この記事では、公認会計士として上場企業の会計監査、スタートアップ企業の上場準備支援、内部統制構築運用支援等に従事したあと、株式会社pluszeroのCAOとしてIPOを達成し、現在も多岐に渡る業務に従事する山本隆史さんにお話をお伺いしました。
公認会計士目線での業務内容や仕事のやりがいについて語っていただきましたので、ぜひ参考になさってください。
■ 必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
わたしはもともと上場前のpluszeroに入社し、上場準備から関わってきました。そのため上場前後で多岐に渡る業務に携わっているため、一般的なCAOとは多少業務内容が異なるかもしれません。
一般的にはCFOが資金調達や運用、資金繰りなどのお金をどのように活用するかに責任を持つ役員であるのに対し、CAOは経理や財務、総務、人事、法務などの管理部門を束ねる立場という区分でしょうか。
仕事内容は守備範囲が広いため、正解のない様々な問題に直面します。
そのため必要とされる志向性としては、下記のものになるかと思います。
- 公認会計士では知らない知識、経験も多く必要とされるため、専門家や社内とコミュニケーションをとって問題解決ができる
- 自分が知らない分野でも楽んでやることができる
- ルールや正解はないので、自分で思考してチャレンジすることができる
■ CAOの業務内容
(1)予算管理、経理業務、総務業務、法務業務、開示業務
公認会計士としての今までの知見が活かせる業務になり、監査の枠組みの中で学んできた経験が通用する部分です。
わたしは経理や総務の制度の立案・運用、契約書作成などを行いましたが、監査法人時代に様々な会社を見て、監査に限らず周辺知識を含めてどれだけきちんと勉強していたかが問われると思います。
(2)IR業務
自社の強みやビジョンを、投資家にどのようなメッセージとして届けるかを考えます。
実際の数値をビジョンと重ねて、どのようにアピールできるかが非常に重要です。
IRについては各社、多種多様で正解がなく、また公認会計士としての業務内容と重なる部分が少ないため、入社してからキャッチアップが最も難しいと感じた業務でした。
(3)中期経営計画立案
他の役員と一緒に、会社としての中期の成長性を考えていく業務です。どのくらいの成長率で、どのような数字をあげていけば投資家に会社が成長していると思ってもらえるか、またそれが実現可能かを検討します。営業担当や事業開発の役員などとは、実際の数字をもとに現場で実現可能なところまで落としこんでいきます。
公認会計士の時は提出された数字をチェックするという立場だったため、経営側として数字を作るには、また別の知識が必要だと非常に感じる部分です。
(4)M&A
会社の中期経営計画の中で、自分たちに足りない分野とのM&Aや、より会社を成長させるための投資についても考えます。
M&Aにおいてターゲット企業を選定し、その企業との交渉を行うソーシング業務や、それらの投資について社内の合意を形成するための投資計画立案、相手先との条件交渉やスキーム立案などもCAOの仕事です。
会社が効率的かつ健全に運営できるような仕組み作りも担当します。取締役、取締役会、監査役、監査役会、内部監査、社内組織、社内規定、ITシステムなど、それらの構築を指揮します。
これはわたしの場合ですが、上場前に入社したため、最初は様々なIPO準備が仕事のメインでした。主幹事証券、取引所、監査法人、銀行等の利害関係者が多く存在し、会社の体制等の構築や利害関係者への各種説明等、業務範囲は多岐にわたります。
■ 公認会計士として行う監査業務と引受審査業務とのフィールドの違い
弊社にはCFOとCAOが在籍しており、部下は6名です。
管理部としてはギリギリの人数なので、CFOとは連携して業務に取り組んでいます。
わたしは大学在学中に公認会計士試験に合格しました。
新卒で大手監査法人に入所したあとは、上場企業の会計監査、スタートアップ企業の上場準備支援、内部統制構築運用支援などに従事。そのあと、三井不動産のCVC部門にて、スタートアップと連携した新規事業開拓、スタートアップへの投資および支援業務、ファンド運営などを経験。その時にベンチャー企業の面白さを感じ、いずれは自分もベンチャー企業で働いてみたいと思うようになりました。
転職の軸の一つとして最も重視したのは、「実績としてIPOを内部から経験したい」という点でした。それを達成するため、転職先の会社の成長性、将来性、サービスの市場性等、実際に上場できるポテンシャルがあるかどうかを重視していました。
ありがたいことに何社かオファーをいただいたのですが、pluszeroはそれらの条件を満たし、またAIというマーケットの広さ、将来性も感じていたためお受けしました。
■ CAOの業務のやりがいやメリットは?
自分の判断が経営に直結するので、やりがいは非常に大きいです。
守備範囲が広いため、ゼネラリスト、スペシャリスト、どちらの力も身につけることができます。IPO、IRなど業務から、人事・法務などのオールラウンドな知識なども得ることができるため、監査法人時代と比べても成長できたかなと思います。
特にIPO準備業務などでは期限が厳しく決まっていることや、イレギュラーなことも起きるので、「やりきる力」や「メンタルタフネス」も鍛えられました。
また過去に前例のないものを考えたり、正解がないものに対して自分の経験や知識からベストを尽くして解決策を出す作業が多いのですが、これはどの会社でも必要とされるスキルです。再現性が高い知識になりますので、自分の資産になるのではないでしょうか。
その他にも、経営者との距離が近いため経営判断などの知見を積み上げることができ、経営計画立案などでは予測的能力を高めることができるのも、CAOの業務の魅力です。
■ CAOの採用ニーズ、求められるスキルや人材
(1)採用ニーズ
わたしの場合は、このようなポジションへのオファーがあったためお受けする機会に恵まれました。
上場準備~上場後の管理業務全般を担当できる人材は、世の中に少ないと思うので、ニーズ自体は非常に高いと思います。人材エージェント経由での募集もよく見かけると思います。
(2)求められるスキル
公認会計士であれば、会計監査で培った知識、経験、学習する能力はベースとして当たり前に持っていると思います。
そのうえでCAOの仕事には正解がないので、教科書的な知識ではなく、生きた情報を得る力が重要になってくるでしょう。幅広い人間関係を築き、経営者と対等に話ができたり、業界のつながりを多く持っていたりすることが求められます。
また特定の会計知識が必ずしも必要ということはなく、むしろキャッチアップする能力、思考の柔軟性、最後までやりきる胆力が重視されると思います。
また、入社時に気を付けるべきポイントとしては、その会社のカルチャーに自信がフィットするかどうかかと思います。
その企業の組織文化や役員陣との考え方が自分とフィットするかどうか、その中で自分の力を最大限発揮できるかどうかが重要だと思います。
監査法人と違い、基本的にはずっと同じ人と働いていくこととなります。そのため、人の相性やどういった考えのもとビジネスを行っているかの考え方が、自分とあまりにも違うと相容れなくなると思います(特に、管理部門の場合、経営者が管理業務に精通していないことも多く、期待と実際の業務にギャップが出ることがあると思います)。
(3)採用されるポイント
公認会計士の場合、基本的な知識や経験があるという点では、非常に信頼感はあると思います。
そのうえでスキルの部分でも述べたような総合力が採用されるには必要です。また、下記のものが重要でしょう。
- 自身の考えや、自身がどのような価値を発揮できるかをきちんと伝えること
- 経営者と対等に話せるよう、多様なビジネスモデルへの理解
- 転職先の市場、競合、優位性等の会話知識
監査法人では、どうしても個別の会計論点に目が活きがちになってしまいます。普段からいろいろな会社を見れると思うので、会計や監査だけにこだわらず、周辺知識も意識しているとかなり話がしやすくなると思います。
例えば、上場企業のIRを読み込むことや、あくまで公認会計士の資格はおまけなので、それをもって、将来的にどう貢献できるか、何でもやれるというマインドセットがあることが重要だと思います。
■ CAOの年収はどのくらい?
具体的な金額は会社によって違うと思いますが、わたしの場合は監査法人時代よりもアップしました。上場前の企業であれば、ストックオプション等もあるのではないでしょうか。一般的なケースとしては、年収は現状維持~微増が多いように思います。
また、年収に関しては、一度会社と交渉してみるのも一つの手段だと思います。
その際に重要なのは、自分の出せる価値を明確に伝えることだと思います。自分はこれくらいの価値を出せるのだから、これくらいの年収は欲しいといった具合に伝えてみるのも、良いかと思います。
■ CAOの経験を活かしたその後のキャリアパスは?
前にも述べたように、CAOとしての経験には再現性があり、ニーズは非常に高いと思います。また上場準備やIR業務などは専門的なため常に人手が少なく、ましてそれらを包括的に考えることのできる人材は貴重です。
特に上場準備企業、上場直後の企業、IPOの支援会社などで今までの経験を評価され、そこのCFOとして活躍される方も多い印象です。
また自分でIPOを行った経験を活かし、ベンチャーキャピタルに転職する方もいます。