勉強をするのは歓迎ですが、試験に合格するための勉強ではなく、得られた知識は企業の中で活かすという方向に切り替えることが必要です。
(2)会計事務所、税理士法人
公認会計士試験を辞めた方のなかには、税務の道に進む人もいます。公認会計士試験発表後の税理士法人の定期採用で、試験合格者や受験生を募集する事例があります。税務業務が中心となるため、ご自身の目指す方向とマッチしているか検討する必要もありますが、未経験者でも採用に意欲的な法人も比較的多く、経験を積んでいけば活躍の場も広がります。
一般的に法人の規模とクライアントの規模は比例しているので、どんなクライアントにサービスを提供していきたいか考える必要がありそうです。例えば、中小企業の経営者と二人三脚で仕事をしていきたいと考えた場合は、中小の会計事務所・税理士法人にて経験を積んでいく選択肢となります。
また、会計事務所や税理士法人を選ぶ場合に、規模だけで選ばないこともポイントです。法人の中には、たとえば資産税に特化しているなど専門的に業務を行っている法人があります。
仕事の内容も、記帳代行業務から担当する場合や、いわゆる巡回業務を中心に担当することもありますので、単純に法人のHPで読み取れる情報だけで判断することなく、転職エージェントを利用し、各法人の担当者から情報収集するのが望ましいといえます。
(3)コンサルティング会社
コンサルティング会社といっても様々存在しており、大まかに下記が代表的なものとなります。
財務・会計コンサル・・・
M&Aアドバイザリーやバリューエション、財務を中心としたデューデリジェンス業務、事業再生コンサルティングなどが主な業務。近年では、M&A関連の業務に関してはクロスボーダー案件が多く、英語力が必要となる傾向。また国内では事業承継に絡んでM&Aも行われている。
税務・会計コンサル・・・
申告書作成から組織再編や事業承継など税務に関わること全般でサービスを展開。最近では特化型の事務所も増加しており、事業承継や相続に関しては増加している。
国際税務コンサル・・・
昨今、国内企業でもグローバル化が進んでおり、両国間での課税の有無や二重課税など、海外との税務問題が生じます。このような2国間以上の税務問題を扱う分野が「国際税務」であり、自国の税法及び相手国の税法ならびに租税条約等を勘案して対処する。
内部統制コンサル・・・
クライアントに適した内部監査制度・監査役監査制度の検討を行う。そのうえで、上場審査に適合する監査担当者の選定や、監査活動および調書・報告書等の整備に関る助言、ひな形等の提供並びに導入・運用に際してのサポートを行う。
戦略系コンサル・・・
一般的に米国や欧州を本拠地にワールドワイドな展開をしているファームが多い。基本的に大企業をクライアントとし、経営者相手に綿密な分析をベースにした提案をプレゼン・導入といった流れ。最近ではクライアントの中に入り込んで戦略の実行面までサポートするハンズオン型も多い。戦略・組織・財務・IT等の個別分野を越えての対応が多い。
ビジネス系コンサル・・・
主に中小企業向けとして顧客の企業・事業戦略立案~IT戦略立案・システム化構想策定といったいわゆる上流フェーズから、システムインテグレーションやその後のシステムアウトソーシング、さらにはビジネスそのもののアウトソーシングまで幅広く展開。ただ近年ではファームごとに事業領域・特色などを打ち出し独自色を強めている。
公認会計士試験の受験経験者が、各コンサルティング会社を目指す際は、経験を求める会社も多いため就職が困難な場合も多いです。ただ、公認会計士試験の勉強で得た知識が備わっている強みを活かして就職できる可能性はあります。
強い関心があるコンサルティング会社には積極的にチャレンジしてみる価値はあると思います。
3.まとめ
公認会計士試験合格を目指して取り組んできた受験勉強を、継続していくだけでも立派なことですが、やはり合格と不合格では現実の選択肢は変わってきます。
公認会計士試験勉強から撤退するという大きな決断をした際には、当然、試験勉強で得てきた知識を活かしていきたいという想いは残りますので、そのあたりも踏まえて進路を決めていただきたいと思います。
試験勉強で得た忍耐強さ、向上心、知識は、必ず仕事上で活きてきます。公認会計士試験に合格することが人生のゴールではありません。その先の長い人生で、会計士試験勉強をしてきたことを後悔することなく今後の道を進み、それぞれの道で活躍して欲しいと願っています。