女性会計士が産休をとって復帰するまで(税理士事務所・独立編)

女性公認会計士が、監査法人に勤務しながら産休・育休を取りふたたび職場に復帰するには、どのような困難が待ち受けているのでしょうか。この記事では、監査法人、税理士事務所、独立開業と働くステージを変えながら、3人の子育てをする女性会計士の体験談をお送りします。
前回の記事では、女性公認会計士が監査法人に勤務しながら産休・育休を取りふたたび職場に復帰するまでをお送りしました。
今回の記事では、彼女が監査法人を辞め、税理士事務所でのパート勤務、独立開業と働くステージを変えるなかで、会計業界で働く母親として何を感じたのか、また3人の子育て時間はどのように変化していったのかを書いていただきました。
1.監査法人退職後~税理士事務所パート勤務まで
(1)自宅からほど近い税理士事務所にてパート勤務
監査法人を退職後は、子どもとの時間と自分の時間を確保できるよう、正社員ではなく、パート勤務を選択しました。
税理士事務所勤務当初は、週4日9時〜17時、その後3人目の子どもの出産もあり、3人目出産後は週4日9時~15時勤務となりました。
監査法人のころと比べ、通勤時間は短縮され、勤務日数も平日週5日から週4日に減ったことで、育児は忙しくなりましたが時間的な余裕を持てるようになりました。
子どもたちはというと、監査法人時代は「7時半~18時半」まで保育園で過ごしていましたが、転職後は「8時半~17時半」、3人目の出産以降は「8時半~16時」と保育園で過ごす時間はだんだん短くなっていきました。
保育園で過ごす時間が短くなったことは、とても大きい変化でした。子どもたちの負担も減りますし、わたしも子どもたちと接する時間や家事の時間も増えるからです。
(2)監査法人退職後、税理士事務所での勤務を選択した理由は?
上記に記載のとおり、監査法人退職後は税理士事務所でのパート勤務を選択しましたが、決断するまでには相当悩みました。
というのも、もともと私は、『仕事をすること』は嫌いではなく、むしろ『仕事をしたい派』だったので、退職して育児に専念(専業主婦になる)するという考えは全くありませんでした。
そのため「退職したとして、その後どうするのか?」と悩みました。
一般企業の経理や税理士法人、税理士事務所での勤務などなど(当時は独立という選択肢は頭にはありませんでした)。
ただ、『仕事はしたいが、子どもとの時間も確保したい』となると、正社員で勤務するとしても時間短縮で…となってしまい、いきなり中途採用で時間短縮OKな会社というのはなく、正社員での勤務は諦めました。地方ではいまも状況は変わりませんが、首都圏ではこういった求人も徐々に増えてきているとは聞きます。
色々悩んだ結果、会計士として会計監査には携わってきたものの、税務に関しては知らないことばかりだったので、似ているようでまったく違う「税理士事務所でのパート勤務」を選択しました。以前は通勤時間片道1時間でしたが、転職後は片道15分というのがとても魅力的だったこともあります。
(3)税理士事務所に勤務してみて痛感したこと
会計知識はあるものの、税務業務は知らないことばかりであり、日々の記帳業務・年末調整・源泉徴収業務・法定調書関係業務、そして決算・申告書作成業務等々一連の税務業務を経験。
今まで経験のない業務に携わるということは、面白く、視野も広がり、やりがいもありました。
(4)税理士事務所で徐々に募る不満
それなりにやりがいは感じていたものの、当時は税理士登録もしておらず、いちパート職員という立場で(給料も激減)、会計士としての仕事も一切していません。つまり資格を全く活用できていない状況です。税務という仕事の目新しさもあり最初はよかったのですが、段々この状況に不満が募り、別の働き方がないか、また探し始めることにしました。
正直なところ、パートだけれど他の資格のないパートの人とはちょっと違うという微妙な立ち位置で、事務所の雰囲気にもいま一つ馴染めなかったというのもあります。
(5)監査法人の非常勤勤務を選択
やはり「会計士として仕事をしていった方がよいのでは?」と思いで、非常勤での監査はできないものかと考えていたところ、偶然ある監査法人の非常勤勤務の募集が目にとまりました。勤務日数もある程度こちらの希望を聞いていただけるということでしたので、税理士事務所は退職し、この監査法人での非常勤勤務をスタートしました。
税理士事務所に勤務していた期間は約2年間と短かったですが、ここでの経験がなければ現在の『独立』には繋がっていなかったと思うので、貴重な経験をさせていただいたと思っています。
非常勤勤務スタート時は年間100日、勤務時間9時半~16時半を基本として働き始めました。年間100日というと、平均月8~9日勤務になります。
この頃には長男は小学1年生となり、帰宅時間も早くなりましたが、私が家にいられることも多いため、学童保育は利用せず、勤務日は両親の手を借りながら、周りと協力してやっていました。このような感じで、約1年間は非常勤監査のみをしていました。
2.独立開業後
(1)独立に至った経緯
非常勤監査を開始してからの周りの非常勤仲間は、みな独立して税理士事務所開業しており、独立後の話を聞く機会がたくさんありました。これが「独立開業」を身近に感じるきっかけの一つになったのです。
また、どこか中途半端に税理士事務所を退職してしまったという気持ちもあり、子どもも少しずつですが、手がかからなくなってきていたので、もう一度税務業務にもチャレンジしたいなと思えるようになり、2017年10月に独立(自宅開業)しました。
ただ、独立して事務所を大きくして…というよりは、あくまで自分のできる範囲で活動の場を広げるという考えであり、それは今も変わっていません。
(2)現在は
開業して約2年、今も事務所は自宅、あくまで無理なく自分のできる範囲で活動をしています。どうしても、気持ちが仕事に向きすぎてしまう傾向にあるので、キャパオーバーしないように気をつけています。
現在の全体の活動としては、①非常勤監査業務、②税務業務、③その他内部監査や任意監査などの業務、そして④NPO法人ウィメンズナレッジ理事をしています。
活動割合は、監査50%、税務30%、その他会計士業務10%、NPOウィメンズナレッジ活動10%といったところでしょうか。年収としては年間の活動量は監査法人時代と比べて減ったものの、ほぼ同じくらいの額をキープしています。
現在、非常勤監査業務は年間80日(月6~7日)です。
今も、監査勤務日は帰宅が18時頃になるので、両親に手伝ってもらっていますが、その他の日は子どもたちが帰宅する15時~16時には仕事は終了し、できる限り「おかえり!」と子どもたちに言えるようにしています。
また、今の働き方のとても良いところは、子どもたちが夏休みである8月を一緒に過ごせるところです。8月は閑散期ですし、仕事の調整もしやすい時期なので、本当に助かっています。今年の夏も何回も子どもたちとプールに出かけました。
3.まとめ
(1)今後について
子どもが大きくなったら、監査役やIPO業務にもチャレンジしたいという思いもありますし、正社員でまた働くのもいいかなと思うこともあります。ただいずれにしても、2,3年先の話ではなく、10年先の話と考えています。今大事なのは、細くてもいいので、キャリアを積んでいくことだと思います。
そのためには、力をいれすぎず、適度なバランスを保つことです。その時ベストだと思ったバランスも3カ月後・6カ月後・1年後・3年後……は変わっているはずです。その都度、臨機応変に対応できるだけの余裕を残しておくことも必要だと思います。
そして、このように、その時、その時で働き方を選択することができるのは、『公認会計士』という資格を取得したことが大きいと感じています。今の働き方は資格なくしてはできない働き方です。
そもそも私が会計士を目指そうと思ったのは、『将来結婚・出産しても長く仕事をしたい』という思いが強く、そのためには仕事と直結するような資格(例えば医者や弁護士などもそう)があった方がいいと考えたからです。
今、仕事もしながら、子どもとの時間も確保できているので、本当に取得して良かったなと感じています。
(2)最後に
私自身、子どもができてから、常に子育てと仕事のバランスを考えながら毎日を過ごしています。もっともっと仕事をしたい!と焦っていた時期もありました。逆に両立に疲れて、やる気がなくなる時もあります。これからもそういうときはあると思いますが、それでいいと思っています。
働き方は何通りもあるので、子育てしながらも、ずっとエンジン全開で働き続けている人もいますし、一旦仕事から距離をおき、子育てに専念し、子どもが大きくなってからまた仕事を再開する人もいます。
監査法人で勤務し続ける人もいれば、退職する人もいます。
バランスは人それぞれ違うので、あまり人と比べない方がいいと思いますし、この働き方は正解で、この働き方は誤りということはありません。
私は、子どもが大きくなったら(10年後くらい)、仕事中心の生活にまたチャレンジしたいなと思っているので、そのためのステップとして今があると思っています。


新着記事一覧
-
コロナ禍における会計士のテレワーク事情
公認会計士 江黒 崇史
-
会計士のための「WEB会議できちんと見える」コーディネート
公認会計士 Rody
-
【会計士が一番最初に読む IPO入門講座】第3回 IPO準備の基本(3):昨今IPOした企業の分析と傾向
公認会計士 重見 亘彦
-
【会計士が一番最初に読む IPO入門講座】第2回 IPO準備の基本(2):IPOできる会社・できない会社の違い
公認会計士 重見 亘彦
-
【会計士が一番最初に読む IPO入門講座】第1回 IPO準備の基本(1):IPOをする目的の整理
公認会計士 重見 亘彦
-
監査法人でパートナーになるには ~会計士が出世するためのポイント3選
公認会計士 江黒 崇史
-
【連載】独立会計士のための はじめての税務実務 第3回 申告調整
公認会計士 小林 正和
-
横領や粉飾決算は、なぜ起こる? 会計士が果たす役割は?
公認会計士 福留 聡
-
【連載】独立会計士のための はじめての税務実務 第2回 役員報酬
公認会計士 小林 正和
-
上場企業以外でIFRSの適用をしているケースと中小企業版IFRS
公認会計士 福留 聡
-
女性会計士が産休をとって復帰するまで(税理士事務所・独立編)
公認会計士 西濱 絢
-
女性会計士が産休をとって復帰するまで(監査法人編)
公認会計士 西濱 絢
-
【連載】独立会計士のための はじめての税務実務 第1回 源泉徴収税額(源泉税)
公認会計士 小林 正和
-
IPOの株価決定「入札方式」「ブックビルディング方式」とは?
公認会計士 福留 聡
-
会計士・税理士が注目する国際資格 公認内部監査人(CIA)とは?
公認会計士 福留 聡
-
監査法人のリファード業務とは?
公認会計士 福留 聡
-
【会計士業界動向2019】会計士の総人数は増えてる?減ってる?
-
社会人が会計士試験に独学で合格するために知っておくべきこと
公認会計士 石動 龍
-
監査法人5年目までの公認会計士がぜったい読んでおきたい7冊の本
公認会計士 江黒 崇史
-
会計士業界年収動向 2018【監査法人編】
-
公認会計士に中国語は必要?中国語を活かせる仕事は?
公認会計士 山本 真美子
-
AIが会計士と税理士の仕事を奪う?!~IT先進国エストニアに行ってみて考えた会計業界の未来~
税理士 小島 孝子
-
監査法人とは?もう迷わない監査法人の選び方(後編)大手と中小を徹底比較!
公認会計士 江黒 崇史
-
監査法人とは?もう迷わない監査法人の選び方(前編)大手と中小を徹底比較!
公認会計士 江黒 崇史
-
女性会計士は、ママになっても働ける?子育てとの両立とキャリアアップについて
公認会計士 市川 恭子
-
会計士のワークライフバランス・年収について知っておくべき人生戦略
公認会計士 松本 佑哉
-
転職しようかな…と思ったら。監査法人を辞める前に知っておきたい「5つ」のこと(後編/これからのキャリアを描く)
公認会計士 江黒 崇史
-
転職しようかな…と思ったら。監査法人を辞める前に知っておきたい「5つ」のこと(前編/これからのキャリアを描く)
公認会計士 江黒 崇史
-
公認会計士の独立開業って儲かるの?収入源と年収のホントのトコ
公認会計士 伊藤 英佑
-
公認会計士と税理士の違いとは?業務・年収を徹底比較
公認会計士 福留 聡
-
実はグローバル?監査法人での英語の活用法
公認会計士 岩波 竜太郎
-
公認会計士が独立・開業前に知っておくべきポイント解説
公認会計士 冨田 建
-
一般企業で公認会計士に任される仕事って何?
公認会計士 都外川 雅門
-
組織内会計士の働き方とは?監査法人を選ばない道
公認会計士 横山 敬子
-
監査法人の離職率は高い?監査法人や辞めたあとに広がる進路・転職先
公認会計士 福留 聡
-
監査業務は激務?4大監査法人と中小監査法人のワークスタイル分析
公認会計士 安田 憲生
-
監査法人就職の売手市場はいつまで続くか
会計士GTR
-
監査とは?監査法人・会計士の役割と業務内容について
公認会計士 江黒 崇史
-
公認会計士試験を諦めた後の具体的な進路について
-
公認会計士試験に受からない。撤退するタイミングの判断
-
公認会計士が取るべきダブルライセンスは?弁護士・不動産鑑定士など同時に持つメリット
公認会計士 福留 聡
-
CPEとは?継続的専門研修制度について
公認会計士 中島 英明
-
公認会計士の修了考査|合格後の会計士登録までに必要なこと3選
公認会計士 R.H
-
遅すぎる? 社会人で公認会計士を目指しても大丈夫?
公認会計士 高橋 善也
-
公認会計士試験に受かりやすい大学とは?
公認会計士 白土 英成
-
公認会計士になるには?資格学校(専門学校)の選び方
-
【令和2年最新】公認会計士試験について知っておくべきこと6選~受験前から合格後の流れ
-
公認会計士に向いている性格、向いていない性格
公認会計士 国見 健介
-
公認会計士の仕事はつまらない?やりがいはあるの?
公認会計士 国見 健介
-
公認会計士とは?仕事内容・役割について
公認会計士 国見 健介
-
公認会計士が独立して事務所経営に失敗しないための開業準備ノウハウ
公認会計士 福留 聡
特集記事
公認会計士の資格に関するカテゴリーごとにまとめたページです。
会計人の人生観・仕事観を紹介「Accountant's Magazine」最新号
「Accountant's Magazine」は、著名な会計プロフェッションにスポットをあて、その人生観・仕事観を紹介。会計・経理分野に従事する人と仕事の将来像を提示する、読者と共に考えるヒューマンドキュメント誌です。今なら新規登録していただくと、「Accountant's Magazine」(WEB版)の全記事を無料で閲覧することができます。
公認会計士に会える
現場で働く会計士の声
-
中小の監査法人だからこそ、できることがある。データ監査と国際業務を強みに、お客さまと向き合う
HLB Meisei有限責任監査法人 関 和輝
-
監査、ファンド会計、FASなどの業務を経験して入所。グローバルな環境でこそ発揮できるスキル、知見がある
Mazars有限責任監査法人 田中 雅勝
-
会計を活かしたプロセス設計で組織の架け橋に。突破力を強みに、「ベストプラクティス」を提示していく。
株式会社ベイカレント・コンサルティング 川村 周平
-
経営者マインドを尊重した「全員経営」の環境で、経営計画のチームリーダーにステップアップ。
株式会社ファーストリテイリング 谷 政治
公認会計士、会計士補・試験合格者向け求人
新着求人
- 営業事務・一般事務(スタッフ)【大手上場子会社のビジネスローン事業部/業務グループ募集!】 インターネット金融サービスを初めて手掛けたリーディングカンパニー 金融機関(信用金庫や地銀など)での融資経験活かしたい方は是非お問い合わせください。年収550万円〜820万円
- 税務・会計コンサルタント(スペシャリスト)独立志向の方歓迎/税務に縛られない広い視野でクライアントに関わっていきませんか?年収500万円〜900万円
- 経営企画(主任)有名グローバル企業で企画系業務に携われるチャンス! ハイレベルな経験を積みたい方におすすめ★年収650万円〜800万円
- 経営企画(主任)上場ITベンチャー企業での経営企画の募集です!年収600万円〜800万円
資格・職種別求人一覧
会計士補・試験合格の求人
公認会計士の転職成功事例
希望の職種へ転職!倍近くの年収アップに成功!
S.Tさん 30代 男性
ワークライフバランスを求め、ダイバーシティを推進する企業へ
M.Sさん 30代 女性
グローバルなキャリアを積める会社を紹介
R・Sさん 20代 男性
US-GAAP、IFRS…公認会計士の経験で企業の発展に貢献したい
Y.Tさん 30代 男性
公認会計士 転職Q&A
四大監査法人に勤務している38歳になる公認会計士です。監査業務の経験しかありませんが、大手企業の経理部…
33歳の公認会計士です。監査の仕事はある程度やりつくしたという実感があり、一般事業会社(大手メーカー)の経理…
30歳の男性、公認会計士です。大手監査法人に勤務していましたが、今回、事業会社への転職が決まりました。…
28歳の女性です。就職せずに勉強に専念して、公認会計士の資格を取るのに、大学卒業後5年かかりました。…