公認会計士のお仕事の関心の中で「ワークライフバランス」というキーワードが気になる方もいらっしゃるでしょう。今回は公認会計士のワークライフバランスについてお話していきたいと思います。
公認会計士のワークライフバランスが一番とれる働き方は?
~職場環境ごとの「3つの必要条件」を徹底比較~
ジャスネットコミュニケーションズ エグゼクティブエージェント
公認会計士 齊藤健太郎
目次
■ワークライフバランスを整えるための「3つの必要条件」
■監査法人のワークライフバランスについて
■監査法人勤務会計士vs独立会計士(監査非常勤) ワークライフバランス比較
■監査法人勤務vs企業経理部
■監査法人勤務vsベンチャーCFO、内部監査室等
■監査法人勤務vs金融機関勤務(引受審査、公開引受、投資銀行等)やコンサルティングファーム
■まとめ
■ワークライフバランスを整えるための「3つの必要条件」
「ワークライフバランス」を直訳すると「仕事と生活の調和」ということになるかと思います。内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室のWebページをみると、ワークライフバランスが実現した社会を定義づけています。
Webページによると「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定めています。
仕事がうまくいくことで私生活でも心のゆとりを持つことができる、私生活が充実することで仕事のパフォーマンスも向上するなど、相乗効果が期待できるということを狙いとしているようです。
そして「仕事と生活の調和が実現した社会」、つまりワークライフバランスが実現した社会に必要とされる条件として①「就労による経済的自立が可能な社会」、②「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」、③「多様な働き方・生き方が選択できる社会」の3つを挙げています。
(1)就労による経済的自立が可能な社会
経済的自立を必要とする者、とりわけ若者がいきいきと働くことができ、かつ、経済的に自立可能な働き方ができ、結婚や子育てに関する希望の実現などに向けて、暮らしの経済的基盤が確保できる。
(2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
働く人々の健康が保持され、家族・友人などとの充実した時間、自己啓発や地域活動への参加のための時間などを持てる豊かな生活ができる。
(3)多様な働き方・生き方が選択できる社会
性や年齢などにかかわらず、誰もが自らの意欲と能力を持って様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されており、子育てや親の介護が必要な時期など個人の置かれた状況に応じて多様で柔軟な働き方が選択でき、しかも公正な処遇が確保されている。
(出処:内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室Webページ)
つまり公認会計士のワークライフバランスをテーマとして扱うならば、公認会計士の仕事環境が、こうした3つの必要条件が実現されているのかという点をみることが必要です。
かつて自身が所属していた監査法人がワークライフバランスを言い出した時は、人員余剰の中でワークライフバランスという名の下の人件費削減策を講じていると感じていたので、この言葉にはあまり良い印象はありません。
こうした自身の主観も入りますので、ワークライフバランスというものは、個体差、嗜好差がある事項なので、参考程度に考えていただけばと思います。
■監査法人のワークライフバランスについて
(1)監査法人の忙しさの現状は?
大抵の公認会計士が所属することになる監査法人では、パートナー以下は全員従業員扱いとなります。
社内職位は、スタッフ、シニアスタッフ、マネージャー、シニアマネージャーという順で昇格していきますが、当然個体差はあるもの、残業時間は、今では月30時間に抑えられていることが多いようです。
繁忙期といえども、スタッフの場合はそこまで忙しくはないのではないかと思います。
職位が上がると社内向けにこなす書類の分量が上がり、扱うクライアント数も増えるので間違いなく忙しくなりますが、ひと昔と比べると忙しさはそこまでではないようです。
こうしてみるとワークライフバランスが優れているようですが、「ワークライフバランスの3つの必要条件」を実現しているのかを見てみるといかがでしょうか。
(2)監査法人における「ワークライフバランスの3つの必要条件」は?
まず、①については、未払労働債務の問題は、今はないようですし、日本の労働者の平均年収を超えていますので問題ないかと思います。
②についても、昨今の勤務時間の実情を考えますと、本人次第という側面もあるので、この点も問題はないでしょう。監査法人の研修メニューも充実していますので、自己啓発の機会は十分にあるかと思います。
最後に③については、監査法人内単独の視点でみると多様な働き方・生き方が選択できる環境にあるのかという点については個人的には疑問に思います。
内部で今後のキャリアについて悩んでいる会計士の方は、一定数いるのも事実ですから。とはいえ、監査法人監査を自己のスキルとして確立していくつもりであるならば③は実現していると言えるでしょう。
■監査法人勤務会計士vs独立会計士(監査非常勤) ワークライフバランス比較
(1)独立会計士(監査非常勤)の働き方は?
監査法人勤務の方が、退職し独立すると、監査非常勤という選択肢を取ることが多いです。ここでは、一旦、独立=監査非常勤と定義します。
非常勤で監査業務に従事ということになると10時-18時、9時-17時といったスケジュールでのアサインを受けることが多くなります。
超過した時間を勤務する義務はないため、仕事を追加でお願いはされることはありますが、断るのも自由です。ただ、非常勤であるため常にアサインが入るわけではありません。
(2)独立会計士(監査非常勤)における「ワークライフバランスの3つの必要条件」は?
こうした環境下でのワークライフバランスの3つの必要条件をみてみます。
まず①の就労による経済的自立という点で、安定収益の確保の懸念があるので後退するかと思いますが、収入の獲得手段が多様化するのでむしろより充実するという見方もできるかと思います。
また時間の使い方は本人の自由ですので、空いた時間に何にあてるかで②の健康で豊かな生活のための時間を確保され得るので向上するかと思います。
③は、自身のライフステージに合わせて柔軟に対応できますし、育児、資格取得、趣味等々何かに挑戦はできるかと思います。
■監査法人勤務vs企業経理部
(1)企業内の経理部での働き方は?
企業内経理部は、上場企業であれば、日々の仕訳作業に加え、月次締め処理、予算実績対比表の作成等の作業、半期では中間決算短信作成と半期報告書作成と監査法人対応、年次では決算短信作成、有価証券報告書作成と監査法人対応などの業務が発生するかと思います。
経理部に在籍する組織内公認会計士の役割として、監査法人対応が最も期待度が高いかと思いますが、取締役会資料作成や有価証券報告書作成などについても同様です。
経理作業は、規模が大きくなればなるほどチームとして科目ごとに担当が振り分けられます。基本的に最終成果物をイメージできる公認会計士にとってこうした作業は大きな負担となることは少ないでしょう。
作成される資料の最終成果物までイメージして行うとそこまでの工数負担はないかと思います。ただ、監査法人対応を行うと、監査法人は、会社に宿題を残して去っていくことが多いので、監査法人が退社後に対応することなどはあったかと思います。こうした業務は一時的なことで普段の作業としては監査法人ほど多くはないかもしれません。
(2)独立会計士(監査非常勤)における「ワークライフバランスの3つの必要条件」は?
こうした点を基に①~③の3つを実現しているのか見てみると、まず、①の給与は前職の水準が考慮されていたので問題ありませんでした。②についても、自身が所属していた会社が気を付けていたのもありますが、実現できていました。③についても自身がキャリアアップのために選んだ職場ですので特に問題はないかと思います。
こうしてみますと、監査法人勤務時代よりも①~③はアップしているように見えるのですが、①②は、一概に監査法人時代と比べて改善したとは断言できないかと思います。
なぜならば、①②の環境は自身が属する組織次第、つまり他者次第という所があるので、監査法人よりもよいとは必ずしもいえないので、転職する際にはこだわってみてもよいのかもしれませんし、他方で自身の赴くままに身を預けてみるのも手かもしれません。
また③については、自身の資格を活かしての挑戦ですので問題はないかと思います。
■監査法人勤務vsベンチャーCFO、内部監査室等
(1)ベンチャーCFO、内部監査室等の働き方は?
自身を振り返ると、ベンチャーCFOの時も内部監査室にいた時も、社内Mtgや調整を定時内で多数こなし、就業時間後に自分の作業に取り掛かるということが多かったです。
また連結財務諸表を作成するような場合は、月次資料のとりまとめを行うだけではなく、子会社の月次締めに遅延が生じるような場合はその原因を分析し、課題解決を図っていくことを行っていました。このころは、常に22時、23時まで働いていたイメージがあります。
こうなりますと監査法人勤務の時よりも仕事時間は多くなります。ただ仕事の意義、スキル獲得という意味では間違いなく、自身にとっては監査法人勤務時代よりは充実していました。
(2)ベンチャーCFO、内部監査室等における「ワークライフバランスの3つの必要条件」は?
内容的に上記「企業内の経理部における「ワークライフバランスの3つの必要条件」は?」の内容とほぼ同一ですになるかと思います。特に①②の状況が他者次第というところは、多くの公認会計士の方にとっては、転職にあたって気にすべきポイントになるかと思います。
■監査法人勤務vs金融機関勤務(引受審査、公開引受、投資銀行等)やコンサルティングファーム
(1)金融機関勤務やコンサルティングファームの働き方は?
勤務時間で言いますと、監査法人勤務時代と比べて仕事量は明らかに増大します。会計士という資格を踏み台にしてどうキャリアを築いていくのかという視点に立てば、その選択に間違いはないでしょう。
業務としては、クライアントとの調整、調査結果の社内報告準備、案件に課題があった場合の課題対応、上場や株式の引受に至る節目ごとのイベント対応等が複数のクライアントで同時並行的に起こります。これは、相当な仕事量になる可能性は高いと思います。
(2)金融機関勤務やコンサルティングファームにおける「ワークライフバランスの3つの必要条件」は?
まず、①については、基本的に問題ないかと思います。監査法人時代程度の報酬は最低限確保できると思います。
②については、個人的にはかなり気を付けないといけないかと思います。健康あっての仕事ですので、わたしは睡眠時間の確保に気をつけていました。③については自身の資格を活かしての挑戦ですので問題はないかと思います。
■まとめ
ワークライフバランスの実現に向けた内閣府の提言に沿って考えてみると、公認会計士は、程度の差はあれ、ワークライフバランス実現の必要条件①~③を自身と折り合いをつけることが容易かと思いますので、一言で言ってしまえば、恵まれているかと思います。
つまり、公認会計士は、キャリアを通じていろいろな職場に身を置くことになることが想定されますが、資格を梃子に「仕事と生活の調和が実現した社会」に必要とされる3条件を自己の裁量で実現できる環境を整えることができる、または大きなアドバンテージがあると言えるでしょう。
こうした自己実現の可能性があること自体が公認会計士資格の魅力なのかもしれません。
- 執筆者プロフィール
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齊藤 健太郎(さいとう けんたろう)
ジャスネットコミュニケーションズ株式会社 エグゼクティブエージェント
公認会計士・税理士/齊藤公認会計士事務所横浜国立大学経済学部卒業
横浜国立大学国際経済法学研究科修了:専攻は会社法
- 2003/2-2006/9
- エイチエス証券株式会社引受審査部所属
- 2006/9-2010/7
- あずさ監査法人第5事業部(IPO専門部署)所属
- 2010/8-2012/10
- あずさ監査法人 IT監査部所属
- 2012/10-2017/11
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- 2017/11-2020/9
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