公認会計士として、企業等の組織の中で活躍している方も多くいます。企業等で働く公認会計士はPAIB(Professional Accountants in Business、組織内会計士)といわれます。
日本における公認会計士の登録者は約35,000名、その内、何人が組織内会計士として働いているか正確には把握されていませんが、日本公認会計士協会の組織内会計士協議会には、2,298名(2022年6月末時点)が会員登録しています。米国では、公認会計士は360,000人以上いますが、半数以上が組織内会計士と言われています。
その業務内容などをいくつか紹介することにしましょう
■経理・財務マン
上場企業の経理部門・財務部門などで多くの公認会計士が在籍し、活躍しています。
財務諸表作成の基礎となる日常の経理業務や予算・資金調達計画の立案、管理会計の手法を用いて様々な角度から分析を行います。
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■CFO(最高財務責任者)
ベンチャー企業などのCFOとして、らつ腕を振るう公認会計士もいます。株式上場を成功させ、株式連動報酬などで創業者利益を得ることは、醍醐味のある仕事の一つと言えるでしょう。
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■内部監査
外資系の金融機関等でインターナルオーディター(内部監査人)としてキャリアを積まれる方もいます。内部監査にはCIA(公認内部監査人)という国際資格がありますが、別途、これを取得する場合もあります。
■不正検査
いわゆるフォレンジック調査と言われる様々な不正調査に携わる人もいます。不正検査には、 CFE( Certified Fraud Examiners: 公認不正検査士 )という国際資格がありますが、別途これを取得する場合もあります。
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■官公庁・非営利法人
さらに、企業のみならず、金融庁や会計検査院、経済産業省、農林水産省、警察庁などで審査、検査や捜査、あるいは各種報告書のとりまとめなどに携わる方、FASF(財務会計基準機構)で会計基準の作成側に回る方もいます。この他、非営利法人に勤務される方もいます。
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■国会議員
組織内会計士といえるかどうかはわかりませんが、現在、公認会計士の国会議員は6名(衆議院議員3名、参議院議員3名)、会計士補の国会議員が1名(衆議院議員)います(2023年6月時点)。
また、あまり知られていませんが、公認会計士は弁護士とともに高度の専門資格を有するものとして、国家試験に合格することなく国会議員の政策担当秘書になる資格も有しており、代議士の政策立案のサポートをする方もいます。
政策担当秘書の国家試験は国家公務員第1種試験に相当する難関試験と言われています。筆者も、小泉純一郎政権時代、自由民主党から初の国会議員が誕生したことを契機に、政策担当秘書を務めた経験があります。
■教育・研究者
公認会計士の現場で培った経験を活かして、著作や講演活動などを行ったり、学者として教壇に立ったり、研究活動をする人もいます。
筆者も会計監査や内部監査、コーポレート・ガバナンス、リスクマネジメントなどに関するアドバイザリーサービスを行ってきた経験を活かし青山学院大学会計プロフェッション研究科で客員教授を数年間勤め、得難い経験を得ました。
■企業経営者
CEO(最高経営責任者)として成功を収められた方もいます。ここでは、財務会計ソフトの開発・販売を行うピー・シー・エー会計株式会社の創立者の故・川島正夫さんを紹介することにしましょう。
この方は国際会計人養成奨学金(川島国際奨学金)を創設した際には、日本公認会計士協会に3億円を寄付されました。総資産は途方もない金額だったのではないでしょうか。川島さんは起業のヒントについて、監査法人時代に日本IBMの監査を担当したことが大きな糧となったとお話しされていました。
ナイキの創業者であるフィル・ナイトなど米国をはじめ海外でも公認会計士のCEOはめずらしいことではありません。
■社外役員(社外監査役、社外取締役など)
社外役員は正確には組織の外部の人物ですが、独立した第三者の立場から批判的検証を行い監査を実施するスキルを持つ公認会計士にとっては、適任のポストの一つと言えるでしょう。
東京証券取引所の「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2023」によれば社外取締役として公認会計士を選任している企業は1,151人(10.6%)で、他の会社の出身者6,396人(59%)、弁護士1,745人(16.1%)に次いで多く、社外監査役として公認会計士を選任している企業は20.4%で、同じく、他の会社の出身者45.3%%、弁護士21.7%に次いで多く、その数は年々増加しています。
とりわけ昨今のダイバーシティに関する国際的要請の中、女性公認会計士の社外役員に対する需要が高まっています。
■魅力とやりがい
このように一口に公認会計士といってもその業務範囲は極めて広く、さまざまな分野で活躍する機会が開かれています。「経営あるところに会計あり」、「会計は世界共通の経済言語」であると『公認会計士とは何か?』(リンクを貼る)で申し上げましたが、会計プロフェッショナルとして数多くの分野で需要があることは当たり前のことともいえるでしょう。
監査、税務、コンサルティング業務で獲得したスキルを基軸にダイナミックに業務を展開し活躍の場を広げる、その意味では、公認会計士は大変魅力的な職業といえるでしょう。
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■監査業務はつまらない?
最近、若手の公認会計士を中心に、「監査の現場がつまらない」という言葉を耳にします。
確かに、通常の監査業務に加えて、監査法人内、監査法人内や提携先の海外会計事務所の審査、日本公認会計士協会の品質管理レビューや、場合によっては金融庁の検査などにも対応しなければならず、そのための準備や所類の作成だけでも大きな事務負担がかかっていることでしょう。
また、監査手法も電子化・マニュアル化し、膨大な件数の手続テストの実施が求められるなど、従来型の、個々の監査人が、健全なる懐疑心を持って、監査に聖域を設けず、経験と勘を発揮する方法と比較すると物足りなさが残るかもしれません。一時馴れ合いが指摘された、接待供応の問題の余波か、クライアントの触れ合いも希薄化しているようです。
しかしながら、せっかく公認会計士になったのですから、少なくとも主査(現場責任者)を行う位までは監査業務に勤しむことをお勧めします。会計プロフェッショナルとしての基盤が構築されることでしょう。企業経営は生き物であり、100社100様です。特に将来的に独立をする場合、クライアントの規模はほぼ間違いなくスケールダウンします。
監査法人に所属している内に業種ごとのリーディング・カンパニーのビジネスモデルや内部統制を含めたマネジメントスタイルをじっくりと学び、監査技術のみならず、ビジネスマンとしての素養を高めてください。
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