「上場企業(大手企業)経営企画部門」の業務内容、仕事の魅力は?
2023年3月30日 岡 義人
目次
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
事業や環境の分析、シミュレーションといった業務が多い ため、そのような業務が好きな方が向いているかと思います。
監査法人の業務で言えば、例えば 売上の分析、内部統制での整備状況の評価においてクライアントの各部署へのヒアリング等が好きだった方に志向性があります 。会計基準そのものを使うことはあまりないため、 純粋な財務会計、内部統制への理解を深めて行きたい方にはフィットしない可能性 があります。
また、上位層や他部署への説明、ヒアリング、ディスカッション等もとても多いため、そのような動き方がしたい方にはフィットするのではないでしょうか。
■「上場企業(大手企業)経営企画部門」の業務内容
(1)予算管理
予算の策定、策定した予算と実績の差異の分析、分析結果を元に最新の予測を行う、各種分析等 を行います。外資系企業等では、「FP&A(Financial Planning & Analysis)」と呼んだりもします。Financial Planning(財務モデルを通じた事業計画)、Analysis(財務分析)の略称です。
会社の経営目標(短期、中長期)と現状の立ち位置を見据えながら、会社の各部署と協議しながら数値を作成します。事業、製品ごとの詳細なKPIに分解し、その推移を予測するとともに、掛ける費用、投資の額を計算し、全体の予算を策定します。
策定した予算と実績の対比を分析し、経営層へ説明、その差異を埋めるためのプランを事業部と協働して検討し、会社の経営目標の達成に向けて、PDCAを繰り返します。
各事業部から、事業の進め方等をヒアリングする点は監査に通じるものがあります。また、PLを理解できるので会計士の知見はある程度は活かせるとは思いますが、「レビューするvs自分で作成する」、「過去実績を扱うvs将来計画を扱う」という違いはあります。
(2)各PJのシミュレーション作成、経営判断
広くは、 営業、マーケティング等の各事業部が提案する施策を行うべきかといった経営判断を行ったり、その判断を行うに当たっての意見を述べたりします 。全社にとってマイナスとなるようなもの(想定していたよりも多くの費用が掛かる、回収期間が長すぎる、その案件自体は儲かるが、他の製品の売上を下げることによるカニバリズムの発生等)がないかの検討を行います。
各施策を検討される事業部の方をリスペクトはしつつも、全社目線、財務目線では望ましいものではない場合、実施しない、もっとこうした方がいいといったカウンター提案等を行います。人にもよりますが、 社内コンサルタントのような動き方も可能 です。
こちらもPLを理解できるので会計士の知見はある程度は活かせるとは思います。また、各判断においては、批判的に検討してきた監査の姿勢は親和性があります。
(3)M&A、他の会社への投資、子会社の設立等
M&Aの案件の検討、実行等に関してリード します。M&Aが頻繁にある会社は多くはありませんが、他にも他の会社(例えばスタートアップ等への投資は近年、事業会社でも増えて来ています)への株式投資を行う、子会社を設立する等があります。
また、子会社が設立されれば、そこで業務が発生しますので、当該子会社への兼務出向等もありえます。
対象会社や事業のPLを見るという点においては会計士の仕事と親和性があります。また、会社法の知識は役に立ちます。
(4)Investor Relations
上場企業の場合、投資家向けの広報業務 が発生します(上場企業でない場合は親会社へのレポーティング等)。上場企業の場合、非常に多くの株主に関与いただいているため、現株主、株主になり得る候補者の方と接点を持ち、会社の魅力を正しく伝え、理解していただくといったことを行います。
有価証券報告書等の開示書類を見てきた点においては会計士の仕事と親和性があります。一方、投資家が求めるのは、事業の具体的な説明や将来性等であるため、法定開示書類の監査での経験が活かせる割合はごく一部です。
(5)会議体の運営事務局
取締役会、経営会議等の全社レベルの会議体について、事務局対応を行います。
(6)わたしの場合
わたしは約4年、大手企業の経営企画部門に在籍していました。下記に1年目から3年目までの業務をまとめます。
①1年目
最初はプロジェクト管理課というチームに所属しており、 大小様々なプロジェクトの相談に対応 していました。 PL、CFのシミュレーションを作成、レビューし、経営会議へ上げる資料の作成・確認等 も仕事になります。
シミュレーションは小さいものも含めると千を超える数作ったと思いますし、小規模案件の判断を無数にしていきます。これらが物事を考える上での足腰を鍛えることにつながったように思います。「頭がちぎれるまで考えろ」という風習があり、小さなことでも徹底して考える癖がつきました。
②2年目
予算管理 中心に行いました。ここで個別案件のみでなく、 事業全体のPLを分析し、レポーティング していました。引き継いだ当初、予算と実績の乖離が非常に大きく問題になっていましたが、パラメータを細分化して予測することで予測精度を相当高めることができました。
③3年目
業務の幅が大きく広がり、1年目と2年目で行った業務に加え、子会社へ兼務出向し管理業務全般を行う、資金調達、ベンチャーファイナンス、JV設立、法務関連等、非常に幅広い経験をさせていただくことができ、とても幸運だったと思っています。
コンサルファーム等出身の方も多いため、プロ意識は高い方が多く、そのあたりは監査法人に近いものを感じました。
■「上場企業(大手企業)経営企画部門」での業務のやりがいやメリットは?
他の箇所に記載していることと重複することが多いですが、下記のようなやりがい、メリットが挙げられます。
- 会社の経営判断に若いうちから関わることができること
- 多くの部署の方と関わるので、会社を俯瞰的に見ることができること
- 多くの事業や製品のPLのシミュレーションを作ることで、その力がつくこと
- 論理的な思考力が向上すること
- 会社によりますし、ご自身次第ではありますが、幅の広い業務を経験するチャンスがあること
- 優秀な方が多いので、研鑽し合い成長できること
■「上場企業(大手企業)経営企画部門」の採用ニーズ
(1)求められるスキル、人材
領域が広いため、求められるスキルは多いですが、会計士の資格のように、それがないと仕事に就けないという類のものはありません。
ロジカルに思考し、経営層、各部署へ伝達するコミュニケーション力や、事業、製品ごとのPL、CFの予測をシミュレーションできることが最もベースになります。その上で、M&Aやスタートアップへの出資等であれば、ベンチャーファイナンス、関係する法令等の基礎知識、スキルが必要となります。
また、期限が短い中で、プロジェクトの遅れの皺寄せがくることが多いため、 切羽詰まった中でやりきるパワー が必要です。
(2)採用されるポイント
経理ほどは 公認会計士が優遇されることはありません 。監査法人勤務のみの場合はポテンシャル採用です。
過去に経営企画の仕事か類似の仕事に就いていた方の方が即戦力になりやすいです。ただ、PL、CFの構造を理解しており、難易度の高い資格試験に合格した実績、厳しい監査法人で数年間勤務して来たという事実は底力として十分なアピールになるかと思います。
面接で聞かれることは各社各様ですが、「当社を成長させるにはどうしたら良いと思うか、課題を想像してみてください」といったような質問をされる場合もあります。
(3)転職で気を付けるポイントや難易度
経営企画という部署名でも、 どこまでを業務範囲としているかは会社によって異なる ので、入社前に、具体的にどういった業務を行うポジションなのかを確認しておくことをお勧めします。
■「上場企業(大手企業)経営企画部門」の年収はどのくらい?
これは完全に会社によりけりで、通常は、 会社の給与テーブルによって決まります 。
経理業務と異なり未経験職種となるため、監査法人時代の等級と転職後の等級次第では、 年収は下がる可能性 があります。ただ、自らのキャリアの幅を拡げることにより、中長期的には大きく飛躍する可能性があります。
■「上場企業(大手企業)経営企画部門」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?
その後の進路として多かったのは、 他社の経営企画、戦略コンサル等 へ進まれる方が多かったです(転職されて来る方も同様)。業種としてはITが多かったですが、規模としては、大手、スタートアップ、外資等様々でした。
CEO になった方、 CFO になった方も多くはないですが数名いました。経営判断に関与することができるため、本来はもっと経営企画部門からCXOを輩出してもよいかと個人的には思っています。
わたしのいた組織ですと、在籍時は私含めて公認会計士は2名しかいませんでしたが、もっと多くの方が経営企画の道に進まれても良いのではないでしょうか。
筋道立てて物事を考え抜く、社内の多くの部署と協働しプロジェクトを進める、事業面も含めて俯瞰的な視野を持った上での判断をする、大量に事業やプロジェクトのPLシミュレーションを作るといったスキルや経験は、汎用的であり、他の組織、職種でも役に立ちます ので、一度、経営企画を経験するのは良いことかと思います。
わたしはスタートアップへの投資や社内スタートアップの立ち上げ等にも関与させていただいていたので、スタートアップでのCFOという道を選びました。
多くの業務がありますが、 ゼロベースで事業PLを作成し、管理する ことは最も重要な業務の1つであり、それを元にファイナンス、IRが行われますし、会社の経営活動のベースになります。4年間継続的に行っていたことから非常に力がつきました。
また、スタートアップのCFOは入社するステージにもよりますが、多くの範囲のことをプレーヤーとして実行する必要があるため広範な業務を経験しできるようになったこと、できあがった会社組織を俯瞰的に見ることができたため、組織がどう動いているかを体感できたことは大きな財産だと感じています。
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- 執筆者プロフィール
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岡 義人(おか よしと)
公認会計士広島県出身。慶応義塾大学在学中に公認会計士試験に合格し、在学時よりトーマツで勤務。 その後、ソフトバンク株式会社にて経営企画業務に携わった後、スタートアップにて取締役CFOとして財務、管理全般を担当。
2020年5月のコロナ禍中に旅行業界に転身し、2022年11月に東証グロース市場に上場を果たす。








